私は数日の馬車の旅を経て私の初めての町、ゲーンを訪れていた。
「うーん・・・やはり王都の街並みを見るとここは静かに思えるなー」
最初に町に来たときはその活気に心躍ったものだが王都に行ってみればそれは上書きされてしまった。
そして私はしっかりと覚えている足取りでケミルさんの店に向かった。
「すみませーん。ケミルさん、いらっしゃいますかー?」
「うん?誰だ?おぉ、シズネじゃないか」
店の奥のカウンターからのっそりと顔を出したケミルさんは私を見るなり懐かしい物みたような顔つきで出迎えてくれた。
「いやぁ、剣聖様に連れていかれたとは聞いていたが・・・うん、最初に合った時のひよっこのような雰囲気は無いな。少しは場数を踏んだようだな」
「はい。王都で色々と依頼を受けたんですよ」
「それで?王都にゃ足りないものなんてほとんどない。それなのにどうして小さな町の寂れた店にやってきた?」
「えぇっと・・・私も王都で店を始めようと思っていまして」
「おぉ、ついに店を出せるまでになったか。そうかそうか・・・」
「それでケミルさんに聞きたいことが会ってきたんです」
「ほうほう、俺にか」
「えぇっと、ケミルさんってお弟子さんとかって雇ったことあります?」
「なるほど、そのことか。うーん・・・話せば長いが、聞くか?」
「はい。町で茶菓子を買ってあるのでゆっくりと」
「ほう・・。では話すとしよう。まず俺が見習いだった時の話だ」
俺は小さな村の農家の生まれだった。それでガキの頃から親と一緒に畑を耕して暮らしていた。
それで村には時々旅の商人が訪れて旅の話を聞かせてくれるんだ。
その話の中に鍛冶師の話が合ってな。王様直々の依頼を受けて見事な剣を作ったとか・・・そんな話だったっけな。
それでその話を聞いて心躍ったもんさ。鍛冶師になれば名も売れて名誉も手に入る。そう聞いた俺は親の反対を無視して家出ようと決めた。
ツテもねぇ金もねぇ俺は王都に向かう商人が来るのを待って、ソイツに頼み込んで王都まで連れて行ってもらったのさ。
始めてきた王都の活気には興奮したもんだ。それは今でも覚えている。
んで俺は鍛冶屋を巡って弟子入りを志願して回った。だがどこも受け入れてはくれなかった。
当然だ。出自もわからねぇよそ者はどこかの密偵扱いされるのが当然だった。だが当時の俺はそんなこと知る由もなかったのさ。
そして最後の一軒、そこはここのように寂れた店だった。それでも俺は鍛冶師になるために弟子入りを志願した。
そしたらそこの店主はすぐに俺の弟子入りを認めてくれた。何件も回って断られた俺は当時呆気にとられたもんさ。
ただその日から俺の鍛冶師としての生活が始まった。最初はずっと鉄鉱石を見て品質を調べるところから始まった。一日中ずっと鉄鉱石を睨んで良し悪しを見極めた。
当然最初はまったくわからねぇわけだ。だが俺のお師さんは叱ることなく丁寧に教えてくれた。
そんで一か月ぐらい過ぎたころか。ようやく俺は≪鉱物鑑定≫のスキルを手に入れることができた。
そこから俺は剣を研磨の練習を許可された。お師さんが昔に打った物や王都で生活する人たちが使う包丁などを研いで練習したもんさな。
当然これも最初は上手くいかなかったものだ。だがここでもお師さんは叱らずに丁寧に教えてくれた。
んで三か月ぐらいたったら一人前のように物を磨けるようになったわけだ。
そこからやっと槌を持って鉄を打つことを許可された。
最初は生活に使う包丁などを打ったな。まぁこれも最初は上手くはいかなかった。
というか俺は当時まったく気づかなかったんだが、鉄を打って何かを作るってのは高度でかつややこしい技術の扱いだったらしい。王都では鉄を溶かして型に入れる鋳造が主流でな。これなら型通りの形にできて後は研げば形になるからな。
だからお師さんの店は特殊だったわけだ。ただ鋳造品と実際に鉄を打って作ったものじゃ耐久性が全く違ったんだよな。鉄を打って作った方が何倍も強固だった。それでも日々の生活に使うなら鋳造品のほうが金銭的に有利だった。武器も消耗品だから初心者冒険者には安い鋳造品の武器が売れていたな。
だがお師さんは断固として鋳造製の物を作らなかった。俺もそんなことは当時知るわけがないから普通に鉄を打っていた。
んで一年くらいしたらお師さんから一人前だと認められたわけだ。一年鉄を打っている間に百とまではいかないがそれなりに鉄を打った武器を求めて来る冒険者がいた。
どうやらお師さんは知る人ぞ知る腕利きの鍛冶師だったらしい。
んで一人前になった後、どうするか考えていたらお師さんから店を継がないかと言われたんだ。
すでにお師さんも年でな、後継者もおらず、そんな時ひょっこりと俺が現れたって訳だ。運の良い話だろ?
