活気を取り戻した静音は以前にも増して活動的だった。御前試合で優勝したため、静音の工房の名前もうなぎ上りで武具の注文も増えた。家事の包丁やナイフから戦闘用の剣まで幅広く注文が殺到した。
ただそこで一つ問題点が浮上したのである。
「うーん・・・これは一体どういう原理なのやら・・・」
静音が鋼を打ち、最後の冷却で温度を調整した水で急速冷却をして鋼を引き締める作業。ここに問題が起きていた。
静音があらかじめ用意した水でならアルやミーナが打った品を冷却しても耐久面などに異常は出なかった。
ただしアルやミーナが同じ温度の水を用意して冷却をするとほぼ確実に耐久面で劣る品ができるのだ。
「うーん、水での急速冷却は文字通り一気に冷やすから鋼が割れやすいってのはあるんだけど、私が用意した水では問題は起きず、アルやミーナが用意した水だと問題が発生する。うーん・・・」
仕方がないの久々のヘルプに助言を求めることにした。
ヘルプ曰く、『静音は鍛冶スキルが最高に近いため問題は起きないが、二人の鍛冶スキルはまだまだなため
静音と同じことをやっても失敗する可能性が高い』とのことだった。
確かにスキルが鍛造全てに関わるのなら冷却の時にも関わってくるのだろう。
だからと言っていちいち静音が用意していてはいつまでたってもアルとミーナの修行にはならない。
「油での冷却なら刃の輝きは鈍るけど安定性はあるんだよね・・・ただウチは刃の輝きも含めての品だからこればっかりは変えられないんだよね・・・」
なので静音は焼き入れに今まで省略していた焼き戻しを導入することにした。
焼き戻しは焼き入れで急速に冷やした鋼がもろい状態を再び熱することで接合させ強度をより強くする工程である。これを複数回行うことで急速冷却による割れを防ごうと考えたのである。
当然工程が増えれば加熱に使う炭の必要量も増えるため経費も増える。ただし包丁や作業用のナイフならともかく、戦闘で命を守る大事な剣などの武具の作成で手を抜けば使用者の命の危機に直結するため手抜きなど
できるはずもなかった。
ただこの工程を導入した結果アルとミーナが自力での焼き入れに成功することができるようになった。
これでまた店で二人に任せられることが増えた。
工房の問題を解決した静音は次はクランの収入増加を模索した。といっても結論は簡単で遠征を増やす、ただこの一つしかなかった。
今はまだ王国自体が御前試合の熱気の余熱が抜けていないため、所々お祭り気分が蔓延してた。
そのため冒険者ギルドには未解決の依頼も多くあり、また狩場も空いているとのことだった。
ここで静音はエラムの提言にあった依頼が処理できていない今の冒険者ギルドの依頼を積極的に受けて恩を売り、今後より良い依頼を回してもらえるようにすることにした。
静音はクランをチーム分けをして依頼の消化へと注力した。
難易度は低いものも多かったが集落の近くに魔獣が出たなどの依頼も多く残っており、静音はこれらを優先して解決する方針に定めた。
静音たちは懸命に依頼の解決に努め、冒険者ギルドからは一定の信頼を得ることができた。
王国が良くも悪くも浮足立っている中で不安要素をできるだけ減らした後、静音たちは狩場への遠征を繰り返した。他のクランは遠征を控えていたせいか、魔石の換金額は冒険者有利に上がっていて収入は以前より増えていたのは幸いだった。数度遠征を行ったとき、少し奇妙なことをクランメンバーが気づいた。
「なぁ、団長はエラムの嬢ちゃんとの付き合いってどれくらいだ?」
「ん?クラン設立前から組んでいたけど、何かあった?」
「いやさ、ウチのチームの魔法使いからしたらエラムの嬢ちゃんの魔法が知らない物ばっかりらしくてよ」
「うーん、魔法については私は詳しくないからなぁ・・・」
「それに属性の魔力以外の属性の魔法も高レベル。そんなレベルの魔法使いなら冒険者なんて危険な仕事よりも教鞭を振るって安全に稼ぐ方が合っていると思うんだけどさ、まぁおせっかいなのは重々承知だが・・・」
気になった静音はそれとなくエラムに魔法のことについて聞くことにした。そもそも静音が鍛冶に必要な玉鋼を作るために必要な『フィールドフリーズ』を覚える際エラムも魔法学校で共に魔法を学んだはずだ。学ぶということは足りない何かがあるということ。しかしエラムが使う魔法が知識者曰く高レベルであるということ。わざわざ高レベルの魔法が使えるエラムが基礎を習いにく。このことに静音は疑問を浮かべた。
「うーんと、それはですね・・・私の使う魔法は特殊なんですよ。だから基礎だろうと取り入れれる物は取りいれようと」
そんな回答が返ってきた。その時のエラムは少し驚いた様子であったが、エラムにも自分の事情があるはずである。だから静音は深く詮索することはしなかった。
ありがとうございました。今後もよろしくお願いします。