掛かってしまっているかもしれません!《完結》   作:室賀小史郎

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自分のトレーナーが大好きなエルコンドルパサーのお話。


トレーナーさんとイチャイチャしたいデス!

 

 昼休み。

 悩めるウマ娘、エルコンドルパサーは途方に暮れる。

 

 彼女は今、困難という壁にぶち当たっているのだ。

 それは―――

 

「料理が上手くならないデース……」

 

 ―――料理スキルの改善だ。

 

 流石に友達であるキングヘイローのように殺人的不味さの品を作ることはないが、自分が自信を持って作れる料理と言えばどれも激辛料理。

 単にそういった辛さを加えることをしなければいいのでは?と思われるだろうが、辛さを抜くと他の美味しさも抜けてしまうというのが悩みの種なのだ。

 

「エルちゃん、大丈夫?」

「エルの料理指南は私でも難しいですからね……」

 

 そんな彼女を心配するのは普段から仲良しのスペシャルウィークとグラスワンダー。

 因みにいつも一緒にいることが多いセイウンスカイは自分のトレーナーがいるトレーナー室へ昼寝しに行き、キングヘイローは彼女たちから噴水を挟んで向かい側にあるベンチで自分のトレーナーに抱きしめられている。

 

 実は先程キングヘイローが泣きそうになっていたのを三人は心配して様子を見に来たものの、もうそんな心配は無くなった。

 そしてキングヘイローの料理スキルの話題となり、エルコンドルパサーは自分も料理は苦手だということを思い出したのだ。

 

「はぁ……エルも自分のトレーナーさんに愛バ弁当をプレゼントしてもっとエルに夢中になってもらいたいデース……」

 

 エルコンドルパサーは自分のトレーナーと付き合っていて、プロレス(健全)をするまでの仲良し度。

 しかし彼女もアスリートとは言えお年頃の女学生。恋人らしいイチャイチャもしたいのだ。

 

「慎ましやかに愛を育むのが一番ですよ、エル?」

「でもエルちゃんの気持ち分かるよ! 私もトレーナーさんと手を繋いで歩いたり、食べ歩きしてあーんしたりされたりしたいもん! グラスちゃんもそう思わない?」

「わ、私は……まあ否定はしません……」

 

 ポッと頬を桜色に染めて恥ずかしそうに返すグラスワンダー。

 それとは打って変わって、エルコンドルパサーは相変わらず顔色が良くない。

 因みにキングヘイローのお弁当の味見をしたスペシャルウィークのトレーナーは胃薬を服用して無事である。

 

「ふっふっふー♪ ここはセイちゃんが一計を授けてしんぜましょうかー?」

 

 そこへセイウンスカイが皆の前ににゅっと顔を出してきた。

 

「あれ、セイちゃん? お昼寝はもういいの?」

「またトレーナーさんに寝顔が可愛いと言われて逃げて来たのですか?」

「にゃ、にゃはは〜、何を言ってますやらグラスさんや、セイちゃんは逃げてましぇんとも〜……」

 

 明らかに動揺の色が隠せないセイウンスカイにグラスワンダーはフッと鼻で笑う。

 

「そんなことより、今はエルちゃんの方が先決でしょ? ね?」

 

 強引に話題を切り替えたので、グラスワンダーは「そうですね」と差し切り体勢を止めた。流石は乗り換え上手である。

 

「でも具体的にはどうするの、セイちゃん?」

「そんなの簡単だよ、スペちゃん。出来る人に教わればいいんだよ〜。おーい、そこのトレーナーさーん」

 

 セイウンスカイはあるトレーナーを呼んだ。

 それはスーパークリークのトレーナーだった。

 

「スーパークリーク先輩に用事があるんで、呼んでもらえませんかー?」

「ああ、分かった。今呼ぶ」

 

 スーパークリークのトレーナーは快く頷くと、その場に寝転がって「おぎゃーおんぎゃー!」と本気で喚き出す。

 その数秒後―――

 

「はぁい、トレーナーさぁん♡ ママでちゅよ〜♡ ちゃんとママのこと呼べていい子でちゅね〜♡」

 

 ―――おしゃぶりを持ったスーパークリークがトレーナーを抱き上げてあやし始めた。

 大の大人が……それもファンの間ではイケメンだと言われている彼女のトレーナーがおしゃぶりを咥えて、あやされている。

 誰もが目を疑う光景だが、トレセン学園の中にいる者たちにとってはいつもの光景だ。

 

「ちゅぱちゅぱ……クリーク、そこの子たちが君に用事があるそうだ」

 

 一心不乱におしゃぶりを吸っているかと思いきや、突然おしゃぶりをしたままキリッとした顔に戻して本題を述べるトレーナー。

 オンオフの様子が異質過ぎるものの、もう既に吹っ切れているトレーナーは強い。

 

