戦闘が始まって三日。王国軍と冒険者混合の軍勢は数の差を物ともせず堅牢な野戦防壁にて魔獣を迎え撃っていた。しかし当の司令部にて少し問題が生じていた。
「単刀直入に言わせてもらいます。シズネ殿。あなたの妖精剣王としての力は使わないおつもりですかな?」
一人の参謀からの半ば詰問であった。
「そ、それは・・・」
「よせよせ。お主とあろう者がみっともないぞフレイス」
だが思わぬところから助け舟が出た。出したのは司令官のガロムスであった。
「大方機を見ているのであろういくら数が多いとはいえ今見えているのは下級の魔獣ばかり。そんな奴らに 制限がある手札を浪費させる必要はあるまいて」
「ですがこの戦いは王国、全ての人類の存亡すらかかっていると言える戦い。ならば最初から全力で戦わねばならないのが道理でしょう」
「で、その道理に従い手札を出し尽くした後、さらなる強大な魔獣・・・先のフォロムを襲った魔獣などがでてきたらどうするのだ?」
「そ、それは・・・」
「ほかに同意見はあるか?・・・無いのなら今後同じ議論はせぬぞ。では次の議題に移ろうかの」
こうして静音は難所を乗り越えることができた。
その後は会議内容はいかに町から離れた位置で食い止めるか。それに使える防壁の数などが議題に上がるも特に問題は起こらなかった。会議自体撤退した後に行われたため既に夜も更けてきていた。
元居た世界のように都会の明かりもなく明かりは雲から見える月のみ。ふと月明かりに見とれていると横に
誰かが来た。
「ガロムス将軍」
「やはりいくら武技を極めようと年相応なところもあって安心したものよ」
「あの・・・先ほどはありがとうございました」
「ふむ・・・ということはやはり訳ありか」
「はい・・・」
「おおかた自らの力を見て勇む者が出ないようにとの配慮のためであろう。ありがたいことだ。じゃが・・・」
「?」
「それは見極めが肝心じゃ。少し見誤れば抑えれるはずの被害すら出してしまう諸刃の剣じゃ。全て責任を負う必要はない。だが用心せよ」
「ありがとうございます」
老練ながらその観察眼は凄まじく、並大抵の隠し事は見抜いてしまうというのがレオから聞かされていたガロムスの一面だった。だが恐ろしいのはウィリアムやオリオン、静音が持つような特殊な目に関する
スキルを一切持たずにこれを成し遂げているという点である。
人間同士の戦争は全く起こっていないこの世界で戦うとなれば魔獣ぐらいになる。なおの事機会が少ない中で磨き上げられたその目は一体何が見えているのだろうか・・・。
―――――――――――
朝。夜間要員と交代して静音たちは防壁の上で突撃の合図を待っていた。だが静音の目つきはいつも以上に鋭かった。
「突撃開始!!できるだけ多くの魔獣を討ち取るのだ!!」
その合図が下るや兵士、冒険者は誰もが声を上げて魔獣の群れに突貫した。
「っ!!」
その中でも静音が突出して魔獣の群れに仕掛けた。
「静音!!」
エラムは自分の忠告を破ったのかと思ったが、静音が妖精の魔力を使っていないところを見ると少し目をつぶることにした。
(大方誰かに吹き込まれたのでしょう。サポートができないのが心苦しいですが、皆さんに任せるとしましょう)
静音は手には雫と時雨。炎と雷の魔力を使用し身体能力を強化して半ば腕力と瞬発力に任せて近づく魔獣を片っ端から切り伏せていった。
正直なところ、まだ三日目の時点で特に冒険者の集まりの中から厭戦気分が出ているように見えていた。
倒しても減らない魔獣。それに嫌気がさしているのだろう。それを感じ取った静音はできるだけ勇まないように、しかし勇気を見せようとしていた。半ば無鉄砲なやり方ではあるが静音としてもやれることはやっておきたかった。
「よぉっし、団長に続け!!だけど孤立するなよ!!」
「お、俺たちも続くぞ!!」
静音の突貫を見たアイアン・イグニスのメンバーが静音の後を追って魔獣の群れに当たり、他の冒険者たちも勇気づけられたか勇ましい足取りで魔獣と相対し始めた。
「冒険者たちの側面を固めるぞ!!」
そして冒険者たちが作った突出部と冒険者の側面を守るべく王国軍が左右に展開し密集陣形で魔獣と戦闘を始めた。
自然に魚鱗の陣形が組まれつつもそれでも討ちこぼれは出て防壁へと殺到する。
「来たぞ!!まずは魔法を打ちこめ!!」
しかし討ちこぼれの魔獣はバラバラに防壁へと近寄ってきていて防壁上で待機していた遠距離組の良い的であった。
そして戦闘開始から数時間が経つと流石に疲れが目に見えてくる。特に三日間まともに休息がとれていない分疲労は著しく見えていた。だが決してガロムスは兵をすり潰して守るような将軍ではない。
「角笛を吹け!!バリスタ隊射撃準備!!」
ガロムスは角笛を吹くように指示。さらにようやく設置されたバリスタでの長距離射撃が可能になった。
弓は技量が求められるがバリスタなら使い方を理解できれば練習は弓より断然少なくて済む。バリスタの数を揃えることができた分援護射撃の質は上がることが期待されていた。
しかし設置型のバリスタだけでは一度の攻撃面の大きさはそう大きくないため、空いている隙間は王国から集めたボルトシューターを持った者が埋めた。前線部隊が退却するのに合わせて大量のボルトが雨のように打ち出された。
そして前線部隊が全員防壁内に入ったこと確認してからガロムスはさらなる指示を出した。
「ボルトシューター組と弓兵、魔法使いは近づいてくる魔獣どもにバリスタ組は後方に爆矢を撃ち込んでやれ!!」
ガロムス号令とともに遠距離組がその威力を発揮した。防壁に近寄る魔獣は矢と魔法に。後方で群れている魔獣には魔爆石を矢じりに仕込んだ爆矢を撃ちこんでさらに魔獣の数を減らしていた。
「ここから先はおいそれと陣地を捨てることはできぬ。できるだけ魔獣の数を減らすのだ!!」
今までの防壁陣地とは違い、今までの戦いで稼いだ時間で築かれた本当の撃退用防壁による戦いが始まった。
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