掛かってしまっているかもしれません!《完結》 作:室賀小史郎
今年最後の更新となります。
ある日の昼。
今日はレースもトレーニングも無くお休みとなったスーパークリークは、普段から仲の良いタマモクロスとオグリキャップが過ごす部屋にお邪魔していた。
そこへイナリワンも加え、いつもの仲良しメンバーで今日はたこ焼きパーティをしているのだ。
タマモクロスたちも今日は予定が空いていたので、少し前から今日の計画を練っていたのである。
因みに材料費は全て割り勘だが、オグリキャップのみ追加で自分が食べる用の材料を用意済。
「この日のためにウマ印の大型炊飯器をカフェテリアで借りてきた」
テーブルの横に堂々と鎮座する十升炊きの炊飯器は既に炊き上がり、保温モードに入っていた。
「オグリは分かっとるなぁ。おっと、イナリとクリークはこっちの炊飯ジャーの方を好きに食ってええで。米は奢りや」
タマモクロスはそう言って普通の五合炊き炊飯器をペシペシと叩く。
対してイナリワンもスーパークリークも特にたこ焼きをおかずに米を食べる習慣がないので、たこ焼きのみを楽しむ所存。
「ほな焼いてくで!」
「タマ公がいりゃあポンポン焼き上がるから楽でいいねぇ!」
「イナリも手伝えやボケぇ!」
「あたしがやるとてめぇが口うるさくしゃしゃり出てくるだろ!」
「油注いで揚げだこにしようすんのが悪いんや!」
きゃいきゃいと口論しつつも、タマモクロスの手は見事なまでにたこ焼きを焼き上げているし、イナリワンは皿に乗せられるたこ焼きにソース・青のり・マヨネーズ・鰹節とトッピングしていく。
なんだかんだ二人の友情コンビネーションは天下一品なのだ。
「美味いっ!」
そしてオグリキャップはイナリワンがトッピングし終わると同時にそれを口に運び、丼飯を掻き込む。
傍から見ればたこ焼きパーティではなくオグリキャップのたこ焼き大食いチャレンジ状態だが、今に始まったことでもないのでツッコミは入らない。
そもそもオグリキャップも他のみんなが食べられるようにセーブしているし、今日は既に底入れとして自分のトレーナーお手製のおにぎり(三合飯)を3つ10時のおやつに食べてきている。
「………………」
ただそんな和気あいあいとしているパーティの最中、未だ何も口を開かずにいる者が。
それはスーパークリーク。いつもの彼女ならば何かと世話を焼いてタマモクロスやイナリワンに食べさせたり、オグリキャップの丼にご飯を盛ったりしているのに、本当に今日は何も手につかないと言った様子。
目の前にあるたこ焼きにも手をつけておらず、
「……なあ、場が盛り下がるさかい、辛気臭い顔すんなや」
とうとうタマモクロスがその手を止めてスーパークリークに詰め寄った。
「あ……ごめんなさい」
「謝られても困る」
「おうおう、クリーク。いつものおめえさんにしてはおかしいだろ。こっちの調子狂う。なんか心配事でもあんのかい?」
しょんぼりと耳を垂らすスーパークリークにイナリワンが優しい声色で訊ねる。
するとスーパークリークはぽつぽつと理由を話し始めた。
「実は今日、私のトレーナーさんもお休みなんです」
「そらクリークが休みなんやからそのトレーナーも休みやろ」
「はい。なので本当なら私がお世話したかったんです。ですが、今日は先約があると断られてしまって……」
「ほーかほーか……ってなんでそれだけでそこまで沈んどんねん!」
タマモクロスの渾身のツッコミが炸裂するが、イナリワンが冷静に「まあ、待てよタマ公。なんか訳ありってニオイがする」と宥め、スーパークリークを促す。
「その先約ってぇのはなんだったんだよ?」
「それが……トレーナーさんの実のお姉さんのお子さんを今日から連休最終日まで面倒を見るんだそうです……」
「は?」
「あん?」
タマモクロスもイナリワンも首を傾げてしまった。何故ならもっと深刻なことなのかと思っていたから。
そもそもスーパークリークとそのトレーナーはお互いを甘やかす存在。
故に彼女のトゥインクルシリーズが終わったと同時に、どちらが言うまでもなく当然のように恋仲になっていた。
スーパークリークの彼に対する溺愛加減は尋常ではなく、誰もが憧れるカップルであり、誰もがこうなってはいけないと畏怖するカップルなのだ。
「クリークは自分のトレーナーのことがとても好きだからな。だからトレーナー一人で親戚の子どもの面倒を見ると言われたのがショックなんだろう」
黙々とたこ焼き丼を食べていてもちゃんとスーパークリークの話は聞いていたオグリキャップがそう言うと、タマモクロスとイナリワンは『ああ』と納得がいった。
