ついにこの日がやってきた。人類最強の称号を得る勇者・ラークとの対戦の日である。
この日の試合は勇者・ラークvs叩き上げで特異な武器を使う冒険者・静音のカードに会場は沸いていた。
闘技場は満席となり早く試合が始まらないかと観客は待ち遠しかった。
「シズネ、大丈夫ですか?」
「うーん、ここまで盛り上がるとは・・・勇者恐るべし・・・」
一方の静音は緊張した様子であった。前日はウィリアムに啖呵を切ったものの、
実際にラークに勝てるビジョンが思い浮かばなかったからである。
「勇者ラーク!!」
その名が呼ばれるや会場は大歓声に包まれた。そして勢いよく闘技場に降りるラーク。
その顔は自身に満ち溢れているようだった。
「対戦者シズネ!!」
名前が呼ばれると静音は闘技場に向かっていった。
ラークと向かい合うと嫌でも勇者の加護の強さが感じられた。
聖剣一本を構えるラークに対し、静音は雫と時雨の二刀流で対抗することにした。
「試合開始!!」
審判の合図とともに物凄い速さでラークが突貫してきた。≪慧眼≫で動きは予測できたものの、
問題はその攻撃の威力であった。単純に突貫の速さを乗せた一振り。たったその一振りを一瞬受けようとしたが静音は第六感ともいうべき勘でその一振りを後ろに下がることで避けた。聖剣はそのまま風圧を発生させて空を切った。しかしその風圧が異常だった。地面の砂埃が舞い、わずかながらその余波を静音は受けた。
(え・・・?あんな威力だったっけ?実際に受けるとその威力の恐ろしさがわかる。あれは受けちゃダメだ)
静音は一瞬の油断も隙も作れないと悟ると雷と炎の魔力を同時発動させた。身体能力を向上させて今度は静音から攻撃を仕掛けた。まず先の一振りを警戒したと見せかけて後ろに距離を取り、
着地した瞬間足元で炎の魔力をフル稼働。爆発的な脚力を生み出してラークめがけて突貫。
さらに時雨の間合いに入る寸前で一歩踏み出しその場で器用に突貫の勢いを生かして斜め横に回転。
魔力、突貫の勢い、それを生かした回転の勢い、持てる力を全て利用した渾身の一撃を放った。
時雨は莫大な遠心力を得てラークを襲うが、簡単に受け止められてしまった。しかしぶつかったときの音で観客にその威力を示した。
そのまま静音は押し込もうとするが、ラークもなされるままではなく簡単に押し返した。
力でも勝てないとなると静音にできることは聖剣より長い時雨のリーチと魔力で強化された身体能力による連撃であった。そのまま静音はラークの間合いの外から時雨をガンガン振り回し始めた。
雷の魔力を纏った時雨が幾重の剣閃を生み出しラークを襲う。しかしラークの技量、そして勇者の加護は尋常ならざるものでなく、静音の全力連撃を見事に捌いていった。
しかし静音の連撃は収まるわけでもなく、一方的にラークの間合いの外から連撃を繰り返した。
攻撃の隙を与えなければという考えだった。
しかしラークも対抗しないわけでもなく、一振り。たった一振りで時雨の功績を弾き、静音の態勢を崩した。さらに追撃しようとするも、咄嗟に静音が雫を通して周囲に張った電撃を警戒してか追撃は成功しなかった。
一旦仕切り直しになるかに思われたがラークがそれを許さなかった。一気に間合いを詰めて恐ろしい速さの攻撃を繰り出し始めたのだ。
両手で剣を振るうラークに対し、片手で剣を持つ静音ではハンデが大きすぎた。
静音は恐ろしい剣閃を驚きの行動で対抗することにした。
自ら時雨を真上に放り投げ、取り回しの良い雫を両手で持ってラークの剣閃に合わせて魔力で向上した身体能力で強化された剣閃を放ち防いだ。
その行動に驚いたラークが一瞬どう攻めるか迷ったのか手を止めた瞬間、
上空に放り投げていた時雨が突如落雷の如く雷撃を纏ってラークめがけて突っ込んできたのだ。
静音は時雨を放り投げた後、時雨を操剣術で上空に滞空させておき、ラークに隙ができ次第繋いでいた
魔力のパスで雷を纏わせて不意打ちを狙ったのである。
予想外の一撃にラークは距離を取った。そして一瞬の膠着が生まれた。
(強い・・・多分殺傷性の攻撃は禁止されているから全力じゃないんだろうけど、それでも絶対的に足りない。力が足りない。でも!!)
