「え、団長が指揮官に?」
静音が対魔獣侵攻戦で指揮官任命されたという事実はアイアン・イグニス全体に当然ながら衝撃が走った。
だが、過敏な反応を示した者がいた。
エラムである。指揮官になった、そう聞こえた瞬間、静音に詰め寄った。
「え、えっと、なんかマズかった?」
「静音。最上位の指揮官はあなたになるわけですか?」
「えぇっと、軍の編成次第だけど、一番上になる人は軍の方から来るみたい。だから私はお飾りだと思うよ?」
「・・・指揮官の事を聞いたとき、すぐに理解できましたか?」
「ん~そういえばすぐに飲み込めたような・・・」
「・・・思ったより同化が早いですね」
「同化?」
「気にしないでください。それよりも、大分上の立場になったということは、私たちの負担は多そうですね」
何か話を逸らされた気もするが、とりあえず静音は不安要素の方を先にすることにした。
「エラム。魔獣の侵攻について何か知ってるなら助言が欲しいんだけど。特に規模と質について」
「そうですね・・・始祖に近いヒュドラを倒せた時点で質に関してはイレギュラーが無い限りは大丈夫でしょう。ただ問題は数です。具体的に言うなら・・・一人換算で通常のスタンピードの10倍ほど相手取ることになるでしょうか」
「ひ、一人でスタンピードの十倍・・・?」
エラムの一言でクランハウスが凍り付いた。そんな発言をしたエラムを静音はヘッドロックしてこそりと話しかける。
「ちょっと。みんなの意気を削いでどうするのさ」
「逆にそのことで動じないあなたが異常なんです。あなた、常識と感覚が麻痺してきていますよ。これは危うい兆候です。気を付けてください」
なぜか逆に説教を受けてしまう。
「と、ともかく同時に相手にするわけじゃないと思う・・・そうだよね?」
「戦場次第です」
「きっぱりと不確定要素でトドメ刺しに来ないで?」
「隠したところで益はありません。より一層慎重に臨むことこそ重要なんですから」
「・・・とりあえずみんなも不安がらずにね。そもそも全ての侵攻が同じ規模とは限らないから」
「・・・それ、暗にイレギュラーが起きたらの不確定要素で不安爆上がりですよ?」
「あ゛っ・・・じゃ、じゃぁ私は準備があるから・・・それじゃ!!」
トドメを刺した張本人が脱兎のように逃げた後のクランハウスの空気はそれはもう酷い有様であった。
だが一言、その言葉がさらなる問題を引き起こした。
「規模が馬鹿みたいに大きくともさ、この前のヒュドラ?みたいなのが出てこないんだったら大丈夫じゃね?団長がいるしさ」
「そうだな。団長がいればなんとかなるだろ」
シズネがいれば。そんな一体感が生まれているのは静音への信頼の証でもあった。
「何馬鹿なこと言ってるんですか」
だがその言葉はエラムの癪に障ったのか、かなり不機嫌であった。
「『団長』がいれば大丈夫?一番誰よりも自分の命を簡単に賭ける人が安心できる?そんなわけ無いでしょう。もし静音が戦闘できなくなったら終わりということですよ?」
「うっ・・・それはそうだが・・・」
「まぁ、エラム。そう言葉を荒立てるな。案外言葉足らずなところもあるのだな」
だが空気が不穏になったとき、リーシャが助け船を出した。
「シズネを拠り所にするのもいいが、自分の力を第一にしないでどうするというのだ。時間はどれだけあるかはわからんが、最後まで自分を高めないでどうするというのだ」
「あ、あぁ。そうだよな。できるだけ鍛えておかないとな」
リーシャの言葉でクランハウスの空気も良い方向へと変わっていった。
「ありがとうございます」
「何、古参の付き合いというものだ」
そして当の静音は工房の製鉄炉用に作ってもらった場所でアルとミーナに鉧から大量の玉鋼を削り出してもらっていた。使う鉧は以前聖剣復活に用意した特別な鉧であった。
静音の刀が意思?を持ったことの根拠について、一つ考察ができていた。
それは使った鋼の種類である。雫は別として、時雨は普通の玉鋼から打ったが、七本の星刀は特別仕様として聖なる鋼を使ったのである。今のところわかるのはそれだけである。
ただ静音がいた世界でも言われていたようにこの世界でも妖精は鉄を嫌う。
だが雫と七本の星刀に関してはファティが嫌うそぶりを見せなかった。むしろ好んで触れるくらいであった。
だから静音は聖なる鉧から削り出した玉鋼をファティに触れてもらったところ、好感触を得た。
その事実を元に静音はこの鋼を利用して刀を数打つことにしたのである。
猶予はいつまでかはわからない。だができるだけアルとミーナにも手伝ってもらってただひたすら刀を打つのであった。
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