第百二話
――――心ここにあらず
今の静音は文字通りだった。
先日の祝賀会で決まった予定通り、『剣豪』という名称が王国の称号として正式に制定され、御前試合で優勝した静音に授与された。
王国において称号とは貴族称号と戦士称号の二種類に分けられる。
貴族は爵位が様々であるが、戦士は以前までは『剣聖』そして聖剣と共に復活した『勇者』そして新たに制定された『剣豪』のみである。
冒険者などでは名を上げた者に通り名がつくこともあるが、称号とは王より授けられる名誉な呼び名であった。
『剣聖』は長年ウィリアムがその位を維持し、『勇者』は聖剣と一心同体なので聖剣が復活するまでは空席だった。そして誰もが目指した新たな称号、それを授与された静音は冒険者・戦士にとっては希望の風とも捉えることができた。認められさえすれば称号を与えられる。故に王国の剣を握る者は以前にも増して活発になっていた。
しかし当の静音は『剣豪』となってから数日が経ったが物足りない日々であった。
アルやミーナに鍛冶の手ほどきをするものの、なぜか熱が入らないのである。
だからと言って自分で刀を打とうにも小割りをしようとする気すら起きなかったのである。
では剣技で汗をかくのはどうかと思っても練習場所に行く気が起きなかった。
食事の時も静かに食べ、クランメンバーは静音の変化に驚いて声をかけようにも、静音の雰囲気に押されて誰一人声をかけられなかった。
今日もただ起きて食事を取ってただ町を放浪していた。
ただ、一つの塔が目についた。風に当たれば気持ちがいいかと思い静音は塔に上った。
高いところでほかに障害物もないため、風は結構強かった。そして塔の上から静音はただ御前試合の余熱が残る王都をぼんやりと見ていた。
「隣、良いかな?」
「・・・ウィリアムさん」
そこへウィリアムがやってきた。
「君のクランのエラムって子に相談されてね。君を探していた」
「エラムが?」
「どうやら君の関係者に片っ端から相談するため方々を駆け回っているらしい。随分と慕われている証拠だ」
「・・・一つ、聞いていいでしょうか?」
「何かな?」
「どうして『剣豪』だったんですか?」
「称号の授与は気に障ったかい?」
「いえ称号を頂けるのは戦いの道を進むことになった私からすれば嬉しいことです。ですか、なぜ『剣豪』だったんですか?」
「君は天より使われし別世界の人間。元の世界でえ『剣豪』、何か縁でもあったのかい?」
「『剣豪』はある意味で私のこの世界での目標だったんです。そしてウィリアムさんは心を読める
『心眼』を持っています。だからまるで心を見透かされた気がするんです」
「ふむ」
「でも私の世界でも称号でしたけど、こんな剣を握って一年も経たない私が手に入れることができるものじゃない。何十年と努力したり、もしくは最初から天賦の才があるような人がそう呼ばれる、そう思ってました」
「世界が違えば名の意味も意義も変わるだろう。今の君は目標を失っているといったところか」
「そんな感じです」
「そもそも、君は自分の意志でこの世界に来たのかい?」
「いえ、なんかいきなりこの世界を救ってくれって言われて・・・でも手段も方法も、何をどう救えばいいか教えてもらえずそのまま・・・」
「ふむ・・・正直に言うと君を遣わした存在は無責任というべきか・・・」
「ですよね!?突然『世界を救ってくれ~。あ、元の世界には帰れないから』って言われても納得できませんよね!?」
「突然自身の境遇が変われば誰しもがそう思うだろう。曖昧な使命。ならば自分の原点に帰るのはどうだろうか?」
「原点・・・ですか?」
「君は元の世界でも一番の目標、小さなものでも簡単なものでもいい。叶えたいことは『剣豪』になることだったのかな?」
「いえ・・・私は本当は・・・ただ刀が好きで・・・あ」
「目標は見つかったかい?」
「はい・・・私の願いは『自分が納得できる刀を打つ』ことでした」
「ふむ。刀、武具を打つか。それで納得がいく品はできたのかい?」
「うーん、見た目、性能、価値。全てを兼ね備えた逸品なんてすぐには作れませんよ。あ、でも唯一これだけは・・・」
そう言って腰に帯びている雫を見た。雫が静音が仕組みは違えど、最初に生み出した満足のいく刀であった。
