エラムがそう呼んだ始祖のヒュドラ。この場にいる誰もがその意味を理解できないでいた。
だが目の前の魔獣が今まで戦ってきた魔獣の何十倍も脅威であることは本能的に感じていた。
故に、足が震え、武器を握る手も汗が増えていた。
「なぁ・・・伝説にすらない魔獣って、どうすりゃ勝てるんだよ・・・」
「もう・・・無理だ・・・ここで、死ぬんだ・・・」
「あきらめるんじゃねぇ!!伝説は、その偉業は、成しえた残っているんだ!!失敗することを考えるんじゃねぇ!!」
既に敗北の空気と化していた。オリオンが必死に激を飛ばすも、抑えることはできないでいた。
「・・・ここが潮時のようですね」
「エラム?」
「皆さんすぐさま戦線から離脱を。幸い魔獣は全てあのヒュドラが吸収したので追手は無いでしょう」
「・・・エラムはどうするのさ」
「あたり一面ごとヒュドラを消します」
「すげぇ・・・まだそんな手札が残っているのか!!」
「えぇ。ですがかなり広範囲ですので皆さんに残ってもらうと使えないので・・・」
「・・・わかった。でも無理はするんじゃねぇぞ」
そう言って冒険者たちの足取りは軽く、町へと退避していった。
ただアイアン・イグニス、特に静音がエラムのことを訝しんでいた。
「何をしてるんですか?早く静音たちも撤退を」
「エラムは・・・エラムはどうなるの?」
「どうなるって・・・どういうことだ?」
「だってエラムの眼がおかしいんだもん!!なんか今まで見たことない目をしてる。まるで・・・何かを覚悟したような目を・・・まさか!!」
「・・・なんです?」
「オリオン!!今すぐエラムを見て!!エラムがどういう攻撃をするのか心を読んで!!」
「あぁ・・・悪いんだがそれはできねぇ。俺より嬢ちゃんの方が強いからなのか見えねぇんだ」
「えっ?」
「まず女性の心を読むなんて真似はあまり好かれないですよ?」
「そんな冗談を言ってる場合じゃ・・・」
そんな話している間に完全に出没前以上の力を手に入れたヒュドラが攻撃の態勢に入った。
今度は首九つで魔力の塊を作り出した。
「なんつー魔力の濃ゆさだ・・・」
オリオンですら唖然としてた。
「もうあれを相殺する術は一面吹き飛ばすしかありません・・・だから・・・」
「エラム・・・」
「・・・さよならです」
すぐさま見たこともない魔法陣が築かれると、そこから風が吹き荒れた。ただし危害を加えるのではなく、強引に残った者を離れさせるものだった。
「っ!?」
だが一瞬静音の行動が早かった。エラムが杖を向けた瞬間、静音も刀をエラムに向けていた。
御前試合準決勝時に使った相手の敵意・害意を消す妖精剣王の力をエラムに向けていた。
だから静音だけはその場に残っていた。
「静音!!どうして!?」
「だって、さよならなんて言われたら・・・誰でもわかるよ」
「っ!!」
「エラム、自分の命、賭けるつもりでしょ?」
「それしか方法が!!」
「あるじゃん。頼ってよ。オリオンより強いってのなら私の力なんて微々たるものだろうけどさ。私たち、仲間じゃん」
「っ・・・本当に、あなたという人は・・・」
「どう?私の命も賭けても変わらない?」
「・・・あなたがどれだけ命を賭けようと状況は変わりませんよ」
「・・・そう」
「あなたはいつも通り、破天荒に、静音らしく、堂々と戦ってください」
「!わかった」
静音は最大限の力を発揮するべく、七本の刀を呼び出した。以前使ったときはまだ実証が甘かったから相手まで強化してしまったが今度は違う。静音の背後に六本三対を羽のように、一本を垂直に配置して静音自身だけを強化できるように結界の範囲を静音の近くに固定した。
六の属性と増幅の魔力。そして妖精の魔力が合わさり、静音の纏う桃色のオーラは輝きを増していた。
「静音。今の私にはあの攻撃を防ぐ術は一面を吹き飛ばすこの一手しかありません。ですから・・・」
「大丈夫・・・だと思う」
「信じていますよ」
静音が妖精の魔力を使うほど、静音のオーラは増していった。ただ問題があった。
「刀の様子がおかしい・・・」
そう、雫の様子がおかしいのであった。莫大な魔力の凝縮に耐えきれそうにないのか、何か様子がおかしかったのである。それは他の刀を同じであった。だがやっていることはウィリアムと戦った時とほぼ同じである。原因不明は気持ち悪いが、今はヒュドラの攻撃を迎え撃たなければならない。
ヒュドラが魔力の塊を放出したのに合わせて、静音も雫から撃てる最大の一撃を繰り出した。
ヒュドラの攻撃が一つの塊なのに対して静音は継続的に魔力を放出していた。だがそれでもヒュドラの魔力の塊は強く、静音の方が押されていた。