トレーナーなら頼ってくれると思っていたスーパークリーク。なのに彼は自分を頼らなかった。だからこそ気持ちが沈んでいるのだ。
「せやけどなぁ、親戚の子ぉにまであのベイビーモードは見せたないやろ」
「だなぁ。あたしらは見慣れてるからいいっちゃいいが、傍から見りゃやべえもんなぁ。しかも親戚の子どもとなると……。というか、タマ公、ビーストモードみたいな言い方はやめろい」
「私は二人が仲良しで見ていて微笑ましいぞ?」
「おかしいわっ!」
「異常でえいっ!」
オグリキャップに高速でツッコミを入れるタマモクロスとイナリワン。
「こほん……なあ、クリークよぉ。別にトレーナーはお前さんを頼りにしてない訳じゃぁねぇと思うんだ。そもそもクリークはあたしらとたこパするってぇのはあちらさんも知ってたんだろ?」
「はい」
「ならクリークのことを考えてそうしたってこったろ。そんなにショックなら明日にでもお世話しに行きゃあいい。お前さんは頼まれてなくても押し掛けるだろう?」
「……でも、私……こんな気持ち初めてで……」
スーパークリークの言う『こんな気持ち』がいまいち掴めず、タマモクロスが「こんな気持ちぃ?」と訊き返すと、
「私、その親戚のお子さんに嫉妬してるんです……トレーナーさんを取られてしまったみたいで……」
なんて言うものだからこれにはイナリワン共々あんぐりと口を開けてしまった。
一度そのことを吐露すると、スーパークリークのオーラは徐々に湿度を高めていく。
「愛するトレーナーさんが親戚のお子さんとはいえ、面倒を見ているんです。なのに私はそれを褒めてあげられないし、労ってもあげられない。トレーナーさんがその子を褒めたりしたら、それが良かったことだと誰が褒めてあげるの? ご飯をその子に食べさせてあげて疲れたトレーナーさんに、誰がご飯を食べさせてあげるの? 私がいればそう出来るのに……」
湿度マシマシで眼差しも光りを失うスーパークリークは、ブツブツとつぶやきながらエアなでなでしたり、エアあーんをしたりと末期症状が出始める。
タマモクロスとイナリワンは『これはまずい』と戦慄した。
何故ならそのエア甘やかしが最終段階に達すれば、エアではなくターゲットが自分たちになるからだ。
どうやってそれを回避しようかと有馬記念さながらの思案を巡らせていると、
「すまない。楽しんでいるところ申し訳ないが、寮内に匂いが充満している。中止にしろとまでは言わないが、もっとしっかりと換気をしてはもらえないだろうか」
「ごめんよ、ポニーちゃんたち。でもこのままだと寮中にたこ焼きの匂いが染み込んでしまうからね」
エアグルーヴと寮長フジキセキが注意をしに部屋へやって来た。
タマモクロスとイナリワンは『助かった!』と思う。
「あ、ああ! 悪かったなぁ! 今、窓全開にするわ!」
「それより大変なんでい! お二人さん、あたしらを助けると思って、ちったぁ話を聞いちゃぁくれねぇかい!?」
『?』
エアグルーヴたちは首を傾げながらも、イナリワンに手を引かれて入室し、たこ焼きを出され、スーパークリークのことを聞かされる。
フジキセキは「なるほどね」とスーパークリークの乙女らしい悩みに微笑むが、
「たわけが。そんなつまらんことで友の心を掻き乱すな」
エアグルーヴは一喝した、
当然だ。エアグルーヴもスーパークリーク程ではないにしても、自分の担当トレーナーを好ましく思っている。ならば好いた男へ女がしてやるべきことは一つ―――
「今からトレーナー宅に行って世話を焼きに行けば解決するだろう。貴様は普段からそうしているのに、何故それをしない」
―――好いた相手に手を抜くな。
そうエアグルーヴは一喝したのだ。
「エアグルーヴさん……」
「嫉妬がなんだ。嫉妬を自覚したのであれば、貴様なりのやり方で解消すればいいだけのことではないか。それに貴様のトレーナーはウマ娘の世話は慣れていても、子どもの面倒は慣れていないのだろう? それを助けてやればいい」
エアグルーヴに言われ、スーパークリークの眼に光りが戻る。
戻ると彼女はすぐにその場から立ち上がり、魔王の如き速さで愛するトレーナーの元へ駆けて行った。
そんな彼女を見て、エアグルーヴは「たわけが」と優しい声色で見送る。
「エアグルーヴにしては珍しいね。君もそれくらい自分のトレーナーさんに素直だといいのに」
「余計なお世話だ」
「まあクリークはもう安心やな! 気ぃ取り直してたこパ再開や! お礼に二人も食ってってや!」
「クリークが抜けたから食ってくんねぇ!」
「私はまだまだ余裕なのだが?」
