掛かってしまっているかもしれません!《完結》 作:室賀小史郎
「もうダメだぁ……お終いだぁ……」
ある男はこの世の全てに絶望したように、独りごつ。
「なんだよ急に。なぁに戦闘種族の王子みたいなこと言ってんのさ?」
そこに居合わせる友人が項垂れる男へそんな言葉を返した。
「っ!? やめろ! 俺は王子じゃない! 俺はトレセン学園のトレーナーなんだ!」
「いや知ってるし、俺もそうだし」
ここはトレセン学園。
そして嘆いているのはファインモーションの担当トレーナーで、今は同期でエアシャカールの担当トレーナーが使うトレーナー室に来ていた。
友としてはいきなりやって来てこの有様なのだから、もう訳が分からない。
「で、何があったんだよ?」
「聞いてくれるのか? 俺の話を?」
「聞くまで居続けるだろ。さっさとゲロって帰ってくれ」
「実は昨日―――」
(どんだけ聞いてもらいたいんだよ)
―――
―――
―――
昨日は休日。
トレーナーはもうすっかり休日の恒例となった自分の愛バと共に、ラーメン屋巡りをしていた。
店をはしごすること六軒。このあともはしごする予定のため、小休憩で偶然見つけた路地裏の鶏ガラ醤油が自慢のラーメン屋で愛バが愛らしくラーメンを啜る姿を三女神に感謝しながら見ていた時、
『あ、ねぇねぇ、トレーナー』
愛バに声をかけられた。
『どうしたの、ファイン?』
『あのね、キミに見てほしいものがあるの♪』
『へぇ、何かな?』
『実家から送られてきたアルバム♪』
ジャーンと可愛く効果音を口にしながら、ファインモーションは高級感溢れるグリーンの布製フォトブックをスッとどこからともなく現れたSPから受け取り、トレーナーに手渡した。
『え、俺も見ていいの?』
『もちろんだよ♪ キミには私の全てを知っていてほしいから!』
『ありがとう。じゃあ、拝見させてもらうね』
『どうぞー♪』
重厚感溢れる表紙を捲ると、早速王妃様に抱えられて穏やかに眠る生後間もない愛バの写真があり、トレーナーは無意識の内に涙を流していた。
こんなにも神々しい光景がこの世に存在するだろうか? レオナルドやミケランジェロ、ドナテロ、ラファエロが手を組んだとしても、ここまでの芸術作品を生み出すことは出来ないだろう。
神よ……本当にあなたという御方は在られたのか。
『うふふ、トレーナーったら大袈裟ね……そう言ってくれるのは嬉しいけど♡』
『あれ、俺声に出してた?』
『うん♡』
にこやかに頷く彼女もまた、女神と間違え……いや、女神のような美しさ。
トレーナーは涙を拭いながら、次のページ、また次のページと捲っていく。
すると、
『?』
何やらアイルランド語で手紙のようなものがあった。
アイルランド語は読めないが、それがアイルランド語なのだとはファインモーションがたまに両親から手紙を貰ったと読み聞かせてくれるのでなんとなくはトレーナーも理解している。
トレーナーが手を止め、小首を傾げた瞬間―――
『あ、見ちゃった?♡』
―――女神が微笑んだ。
まるで長きに渡る戦いで勝利を勝ち取った戦いの女神モリガンのように。
『あ、見ちゃまずいやつだった? ごめんね?』
『ううん。そんなことないよ。将来的には良く目にすることになるものだからね』
『?』
『それ、私の国の機密文書なの♪』
『へぇ……?』
『私ね、今まで自分が望んだモノって与えられなかったことないんだ』
『そりゃあ、そうだろうね』
『だから、ね?』
ファインモーションが何を伝えたいのかイマイチ分からないトレーナーだったが、
『この前のオフに腕を組んでSPに写真を撮ってもらったよね?♡ あれ、もうアイルランドの外務省が明日に全世界へ向けて発信しちゃう予定なの♡ 既に報せを受けた日本政府はもう祝辞をお父様に送ってるよ♡ あ、因みにアイルランドから特派員が来てて既に私たちのラブラブなところが祖国では大々的に宣伝されてるし、祝福ムード一色だから安心してね♡ あとあと、アイルランドって日本で漢字表記にすると愛なんだって♡ なんか幸せだよね♡ それで、あとはキミが素直になればいいだけだったから、ちょっと手荒い手段になっちゃったけど……いいよね?♡』
その言葉で全てを察してしまった。
―――
―――
―――
「つまり、国家機密文書を見てしまった上に外堀はガチガチに超合金並みの硬さになってて、もうお前はファインモーション殿下のとこに輿入れしないと人生詰むってことか」
コクコクと高速で首を縦に振る友を見て、エアシャカールトレーナーは呆れた。
「……別に良くね?」