「あら、そうなんですねぇ。私に何かご用ですかぁ?」

 

 トレーナーを抱っこしたまま、エルコンドルパサーたちの方に向き直って訊ねてくるスーパークリーク。

 

「エルちゃんにお料理教えてあげてください♪」

 

 セイウンスカイがそう頼めば、エルコンドルパサーは頭を下げる。

 当然、スーパークリークは二つ返事でそれを了承すると、夜にエルコンドルパサーが暮らす美浦寮に行くことを約束し、トレーナーを抱えたまま校舎へと消えていった。

 

「スーパークリークさんとそのトレーナーさんっていつも仲良しデスネ!」

「……闇が深過ぎる気もしますけど」

「まあまあ、愛の形はヒトそれぞれ〜。とにかく、これでエルちゃんの問題は前進したってことで♪」

「エル、頑張りマス! 愛するトレーナーさんのために!」

「頑張ってね、エルちゃん! 味見なら私に任せて!」

 

 こうしてエルコンドルパサーはやる気満々でその時を待つのだった。

 

 ◇

 

 その日の夜。

 スーパークリークはちゃんとフジキセキに外出届けを提出してから、美浦寮へとやって来た。

 寮の厨房にはエルコンドルパサーだけではなく、彼女を心配してグラスワンダーもいる。

 因みに味見役として行く気満々だったスペシャルウィークはサイレンススズカに「次、補習だったら大変よ?」と言われたことで諦めたそう。

 

「エルコンドルパサーちゃんは今までお料理をしたことはありますか?」

「アタシのことはエルで構いマセン! 料理は少しは出来マス!」

「エルの場合は、辛党なのでいつも独断により辛さを追求してしまって、とても彼女のトレーナーさんへ食べさせられる物にならないのが悩みなんですよ。また辛さを抜くとどういう訳か、仕上がりが残念な結果になります。全体的に味が薄くなってしまうんです」

 

 グラスワンダーが丁寧に補足すると、スーパークリークは「そうなんですねぇ」とにこやかに頷き、持ってきたレシピ本をパラパラと捲り始めた。

 使い込まれているのがひと目で分かるレシピ本。様々なページにはスーパークリーク自ら書き込んだメモがあり、その全ては自身のトレーナーが好む味付けや仕上がり加減だ。

 それを見ただけでエルコンドルパサーは『これがママ神のラブパワー……』と固唾を飲む。

 

「では実際に作っていきましょうか。私の言う通りの分量で作ってくださいね。悪いところはちゃんとその都度伝えますから。頑張りましょうね、エルちゃん」

「よろしくお願いシマス!」

「頑張ってくださいね、エル」

 

 こうしてエルコンドルパサーの料理特訓が始まった。

 流石に一日二日で上達するのは無理だったものの、エルコンドルパサーは愛するトレーナーのことを思い、一生懸命にスーパークリークからのアドバイスに耳を傾けた。

 彼女が素直で純粋なのもあり、一週間もすれば辛味を抜いても味付けがちゃんと出来るように成長するのだった。

 

 ◇

 

 スーパークリークからの料理特訓が終わり、エルコンドルパサーはとうとう自分のトレーナーへ愛バ弁当をご馳走する時を迎える。

 場所は二人きりで過ごせる彼のトレーナー室。

 意気揚々とトレーナー室へ入って行ったエルコンドルパサーだったが―――

 

「まったくお前は……なんだってそう俺のとこに来るんだ?」

「ピィーピィーピィー♪」

 

 ―――まさかの先客がいた。

 それはエルコンドルパサーが周りに内緒で飼っているコンドル(鷹)のマンボ。

 マンボはオスで普段は自由気ままに学園内を飛び回っているが、エルコンドルパサーがトゥインクルシリーズを終える頃にはトレーナー室にいることが増えた。

 何故ならマンボがトレーナーのことを気に入っているから。

 その証拠にマンボはたまに鳴きながら、ずっとトレーナーの膝上や肩に乗って、彼の耳やら鼻やら髪の毛やらをくちばしで啄んでいる。

 勿論軽くなので痛くはないが、これはマンボなりのコミュニケーション。

 

「マンボ! トレーナーさんから離れるデース! トレーナーさんはアタシのデース!」

 

 エルコンドルパサーはマンボへそう言うものの、マンボは彼女の方へ一度視線を向けただけで、そのあとはすぐにトレーナーの方へと視線を戻してしまう。

 

「ほら、マンボ。飼い主の言うことを聞け。飯抜きにされると困るだろ?」

「ピィーピィー!」

「いや、鳴きながら俺の頬をつつくな。うわっ、んんっん!?」

「マンボー!」

 

