第二回遠征の日がやってきた。私たちは馬車に揺られてフォロムの町を目指した。道中は何を中心に狩るか、今回も稼げれば良いなどと色んな話で花を咲かせた。ただまぁ、どんな話をしようともお尻が痛くなるのには変わりはなかった。
フォラムの町に着いた私たちはまず情報を集めた。ここ最近どれだけの冒険者たちが草原に入ったのか。人数が多ければそれだけ近場の魔獣の数が減るからだ。幸い最近入った冒険者は一組だけらしい。
そのまま集めた情報をすり合わせた後、旅の疲れを取るため一晩休んだ。
一晩休んだ私たちは魔獣の草原に入った。今回も足を使っての探索となった。町付近にまで魔獣は来ないので自然と奥に行くしかなかった。魔獣を求めて私たちは草原を歩いた。今回はちょっと工夫してフォラムの町で肉を買って、その肉の匂いで魔獣を釣れないかと試してみた。すると案の定、ワイルドウルフの群れが食いついてきた。
「団長、ワイルドウルフです!!」
「みんな、戦闘準備!!孤立しないように!!」
肉の匂いに釣られてやってきたワイルドウルフの勢いはすさまじかった。それでも私たちは怯まずに戦った。私も近寄ってくるワイルドウルフを何体も斬り裂いた。
「しまっ!?」
そんなとき、リーシャさんの驚きの声が耳に届いた。エラムの援護もむなしくワイルドウルフに姿勢を崩されたらしい。一度態勢を崩されると大盾は重りにしかならない。
ワイルドウルフの牙がリーシャに迫るその刹那。一つの雷が戦場を疾走した。静音がおおよそ普通の人の運動能力の範囲ではありえない速さで自分のいた位置からリーシャを組み伏せていたワイルドウルフの下へ飛び、ワイルドウルフを駆逐したのだ。静音の身体には雷が宿っていた。
「す、すまない。シズネ。助かった」
「リーシャさん、ゆっくり立って。エラム、手伝ってあげて。ワイルドウルフは私が何とかする」
走り出した静音は時雨を天に掲げた。
「さぁかかってこい!!敵はここにいるぞ!!」
時雨から放たれた雷は戦場を覆いつくした。それを目にしたクランのメンバーは静音の圧を感じ取り、ワイルドウルフは雷を放った静音が一番の脅威と知る。そしてワイルドウルフは一目散に静音に襲い掛かった。
「呼吸を合わせて波状攻撃をすればいいのに慌ただしく一匹ずつ来るのは愚策だよ!!」
しかし静音の前にワイルドウルフ単体ではまったく歯が立たなかった。襲い掛かったワイルドウルフは全て斬り倒された。肉の匂いが漂う戦場に立っているのはイアン・イグニスの面々だけであった。
「団長、今の力は一体・・・?」
「闘気じゃねぇ。タンクの挑発のスキルでもない。一体何なんだ?」
「えぇっとね、私最近雷の魔力を手にして、それを使ってみたんだ」
「雷の魔力・・・破壊には向いていると聞きますがこういう使い方が・・・」
「さっきのありえない速度の跳躍はそれが原因なのか?」
「うん。雷で体を活性化させてね、ひょいっと」
「雷の魔力はその破壊の力の強さ故扱いが難しいと聞いたことがあります。それを自裁に操れるとは」
「まぁ積もる話は後で。まずは魔獣を探さないと」
話を探索に無理やり持っていった静音は再び魔獣を探しに草原を歩いた。その後もミノタウロス。ワイルブルと遭遇しこれを討伐した。ちゃんと骨も残さず採取を行って稼ぎは前回の半分くらいにはなっただろうか。ちょうど疲れを少し感じてきたというところで帰る選択肢を取ろうとしたその時、一体のミノタウロスが近づいてきた。
「あれ、ミノタウロスだよな?」
「形はそうと言えますが・・・肌の色といい、武器を持っていることといい、何か様子が変ですね」
近づいてきたミノタウロスの肌は黒に近い赤色で、斧に見える武器を持っていた。
「あ、あれは・・・レイダー。ミノタウロス・レイダーです!!」
「知ってるのエラム?」
「何らかの環境の変化によって生まれた個体。強靭な体、そして魔獣にしては賢い知性。そして武器を持っている。その戦闘能力はミノタウロスの範疇を超えている。知っているのはこれくらいです」
「相手は一体。こちらは十人。倒せるだろ」
