「以上が報告となります」
スペリア王国の王宮にて二人の人物が王の前にて報告を行っていた。
一人は勇者ラーク。そしてもう一人は剣聖ウィリアム。報告の内容はラークの修行の旅の内容であった。
「勇者ラークよ。旅は如何様であったか?」
「はい。ウィリアム様から学べる事はとても多く、そして多くの人と出会いまた学ぶことができました。しかし時間というのはまったく足りないものだと感じました」
「であるか。ひとまずは疲れを癒し、その後はまた旅に出るもよし、一つの場所に留まり技を磨くのも良いであろう」
ひとまずは報告は終わった。
「ではラークよ、下がるがいい。ウィリアム。ちと残ってくれ」
「「はっ」」
ラークは謁見の間から退出し、ウィリアムと王だけが残った。
「してウィリアム。各地の魔獣の様子はどうであった」
「どこの国でも活発している個体が多く見られました」
「やはりか・・・。魔王。奴が以前以上に魔獣に関与している可能性が高まったな」
「旅の途中に王国でスタンピードがあったとか」
「うむ。冒険者たちの活躍で難無きを得たが、やはり他の国でも起きていたか?」
「はい。既に起きていたか、旅だった後に起きたかでいささか乗り合わせることはありませんでしたが、どこでも起きている様子でした」
「ふぅむ・・・。どこの国も自国のことが第一だ。魔王という共通の敵こそあれど、人間の欲という物は変わらない。どこか隙を見せればすぐに突こうとしてくる。これでは情報共有などできはしまい」
「どこの国でもラーク、勇者の存在は煙たがられましたからな。国を守る力を得ようとしてもそれが他国からは脅威に見えてしまいますからな・・・」
「であるな。してラークの腕はどの程度にまで育ったか?」
「並みの魔獣であれば聖剣の能力を加味しなくとも問題なく戦えるでしょう。上位種は聖剣を使えば安全圏、されど上位種というのは遭遇するのが難しく、経験という一番の要素がまだ足りませぬ」
「そうであるか。ふむ・・・スペリア王国は魔獣の歪みが多くある。あえて近場で経験を積むというの芋良いだろう」
「はっ。そのようにいたします」
こうしてウィリアムも謁見の間を出た。そして一人王のみが残っていた。
「ふむ・・・後数年もすれば勇者も場数を踏みS級の冒険者すら凌駕する力を持つであろう。問題は鬱渡る人物がその力をどう使うかであるな・・・」
王が懸念する事柄は多かった。
そしてウィリアムたちがスペリア王国に戻ってきて二日が経った。
「え、ウィリアムさんたちが帰ってきた?」
「その通りでございます。先ほどウィリアム様がレオ様をお訪ねになりまして、その時にシズネ様にも合われてはどうかという話になりまして」
「ぜひ同行させてもらいます」
突然シズネ工房にレオの使いがやってきて静音にウィリアムたちが帰ってきたことを告げた。静音はレオとウィリアムたちがいるところへ向かった。
「やぁ、思いのほか早かったじゃないか」
「ご招待ありがとうございます。レオ王子。それからお久しぶりです、ウィリアムさん」
「静音も元気そうで何よりだ」
静音は久しぶりにウィリアムを見たが、以前見た時よりも何か変わっている様子であった。
「ん?あぁ、私の変化に戸惑っているのか。私は戦い続けるとどうも闘気がにじみ出てしまうのだよ」
「闘気ってにじみ出るんですね」
「そういう静音も成長した様子。なんでもスタンピードや巨人兵団との戦いではかなりの戦功をあげたとか」
「いえ、私はそこまで大したことはできていません。全部クランのみんながいてくれたからこそ成しえることができたんです。」
「謙遜も過ぎれば嫌味にもなるぞ?大した武功を立てていないのならば『雷の戦姫』とは呼ばれないだろう?」
「ほう、二つ名を得たか」
「え゛なんですかそれ。初めて聞いたんですけど・・・」
「ふむ・・・では静音。一勝負どうだろうか?」
「へ?あ、はい・・・」
