静音とウィリアムの激闘の余熱が残る中、閉幕式は荘厳とした雰囲気で行われた。
国王が自ら表に立って行う数少ない行事であったからだ。
国王自らが受賞者に対し一人ひとり賞状を手渡し、さらには直々の感想を賜ることができるのだ。
そして順番はウィリアムへと続いた。
「ふむ、お主に渡すのは最後になると思っていたんだがな」
「世代は変わるものです。こと戦士の頂点は常に」
長い付き合いらしい二人の会話は言葉は少なく、ただ口にした言葉以上に通ずる何かがあるのだろう。
そして最後。静音の番となった。
「主とは妙な縁があるようだ」
そう言われて賞状、そして優勝者を表す王国の紋章が刻まれた盾を授与されたのであった。
そして王だけが壇上に残った。
「皆の日々のたゆまぬ鍛錬により今回も素晴らしき試合を見ることができた。そしてさらにはおとぎ話、伝説にも一度しか名を見せぬ妖精剣王が復活した。伝説は過去のもの。されど新たな伝説を作り上げることはできる。故に戦うものは常に勇持ちし者である!!」
王の声高な宣言とともに万雷の歓声と拍手が起こり、皆が「王国万歳」と叫んだ。
王都は最高潮の活気を見せていた。
そのままこの日は熱が冷めぬまま夜を迎えた。王都では依然御前試合の熱に中てられていたるところで宴会が行われていた。そして王宮も同じであった。
王国の貴族、試合の本戦出場者たちが一堂に会した祝賀会が行われていた。
しかし一つその前にトラブルがあった。
「え、祝賀会にはドレスが必要?」
「そうなっております。持ち合わせがないと聞いておりますのでこちらで何着かご用意しております」
当然、社交場の一環である祝賀会で着飾ることは特に女性なら必要であった。ただし、それは相手の目を引くためが主であり、ドレスコードなどというものは無かった。
故に独り身である静音にとってはそう大した問題ではない。むしろドレスのような煌びやかな衣装で着飾りたく無いのが本音であった。
「んーと、ドレスって絶対に必要なんです?」
「いえ・・・しかし今回参加する女性はほとんどがご貴族様に連なる方々ばかりでして・・・」
「必要ないってことならドレスを着てないからって処罰されないんですよね?」
「まぁ・・・そうですが・・・」
今静音と話している女性は王国でこういう社交場で着るドレスを扱っている店の人である。つまり御前試合で優勝した人物に店のドレスを着てもらう。これ以上ない宣伝の場であったため何とか必死にドレスを着てもらおうと説得しようとしていたのである。
「着ていく服に制限がないのならこちらで用意しますので」
「えぇ!?」
静音はとりあえず強引に話を打ち切った。ちなみに闘技場を出るまでのわずかな道筋で五回も同じことがあった。家に着いた頃には別の意味でへとへとになって帰ってきた有様であった。
「優勝おめでとう!!」
しかし工房で待ち構えていたのはクランメンバーからの祝いの言葉であった。待ち構えているとは露知らず。不意を受けて静音は少しあたふたしてしまった。優勝した時も受賞するときも毅然としてた姿を見ていたメンバーからすれば笑みがこぼれる有様だった。
「いやーすごかったな」
「おとぎ話の復活。他にも何か隠していませんか?」
「実にめでたい。だが自身の未熟さも知るいい機会になった」
「おめでとうございます。これでさらにシズネさんの名は知れ渡るでしょうね」
様々な言葉が飛び交う中、静音はそわそわとしていた。それに気づいたのはアルだった。
「シズネ、どうしたんだ?なんかそわそわしているけど」
「え!?あぁ、・・・んーっとね・・・」
静音は盛り上がるメンバーからこそこそと工房の奥に入って衣装箱から一つの衣装を取り出した。
「ん?見たことない服だけど、それがどうしたんだ?」
「いやーアル君。これがね?戦闘時の事を考慮して泣く泣く着ることを断念していて、だけど普段着にするには少し目立ちすぎるっていうかね、だけど一着くらいはこういうのを持っておきたいなって作ってみてさ。でも着る機会がなくてずっと衣装箱の中でetc」
と、オタクが水を得た魚の如く早口でしゃべりだした静音。当の質問をしたアルは当然理解できていない。
要約すると以前武者鎧風の防具を作ったものの、趣味で着たかった袴の採用は戦闘時の機能を考慮して不採用だった。しかし羽織道着袴に憧れがある静音からすれば着れるのであれば着たいのである。
