開拓地から帰ってきてから静音がまず手を付けたのはアーマー・インセクトの甲殻のことだった。
死骸をそのまま入れていたため、腐ってはいないものの、虫の肉体など一銭にもならない。
少し調べると虫系の素材は特殊な粉を使って肉体を除去するらしい。
実際にその粉末を扱っている店に行き、詳しいことを聞いた。
「なるほど。アーマー・インセクトか。ならこの粉末を使うと良い」
「差し支えなければ教えてほしいんですが、何の素材でできているんですか?」
「あぁ、この粉には観察鏡でないと見れないような虫を混ぜてあるのさ」
そこからはちょっと難しい話が続いた。
用は小さな寄生虫に虫の死肉を食わせるのだ。そしてその寄生虫は餌が無くなったら共食いすらするような種類で最終的に寄生虫の死骸が粉のようになって落ちる程度になるらしい。
とりあえず早速30揃いもあるアーマー・インセクトを工房のたたら炉用のスペースに広げて例の粉を撒いて放置することにした。
その間、静音は無理やり剝ぎ取ったアーマー・インセクトの甲殻を調べることにした。
まず穴が空くかどうかである。静音の構想だと穴が空かなければ使えないからである。
こちらも色々と調べてみた。すると大抵の代物なら穴を空けれるという道具を見つけた。
魔力針という物らしい。仕組みは針自体が魔力伝導が良い素材でできていて、それに魔力を通して使うらしい。大抵この世界にある物は魔素でできているわけで、魔素が変化した魔力を使い、物質にある魔素を融解させて穴を空けるという物だった。
早速こちらも購入して実際に使ってみた。
「さて、やりますか」
腕まくりをして初めての作業に取り掛かる。魔力針に魔力を通し、アーマー・インセクトの甲殻に当ててみた。するとゆっくりとではあるが、針が甲殻に沈んでいった。そしてゆっくりと穴を貫通させて、今度は針をゆっくりと外側を削るように回していく。そうすると静音が望んでいた大きさの穴を空けることができた。
「よーし、まず第一段階はOK。さて、ファティ。来てくれないかな?」
静音しかいない工房に小さな光がこぼれ、そこから妖精が現れた。
「ドウシタノ?シズネ」
「ちょっとこれ触れるかな?」
「ウン。鉄ミタイダケド、イヤナ感ジガシナイ。コレデ何カ作ルノ?」
「まぁね。できたらファティに協力してほしいな」
「オモシロソウ。待ッテル」
少し確認を終えた後ファティには帰ってもらった。一応妖精というのは大変珍しいようなのでアルとミーナには工房に入らないようにしてもらってたのだ。
その後はアーマー・インセクトの甲殻に王都の店で買ってきた安物のナイフや剣をぶつけてみたが、目立った傷はつかなかった。強度の方も問題なさそうだった。
「さて、後は死肉が消えるのを待つだけか・・・」
アーマー・インセクトの死肉が消えるまでの一週間。静音は開拓地に行っていた間に溜まっていた武器の注文の片付けに取り掛かった。結構な数のナイフを作ってきたアルとミーナなだが武器の鍛造はまだまだ静音が付きっ切りで指導しなければならなかったのだ。
それでもナイフや包丁など日用雑貨に使う商品は頑張って作っていてくれたことには大変感謝している。
あまり注文は入っていなかったが、それでも静音は一本一本丁寧に仕上げた。そんなことをしていたら一週間などすぐに過ぎるのであった。
アーマー・インセクトの死骸を確認してみると、体があったはずの部分がぽっかりとあいてひっくり返すと聞いていた通り小さな粉が少し落ちただけであった。30揃い全てひっくり返して死肉が消え去っていることを確認した。その中から適当に一つ抱えて静音は工房に入った。
「シズネ。そんなの持ってきて何を作るんだ?」
「うーんとね、秘密」
静音は魔力針を取り出して甲殻の重なっている部分を溶かしてありのままの短冊状のような形として分離していった。それだけを終えるだけで空模様は昼の青空から夕方の茜空に変わっていた。
