掛かってしまっているかもしれません!《完結》   作:室賀小史郎

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自分のトレーナーのことが大好きなカワカミプリンセスのお話。


華麗に、優雅に、美しく!

 

 あるところにひとりのお姫様がいました。

 お姫様は美しく、愛嬌がありましたが、やんちゃなじゃじゃウマ娘でもありました。

 

 そんなお姫様の前に、不思議な王子様が現れ、お姫様は王子様に一目惚れしてしまうのです。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

「と、ととと、トレーナーさんっ!」

 

「はい、どうしましたか、カワカミさん?」

 

「こ、ここ、ここここ!」

 

「落ち着いて。私は逃げませんから、教えてください」

 

「はわはぁっ!♡」

 

 ここはカワカミプリンセスが専属契約をしているトレーナーのトレーナー室。

 今日はトレーニングを軽めにし、残りの時間はミーティングをということで二人はここにいる。

 

 内容はURAファイナルズも終わり、次のドリームシリーズへ向けての方針を決めるため。

 カワカミプリンセスは阪神ジュベナイルフィリーズから始まり、ホープフルステークス、桜花賞、オークス、秋華賞、エリザベス女王杯2連覇と有馬記念2連覇を達成し、ドリームシリーズへ行っても活躍が期待されている。

 カワカミプリンセスのトレーナーは彼女を最強の乙女へと導いた指導者として、学園から新たにチームを結成することを勧められたが、

 

『私は今はカワカミプリンセスのことしか頭にありません』

 

 と拒否した。

 

 優秀なトレーナーには多くのウマ娘を導いてほしいが、強要して本人の指導力が落ちてしまっては本末転倒ということで一旦は保留。

 

 話を戻し、カワカミプリンセスはドリームシリーズに進出して一先ず得意な中距離路線に進むという方針が決まった。

 

 そしてミーティングが終わると、カワカミプリンセスが先程のように壊れかけのレディオのようになってしまっている。

 それも当然で、カワカミプリンセスは自身のトレーナーに強い憧れと恋慕を抱いているためだ。

 

 何故なら彼女のトレーナーは男性でありながら『美姫』と評されるほどの容姿を持ち、その上で幼い頃から習っている合気道の有段者。

 普段は清く美しいのに、いざという時の凛々しさと男らしさ。そこにカワカミプリンセスはハートを射抜かれたのである。

 

 トレーナーはスラリと伸びた長身で体の線が細い。加えて彼の母親である芦毛ウマ娘の血を引いているのもあって髪は美しい芦毛。華奢な体を少しでも大きく見せられるよう、髪を膝裏まで伸ばしている。スッと通った鼻筋にシャープな顎。長いまつ毛。細く整った眉。

 その全てが女性の誰もが羨む麗しさだ。

 しかしそのせいでほぼ100%女性に間違われ、街でナンパをされることもしばしば。

 

 トレーナーはまさにカワカミプリンセスが憧れるお姫様その者。華麗に、優雅で、美しく。なのにいざという時の頼り甲斐のある逞しさ。

 故に彼女にとってトレーナーは理想の王子様なのである。

 

「大丈夫ですか、カワカミさん?」

「は、はひ……♡」

 

 仰け反ってしまったカワカミプリンセスの背中を優しく抱きかかえてくれるトレーナー。

 

(近いですわ!♡ いい匂いですわ!♡ 結婚したいですわ!♡ 愛してますわ!♡)

 

 なのでカワカミプリンセスの頭はトレーナーへの想いで膨れ上がる。

 しかしそれを知らないトレーナーは優しく微笑み、彼女の言葉を待つのみ。

 

「あ、あぁ、あのあの、ですね……」

「はい」

「もう、ミーティングも、終わったこと、ですし……」

「はい」

「宜しければ、そのぉ……」

「寮へ戻る前に、今朝言っていたクレープ屋さんにでも寄り道していきましょうか?」

「っ……はいっ!♡」

 

 察して先に誘ってくれたトレーナーにカワカミプリンセスは満面の笑みで返すと、彼に「よしよし」と首筋を優しく撫でられる。

 するとカワカミプリンセスは自然と彼の胸板に頭を擦り寄せるのだった。

 

 ◇

 

 ウマ娘が過ごす寮とは正反対の方へと歩を進め、お目当てのクレープ屋に到着。

 ウマ娘向けのボリューミーなメニューも豊富なのでトレセン学園の生徒以外にも多くのウマ娘が列に並び、かなり繁盛している。

 

 するとカワカミプリンセスは最後尾にトレーナーとは別の憧れの存在を見つけた。

 

「キングさんっ! それとキングさんのトレーナーさんっ! ごきげんようですわっ!」

 

