妖精剣王と化した静音と闘気を解放したウィリアムが激しい剣劇を繰り広げていた。
観客はただただ歓声を上げながら二人の闘いを見ていた。
しかし剣を握った経験が一年にも満たない静音と長年剣士として経験を積んだウィリアムとは経験の差が大きく出ていた。経験の差が持てる力の扱い方を左右する。静音は攻撃も防御も咄嗟の判断でしか対処できていなかった。
(五分に持っていければ幸いと思っていたけれど、まったく足りない・・・)
ただでさえ平時以上の緊張感による思考の鈍りに加えて疲労と焦りが出てきていた。
しかしウィリアムの剣閃には鈍るどころか鋭さを増すばかりであった。
(それに即席のこの剣の耐久力も測定できてない状態で打ち合うのは負けに近い・・・アレを使うしかない)
「やぁ!!」
静音は隙を作るために剣に魔力を込めて振るった。込めた魔力がウィリアムの剣とぶつかった瞬間に爆発を起こした。さらに牽制として剣を二本呼び出してウィリアムへと突撃させた。一瞬ではあるがウィリアムが囮の剣に気を取られた隙に静音は距離を取って本命の準備に入った。
静音は収納空間から七本の剣を呼び出した。呼び出された七本の剣は観客が見ても普通の剣には見えないほど美しい輝きを放っていた。
「それっ」
静音は七本の剣を操り剣を二人の上空へと配置した。そして七本全てに魔力を込めて準備を整えた。
すると七本の剣がそれぞれの魔力に対応した色を放ち始めた。静音はまるで楽団の指揮を執るかのように妖精剣を振るう。すると一本の剣を残して六本の剣は六つの方角に分かれて地面に刺さった。するとウィリアムも何が起こったのかが感じ取れた。
「結界か」
「やっぱりわかりますか」
「通常の結界ならば魔道具などを使って術者を覆う最低限しか発動させない。だがこの結界は・・・うむ。六属性全てに対応、そして上空に位置する剣は六属性の力を増幅させているわけか」
「うーん、こういうのってすぐにわかるんですか?」
「似たようなものに触れているならばわかるだろうが、こればっかりは経験だろう。なるほど、妖精の魔力は六属性の源とされている。六属性全てを増幅し呼応させることによって妖精剣王の力を高める訳か」
「うーんと、妖精剣王?の力は想定外で、実際はこの刀で自由に属性を切り替えて戦うつもりだったんですけどね・・・」
ポンポンと雫を叩いて少しとぼけた雰囲気を出す静音。
「確かに妖精の力は想定外だっただろう。だが行動には縁が宿る。この結界を用意するためにした行動自体が妖精の力を呼んだのかもしれないな
「そういうものですか」
「しかし残念だがこの結界は君だけが有利になるわけではなさそうだ」
「えっ?」
「使う機会がほとんどなかったから知られていないようだが・・・私も龍の属性の魔力を持っているのだよ」
「え!?」
「まだ作ったばっかりで仕組みが甘いのか、私の魔力も増幅してくれるようだ」
その言葉を聞いて静音の背がサーっと冷えた。さらに追い打ちをかけるようにウィリアムの剣が輝きだした。
「魔龍討伐以来の戦い、得た全て力を使う時!!」
嫌でも肌で感じ取れるレベルのオーラを纏うウィリアム。龍の魔力は特別で自然に得ることは無いと本で読んだ。得るには龍の素材を用いるか、龍自体を討伐するか。当然力は後者の方が大きい。
そしてウィリアムさんは龍を討伐したことがある・・・。
「これ以上に隠し事はなさそうだ。さぁ、始めよう!!」
「っ!!」
極まったウィリアムの剣閃。その脅威は速さではなくその振るう腕力、そして魔力を帯びた剣の鋭さだった。結界の仕込みの際に妖精剣を魔力で補修したものの、一撃受けただけで明らかに尋常じゃないとわかった。そしてウィリアムの剣閃が止むことは無く、次々と静音を襲う。
常に妖精剣に魔力を流して補修しつつウィリアムの剣閃をさばいていく。さらに結界を作る龍属性以外の剣にも魔力を流して結界の強化、属性魔力の増幅を図った。
その甲斐あってか本来静音が持つ雷と炎の魔力のさらなる強化に成功。妖精の力の方は龍の魔力が全体では弱いため完全に強化には至らなかったが、マシにはなった。
さらに激しい剣劇を繰り広げる二人。
だが目が良い観客にはある変化が見え始めていた。
「ん?なんだか、女の子の持ってる剣、変わってないか?」
「遠いからよくわからん」
確かに静音の妖精剣が変化し始めていたのだ。鍔の位置が膨らみ始めたのだ。それに反応するかのようにウィリアムの剣閃が鋭さを増していった。だが何とか静音はその剣閃をさばいていった。
二人が激闘を繰り広げてどれだけの時間がたっただろうか。闘いはさらなる変化を静音にもたらした。
「間に合わなかったか・・・」
「何・・・?」
静音の妖精剣が光を放ち始めた。ウィリアムもその隙を突くわけでもなく、剣を構えたまま変化を見守っていた。
「剣の鍔が・・・開花した?」
文字通り鍔の位置にあった膨らみが開いたのだ、満開の花のように。その変化と同時に結界の剣がさらに輝きを放ち始め、静音の纏うオーラも一層強さを増した。
「開花・・・語るに及ばず!!」
変化が終わったのと同時にウィリアムが静音に切りかかった。しかしその対応は淡泊に見えた。
「えっ!?」
今まで重いと感じていたウィリアムの剣閃がまったく重さを感じなかったのだ。そして
「体が、軽い!!」
そこからは今までとは変わって静音が怒涛の剣閃を展開した。妖精剣は常に補修されて万全。それに気づいてはいないが静音は体が動くままに妖精剣を振るった。
逆にウィリアムは防戦一方だった。そして第三者である観客にはもう静音の剣閃は妖精剣が残した光の軌跡でしか確認できないほどだった。そして好機は訪れた。
「見えた!!」
ウィリアムが防御する際に持ち手の握り方を変えようとしたその瞬間を静音の≪慧眼≫が予測した。その瞬間を狙って渾身の一撃を放った。
「ぐぅっ」
「んやぁ!!」
手の握りが不安定なところに渾身の一撃を受け、一瞬ウィリアムの剣が不安定になった。その隙を突いて静音は咄嗟に妖精剣を細くしてウィリアムの剣の鍔に潜り込ませて剣を救うように振るった。隙を突いたその行動は成功し、ウィリアムの剣は持ち主の手を離れた。その剣が持つ重さを表す鈍い音とともに大剣は地面に落ちた。
落ちた瞬間、闘技場は静まり返ったがそれも一瞬。次の瞬間には莫大な歓声が会場を包んだ。
「しょ、勝者シズネ選手!!」
「か、勝てた・・・」
歓声を聞いてからか、やっと自分の勝利を感じた静音はへろへろと崩れ落ちた。
「ありがとう、まだまだ君は伸びる。私も負けられないな」
そう言って伸ばしてくれたウィリアムの手を取って立ち上がった静音。
歓声に応えるように笑顔を振りまいた。
ここに王国御前試合は静音の優勝で終了した。
九十九話で気づきましたが、綺麗に第百話にこの話を持ってくることができました。
これからもよろしくお願いします。