「ではこの世界でやりたいことはあるかい?」
「やりたいこと・・・えぇっと・・・本人を目の前にして言うのはなんですけど・・・。この世界に送られた最初ってどうやって生き延びるかしか考えてなかったんです。ただウィリアムさんと試合をやって、実際に刀を使えることに感動したんです。それでいつかはウィリアムさんに勝ちたいと思ったんですけど・・・」
「試合で見事私に勝利したな」
「純粋な剣技、技量じゃないですけどね・・・」
「縁はその当人の人徳、立派な実力の一つだ。勝利したことには違いはないのだが・・・ほかにやってみたいことは無いのかい?」
「あ、料理を堪能したいです。文化も違えば料理も違います。あと冒険もしたいです。それからそれから・・・」
そう朗らかな顔で悩む静音をウィリアムは暖かく見ていた。
「取り合えず、多すぎて纏められません!!」
「ぬ?」
出てきた結果は何とも欲深すぎた。
「強欲すぎますかね・・・?」
「ふむ・・・行き過ぎは問題かもしれないが目標があるからこそ人は歩める。目標が多ければその分距離は長いが達成感も大きいだろう。君の使命を鮮明にするついでに目指すといい」
そう言ってぽんっとウィリアムは静音の背中を叩いた。
「君にも心配してくれる人がいる。すぐにその元気な顔を見せてあげなさい」
「はい!!」
そう言って静音は急いで塔を降りようとした。
「あ、結局ウィリアムさん、私の心を見たから『剣豪』を選んだんですか?」
「あぁ、そういえば論点はそこだった。それについては私は誓って君の心を見てはいない。『剣豪』を選んだのは昔本で知って、そして君と出会い、違和感を覚えて調べた結果見つけたものだ」
「違和感・・・ですか?」
「今思えば不思議な感覚だった」
「うーん、とりあえず見透かされたわけじゃないのですっきりしました。ありがとうございました!」
そう言って今度こそ静音は塔を降りて行った。
「・・・どんな世界でも言葉の在り方は変わらないのだろうか」
ただ残ったウィリアムには拭うことができない疑問があった。
静音は王都を疾走した。みんながいるクランハウスへと。
「みんな、ただいま!!」
元気よくクランハウスの扉を開けて誰かはいるであろう食堂へと来た静音。
「あ、お帰りなさい」
しかしそこには一人優雅にお茶を飲むエラムがいた。
「え・・・エラム・・・」
「元に戻ったようで何よりです。それよりも何をそんなに驚いているんです?」
「え、だって方々を駆け回っているって・・・」
「動ける方はそうでしょうが、私は運動はそこまで得意じゃありません。ですので一番可能性があるところに行っただけのことです」
「で、なぜにお茶を?」
「果報は寝て待てと言いますがさすがに寝て待つのはあんまりかと思って」
「だからと言って優雅にお茶をキメるのもどうかと思うよ・・・?」
「その・・・正直言うと剣聖様を探し回って疲れてまして、休憩をと・・・」
そっぽを向いて言うエラム。よく見ると額には汗が、足は本当に運動が苦手なエラムが全力で走った後を示すかのように震えていた。
(そういえば、最初こそ私がエラムを助けたけど、一緒に組んでからはこの世界では無知な私を助けてくれてたっけ)
「エラム」
「なんですか?」
「ありがと」
「突然・・・いえ。どういたしまして」
輝く静音の笑顔に最初は恥ずかしがっていたものの、いつもの凛とした顔でエラムも返した。
「ところで他のみんなはどこに?」
「それぞれ心あたりを探っているはずです」
「・・・集まった時期はみんなクラン立ち上げた当初だけど、チームはバラバラだったよね・・・?」
「・・・あ」
メンバーそれぞれが心当たりを頼りに駆け回っているらしいが、その心当たり自体を知らない静音はメンバー全員が戻ってくるまで食堂で待っていた。ただ帰ってきたメンバーは全員が元に戻った静音の笑顔を見て安堵した。
話が溢れたので先投稿です。
欲深な要望ですが、よければこの作品について意見を微量だとしても良ければ頂きたいのです。
読者の皆さんがこの作品をどう思われているのか知りたいのです。
大まかな展開は決まっていますが、小さな話にその意見を組み込めたらなと思っています。
どうかお願いします。