FGOの龍馬と一ちゃんメインの話。天満屋事件。
※この作品はPixivとのマルチ投稿です。

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無敵の剣の瑕(きず)

 キ械維新都市SAITAMAは崩れ去った。

 またしてもぐだぐだとした謎の特異点は解消され、ノウム・カルデアに一行は帰還した。再会と再度の別れを繰り返して、再び蘇りかけた維新は終焉したのだが——。

 

 

 

 ぞろぞろとレイシフトを終えて、一同は解散、廊下を歩いていく。

 お竜さんを連れた坂本龍馬とともに歩いている岡田以蔵が、愚痴を漏らしていた。

 

「はー、まぁた龍馬のせいでえらい目に遭うたわ」

「ごめんごめん。僕も今回のことはさすがに予想できなかったよ」

 

 坂本龍馬に関する二度目の特異点であるため、龍馬も否定はできない。責められても困るが、関わっている以上、巻き込まれた側からすれば愚痴の一つも言いたくなるだろう。以蔵をなだめつつ、臨戦体制のお竜さんを引き離しながら、龍馬が間に入る。

 その様子を、少し離れたところからある人物が見ていた。

 

「どうしたんですか、斎藤さん」

「ん? ああ、いや」

 

 なぜか龍馬らを見ていた斎藤一が、そちらへ歩き出す。沖田総司が目で追った。

 おもむろに、斎藤一は龍馬へ話を切り出す。

 

「ちょっと聞きたいんだが」

「何じゃ、壬生狼」

「まあまあ」

「坂本龍馬、今回の件で……ええと、あんたがあのときにもし死ななかったら」

 

 斎藤はいきなり来て何を言い出したのだろう、そう思われる雰囲気だが、斎藤は至極真面目に、こう言った。

 

「俺は無敵の剣だったのになぁ、と思ってね」

 

 追いついてきた沖田が尋ねる。

 

「斎藤さん、どういう意味です? いつも一ちゃんは無敵だからー、って言ってるじゃないですか」

 

 斎藤は答えない。

 しかし、龍馬はその意味に気付いた。

 

「それはあれかな。僕も詳しくはないんだけど……天満屋事件のことかな」

 

 少し驚いた様子で、斎藤は肩をすくめた。

 

「何だ、知ってたのか。てっきり死後のことだから管轄外かと思ったんだが」

「とは言え、さわりだけだけどね。災難、と言っていいのかな。結局は、まあ、おそらく違ったわけだし、うちにはけっこう血の気の多い人たちが多くて」

 

 そこへ、話について行けていない以蔵が口を挟む。

 

「おい龍馬、どうゆう話じゃ。さっぱり分からんぞ」

「ああ、実はね」

「おっと、ちょっとその先は後で頼むわ。あんまり思い返したい話でもないんでね」

「それは失礼、そうするよ」

 

 斎藤がそう言うなら、と龍馬も深くは入り込まない。斎藤はその場を離れた。取り残された沖田は、斎藤と龍馬を見ていたが、天満屋事件に興味があるのか、何だそれは、という顔をしている。

 斎藤がいなくなった途端、以蔵が龍馬へ尋ねた。

 

「天満屋事件っちゅうそれ、何じゃ?」

「僕が暗殺された後、海援隊と陸援隊の面々が敵討ちに行った事件のことだよ」

 

 ほう、と感心したように以蔵が反応する。そういう事件には、多少は興味が湧くらしい。龍馬は天満屋事件の詳細を話す。

 

「紀州藩の三浦休太郎が僕の暗殺犯だ、って噂が広まって、新撰組が警護に入るほどの大騒動になったんだよ。そこへ陸奥さんとか海援隊と陸援隊のみんなが襲撃して、あの斎藤一にも手傷を負わせるほどの戦いになった……らしい」

 

 伝聞調であるのは、あくまで龍馬の死後三週間ほど経ってから起きた事件だからだ。知識はあるが、実際に見聞きしたわけではない。

 もちろん、それは以蔵も同じだ。ただ、斎藤が気にかかるほどの事件だった、その一点は以蔵にとって鼻で笑うようなことだ。

 

「はー、ようやるにゃあ。しっかし無敵の剣やら何やら知らんが、所詮はその程度かえ。情けないのう」

「そう取られるかもしれないから、思い返したい話じゃない、ってことかな。でも三浦休太郎は生き延びてるし、警護自体は成功してるから」

 

 何となく、斎藤を擁護する形になったものの、龍馬としてはどちらに肩入れするというわけにもいかない。当時旧知の人々は復讐を望むほど思いが強く、襲撃された側の斎藤に至っては今でも気にかかるほどのことだ。龍馬としては、内心複雑だった。

 そこへ、お竜さんがふわふわ浮きながら龍馬の肩に寄りかかる。

 

「リョーマ、気にするな。別にリョーマのせいじゃない」

「ん、分かってるよ、お竜さん。みんなが襲撃したのはそれだけ悲しんでくれたからだし、斎藤さんもそこまで恨んでるわけじゃないだろうからね」

 

 そうは言うものの、実際のところはどうだろうか。

 あえては言わない、しかし龍馬とて気にかかる。

 沖田が話を聞いて、納得しかねる様子で首を傾げた。

 

「でも珍しいですよ。斎藤さんがああいう皮肉を言っちゃうの」

「よっぽど腹に据えかねちゅうがじゃろ」

「だってあの斎藤さんですよ? へらへら新撰組の異名を取る斎藤さんなんですから」

「それもどうかと思うんだけど」

 

 へらへら新撰組というあだ名はともかく、確かに大概のことは柳のように受け流しそうな斎藤がこだわるというのは、沖田にとっても意外なのだろう。

 となれば、何もしないわけにはいかない。

 