「くっ・・・」
徐々に押されていく静音。放出するのに耐えきれそうにない足腰。既に今の静音は限界であった。
「守りたいんだ・・・仲間を・・・町のみんなを・・・。ここでコイツを倒さないと大勢の人が死んじゃう。だから・・・力を・・・力を貸して。お願い」
誰に語り掛けるでもないただの独り言。だが、聞こえていなかったわけではない。
身近な存在が、答えてくれた。
「!!・・・刀が」
手に持つ雫が、後ろにある一から七の数字を付けた星の刀たちが、言葉どころか意思疎通すらできないただの道具だと思っていた刀たちが、実際に何かを伝えるかのごとく輝きを増していた。
「そっか・・・私なりに心を込めて作ったんだもんね。本当に心が宿ったんだ。ありがとう。
力、借りるね」
その言葉と同時に背中に配置した三対の刀が巨大なオーラの羽根を、増幅の刀がオーラでできた結晶を作り出した。雫も妖精剣化してさらに輝きを増した。それは本当の意味で静音が妖精の力を、羽根という妖精の象徴を現した瞬間であった。
「これなら!!」
一瞬にして静音の魔力放出は勢いを増してヒュドラの魔力の塊を消し飛ばした。だが静音はヒュドラの攻撃が消えると自分も魔力放出をやめた。
攻撃を迎撃できたのなら、今はヒュドラの討伐以上に優先するべきことがあったのだ。
一瞬刀の配置を解いてみた。すると刀たちは操剣術で操ってるわけもないのに浮遊し、意思を持つかのように静音の周りを漂っていた。時折何かを表すように刀身を揺るがしていた。
「ほんと、気づくのが遅かったなぁ・・・でも、気づけて良かった。気づかせてくれてありがとう」
「あなたは・・・どんな時でも刀を愛し、刀に愛されているんですね」
ただ見守るだけのエラムは懐かしむような目で変化した静音を見ていた。
だがヒュドラが消滅したわけでもない。ヒュドラは自身の先の攻撃が通用しなかったのを見て、さらなる一手を繰り出した。九つの首に加えて体にできた大口まで使って魔力の塊を作り出そうとしていた。
「静音!!」
「うん、大丈夫だから。みんな、行くよ」
静音が操るまでもなく、刀たちは自分の配置についた。
静音は雫を構え、三対の刀身から生まれた羽根はさらに伸びて、構えた雫に合わせるかのように先端をヒュドラに向けた。そして増幅の刀が生み出した結晶からあふれる魔力が全てを支えていた。
静音はヒュドラがやったように自分も雫を持つ手だけでなく、伸ばした羽根も使って雫に魔力を集め始めたのである。
「うん。やっぱり刀は最高だ」
準備が完全に整った静音。最高潮に凝縮された魔力が雫の中で今か今かと待ちわびていた。
ヒュドラの最大の攻撃が放たれるとともに静音も溢れんばかりの魔力を放出した。
静音の攻撃は一瞬でヒュドラの放った魔力の塊を消滅させて、ヒュドラ全体を飲み込んだ。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
声とともに魔力の放出量は増していき、ヒュドラの首が消えていった。
だがどれだけ力を加えても、ヒュドラの身体は傷つけられないでいた。
「そんな・・・」
「大丈夫」
静音の膨大な魔力放出でも傷がつかないヒュドラの身体。エラムが杖を構えるがそれを静音はすぐさま静止する。
「次は、これだ!!」
静音が雫を上に掲げると、妖精を象っていた刀たちが合わせるようにして雫の周りを周回するようにして浮遊し始めた。七本の星の刀の回る速度は段々と増していき、それに伴って雫が生み出す妖精剣が大きくなっていった。
そしてさらに七本の刀は頭を雫に向けて、垂直に向きを変更。それは巨大化する妖精剣の鍔のようになっていった。静音は雫を持つ手を構え、一気に魔力を流す。空にすら届かんばかりに巨大化した妖精剣を構えた静音。
「これで・・・終わりだぁぁぁ!!」
いまだくすぶって首の再生に喘いでいるヒュドラの身体にめがけて巨大な剣を振り下ろした。
巨大妖精剣はヒュドラの身体を切り裂いて、さらに追撃に魔力放出を繰り出し、切り裂かれたヒュドラの身体へと追撃をした。分厚い表皮に守られていた核も両断され表皮に守られていない内側から攻撃をされればなすすべもなく、核は砕かれて、ヒュドラの身体は完全に崩壊し始めた。
「どう?」
「私たちの勝ちですね」
ヒュドラの身体が崩壊し始めたのを見て静音はエラムに様子を伺い、エラムは太鼓判を押した。
それを聞いて静音は構えを解除した。
「勝てたよ。みんなのおかげで」
勝者の静音は愛する刀たちと戯れていた。
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