静音の脳内に一瞬これまでの記憶が流れていた。突然異世界に連れてこられて、
何もわからず独力で日々を生きてきた。そんな中でも趣味だった刀に触れることができたのは嬉しかった。でも元の世界と違い、力こそが生き様。そんな世界で過ごせば夢で終わるはずだったことも現実味を帯びてきてしまうのだ。刀を持ち、多くの人と試合を行い、鍛錬し名を上げる。
だからこそ、『剣聖』のウィリアムとは最高の舞台で戦いたかった。それが例えウィリアム以上の加護と聖剣を持ち勇者という人類最強の称号を持つラークを超えて。
「勝ちたいんだ・・・挑みたいんだ・・・まだ知らない高みに・・・挑みたいんだ!!」
脳内に流れた記憶から生まれた、ただの独り言。しかしその思いの強さ、純粋さが静音の願いを叶えた。
突如として剣呑としていた会場が不思議な雰囲気に包まれたのだ。
「この気配・・・まさか」
その雰囲気に覚えがあったウィリアムは気づき、その発生源を見た。
静音が淡い桃色のオーラに包まれていたのだ。そしてその周囲を飛び回る一つの光。
『ヤッホー、シズネ。ナンカ呼バレタカラ来テミタヨー』
「ファティ・・・?」
静音の周りを飛ぶ光の正体は妖精のファティであった。
『フーン。アレガ勇者。良イジャン。伝説ニ挑ム。面白イジャン!!』
そう言ってファティは静音の中に『入っていったのだ』
「ファティ?何を・・・!?」
ファティが静音に触れそのまま入り込んだ瞬間、静音の纏っていたオーラが変化。
静音の背中から光輝く一対の羽根が現れた。
「そうか・・・君はあの方に選ばれていたのか。妖精の女王に、そして恐らくあの方の血縁の妖精との縁を持っている。勇者以上のおとぎ話である妖精剣王となったか」
静音の変化とともに手に持っていた雫も淡いオーラを纏っていた。
静音が変化を見るべく軽く一振りするまで観客はおろかラークまでもが静音が纏うオーラに魅了されていたのであった。
「よし、これなら!!」
静音の自身に満ちた一撃がラークを襲った。未知のオーラを纏っている静音を警戒して勇者の加護を全力で行使して聖剣で防ぎつばぜり合いに発展するも、徐々に押されていったのである。
このままでは勝てないと思ったのか聖剣の力も解放したラーク。一瞬押し返し、反撃の一撃を放った。
しかしその一撃は簡単に防がれてしまった。
そしてそのまま静音が返す刀に放った一撃を受けて一気に弾き飛ばされてしまった。
人ごと弾き飛ばす芸当はただの細い刀でできるようなものではなかった。しかし静音が纏う妖精のオーラがそれを現実と化していた。そして静音は纏っているオーラ、ファティに従うように雫を上へと掲げた。
その瞬間雫から莫大なオーラが噴き出した。それをそのままラークめがけて放出させた。
すると突然オーラを受けたラークが何の抵抗も無しに聖剣を落としたのであった。
静音が放ったオーラは攻撃的な威力を持っていたわけでもないのはラークの周囲が変化してないことからも周知の事実であった。
観客は謎の現象に驚くも、実際に見た『静音の放ったオーラでラークが敗北した』ということを無理やり理解して、結果として静音が勝利したという事実が完成した。
謎の現象で終わりとなったが、それまでに二人が繰り広げた戦いは観客が満足する以上のものであったため、莫大な拍手が会場を覆った。
「・・・へ?」
しかし一番理解できていなかったのは静音自身であった。ファティが体に入った、同調した後はファティの助言の下行動していたのだ。特に最後はファティが『これで勝てる』と太鼓判を押したため実行したのであったがどういう現象なのか理解できていないのであった。
しかし勝負は静音の勝利で幕を閉じたのであった。
一か月以上遅れてすみません。ぼちぼち再開していきますので、よろしければ今後ともよろしくお願いいたします。