「いやでもさ、国家機密って言ったって文章読めないんだぞ? 写真だっていつものように思い出作りの一環だと思って……」
「んなの言ったところでいくらでも真実は捻じ曲げることは可能だろ。写真なんて特に」
「いやいやいや! いいの? 写真や国家機密文書をこんなことに使っていいの? 俺みたいなやつ捕まえとくためだけにだよ?」
「知らねぇよ。そもそもお前が向こうの王様と腹割って話して担当になった時点でこうなる未来もあったろ」
「俺は純粋にファインが気持ち良く走れればいいなと思って!」
「じゃあどうすんだよ? 断るのか? つかそもそもお前、普段から自分の担当のこと愛バ愛バって言ってんのに、好きじゃないのか?」
「……大好きです」
「担当としてってだけ?」
「…………異性として大好きです」
「だよなぁ。知ってた。それとありがとう」
「へ?」
唐突に感謝されて困惑するトレーナーを他所に、トレーナー室へ黒服のウマ娘たちがザッと入ってくる。
「え、え、何? 何何何?」
「俺はお前の国籍が変わっても友達だと思ってる」
「は?」
絶賛困惑中の最中、
「言質を取ってくれてありがとう。シャカールのトレーナーさん」
ファインモーションがにこやかにいつの間にか敷かれていた赤絨毯の上を歩いてきた。
「いやいや、これくらいは。友達としては、やっぱり幸せになってもらいたいんでね」
「うふふ、お約束のモノは後日しっかりとお届けしますね」
「いやぁ、なんか悪いですね」
「それだけのことをしてくれたんですから、当然です。では私は彼とこのあと予定がありますからこれで」
「お幸せに〜♪」
そうしてファインモーションはSPたちに「例のモノを」と指示し、神輿を用意させ、そこへ自分とトレーナーが乗り、SPたちに専用リムジンまで運んでもらうのだった。
◇
トレーナーの思考が未だ迷子の中、ファインモーションが彼を連れてきたのは日本でも有名な三ツ星ホテル。
その一室に通されると、
「キミは私の隣に座って、笑顔で頷いていればいいだけだから安心してね。あ、でもキミの笑顔は全て私だけのモノになるから、出来るだけ作り笑顔ね?」
何やら説明を受け始める。
「え、あの、もし断ったら?」
「危険な目には遭わせたくないの。お願い」
両手を握られ、今にも涙を流しそうな潤んだ瞳で上目遣いをされながら懇願されれば、トレーナーは頷くしかない。
「この手を使うのは最初で最後だから安心してね。こうでもしないと、私のことが大好きなくせに告白してくれないキミを置いてアイルランドに帰らないといけないから」
「ファイン……」
「大好きって言ったもんね?♡」
その言葉がまるで全身を拘束する鎖のような重さに感じるトレーナー。
「でもでもぉ、私はキミのこと愛してるから、愛の強さは私の勝ちだね♡ うふふ、これからの巻き返しに期待してるね♡」
小悪魔的な笑顔を浮かべてそう述べたあと、彼女はトレーナーの頬へ口付けを落とした。
―――――――――
無数のフラッシュライトが焚かれ、世紀の大恋愛の瞬間をカメラに収めていく。
集まった記者たちは各国から来ており、中でもファインモーションの祖国アイルランドからは記者団だけでなく国営放送局まで赴いてきて、自国の殿下の幸せな報告をアイルランド国民たちに生中継していた。
会見場に使われるホテルの大広間には、現役の駐日アイルランド大使と日本外務大臣が出席している。
会場の大型スクリーンには日本の総理大臣と秋川理事長、そしてファインモーションの父君であるアイルランド国王が笑顔で握手をしている様子が映し出されていた。
簡単に言えば、ファインモーションがトレーナーとの婚約を父に願い、父は愛娘のためにトレーナーへアイルランド国籍と永住権を与えたのだ。
会見はさもそうであるかのような台本通りの質疑応答。
二人の馴れ初め、トレーナーのどこに殿下は心を掴まれたのか、トレーナーが殿下をどのようにして支えてきたのか等々。
家格が違い過ぎるとの声には、
『現在のアイルランドは共和制。故に我が娘であれど家格など関係なく、娘がこの者と決めた相手ならば何も問題はない。既にこちらと日本の両政府で彼自身の身辺調査は終え、何も問題はなかった。強いて言えば、娘のことが好き過ぎるくらいか。父親として、ここまで娘に愛を注いでくれる人間は好ましい』
とアイルランド国王が公文書にしている。
トレーナーにはもう笑顔で頷く以外に選択肢は残されていなかった。
「トレーナー、今から私が言うことをそのまま言ってね♡ ちゃんと私の目を見て、この手を取って言うんだよ?♡」
「(コクリ)」
『Graim thu♡』