 エルコンドルパサーは即座にマンボをトレーナーから引っぺがし、窓の外へと放り投げた。

 優雅に飛び立つマンボだが、すぐにまた窓辺に止まり、トレーナー室へと降り立つ。

 エルコンドルパサーがマンボを放り投げたのは、マンボがトレーナーの唇を啄んばからだ。

 そこに触れていいのは自分だけ。故にエルコンドルパサーは怒ったのである。

 しかしマンボは何食わぬ顔でまたトレーナーの肩に戻ってきた。

 

「マ〜ン〜ボ〜……トレーナーさんはアタシのデース!」

「キィー! キィー!」

「むむむっ! 人を見る目は認めマス……ガ! トレーナーさんはアタシの(つがい)なんデース! 邪魔しないでー!」

「耳元で怒鳴り合わないでくれ……」

 

 トレーナーの注意も虚しく、エルコンドルパサーとマンボは数分間も口論(?)を続けるのだった。

 

 ◇

 

「……あ〜、まだ耳がキンキンする」

「ゴ、ゴメンナサイデス……」

 

 一頻り主人と戯れて満足したのか、マンボは上機嫌にトレーナー室から飛び去った。

 しかしトレーナーは耳を押さえて眉をしかめている。

 

「まあ今に始まったことじゃないしいいさ。マンボがやんちゃなのは飼い主譲りだし」

「あぅぅ……」

「で、昼休みに用事があるって連絡は受けたけど、何かトレーニングのことで相談か?」

「あ、え、えっと……」

 

 トレーナーの言葉でやっと本来の目的を思い出したエルコンドルパサー。

 しかしいざそうなってみると、変に緊張してしまって口籠ってしまう。

 

「言い辛いことなのか?」

「あ、あい……あいあい……」

「おさーるさーんだよー?」

「あ、ああ、愛バ弁当を作って来マシター!」

「…………Oh、また耳にダイレクトアタックを……」

「ゴ、ゴメンナサイデス!」

 

 突然の大声にまたも耳が痛くなるトレーナー。

 エルコンドルパサーはなんとかして彼に謝意を伝えたくて―――

 

「はむっ、ちゅっ……ちゅぱっ、れろれろ……」

 

 ―――彼の左耳を優しく舐め始めた。

 

「うぉっ!? 何すんだよ!?」

「えっと、その……舐めたら癒えるカナって?」

「んなことしなくていい!」

「……でも、トレーナーさんの鼓動の音、激しいデスヨ?」

「そりゃ、彼女からいきなり耳舐められたら驚くだろ!」

「あぅぅ、ゴメンナサイデース……」

「……はぁ。で、愛バ弁当食わせてもらえるのか?」

「あっ、はい! 勿論デスヨ! クリーク師匠に教わって、グラスやスペちゃんからも合格を貰えました!」

「エルの手料理を食わせたのか? 俺以外のやつに?」

「……♡」

 

 トレーナーが見せた唐突な独占欲に、エルコンドルパサーは思わず背筋がゾクゾクとする。

 彼は普段余裕のある大人に見えて、彼女へ対する愛情はかなり強く、それがエルコンドルパサーを虜にしているのだ。

 

「ほ、本番は今からデスヨ?♡」

「そうか。可愛いエルのことになるとつい本音が出ちまう」

「デヘヘ……エル、幸せデ〜ス♡」

「にしても、エルにしては珍しく、素直にイチャイチャしたいって伝えてきたな」

「ケッ!? 何故それを!?」

「愛バ弁当を作る。俺とイチャイチャする口実が出来る。相変わらず回りくどいけど、可愛いから良し!」

「〜〜〜っ♡」

 

 素早くトレードマークのマスクを外され、両手で頬を優しく包み込まれ、愛情深く囁かれるエルコンドルパサー。

 既に彼女の瞳はトレーナーのことしか映っておらず、ハートマークが浮かんでいる。

 

「愛してるよ、エル。さあ、エルの愛バ弁当を食わせてくれ」

「は、はい……でも、その前にアタシもマンボみたいにトレーナーさんの唇を啄んでいいデスカ?♡」

「マンボばっかりずるい? でもあいつはオスだろ?」

「分かってるくせにぃ……イジワルしちゃやぁデスゥ♡」

「ごめんごめん。食前にエルが俺の唇を味わうなら、食後はエルの唇を味わっていいってことだよな?」

「……♡」

 

 エルコンドルパサーは小さく、しかししっかりとトレーナーの目を見て頷いた。

 するとトレーナーは微笑み、エルコンドルパサーはゆっくりと愛するトレーナーの唇を啄むのだった。

 当然、お弁当の味も申し分なく、明日はトレーナーがお礼にお弁当を作ると約束してくれた。

 

 その後、教室に戻ってきたエルコンドルパサーはフニャフニャになっていたので、グラスワンダーから友として背中に喝を入れられたという。




乙女なエルちゃんっていいですよね?

読んで頂き本当にありがとうございました!
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