静音はワイルドウルフ掃討戦を終えて王都に戻ってきていた。言葉の重圧とともに。
メンバーは悪気など無いのだろう。ただ純粋な、静音の力を評価する。そして頼りにしている。
それが静音に重圧を加えていた。『力ある者は守る側になる』力がない者が力ある者を頼りにするのは当然である。ただし、頼りにされる側の静音は実際に仲間に危機が迫ったとき、本当に守り切れるのか。
その自信がなかったのである。先日もエラムの発見がなければ負けていたかもしれない。負けるだけならともかく、誰かが死んでいたかもしれないのだ。
実際ワイルドウルフ掃討戦ではブレイズシープによる少ないが死傷者が出ていた。
次に危機が迫ったときにまた突破口を開けるかはわからない。どんな危機が迫るかすらわからないのだ。
確かに静音は力を、細かく言えば実力を求めていたのは確かである。
ただし、今思えばクランを立ち上げたのは収入を増やすため。最初はほとんど同じような実力の面子だった。
しかし今では静音一人が突出している状態である。誰もが「シズネがいれば大丈夫」だと思っている。
だからこそ、当の静音は怖いのである。
「おや。君が私を訪ねて来るとは。よっぽどのことがあったようだね?」
故に、王国から絶大な羨望を集めるウィリアムを訪ねたのである。
「はい・・・実は・・・」
静音は今の自分の心境を話した。ウィリアムは静音の話すことをただ黙って聞いていた。
「大体のことはわかった」
一回、ウィリアムが頷いた。
「だが、それは思い上がり、とでも言うべきだろうか」
「思い上がり・・・自惚れていると?」
「まぁそんな感じだ。何も君自身が気負うことなどないのだから。力ある者が力なき者を守るのは当然だが、その力の有無は誰が決めるのかな?」
「それは・・・他人との差で・・・」
「では君は自分の力が君の仲間よりも優れていると、そう自負があると?」
「それは・・・」
「君は突出した力を持つかもしれない。力が大きければ小細工など無視して解決できることもあるだろう。だが、力だけを持っていても解決できない時もある。例にすれば、君の力では対抗できなくとも、他の誰かの小さな力で事態をひっくり返せることとかか」
「でも今回みたいに対抗策が知られていない魔獣が出てきたりしたら・・・」
「確かにそういうことは今後もあるだろう。だが武技だけが力とは限らないだろう?知識もまた力になるのだから」
「でも・・・」
「私がどれだけ言いつくろっても君の不安を和らげることはできても完全に解消することはできないだろう。できるとするならば、自身の行動あるのみだ」
「私の、行動ですか?」
「知識を蓄えるも良し、まだ知らない武芸を身に着けるも良し。まだ君は先があり、選べる道もたくさんある。慌てることは無い。何かあればこうして先の人間を頼ればいいのだから」
「そう・・・ですか」
「あぁ、そうだとも。力がある者が力なき者を守らねばならないように、先の人は今の人を導かなければならないからね」
「・・・ありがとうございます」
「ところで、話は変わるのだが」
「?」
「近々古い友人が帰ってくるらしくてね。君にも会ってもらえないかと思ってね」
「ご友人ですか。どんな方なんですか?」
「とても変わり者でね。義理堅いが、自由人でもある」
その後は少しの雑談と、気晴らしに剣を交えた程度で終わった。
そして数日後。ウィリアムから連絡があり、友人が帰ってきたとのこと。
「失礼します。静音です」
「あぁ、どうぞ」
ウィリアムの部屋を訪ねると、ウィリアムともう一人、エルフの人物がいた。
ただウィリアムはエルフの先入観通りの細めではあるが体格が整った体形である。逆にも一人の人物は耳が見えなければ見間違えるぐらいの体格を持つ人物であった。
「紹介する。私の古い友人、オリオンだ」
「オリオンだ。よろしくな」
「オリオンさん、ですか。私は静音といいます」