「マスターの手を煩わせるほどでもなし、ちょっと話くらいはしたほうがいいかな」

「ほうか。おまんも大概気にしいじゃな」

「そういう性分なんだろうねぇ」

 

 龍馬は苦笑する。その自覚はないわけではないが、カルデアには他にいくらでも『そういう性分』のサーヴァントがいる。自然と、そうなるのだ。

 

 

 

 

 

 夜も深まり、斎藤は人けのない食堂で独り蕎麦を食べていた。夜間の見回りがてらの習慣だ。

 沖田からそれを聞いていた龍馬は、その機会を見逃さない。

 

「やあ、斎藤さん。同席してもいいかい」

 

 お竜さんを連れずにやってきた龍馬を見て、斎藤はその意図に気付いたようだった。

 

「お節介だねぇ。いや、僕が気を遣わせたか」

「そうでもないよ。誰だって生前気にしてたことくらいあるさ」

「戊辰の役ほどじゃないにしても、多少は心残りっていうか、悔いっていうか、そういうものはあるんだよなぁ」

 

 しみじみと語り、斎藤は蕎麦を啜る。

 龍馬にもその共感はある。心残りも悔いもあるからだ。道半ばで倒れた者に、何の後悔もないということはない。しかし、生き延びた者にも同じようなところで後悔が残る。

 であれば、少し話を。龍馬はいつものように、穏やかに話す。

 

「今回の特異点は、僕が抑止力と契約したか否かで分かれたものだから、どのみち僕の死自体は避けられない。避けられたとしても……それほど長生きはしなかっただろうね」

「おいおい、当てつけかい」

「そんなつもりはないけど、斎藤さんはよく生きたじゃないか」

「ただ長生きしただけだがね。腐らなかっただけマシってもんかな」

 

 ははっ、と斎藤は笑ってみせた。卑下するわけでもなく、ある種の諦観や懐古を含んだ笑いだ。

 龍馬はそれを否定しない。

 

「天満屋事件は起きてしまったことだから変えられないけど、そのことで新撰組の名に傷がついたってことはないと思うんだ。聞くところによれば、いきなり襲撃して多勢に無勢だし、むしろ褒められることだと」

「いやあ、それはどうかねぇ。やっぱりほら、こんなこと副長が聞いたら怒鳴ってくると思うよ、僕ぁ」

「ははは、そうかもね」

 

 その様子は簡単に想像できる。新撰組の鬼の副長土方歳三は、許さないわけではなく、怒鳴るだろう。

 怒鳴られたわけではないが、斎藤は笑みを消した。龍馬をまっすぐに見据える。

 

「紀州にも会津にも、挙句どこから恨まれてるか分かったもんじゃないほどやらかして、ぽんと死んじまうのはさ、卑怯じゃないかい」

 

 これには、龍馬も面食らった。卑怯、と言われるとは思わなかったからだが、しかし単なる罵倒とも思えない。

 龍馬は頭を巡らせ、答えを考えた。

 

「もしかして、新撰組の手で捕まえたかった?」

「いやいや、そこまで思っちゃいないよ。ただ、あのころはみぃんな散々やらかして勝手に死んでいったやつらばっかりだからさ、僕としてはずるいよなぁと思うわけ」

「なるほど、それもそうだね」

「これはあれかな、嫉妬ってやつかもな」

 

 今度は、斎藤は笑わない。

 だが、ようやく斎藤の真意を掴んだ龍馬は、斎藤へ告げるべき言葉を選ぶ。

 

「そういうのも背負って長生きした斎藤さんは、やっぱりすごいと思うよ」

 

 斎藤は生前、維新の後は、その駆け抜けた時代について誰にも理解されなかっただろう。その時代を生きていた人間が少なくなり、ましてや同僚だった人間も早くにいなくなった中で、どんな思いをしてきたか。

 もちろん、斎藤と同じ思いをした人間は、もう一人いる。彼も同じだろうか。その彼なら、斎藤の気持ちを分かってやれるかもしれないが、生憎とここにはいない。

 だから、龍馬が代弁した。そして斎藤は、照れて目を逸らす。

 

「へーへー、心にもないこと言ってくれちゃって」

「本心さ。海援隊や陸援隊のみんなも同じだけどね」

「あいつら覚悟決めすぎじゃない? 何なの? 薩摩とそう変わらないよ? 堺事件もそうだけど、土佐の連中はちょっとおかしいよ」

「まあまあ、僕みたいなのもいるんだし」

「レアすぎじゃねぇの」

 

 憎まれ口を叩きながらも、斎藤はいつものように笑っていた。

 少しはわだかまりもなくなったのか、もう張り詰めた空気はない。

 その歓談する二人を、お竜さんと以蔵と沖田が遠目に見守っていた。

 

「何か大丈夫そうだぞ」

「ほいたら気付かれんうちに退散するか」

「ですね。斬り合いにはならなさそうですし」

「あの龍馬が斎藤一と斬り合いなんかできるか。ヘタレじゃ、あいつは」

「イゾーのくせに偉そうだぞ。どうせお前だってできないくせに」

「何じゃと」

「退散するんでしょ、行きますよダーオカ」

 

 お竜さんと沖田は以蔵の襟を掴んで引きずっていく。呼吸が止まりかけながらも暴れる以蔵を無視して、沖田はつぶやいた。

 

「ちょっと羨ましいですね、ああいうの」

「そうなのか」

「ええ、私にはできませんでしたからね」

 

 それはほんの少しのすれ違いから、同時代を生きたにもかかわらず沖田には叶わなかったことだ。

 とはいえそれで嫉妬するでもなし、沖田は上機嫌で以蔵を引っ掴んで廊下を引きずっていく。



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