しかし普段は煤汚れが多い鍛冶仕事。だから着る機会が限られていた。そしてさらに趣味を詰め込んだ一品を作ってしまいこんでいたのである。
そして祝賀会というそれを着る絶好の機会がやってきたというわけであった。
こうして色々あったものの見事静音は熱望していた着物を着て祝賀会に臨むのであった。
静音のクランメンバーからは静音とダンが祝賀会に入ることができた。
「にしても良かったのかい?こういう場って女性からしたら出会いの場だろ?言っちゃぁなんだが俺たち平民からすればご貴族様を引っかける絶好の機会だってのに」
「んー身の丈にあった生活が一番だよ」
しかし、女性のほとんどがドレスで着飾っている中、一人見たこともない服装の静音は目立つ、もとい浮いていた。服装の形は御前試合で着ていた防具に似ているので貴族の子女などは無作法者と影で笑い話にしているのもいた。
「んじゃ、俺はここで。男連れていたら迷惑かけそうだしな」
そう言ってダンはそそくさと男冒険者連中のなかに入っていた。
「国王陛下、並びに王子殿下のご入来でございます」
拍手とともに国王と王子が会場に入って上座についた。
「皆今宵は今までにあった小さきことから全てに至るまでの祝いの席にしようではないか」
王の祝詞が終わるとともに貴族たちが率先して会話を始めた。そして段々と賑やかになっていく会場の中を静かに移動する人物が静音に迫っていた。
「やっ!!」
「こ、これはレオ王子」
突然の来訪に少し驚いた静音。さっきまで上座にいたはずの王子が目の前にいるのであった。
「いやーただでさえ伝説の復活という極上ネタを持っているのにさらにネタを持ってきたら周囲もしり込みするだろうね」
「どゆことです?」
「いや、服装さ。ドレスで着飾って勝負するのが女性の戦場だ。それを放棄するとはある意味周りからすればすでにお断りされているようなもんさ」
「あー、異常に視線を感じるとは思っていましたがそういうことでしたか」
「で、そんな中突然王子が話しかけているとなるとほら。子女はおろか子息までも騒がしくなってるだろ?」
そう話すレオは少し悪戯めいた顔をしていた。
「ウィリアムは父上と話しているのか。少し長引きそうだ。まぁ、こちらも話すことはたくさんあるしね」
「そ、そうですか」
「あーそうそう、。少し近づくよ」
レオは少し静音に近づいた。内緒話がしたいらしい。
「俺が離れた後貴族の連中が近づいてくるだろうけど、妖精関連の話だけは絶対にしてはならないよ」
「やはり彼らも妖精に近づきたいからでしょうか?」
「理解が早くて助かるよ。王国じゃ妖精は神とは別の意味で神秘的な存在だ。妖精は触れ合った者に栄華をもたらすと言われている。蹴落とし合いをやってる貴族の連中からすれば君は良い釣り餌になるだろうからね。それじゃ」
そう言ってレオは去っていった。そしてぽつんと賑やかな会場で一人となった静音・・・はそんなこと気にせず普段は見ることができない料理に目を奪われてそのまま食事に入ろう・・・としたその時であった。
「ちょっとよろしくて?」
「はい?」
振り返るとこれまた派手なドレスを着た女性が数人いた。
「少し名を上げたからと言って身の丈に合わないことをすると身を滅ぼしますわよ?」
なんだか偉そうに(多分貴族のご令嬢だろうから当然だろうけど)ご教授していただくことになりそうだった。
「おや、少し食べ物を取りに行っただけだが人気者だね」
すぐにレオが戻ってきたのであった。
「こここ、これは王子殿下・・・」
「とりあえず中央に近いこの場所は目立つ。場所を変えようか」
そそくさとレオは静音を連れ出して会場の空いている場所に移った。先ほどの女性たちは唖然として立っていたままだった。
「ね、言ったとおりだっただろ?」
「変に実証しないでくださいよ・・・というかさっきの私は餌でしたけど、その釣り竿を握っていたのは王子だったのでは?」
「こりゃ痛いところを突いてくるね。うん、やっぱり君は変わり者だ」
「まぁ、無作法が服を着て歩いてますからね」
「大抵の貴族は俺と自分の身分と今後の損得を考えてへつらうことしか話さない。さっきの連中も俺が君に話しかけたから嫉妬して来たんだろうね」
(そんなどこぞの乙女ゲームの悪役ポジションみたいなことあるの・・・?)