『……グラーイム・フー』
するとまたフラッシュライトの嵐が降り注ぐ。
「うふふ♡ 発音はまだまだだけど、キミの言葉で聞けて幸せ♡ 愛してるよ……ん〜、チュッ♡」
感極まってファインモーションがトレーナーの頬にキスをすれば、それを全カメラが収めていく。
Graim thu
アイルランド語またゲール語で英語の『I love you』に相当する言葉。
◇
一躍時の人となったファインモーションのトレーナー。
あの会見から一週間が経った今でも、各マスメディアでは彼とファインモーションのことが取り沙汰されている。
しかしその内容の殆どは二人の関係に肯定的で、中にはアイルランドと日本の更なる友好や架け橋などともてはやされていた。
裏で否定的な内容もあるにはあったが、その全てをアイルランド国王自らが否定しているため、ネットを中心にただのやっかみだと判断されている。
「……もうダメだぁ……お終いだぁ」
「まだそんなこと言ってんのかよ。いい加減諦めて幸せになっちまえよ」
「裏切り者」
「俺は愛バが望んていた、高性能パソコンを殿下にどうにか安く仕入れる手段はないか聞いてみただけだ」
「めちゃくちゃ買収されてるじゃないか!」
「でもお前は担当バと正式に婚約出来て、しかもそれは日愛友好の象徴ってなってるし、俺はシャカールにプレゼント出来たし、Win-Winじゃね? そういやお前が殿下からキスされてたあのワンシーンが記念切手や記念硬貨になるんだってな。おめでとうございます」
「…………今に見てろよ」
―――――――――
そんなやり取りがあってから、一週間後。
「なぁ、トレーナー」
「ん、どうしたシャカール?」
「今度良かったら一緒に旅行行かね?」
「お、いいな! シャカールとはなんだかんだ温泉旅行以来どこにも行ってなかったし! どこか行きたいとこあるのか?」
「…………ド」
「え、どこ?」
「アイルランド」
「…………Why?」
「ファインモーションが卒業旅行にって招待してくれたんだ」
「あ、ああ、なるほど! それはいいな!」
この時、エアシャカールのトレーナーはまだ知らない。
アイルランドにエアシャカールと訪れた際に、そこで強制的にファインモーションが手掛ける最高の結婚披露宴を挙げさせれられることを。
卒業しているから結婚しても何も問題がないことを。
そしてエアシャカールが担当トレーナーのことが大好き過ぎて、ファインモーションとそのトレーナーに唆されたということを。
◇そんなドタバタな日々から数年後◇
広大な敷地。聳え立つ城。
城内のファインモーションとその夫であるトレーナーが暮らす二人だけの宮。
「ここの生活にはもう慣れた?」
「ああ、うん、なんとか……未だに執事さんとかがいるのには慣れないけど」
「うふふ、戸惑ってるアナタはかわいいね♡ チュッ♡」
「ファインは本当にキス魔になったね……」
「そんなこと言うの不敬だよー?♡ 私がキスを送るのはアナタだけなのにー♡」
「身に余る光栄だよ」
「えへへ♡ あ、明日エアグルーヴたちを連れてきてもいいかな? 久し振りにみんなと会いたいの。みんながどんな夫婦生活を送ってるのかも知りたいし。あ、ちゃんとみんなには明日迎えに行くねって伝えてあるからね!」
「相変わらず、まるでコンビニに行くかのような気軽さで言うね。慣れたけど」
「? だって自家用ジェット飛ばせばすぐだよ? それにアナタとキスしてればすぐに日本に着いちゃうんだから♡」
「……あれ、俺も行くの? 俺明日も仕事なんだけど……」
「貴様、私の命令が聞けぬと申すのかー!♡」
「ファインがそう言う時点でもう俺の明日の仕事は代わりがいるのね。分かった、お供します」
「ふふっ、しっかりエスコートしてね……ん〜、チュッ♡」
読んで頂き本当にありがとうございました!
そしてファインモーションちゃんをラストにします!
本当はタイシンまでを予定していたのですが、思いの外読んでもらえたので、ここまで書くことが出来ました♪
本当にありがとうございました!
ともあれ、これにてこの作品は終わりとなります!
この作品を読んでくれた方々
楽しみにしてくれた方々
評価をしてくれた方々
お気に入り登録してくれた方々
誤字脱字を報告してくれた方々
多くの方々に感謝します。
これからも趣味としてではありますが、楽しんでもらえるお話を書いていきたいので、もしまた機会があれば私の作品を読んで頂けると幸いです!
あとがきが長くなりましたが、読んで頂き本当に本当にありがとうございました!
また別の作品でお会いしましょう♪