小説ではよくある絶望物語。
しかし、現実では何も始まらない。
前を見渡せば、夕日が目に映る。
横を、上を見渡せば夕日に照らされた茜色の空が広がっている。
そして、下を見れば断崖絶壁の崖。
一般的に見ればロマンチックな風景なのかも知れないが、自分の目には空虚にしか映らない。
最初はこんな自分でも分かるような辺鄙な人間ではなかった。
昔は純粋で、世界も何も知らなかったのだ。
家族と笑い合い、友達と遊び倒し、泥塗れになった俺を母さんが優しく叱る。
そんな何の変哲もない日常が続くと思っていた。
今思えばあの時から、何かが狂ってしまったのかも知れない。
雷鳴が轟き、水音が響く日に、保育園で友達と遊んでいる時に、保育士の人が慌てた様子で飛び込み、俺に告げた。
「両親が亡くなった」
そこからは坂を転げ落ちるように人生が急変した。
両親が居なくなった俺は祖母が引き取った。
祖母はとても乱暴で、酒ばかり飲み、よく八つ当たりをしてきた。
ほぼ奴隷のような扱いで、食事を与えられない日もあった。
前に酒を飲みながら泣いていたので、あの人もなにかしらあって現実逃避をしながら、誰かに助けを求めていたのかも知れない。
が、俺にはどう足掻いたって救えない。
次に、俺は学校でいじめっ子に虐められた。
最初は軽い虐めであまり気にしていなかったのだが、どんどんエスカレートしていき、最終的には暴力にまで発展した。
言葉の暴力、物理的な暴力と、精神的にも肉体的にも段々傷ついていった。それに、悪知恵が働くのか堂々と虐めるのではなく、陰で先生が居なくなった時に俺を虐める。
まあ、先生も
それに、子供は何処かで自分のしている事を正しいと思っているのだ。尚更祖母よりタチが悪いのかも知れない。
そんな俺は救いが来るとひたすらに盲信し、とうとう社会人になった。
そしてあの地獄の所から抜け出し、順風満帆な社会人生活を送っていた。
ある日、俺は電車に乗って会社に向かっていると、目の前にいた女性が急に叫び出したのだ。
そして次の瞬間、女性が俺に向かって指を指し、痴漢と叫び始めた。
痴漢していないと言う男性と痴漢されたと言う女性。どちらを疑うと言われれば、答えは言うまでも無いだろう。
俺は変態という名のレッテルを貼られた。
仲の良かった仕事仲間に嵌められた事を告げると、同僚や上司は皆一変して、蔑むような目で見てきた。いくら弁明しようが、口では分かった風に言うが、目は信じていなかった。
そんな会社に耐えられなくなり、次の日には辞表を出した。
これで終われば良かったのだが、本当の地獄はここからだった。
痴漢の冤罪を掛けられた際に、近くに居た人がSNSに痴漢の事を投稿したのだ。
そこからは止まらぬ勢いで、炎上しだし、俺の住所を特定し、拡散する人達が現れた。
そうなればもう、火の手は止められない。
俺の住んでいた家のドアに暴言が書かれ、挙句の果てには大家に出て行ってくれと言われる始末。引っ越した家まで特定され、また暴言などを言われる負の連鎖。
ただ、そんな辛い現実からもう解放される。
今立っている場所から足を一歩踏み出せれば、楽になれるのだ。
冤罪の事も含め遺書は書き残した、もう悔いは無い。
重々しくも軽々しい足を一歩進め、孤高の崖の頂に立つ。
後ろから俺を後押しする様に風が靡いてくる。
そして俺は、後押しされるがままに、崖を飛び降りた。
自分が死んだ後、遺書の"おかげ"で俺を叩く風潮が一変し、住所を特定した連中や俺を積極的に叩いた奴らも地獄に落ちる......
辛い現実から解放された事を喜んだのか、
俺を殺した奴らにざまあみろと思ったのか、
人間の汚さに嘲笑したのか、
迫り来る地面に俺は笑顔でいた。
叩いている人は、妙な正義感に駆られ自分に酔っているのか、人をサンドバッグにしたいのかは知らないが、人生が簡単に終わる『正義』という名の