「まぁ、いろいろ文句付ける俺にも事情があるんだけどね」
そういったレオは少し面倒そうな顔をしていた。
「父上からできるだけ君を貴族連中に触れさせないようにって言われていてさ」
「何かまずいことでも?」
「さっき言ったろ?君は貴族連中からすれば格好の的。王の下に貴族がいて、その中で微妙なバランスを調整して国の安泰を図る。それが王の役目だ。まぁ、政治的な都合さ」
「あー、気休めかもしれませんが、あんまり貴族の方々には良い印象はないのでどこかに肩入れすることは無いかと」
「・・・今の君は次期国王と気軽に話せる人間。どっぷり王室に肩入れしているよ」
そう言ってクスクスとレオは笑った。
「あー・・・そうなりますね」
「あんまり気にすることは無い。国王が気兼ねなく話しかけられる私にも貴族の方々から話しかけられるのは私の武勇伝程度。王室に関係あるのならなおさら貴族はよっぽどのことがない限り口出しは無いのはこれまでの私の経験から断言できる。これからも君は変わらず君の道を歩けるさ」
「お、ウィリアム。父上との話は終わったのか?」
「えぇ、色々と話しましたが。やはり王も彼女のことを気にしていたご様子」
「いくら優勝者といえど父上とは話せないだろうけどね」
「私がそのようなことを気にする人間ではないことは知っておろうに」
「あ、父上」
「こ、国王陛下・・・」
あまりの人物の登場に数歩引き下がってしまった静音。まぁ当然の反応である。
「そう堅苦しくしないでくれ。レオと話しているぐらいの感じでならどうかな?」
「いえ・・・そんな恐れ多く・・・」
「ほれいった通りではないかウィリアム。呼ぶと目立つからとこちらから出向いてもダメではないか」
「陛下、ご自分のお立場と彼女の立場。そして彼女の境遇をお考え下さい」
「ふむ、以前シズネは聖剣を復活させたではないか。その時と何も変わらぬどころかシズネの偉業が一つ増えただけではないか。つまり彼女がワシと語れる条件がさらに揃ったと見るべきだろうて」
「すまない静音。私ではもう止められない・・・」
「そんな・・・」
珍しく気まずそうにしているウィリアム。それほどこのヴィルヘルム四世という人物は何かを秘めている・・・のだろうか?
「してシズネよ。これからどうするつもりか?」
そう言った王様の目は先ほどとは違って鋭かった。しかし雰囲気は崩さず、周りも変化に気づいていない。というか王様が話しかけているという方に目が行って気が付いていないといった感じだった。
「これからも変わらず鍛冶師と冒険者として生活を続けるつもりです」
「ふむ、そうであるか。ここだけの話じゃがな、ウィリアムが剣聖の称号を主に譲りたいと言っておってな」
「え・・・?」
「剣技としてはまだ完全とは言えないだろうが、全てを含めたうえで君はいずれ勇者をも超えて剣士の頂点に立つだろう。負けた私が持つにはふさわしくないからね」
「いえ・・・私は剣の頂には程遠い身です。ですので頂点の称号をいただくわけには・・・」
「だがウィリアムに勝った主に称号を与えねば変に周囲に誤解を招きかねんでな」
「確か『剣豪』という称号、いえ、名跡があったはずでは?」
(え゛!?ここで剣豪が出てくるの!?というかまさウィリアムさん私の心を・・・ハッ!!この心さえ見られている気が!!)
「ふむ、また古い物を持ち出してきおったな」
「以前ラークの修行の際、一族の長老にラークの相を見てもらった際に以前から引っかかりを覚えていたので調べてみたら不思議なことに一族の古いほぼ失伝した伝承が纏まったのです」
「あの、浅学の身なので存じ上げませんが、『剣豪』とはそれほど古い言葉か何かなのでしょうか?」
「うむ。どういった形を指すのかは不明じゃが剣士の名跡としては最上位に古い名称じゃ。旅の報告では何も言わなかったが何か発見でもあったかの?」
「えぇ。どうやらその『剣豪』と呼ばれていた人物たちは片刃の細剣を手にしていたとか」
「片刃の細剣・・・。シズネの武器にそっくりじゃな」
「えぇ、ですので彼女にはピッタリかと」
「うむ、では後で重臣たちと相談して称号として制定するとしよう。元々勇者という称号があるのに剣聖を作ったぐらいじゃ。問題にはなるまい。シズネも異議はないか?」
「はい・・・身に余る光栄です」
まるで自然な流れで決まってしまったが『剣豪』という称号を与えられることになってしまった。
その後は試合の時の気持ちなどの雑談を経て王様とレオ王子は去っていった。
「心中、穏やかには見えないか」
「え、えぇ・・・」
静音の中ではこの世界に生涯居座ることになるならば何年、何十年とかけて得たいと思っていた『剣豪』という名称が思っていたのと違う形で一年と足らずに得ることになってしまった。
ある意味この世界での目標をすぐに達成してしまった静音の心中は穏やかではなかった。
ちょっと時間を空けてしまいました。これからもよろしくお願いします。