(そうだ、≪慧眼≫なら・・・)
静音は≪慧眼≫でミノタウロス・レイダーを調べた。しかし結果は残酷だった。
ミノタウロス・レイダー
lv34
読み取れたのはこれくらいだった。しかしその情報だけでも恐怖を覚えるだけの物だった。
静音たちで一番戦闘経験が豊富でレベルが高いダンたちのパーティーですらレベル15。草原の魔獣たちのレベルは大体15~18前後。少々のレベル差なら武器やスキルによって覆すことは可能ではあった。しかしミノタウロス・レイダーだけは違った。圧倒的なレベル差。もし情報が本当だったら戦闘経験も豊富な可能性が高い。
しかし決断を下すには遅すぎた。すでにミノタウロス・レイダーはこちらめがけて走り出していたのだ。
「リーシャさんとガンさんを軸に戦闘開始!!できるけ攻撃は受けずに避けて!!」
体が震える。この世界に来て初めて死の恐怖を覚えた。
まずリーシャがレイダーと接触した。
「ぐぅ!?」
しかしレイダーの斧の一撃は生じた音からして絶大な威力があることを示した。立った一撃でリーシャの盾が凹んでいたのだ。
「嘘・・・だろ?」
それを目にしたクランのメンバーたちの戦意が削がれる。それでも静音は諦めることなく雷の魔力を使い、一瞬で間合いを詰めレイダーの頭めがけて突きを放つ。
しかしレイダーは角を上手く使って静音の突きを弾いた。そして反撃とばかりに斧を振りかざした。
静音はそれをまたしても雷の魔力を使い避ける。しかし雷の魔力は無限ではない。いつかは枯渇する。
だからと言って出し惜しみができる相手ではなかった。
そこへ魔法使い組の魔法が飛んでくる。できるだけ威力の高い魔法を放ったのだろう。リーシャも今の内に態勢を整え、また遊撃のメンバーもゆっくりと隙を伺った。
しかし魔法の爆炎からでてきたレイダーはなんともない様子であった。
「そんな・・・」
「やぁぁぁぁ!!」
メンバーの不安を払拭するべく静音は声を上げてレイダーに接近する。雷の魔力で体を活性化させ凄まじい速さで時雨を振るう。一撃目はレイダーが自信ありげに体で受けた。しかし時雨の威力は先ほどの魔法の比ではない。一撃で肌が裂け、体液があふれた。時雨が危険だと察したレイダーはその後は斧で静音の剣閃を防御した。
「おらぁぁ!!」
そこへ遊撃のダンたちが静音に注意がそれているのを見て背後から攻撃を仕掛けた。攻撃は肌を少し斬り裂いただけだった。唯一静音製の剣を持つアリムスの一撃だけ深い傷を負わせられた。
しかし大勢で攻撃したせいでレイダーの注意が遊撃のメンバーに動いた。
レイダーが体を後ろへ向けた瞬間。静音は渾身の突きを放つ。
だがそれは瞬時に気づいたレイダーが手のひらで受け、防がれた。それでも静音は時雨を押し込む。だが力比べとなるとレイダーに軍配が上がる。
そして時雨を手で止められ動けない静音に向けてレイダーが斧を振りかざそうとした瞬間。静音は時雨から手を放し斧の一撃を避けた。そしてその手には愛刀・雫が握られていた。そして雫による突きがレイダーの首を捕らえた。
「グモァァァァ!!」
断末魔のような叫びをあげるレイダー。それでもまだ力尽きない。静音は突き入れた雫で抉るように捻る。そしてさらに雷の魔力を雫に通し、力を解放させる。凄まじい電流が発生しレイダーの首を焼いた。それが決定打となりレイダーは力尽きた。
「た、倒したんだよな・・・?」
「なんという敵。まだまだ知識も力も足りないといったところでしょうか」
「団長がいなかったら俺たち、魔獣の餌になってたな」
メンバーからはレイダーの恐怖は姿を消してはいたがそれでも実力という壁に遭遇していた。そのままレイダーから素材を採取することになったのだが、静音とアリムスの剣でしか肌などを裂くことができないことから二人で採取を行った。そして後方の安全を確認してからできるだけ早くフォラムの町へと逃げ帰るようにして戻った。
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