その日はそのままクランハウスでみんな揃って夕食を食べて寝た。
次の日、静音は別の作業を始めていた。昨日分離した短冊状の甲殻を魔力針で今度はさらに半分程度の大きさに切断し、時に炎に当てて熱して曲がり具合を調節していった。この作業もまた昼過ぎまでかかった。
アルとミーナは特に仕事は無かったため静音の端から見れば理解できない作業を見守っていた。
昼食を食べ終えると今度は半分に切断した甲殻に穴を空け始めた。時々甲殻同士を重ねたりして何かを計っている様子も見れた。そうしてまた作業をしていたら一日が終わりを迎えようとしていた。
その次の日も静音は工房で作業をしていた。今日は昨日穴を空けた甲殻同士を紐で繋げようとしていた。
小さな短冊状の甲殻は紐で繋がれていって一枚の板のようになっていった。
「すげー。あんな曲がっていたのが綺麗に形が変わっていった」
「一体何ができるのでしょうか。楽しみです」
同じものを大小合わせて複数作っていった。昼が過ぎても作業を進めて、いわゆるティータイムの時間には静音が満足する数が揃っていた。
そして作った甲殻板を静音は何時の間に調達していた動物の革でできた防具に同じように紐で結っていった。すると体のほぼ全体を甲殻板で覆った革防具が完成した。まだ頭を覆う部分はできていないがすぐにできるだろう。静音が作っていたのは武者鎧もどきであった。完成しつつある鎧を見てアルとミーナは物珍しさ満載であった。
「なぁなぁ。まったく見たことが無い鎧だ。どこでこんなのを知ったんだ?」
「まぁ色々とあるんだよ、これが」
始めてみる形の鎧を見て興奮するアル。不思議そうにしているミーナ。静音は彼らに鎧を半ば預けて頭の部分の仕上げに取り掛かった。兜は静音が知っている中では小札で作られている武者鎧の各部位とは違って鉄板を加工して作るのが多いらしい。だが今回は静音は革でできた丸帽子に甲殻でできた小札を当てて魔力針で重なる部分を削って調整しながらかなり時間がかかったが兜も完成した。
今回は試作だったため余計な装飾は付けていない。よくあるような兜の金色の角のような物もつけていない。一応は完成したのだが、ここで問題が発生した。鎧の試着をファティに頼みたかったのだが、アルとミーナが鎧から離れないのであった。あまり知られたくはないらしい妖精たちの事情も鑑みたがいずれは知られることになるだろうということでアルとミーナには絶対に他言無用ということで工房の扉を鍵までしっかりとかけてからファティを呼び出した。
「え・・・この子は・・・」
「まさか・・・妖精さん?」
「あまり大声を出さないでね?絶対に知られたくないから」
「ドーモハジメマシテ。ファティッテイウンダ。シズネガ紹介スルヨウナ子タチダカラ、ダイジョウブダヨ」
「そう?信頼してくれてありがと」
「ウン?ナニアレ!!人形?ゴーレム!?」
ファティも武者鎧もどきに気付いたのか興味津々で周りを飛び回っていた。
「ファティ。これってゴーレム?みたいに操ることってできる?」
「ウン、ヤッテミル」
ファティはすぅっと武者鎧に入っていった。すると顔など露出するであろう部分から光が漏れだした。その後すぐに武者鎧は立ち上がって見せたのだ。
「おー実際に動けるのか。どう?動かしずらいとかない?」
「ウウン、ゼンゼン。スッゴイ軽イヨ」
ブンブンと腕を振り回したりするファティ。どうやら期待していた通りにできたようだ。
「ソレデコレハドウスルノ?」
「うーんとね。もし何か危険なことがあったらファティが自由に使っていいよ。だから持って行って」
「クレルノ?イイノ?」
「うん。いいよ」
「ワーイ。コンナノ絶対ニ自慢デキルゾー」
「あまりしすぎないようにね」
こうして武者鎧試作型はファティが持っていった。しかし自分が使わない物を静音はどうして作ったのだろうか・・・。
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