ガロムスがわずかな兵力で防壁を守っている間に静音は魔獣の別動隊をほぼ殲滅することができた。
討ち漏らしは出たようだが逃げるようなら再度襲ってくるまで時間はかかるだろうというレイネンスの見立てから静音は預かった部隊を反転させガロムスの下へ帰還した。静音たちの帰還は静かに迎えられた。
ガロムスが静音たちの一時離脱を公にはしてなかったからである。だが静音の部隊に参加した冒険者たちからの噂はすぐに広まり、静音が圧倒的戦力を隠していたという事実が漏れ出てしまった。
故に静音は魔獣の別動隊を少数で倒した功あれど、今まで見方を危険に晒していたとして冷ややかな目で見られていた。
「くそっ・・・」
そんな中当然それに反発してアイアン・イグニスのメンバーにも不満が溜まっていた。
静音が意図して味方を危険に晒していたわけではないことは当然理解できる。だが全体を見れば明らかに保身で戦っている者もいる中で、静音だけが吊し上げにされることは断じて許せなかった。
だが当の静音はガロムスの要請もあって武者妖精たちに戦闘に出てもらうよう頼んだ。
妖精は魔獣を嫌っている上に菓子を貰えるということで静音の願いを快諾してくれた。
そして武者妖精を加えた戦力で戦うこと五度。圧倒的な武者妖精の力を見た戦士たちは気が緩み始めていた。
そして六度目の戦いが始まった。当初は人間側が優勢だったものの、疲労をものともしない魔獣の攻勢に人間側から離脱するものが増す一方だった。誰もが武者妖精と静音さえいればいいと思い始めていたのである。
「っ!?何か飛んでいった!!」
武者妖精をはじめとした前衛を複数の影が飛び越していった。そしてそのすぐあと、背後から悲鳴が上がり始めた。顔や胴体は狼、耳や足はウサギのキメラのような魔獣が驚異的な脚力で前衛を飛び越えて退却しようとしていた後ろの戦士たちを襲い始めたのである。牙や爪で油断した戦士たちを瞬く間に葬り去る姿は慢心を上書きして恐怖を搔き立てた。後ろに気を取られた前衛は続く魔獣たちの対処に追われ、次は自分と思った後衛の遠距離陣は動くもの全てが敵に見えて攻撃を暴発し、味方まで攻撃し始める有様。
「なんということじゃ・・・」
まさに人間の慢心と恐怖が作り出した地獄であった。もはや指示すら伝えることは難しい状態であった。
逃げ惑うのは主に金で雇われた冒険者たち。唯一持ちこたえていたのは自ら志願して兵士となった軍の兵士たちとわずかな冒険者。もはや戦闘ではなく魔獣による蹂躙だった。
「エラム!!」
そんな中、怒号の如く静音が叫んだ。そして声は届かぬとも、異様を前に静音の援護をするべく静音に注視していたオリオンが気づき、エラムを静音の下へと送り届けてくれた。
「静音、これ以上は無謀、退くべきです」
「エラム、前に私たちを遠ざけるために風の魔法を使ったよね。あれで私を上空に飛ばせる?」
「そんなことをしてどうするというのです。もはや・・・」
「諦めたら、勝てる可能性を捨てることになるんだよ。だから、どっち?」
「・・・できますが、何をするつもりです?」
「なんか妖精の子が言っていたんだけど、この地面の下にすっごい魔力の塊があるんだって。だから穴をあけて、その塊を放出できれば・・・」
「その放出で魔獣を吹き飛ばし、後は副産物の穴で敵を食い止められると。なるほど、オリオンさん、実のところ地面に魔力の塊らしきものはありますか?」
「あぁ、今言われて見てみたが、最初は魔獣のもんだと思ってた魔力の塊は実は別の源だったわけだ。
あぁ、間違いなくこの下にあるぜ」
「じゃぁエラム、よろしく」
「相変わらず無茶なことを・・・まぁ、最善手なのであれば仕方ありません。いきますよ!!」
エラムの魔法で静音が宙に浮いた。そして静音と魔力のつながりがあるファティを通して武者妖精たちにも作戦が伝えらえてそれが前衛の兵士にも伝わり一気に退却が始まった。
「なんと・・・兵士まで逃げ始めたか・・・」
何も知らない司令部は愕然とした。だが瞬時に上空に異常な力の気配を察知した。
「さぁて・・・いくよ!!」
宙を舞っていた静音は魔力を今まで以上に稼働させ八本の刀で生み出したもはや巨大とは言えないほど大きな妖精剣を前衛から離れた魔獣の後陣の地面へと突き刺した。
「届けぇぇぇぇぇ!!」
地面に刺した直後に魔力を放出し地面にある魔力の塊を刺激しようとした。そしてすぐに反応が出た。
「・・・何かくる・・・今!!」
静音は一旦妖精剣を解除し刀身を消し、再展開。
「おりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
今度は大地を上から真一文字に深く切り裂いた。地中からの魔力の漏れと唐突にできたわずかな亀裂。
そこを通って莫大な魔力が地面より放出された。魔力の放出は静音が開けた亀裂から間欠泉の如く発生したが、亀裂はあまり広がらなかったが、それでも大量の魔獣が魔力放出に巻き込まれ絶命した。
そしてあふれ出た魔力は輝きながら地面へと降り注ぎ、その後には見たこともない花があたり一面に咲き始めた。
「一体・・・何が起こっとるというんじゃ・・・」
事態を理解している者はごくわずか。だが瞬時に分かったのは魔獣が襲ってこないということだった
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