 それはキングヘイローとそのトレーナー、

 カワカミプリンセスは二人のことを純粋に尊敬し、憧れのカップル。

 なのでいつかは自分もこの二人のように、自分のトレーナーと恋仲になりたいと切に願っている。

 

「あら、カワカミさん。そのトレーナーも、ごきげんよう」

「よーっす。二人もここに寄り道しに来たのか?」

 

 キングヘイローのトレーナーがそう訊ねれば、カワカミプリンセスのトレーナーが会釈をしながら「はい」とたおやかに返事をした。

 因みにキングヘイローのトレーナーとカワカミプリンセスのトレーナーは同期。加えてカワカミプリンセスのトレーナーを一目見ただけで「男」だと判別出来た数少ない人物。

 

「お前、見た目もやしっ子なのにオグリ並に食うもんな」

「お恥ずかしい。今朝カワカミさんからここの話を聞いて、メガテラクレープが気になって気になって……」

「おいおい、あれウマ娘用だぞ……あ、お前の母ちゃんウマ娘なんだっけ? なら胃袋の構造もそっち似か」

「はい。今日はおやつを我慢して食べてませんので、軽くイケるかと」

「考えただけで胸焼けするわ……」

 

 担当バを持った時期は違えど、二人は同期で且つウマが合う。

 なのでかなり親しげに会話が弾むが、

 

「ちょっとトレーナー、前進んだわよ」

「トレーナーさん、キングさんからメニュー表を頂きましたわ! どんなのがあるか見ましょう!」

 

 二人の愛バがそれを阻んだ。

 キングヘイローはカワカミプリンセスのトレーナーを嫌ってはいないのだが、ウマ娘並みの容姿端麗なヒトが自分のトレーナーと親しげにしているのを見るとモヤモヤしてしまう。

 一方のカワカミプリンセスは折角の寄り道デートなので、自分に集中してほしいといったところ。

 それぞれの愛バにグイッと体を寄せられれば、二人のトレーナーは話を切り上げ、愛バに集中するのだった。

 

 ◇

 

「持ってもらってしまってすみません、カワカミさん」

「い、いえいえ! お気になさらず!」

 

 先に並んでいたキングヘイローたちがクレープを購入して去ったあと、ようやくカワカミプリンセスたちの番になった。

 トレーナーは迷わずウマ娘用のメガテラクレープを頼み、カワカミプリンセスはストロベリー生クリーム。

 そして暫くしてウマ娘の販売員がクレープを両手に抱えて運んできた。これにトレーナーは目を輝かせたが、問題は重量があって持てなかったこと。

 なのでカワカミプリンセスがトレーナーの代わりに持つことにし、近くの公園のベンチに座って食すことに。

 

 ただ絵面はアレだが、カワカミプリンセス的には愛するトレーナーにダイナミックあーんが出来ているので、気分はとても高揚している。

 

「ふむふむ……美味しいです。しかし流石に生のニンジンは無理ですね。カワカミさん宜しければ食べてもらえますか?」

「へっ!?」

「ああ、クレープを持ってくれているのに食べ難いですよね。では失礼して……あーん」

「くぁwせdrftgyうまむすこlp」

 

 まさかの展開にカワカミプリンセスはお姫様らしからぬ雄叫びを上げた。

 一方のトレーナーはそんなカワカミプリンセスの奇行には慣れっこなので、微笑みを崩さずにニンジンを彼女の口元へと運んでいる。

 

「どうぞ、お姫様」

「は、はひ……あむっ♡」

 

 ぼりぼりぼりぼり、と甘い雰囲気に場違いな音が響いた。

 

「どう?」

「お、おいひぃでふわ……♡」

「うん、良かったです。まだまだありますからね……はい、あーん」

「あ、あーん♡」

 

 一度されてみるといつものニンジンより何千倍も甘く感じ、カワカミプリンセスは餌を待つひな鳥のようにトレーナーからニンジンを食べさせてもらうのだった。

 

 ◇

 

 クレープを食べ終え、時間もそろそろ寮の門限が近づいている。

 カワカミプリンセスはまさに夢見心地で、トレーナーの隣を歩いては、それで揺れるのとは別で尻尾がご機嫌に揺れていた。

 

「いやぁ、美味しかったですねぇ」

「は、はい……とっても……♡」

「また行きましょうね」

「はい……是非……♡」

「私、(甘い物が)とっても好きなんですよ」

「はい……ふぇ?」

「(甘い物が)好きなんです」

 

 トレーナーにそんな意図はない。

 しかし恋する乙女が誤解するには十分過ぎる。

 

