魔獣の侵攻が観測されてから数日。最前線では防衛戦が展開され、幾重にもなる堀や逆茂木、防壁などが用意された長城が築かれていた。堀や逆茂木に分断されたところを防壁の上から矢や魔法をはじめとした遠距離火力で魔獣を殲滅し本隊の編成が到着するまでの時間を稼いでいた。
そんな中、オリオンがヨムスヴァイキングの下から帰ってきていた。
「して、彼らは何と?」
「協力的ではありますが、報酬とは別に条件を提示されました」
「条件は?」
「この斧を直せと」
「ふむ、土地や金銭ではなく、その斧をか」
「はい。この斧が直されたのであれば王国と共に戦うと」
「逆を言えば条件を飲む、履行できなければ彼らは独自に戦うという訳か。だがその斧はたしか・・・」
「初代勇者とともに戦ったとされる英雄の一人が持っていたとされる斧。これも魔王の呪いにかかっているのはご承知のはず」
「ふむ・・・ではシズネを呼べ。あ奴は聖剣を復活させた者じゃ」
「シズネが聖剣を?」
「おぉ、オリオンは知らなんだが。あ奴が王国に来てすぐの事だった。ウィリアムの推薦もあったが見事な働きであった。ともかく事は急がねばならん」
と、事情を聞いて静音は王宮へ参内していた。
「事の子細は伝えた通りじゃ。お主の見立てを聞きたい。自由に思うところを述べよ」
静音は王の許可を得て件の斧を手に取り、鑑定してみた。
「・・・聖剣を見た時と同じです。おそらく同じ呪いかと。であれば同じ方法で解呪できるかもしれません」
「では、この件を主に託しても良いか?何、失敗することを責めたりはせぬ。だが最善を尽くすことを頼む」
「承りました。最善を尽くしましょう」
静音は件の斧を持って工房に戻った。そして何故かオリオンも付いてきた。
「どうして?」
「いや、俺は知識に貪欲でな。シズネの鍛冶ってのを見てみたくてな。あの聖剣を直したって聞いてから我ながら居ても立っても居られなくてな」
「ふーん。そうだ。オリオンって他の国の鍛冶師の作業とか見たことあるの?」
「あぁ、無理難題を突き付けられたこともあったが、見る機会もあったが、それがどうかしたのか?」
「んにゃ。ちょうどいいから類似点、差異があったら教えてほしいなって」
「ほーん。なるほどね。ただ差異があったとしても内容次第じゃ教えられないな。ある意味鍛冶師の技術は当人の飯の種だ。技術の内容については喋らないってのが初歩的な契約だったからな」
「なるほどね。アル、ミーナ。作業を始めようか」
ともかく今は時間が惜しい。静音は削り出してもらった玉鋼を炉に入れて作業を開始した。
やることは同じ。熱した鋼を斧にあてて打つ。
結果としては聖剣と同じく斧は打たれた鋼を吸収していった。
「ほう・・・斧が鋼を吸ったのか・・・。シズネはこの斧の性質を知ってたのか?聖剣の時と同じように」
「ん~・・・いやほとんど当てずっぽうだったのが偶々当たっただけって感じかな?」
「なるほどな。で、様子はどうだ?」
「嫌な感じってのは打つたびに消えていってるかな。ただ、どういう性質なのかわからないんだよね。使わている材質とか。そういうのが見れないんだよね。オリオンもやっぱ見えない?」
「あぁ、見えないな。格上を見ている気分だ。そういや、あのエラムって嬢ちゃん・・・女性は何者なんだ?」
「エラムがどうかしたの?」
「いやな・・・俺もウィリアムもエラムの情報が何一つとして見えねぇんだ」
「情報が見えない・・・?弱点とか、ウィリアムさんだったら心とかも?」
「あぁ、何一つとしてな。全て隠している、そんな雰囲気でもあるが、ありゃ明らかに俺たちよりかなりの手練れだ。多分年も上だ」
「まっさか~。私がエラムと出会ったときなんてひよっこだった私より一個上のEランクだったんだよ?まさかEランクから成長してきたエラムがそんな・・・」
そう、ありえないのだ。魔法使いであるエラムとともに魔法学校で魔法を学んだのは静音自身である。
だがもし、習得したという魔法が最初から使えていたのなら、辻褄は合うがそうする理由がわからない。
「・・・ねぇ、オリオン。油って熱したらどうなるか知ってる?」
「油を熱したらどうなるかって料理するなら子供でも分かる。『すぐに火が付く』、だ」
「・・・そう」
その一言で結論が出た。今いるこの世界は技術に関しては静音がいた世界よりも遅れている。
科学技術が進んでいないのなら油に関しては知識に貪欲であるオリオンの言った通りしか観測されない。
だが、エラムは科学が発展してから得られる結果を知っていた。ブレイズシープの一件である。
油は火が付く暇すら与えずに熱すると気化する。普通の液体は気化するが油はどうなるのか?中二病に目覚めた静音が調べたことがある事柄の一つだった。具体的には知らないが、燃えるのに必須な酸素を与えなかったらとかだった気がする。それも実験器具も発展しているから作れるような代物。
そんな実験の結果を技術が遅れたこの世界で得られる可能性は極めて低い。
そうなると、エラムはどうやってその知識を得たのか?代々研究してきたからというならと結論づけるのは簡単ではある。だがもう一つの可能性がある。
「エラムも・・・私と同じ?」
そう、エラムが転移者である可能性である。
ともかくエラムの謎も重要だが今は斧の方が優先だった。静音は二日費やして斧に聖なる鋼を吸わせて様子を見た。最初に手に持った時に感じた嫌な気配が消えたことを確認して王に奏上することにした。
最初から試す気だったのか、ヨムスヴァイキングはオリオンと一緒に斧を扱える血筋を持つ人物を王国へ送っていた。
「ふむ・・・以前拝見した時とはまるで雰囲気自体が違うな」
そうヨムスヴァイキングの男は言った。そして斧を手に持った瞬間、驚愕していた。
「なんだ・・・このあふれ出る力は・・・。これがこの『武の雷』の力・・・」
「ぶのいかづち?」
「あぁ、この斧の名前だ。名前と力が代々伝わってきているが、今この斧はその通りの力を持っている。お前がこの斧を直したのか?」
「えぇ、そうです」
「ヨームを代表して礼を言う。そしてヴィルヘルム王よ。
我らヨームは王国とともに戦うことを父祖の栄誉と名にかけて誓おう」
「おぉ、ともに戦ってくれるか」
王は喜んでヨムスヴァイキングの使者の手を取った。これで同盟が成立した。
「シズネよ。此度も良い働きであった。魔獣の侵攻のこともある故お主には一層期待しておるぞ」
ハードルも上がったところで静音は王宮をでた。
そして次の日。王国の兵士、冒険者に王の名で招集がかけられた。
『王国を憂う者はいかな身分であろうとも王都に集い、ともに剣を手に魔の侵攻に対するべし』と。
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