「・・・やっぱ俺ってなんか圧迫感でも与えてしまうのかね?」
「そうではないと思う、さ」
「で、シズネだっけか。アンタが妖精剣王でウィリアムに勝ったっていう娘か」
「え、えぇ、そうです」
「はっはっは!!ウィリアム、お前ぇもついに負けるようになったか!!」
大声で笑いながらウィリアムの背を何度も叩くオリオン。
「私はもとより完ぺきではない。故に負けることもある」
「ま、剣では負けるだろうが弓じゃ俺が勝つからな」
「まだ君の弓の腕は誰にも負けないだろう」
「そうだろうそうだろう。弓聖の名は伊達じゃないからな」
「・・・弓聖の称号を返上してでも旅を選んだ君が言えるセリフ出ないと思うがね」
「弓聖・・・?」
「あぁ、オリオン以降に弓聖の称号にふさわしい弓手は王国にはいなくてね今は空白なのだよ」
「なんだぁ、もう10年ぼっち経つのにまだ出てこねぇのか」
「君が後進の育成をすればすぐに出てくるだろうに」
「だけどよ、弟子に取った奴ら全員、俺の弓すら引けないんだぜ?」
「それは君の弓が特別だからだろうに・・・」
ウィリアムが珍しくあきれた表情をしている。
「しっかし、嬢ちゃん。面白いモノ、持ってんな」
二人の会話を眺めていたら突然オリオンが狙いを定めるように静音に視線を移した。
「あぁ、彼女は」
「天の御子ってところか」
「!?」
「あぁ、驚くのも無理ないだろう。私は『心眼』を、オリオンは『穿眼』を開眼しているからね」
「で、嬢ちゃんはまだ『慧眼』止まりか。既存の眼か、新しい眼かどちらに進むかはまだわからんな」
「『慧眼』って成長するんですか?」
「あぁ、私たちも最初は『慧眼』だったからね」
「俺の眼はウィリアムほど相手の心理は読めんが、弱点を見ることができる。さっきなんで嬢ちゃんが天の御子ってことがわかったかは・・・」
「私がそれを隠していたから、それが私の弱点となってオリオンさんが見抜いたからでしょうか?」
「当たり~。いやーアイツがいなかったらすぐにでもお近づきになりたいところだな」
「・・・まだ彼女に操を立てているのかい?」
「それが俺の選んだ道だ。どれだけ言い寄られようと、幻術に掛けられようと、俺の信念は変わらんよ」
少し、場の空気が悲しい方向に向いた。
「あの・・・」
「ったく、お前が話さなければ何もなかったのによ」
「すまない。やはり気になってしまってね」
「まぁ、嬢ちゃんに事情を話すなら・・・俺には恋人がいた。だがそいつは死んじまったのさ。俺が馬鹿なことさえしなければ、見送ってやれたかもしれないのにな・・・」
「・・・当の本人がどん底に落としてどうする」
「はっはっは!!それもそうだ!!」
オリオンが暗い顔をしたかに見えると、すぐに朗らかな顔に戻った。
「ところで、今後はどうするつもりだい?」
「今後?あらかた大陸は横断したからな。何かしら見つかるとは思っていたが、アテが外れたようだ」
「ふむ・・・」
「だが、たった今見つかった」
「ほう?」
「嬢ちゃん、俺と組まないか?」
「私と、ですか?」
「あぁ、嬢ちゃんは剣士なんだろう?なら王国一といわれた弓手が近くにいたら楽だろう?」
「オリオン、彼女はすでに仲間を見つけていてな」
「なら話は早い。俺もその輪に加えてくれ」
「えぇっと・・・」
「すまない。オリオンはこうなると大抵話を聞かなくなる。迷惑はかけないだろうし、何かあれば私に言うといい。それにオリオンが君と組むというなら、君の悩みも少しは和らぐかもしれない」
「わかりました。ではオリオンさん、今後はよろしくお願いしますね」
「おう、よろしくな」
その後はクランメンバーとオリオンの顔合わせとなったが、突然元弓聖が仲間になったことにメンバーは驚愕。ただ拒むことは無く、全員がオリオンを迎え入れてくれた。
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