珍しく真剣な顔をしたウィリアムにそう言われて静音は首を横に振ることはできなかった。
そして二人は訓練場に移動した。
「えぇっと、真剣でやるんですか?」
「そうだ。何時まで経っても痛いだけの戦いなどありはしないからね。それにまだ君では私には敵わないだろうからね。君の本気程度捌くことも容易いだろう」
少し挑発されてカチンと来た静音。しかし動じることなく時雨を抜いた。
「では二人ともいいかい?始め!!」
レオの合図で戦いは始まった。まず静音が突貫し剣閃を振るう。しかしウィリアムは少しも動じることなく全てを払いのけた。
「ふむ、多くの戦場を経て磨きがかかったか。しかし闘気は使わないのか?」
「えぇっと、闘気は・・・」
「まだ使えないというのか・・・一体どうなってるんだ?」
「私が知りたいです。でも、別のアプローチはあるんですよ?」
「ふむ?」
静音は一気に魔力を回転させ雷の魔力を発現させる。そして雷の魔力で身体能力を大幅に引き上げた。
「なるほど。雷の魔力か」
「行きます!!」
雷の魔力で強化された静音の突貫はレオには全く見ることができず、ウィリアムでさえ肉眼では視認できず、≪心眼≫でようやく動きが見えたのであった。
「っ!!」
始めてウィリアムの動揺を見ることができた。そして静音は先ほどの剣閃とは全く違うレベルの剣閃を放つ。槍のように長く、しかし突きではなく斬の閃はその強化された速度を以てして長年場数を踏んできたウィリアムですら対処が難しい物であった。ウィリアムは赤の闘気を使用し、身体能力を上げて静音の剣閃を防いだ。しかし最後の一撃だけは切払うことができず鍔迫り合いとなった。しかし闘気と魔力では差が大きく、静音が押されると誰もが思った。
しかし静音はあえて力を抜いて時雨を手放し鍔迫り合いを放棄した。ほんの一瞬ウィリアムの態勢が前へと傾いた。その合間に静音はウィリアムの側面へと回り込み、帯びていた雫を抜刀。奇襲を仕掛けたのである。この行動にウィリアムも一瞬迷ったがすぐさま大ぶりに大剣を振り回した。その一撃はしっかりとした地盤から放たれた一撃ではないものの、静音からすればとても重たい一撃だった。
ウィリアムの振り払いを雫で受けた静音は体ごと吹っ飛ばされたのである。
ウィリアムは静音の得物が見慣れたロングソード風の物に変わったことで戦いやすくなったと一瞬感じたがそれはすぐに払拭された。捨てられたはずの時雨が意思を持ったかのように静音の手元へと戻ったのだ。
「操剣術か」
静音は努力を怠っていなかった。遠征でこそ使わないでいたがこうしてどちらかを手放してしまった時の保険にと操剣術を会得していたのだ。
そして二刀流となった静音はさらなる剣閃を展開すべく突貫した。その矢先。
「はい、そこまでー」
ちょっと気の抜けたレオの声で勝負は止められた。
「ふぅ・・・良いタイミングでしたな」
「?」
「いや、シズネ。多分気づいていないと思うから言うけど。君の戦い方。完全に敵を仕留める戦い方だったよ」
「えぇ・・・そうなんですか?」
「正直私も侮っていた。まさか闘気が使えなくともここまで戦うことになるとは思っていなかった」
「大体挑発したウィリアムが悪いと思うけどね。実感が無いようだけどシズネの奥底では怒りがふつふつと煮えたぎっていただろうさ」
「うーん、自分のことなのにわかんないですね」
「正直続けていたらどちらかが深手を負っていたかもしれない。シズネも今後は戦う場面を気にした方がいい。でなければいずれ取り返しがつかないことになるだろう」
「肝に銘じておきます」
「しかし静音の伸びしろには驚いた。私もうかうかしてられないな」
「俺もだ。というか本気でやったらまず勝てないな」
「えへへ・・・」
褒められながら久しぶりの模擬戦が終わった。この戦いで静音の力は剣聖の中に深く刻み込まれたのであった。
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