「……と、トレーナーさんも?」

「はい。(甘い物が)大好きです」

「ぎょえぇぇぇぇぇっ!!!!!?」

「ど、どうしました?」

「だだ、だってトレーナーさんがっ!」

「あれ、意外ですか? 前から(甘い物が)好きなのは知っていると思っていたのですが……」

「ししし、知るわけありませんわ!」

「なら今日知ったということで♪」

 

 いたずらっぽくウインクして言うトレーナーに、カワカミプリンセスはフライング・ニーを受けたような衝撃を受けた。

 しかしここまで言われたら、お姫様たる自分も覚悟を決めるしかない。

 

「と、トレーナーさんっ!」

「はい?」

「わ、私も、(トレーナーさんが)大好きですっ!」

「わぁ、嬉しいです」

「ほ、本当、ですの?」

「はい。カワカミさんと同じだなんて本当に嬉しいです。これから色んなところに(甘い物を食べに)行きましょうね♪」

「っ……はい……はいっ!♡ 一生ついていきますわ! 愛しています、トレーナーさんっ!♡」

「ん?」

「どうしました?」

「いや、ちょっとベクトルが違うと思いまして……」

「そうですか?」

 

 違和感を覚えたトレーナーと不安そうに耳が垂れるカワカミプリンセス。

 その時、トレーナーに電流が走る―――

 

 

 

 

 

 やってしまった……

 

 

 

 

 

 ―――と。

 

 主語を抜いてしまっていたことで生じた誤解。

 自分は甘い物に対して好きだと言ったが、カワカミプリンセスはそうじゃない。

 前々から彼女の好意に気づいてはいたし、自分も彼女のようなパワフルなところに惹かれていた。

 しかし彼女は学生で、自分は社会人。ウマ娘とその担当トレーナーが付き合うことは世間でも至極当然のように有り得ることではあるが、彼は父に幼い頃から耳にタコが出来るほど言われていた―――

 

 

 

 

 

『ウマ娘に愛を伝えたら、それは一生もんだ』

 

 

 

 

 

 ―――だから生半可な気持ちで告げるな、と。

 

 なのに自分は誤解させるようなことをしてしまった。

 ウマ娘という生き物は一度絆を結んでしまえば、余程のことが起きない限り離れない。

 トレーナーは思わず天を仰いだ。

 

「トレーナーさん……?」

 

 不安そうに耳を垂らし、今にも涙が零れ落ちそうに、自分のことを呼ぶカワカミプリンセス。

 トレーナーは『ああ、彼女にこんな顔をさせてはいけない』と思い、すぐにカワカミプリンセスの前に片膝を突いて彼女の左手を取った。

 

「カワカミプリンセス」

「は、はい……」

「私が先程、好きだと言ったのは甘い物に対してです」

「…………ふぇ?」

「誤解をさせて大変申し訳ありませんでした」

「そ、そんな……」

「だから、改めて言わせてください。カワカミプリンセス。あなたを異性として愛しています。あなたが卒業したら、私と結婚してください」

「………………ぬぅ?」

 

 思考停止するカワカミプリンセス。

 しかしトレーナーに左手の薬指にキスをされた彼女は覚醒する。

 

「や、や……」

「カワカミさん?」

「やりましたわぁぁぁぁぁっ!!!!! ついに王子様ゲットですわぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 っしゃー!おらー!と渾身のガッツポーズを見せるカワカミプリンセス。それはさながら登り龍の如き、鋭いアッパーカットだ。

 その威力はボクシングヘビー級チャンピオンが放つアッパーを遥かに超えた破壊力。

 トレーナーは愛バの右拳に顎を粉砕……される前に持ち前の反射神経で回避した。いや本能的な危機回避と言ったほうが正しいだろう。何しろ回避したと同時に掠った髪の毛が数本はらりと落ち、頬に扇風機強程度の風を受け、冷や汗を乾かしてくれたのだから。

 

「(自分の命があって)嬉しいです……」

「はい! (トレーナーさんとお付き合い出来て)嬉しいですわ!♡ 愛してますわ、トレーナーさんっ!♡」

 

 ガシリッとカワカミプリンセスに抱きつかれたトレーナーは「くぇっ」と小さな悲鳴を上げて事切れた。

 

「や、やや、やっちまいましたわ! トレーナーさんっ! 死なないでくださいぃぃぃぃぃっ!」

 

 カワカミプリンセスは急いでトレーナーを担ぎ寮へと搬送し、寮長フジキセキが特別に寮の応接室に寝かせ、学園の医師を呼んだ。

 幸い彼の柔軟性が良くどこも怪我はなかったが、カワカミプリンセスは大変反省し、彼にだけは優しく抱きつくと誓ったという。




読んで頂き本当にありがとうございました!
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