抗戦が始まって早一週間が過ぎつつあった。最初こそ厭戦気分があったがそれはヨムスヴァイキングという
強大な援軍の到着によって一時的に払拭することができた。だが再び厭戦気分が広まりつつある中、司令部に重大な知らせが届いていた。
「この知らせは確かか?」
「・・・はい」
「わかった。今後も監視を続けよと伝えよ」
一枚の紙を持ち呆然と立ち尽くすガロムス。その手は汗で滲んでいた。
(士気に影響するであろう情報は紙面で送るように指示されたのはありがたいが、これをどうするかが ワシの力が試されるところか・・・)
正直なところ、ガロムス一人の手では到底解決できない事実がその紙に記されてあった。だがこれを指揮下に知らせれば確実に戦線が崩壊するのは火を見るよりも明らかであった。故にガロムスは悩んだ。
だがふと、希望の光が一つあったことに気が付いた。それを思い出すやガロムスは光の下へと急いだ。
「ちと、良いかの?」
「お?司令官殿じゃないですか。こんな夜更けに何かありましたか?」
訪ねて来たガロムスを出迎えたのはアリムスだった。
「すまんがシズネ殿に会わせててくれないかの?」
「わかりました。少々お待ちください」
アリムスは詮索抜きで静音を呼びに行った。
「えぇっと、ガロムス将軍。どうかされましたか?」
「おぉ、夜遅くにすまんな。ちと夜風に当たりに行く年寄りの護衛をしてもらえんかの?」
「護衛なら部下の・・・わかりました」
「いえ、団長。やはり護衛は部下の方がやるべきでは?」
「いいの。私で務まるのならご一緒させてもらいます」
「すまんの」
ガロムスはあらかじめ部下に雑多な人が近寄らないような場所を用意させてそこに静音を案内した。
「それで、何かあったんですか?」
「察しがいいのは助かる。これを知るのは僅か。お主の意見を聞きたい」
そういってガロムスは件の紙を手渡した。そこにはこうあった。
『主戦場及び二次防衛戦の中間に魔獣が集結しつつあり』
「これって!!」
「報告が事実ならワシらは挟み撃ちを受ける可能性がある」
「急いで・・・あっこんなことを軍議に出したら・・・」
「どこまでも察しが良いことだ。確実に我が部隊は崩壊するであろうな」
「・・・それでどうして私に白羽の矢が?」
「以前、お主は力を抑えているという話をしたのを覚えておるか?」
「えぇ、あの時は助け船を出してもらい助かりました」
「どうやら、その時が来てしまったようじゃ」
「・・・そうかもしれません」
「単刀直入に聞く。お主の真の力を合わせたらどれだけの兵でこの背後の魔獣を抑えられる?」
「・・・正直今いる数と同数はいなければ難しいでしょう。特に背後の魔獣に対しては防壁は無いのでしょう?」
「であろうな・・・やはり二次防衛戦で・・・「すみません」なんじゃ?」
「抑えるのは無理です」
「ふむそれはお主の返答で・・・まさか!?」
「はい。抑え込むことは無理ですが、殲滅するのであれば話は別です」
「具体的な方法を知っておきたい。やたら滅多に力を振るうのか?」
「いえ・・・あまり妖精関連の話は広めるなとレオ王子から言われているのですが大丈夫でしょう。実は・・・」
静音は具体的な手段をガロムスに伝えた。その手段を聞いたガロムスは目を点にしていた。
「本当にそんなことができるのか?」
「はい。こんな大規模なことは初めてですが、本場では実際にできているようなので後は他の戦士の勇気次第でしょう」
「ふむ・・・ではお主に一部隊率いてもらおう。ヨムスヴァイキングは勇猛果敢な上そのこと自体が他の兵の士気を上げてくれる。守勢に回れば損害も出さずに守り切れよう。後はお主次第じゃな」
「責任重大ですね」
「押し付けることになってすまんの。だが危うかったら退くことを優先するんじゃ。生き残れば先はあるが死ぬとそれまで。後は誰かを悲しませるだけだからの」
そう言ったガロムスはいったいどれだけの死を見てきたのだろうか。一人苦闘する悲しさが静音には見えた。
「では部隊の選抜には数日「いや。もう済んでおる」では直ぐに発ちます。できるだけ早くに叩きに行くべきでしょう」
「助かる。一応選抜の部隊は疲労が少ない者に絞ってある。夜間の行軍ぐらいなら大丈夫であろう。副官にワシの部下を付ける。些細なことでも相談に乗ってくれる良い奴じゃ。信頼してやってくれ」
「はい。後ろはお任せください」
「うむ。頼んだぞ」
返答を聞いた静音は急いでクランメンバーのところへ向かった。
「みんな出発の準備!!」
「突然どうしたんだ?」
「転戦の命令が出たんだよ」
「ほう・・・他の面子はどうなってる?」
「将軍が既に集めているみたい。だから後は私たちだけっぽい」
「よし。すぐに出立だ!!」
アイアン・イグニスのメンバーとガロムスが選抜した混合部隊は夜に紛れるようにして防衛陣地を発った。
だがその知らせはすぐに司令部の知るところになる。部隊の一部が離反したとしてすぐに議題に上がった。
「将軍!!妖精剣王を筆頭に兵士が離反したというのは本当ですか!?」
その一言で司令部の緊張は最高潮に達した。
「うむそれはワシが指示したことだ。怪我が重い者を中心とした数を後方に送ったのじゃ」
「ですがそれならば妖精剣王のクランは残すべきだったはずです。今は一人でも戦力が必要な時。そのような雑務、他の兵卒にでも・・・」
だがガロムスを批判する武官をフレイスが止めた。
「移動した部隊を戻すにも時間と人手が必要です。戦力が必要であるなら帰還を待つ方が現状の戦力の温存になるでしょう」
そう言ったフレイスの目はガロムスの心中を探っているようだった。
「フレイスの言う通りじゃ。まずは現状を受け止め最善の手を打つのが一番。何か意見は無いか?」
その後はガロムスとフレイスが中心となり離反した静音たちの議題を避けて進めていった。
「ふぅ・・・何とかしのげたの」
「やはり、何か隠しているのですね」
「フレイスか。驚かすでない。・・・で、どこまで知っておる?」
「いえ。全く、何一つ知りません」
「それなのにワシを支持したというのか?」
「先に部隊の様子を見ましたが、怪我の度合いはあまり減ってはいない様子でした。故に何か別の意図があって件の部隊を送り出したのかと思いまして」
「さすがじゃの」
「しかし副官がレイネンスとは。本当に大丈夫なのですか?」
「シズネを信じるしか今はできることはない」
「では我々は彼女たちが戻ってくる場所を守らねばなりませんね」
今まで以上に過酷な戦いを目の前にして二人の武官は静かに覚悟を決めた。
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