それで俺はお師さんの店を継ぐことになった。それからはお師さんの武器を求めてやってくる冒険者相手に四苦八苦したもんだ。お師さんの武器に負けない武器を打って訪れた冒険者を何人も納得させたものだ。んで日を重ねるごとに訪れる冒険者の顔も増えていった。
どうやら鋳造製の武器が長持ちせず、鉄を打った武器が長持ちすることがようやく知れ渡ったらしい。
んで実際に鉄を打って作っている王都唯一の店に客が集まったのさ。
「ちょっと話の腰を折るが、お前さんは鋳造製の武器がどうして長持ちしないかわかるか?」
「うーんと・・・鋳造品はそのまま鉱石を溶かすんですよね?その時に鉱石に含まれる不純物も一緒に武器に組み込まれるからそれが耐久性を弱めてるはずです」
「その通りだ。俺は何年もかけて鋳造製と鉄を打った武器を比べて研究した。そこで鉄を打って作った武器には鉄以外の鉱物が含まれていないことがわかったわけだ」
んで話を戻すが、客が増えれば当然減る店もあるわけだ。んで年月は過ぎてとうとうお師さんも亡くなってしまった。お師さんの遺言で遺骨は故郷の村に送られた。んで店は俺一人きりになった。そんなところへ次々と弟子入り希望がやってきた。
俺はお師さんがすぐに受け入れたように弟子入り希望の奴らを受け入れた。弟子たちは俺の仕事を見て学んですくすくと育っていった。だがそいつらは鍛冶師になりたくて俺に弟子入りしたわけじゃなかったのさ。
「え?」
つまるところ密偵だったわけだ。技術は教わって伝わるものだ。普通は商品のように売り買いするもんじゃない。王都で唯一鉄を打って作る武器を求める冒険者は増えた。だが今まで鋳造製の武器で稼いでいた店は結果、稼ぎを俺に取られたことになるのさ。
だから他の店は寄る辺がなかったり金に困ってる奴らを焚きつけてお師さんの技術を盗み出したわけだ。
それを知った時はショックだった。技術ってもんは人が人に教えて伝わっていくもんだ。決して交渉などには使ってはいけない。そうお師さんに教わった。それから他の店は良い鉱石を使っているとか宣伝を使って稼ぎを取り戻していった。最初は常連の冒険者がウチの商品を使ってくれていたが次第に人は離れていった。
そして俺は王都での鍛冶師としての立場を追われた。
「それでどうなったんです?」
「なんとか伝手を頼ってこの町に店を開いて暮らしている。鍛冶屋がいない町を条件に色々と探してもらった。俺はあの出来事から学んだ。人を信用するの良いことでもあるが、信用した人間がどう考えているかまではわからない。信用は金よりも軽いってな」
「・・・」
「すまないな。これから店を開いて頑張ろうってやる気のある奴に話すようなことじゃなかった。だが知ってほしかったんだ。誰にも俺と同じような失敗はしてほしくないんだ」
「いいえ。とても貴重なお話でした」
「そうか・・・そう言ってもらえると助かる。ただな、シズネ。お前の持つ技術は必ず世間を騒がせる。だから信用する人間を見極める目を持つことだ。といってもこれは経験が無いとダメなんだがな・・・」
「ありがとうございました。今日のお話は胸に刻んでおきます」
「そうかい・・・ほかに聞きたい話はあるかい?」
「うーん・・・お弟子さんの話を聞いたらなんか聞きづらいですね・・・。お弟子さんとどういうことをしていたのかを聞きたかったんですが・・・・」
「ん、そうだな。お前さんが教わったように教えればいい。それが一番教えやすいからな」
(・・・どうしよう。私の技術って転移をする代わりに貰ったものだから教わったわけじゃないんだよなぁ・・・。どうしよう)
「色々とありがとうございました」
「何かあったらまた来るといい。相談になら乗ってやる」
「わかりました。何かあったら頼りにさせてもらいますね」
そう言って私はケミルさんの店を出て、王都に帰ることにした。
ありがとうございました。コメントで意見や感想を頂けるとと幸いです。
ちょっと静音の出番が少ないのでもう一話投稿しました。