「オグリはセーブモードでええねん!」
「二人はお客さんでえい!」
「むぅ……仕方ない」
こうして残されたタマモクロスたちは、窮地を救ってくれたエアグルーヴとフジキセキに美味しいたこ焼きをご馳走し、二人はそれを有り難く頂くのだった。
◇
「おいちゃん、おしてー!」
「はいはい。しっかり掴まってるんだぞ?」
「はーい!」
「それー!」
「きゃー☆」
トレーナーは姪っ子を連れて公園へとやって来ている。
姪っ子は人間の女の子で、4歳になる。トレーナーには良く懐いているのもあり、両親と離れても明るく遊ぶ。
そして今は大好きなブランコの真っ最中。
「もっとー!」
「ほいさ!」
「もっとー!」
「あらよ!」
「たかいたかーい♪」
「そうかそうか」
(元気だなぁ。でもこれ案外腰に来るんだよなぁ。責任持って面倒は見るけども……)
日頃のデスクワークで最近は腰痛気味のトレーナー。
なので子ども特有のパワフルさと、彼元来の面倒見の良さで程々に手を抜くというのが出来ない。
トレーナーが腰痛を我慢していると、
「トレーナーさん!」
「え、クリーク? どうして……?」
スーパークリークがトレーナーの匂いを辿って彼の元へと参上する。
トレーナーは心底驚いているが、対するスーパークリークはいつも以上に眩い微笑みを浮かべていた。
「あー! スーパークリークだー!」
姪っ子はスーパークリークの大ファン。
目の前に本物が現れたことで姪っ子はブランコの持ち手を離してしまった。
「きゃー!」
「危ないですよぉ? お怪我はありませんかぁ?」
しかしスーパークリークが持ち前の身体能力を発揮して、難なく姪っ子を抱き止める。
姪っ子は怖かったのと、大好きなスーパークリークに抱っこされているのとで感情がぐちゃぐちゃになり、泣いてしまった。
それでもスーパークリークは持ち前のあやしスキルで姪っ子を宥め、泣き止ませる。
「次からは手を離しちゃダメですよぉ?」
「はぁい……」
「うん、いい子いい子♪」
「えへへぇ♪」
スーパークリークに頭を撫でられ、ご機嫌になる姪っ子。
トレーナーはそんな二人を見て、優しく微笑んだ。
「で、クリークはどうして俺たちのとこに? 今日ってタマモクロスたちと約束があったはずだが?」
「はい、そうなんですけど……私、トレーナーさんの……あなたのお側に居たいんです」
「……一緒に面倒見たくて仕方なかったってことでいいのか?」
「違います。確かに面倒を見たい気持ちもありますが、この子の面倒を見てるあなたを甘やかしたいんです。私はあなたの愛バですから」
「クリーク……」
スーパークリークは姪っ子を抱きかかえたまま、トレーナーのすぐ目の前まで距離を詰める。
「私、あなたのこと愛してるんです。ですから、私をどんな時でもお側に置いてください」
そう言うと彼女は『お願いします』と乞うように、トレーナーへ口付けた。
「んっ……いいですよね?」
「こんなことまでされて断れる訳がない」
「んふふ♡ そういう優しいところ、大好きです♡」
共に頬を赤く染めて笑い合っていると、
「おいちゃんとスーパークリークけっこんするの?」
一部始終をバッチリ見ていた姪っ子が純粋な気持ちで質問する。
スーパークリークは『やっちゃった』と反省したが、
「ああ、そうだよ。もう少し先になるけど、俺たちは結婚するんだ」
トレーナーの返答にスーパークリークは思わず息を呑んだ。
つまり、今この瞬間、彼女はトレーナーからしっかりと気持ちを返してもらえたから。
「わぁ! すごいすごーい!」
対して姪っ子は大興奮。会えばいつも遊んでくれる大好きな人と、とっても走るのが早くて大好きなウマ娘が結婚するのだから、姪っ子としては嬉しいことだらけだ。
「と、トレーナーさん……♡」
「嫌とは言わせないぞ? 俺をこんな男にした責任はきっちり取ってもらわないと」
「……はい♡」
「俺だってクリークが側にいないと寂しいからな」
「もう、離してあげませんからね……♡ ずっと一緒です♡ ずっと、ずうっと♡」
「ああ」
こうしてスーパークリークは嫉妬心がすっかりと解消され、幸福感に包まれた。
その後スーパークリークはフジキセキに連絡を入れ、連休中は外泊する旨を伝え、一足も二足も早い、家族生活を満喫したのだった。
でも―――
「あなたぁ、いい子いい子〜♡」
「ばぶばぶ♪」
「愛してます、あなた♡」
「ああ、俺も愛している」
―――姪っ子が寝入ったあとで、うんとでちゅね遊び(新婚設定)もしていたという。
大の大人が少し大人びた女子学生に赤ちゃんのように抱っこされたまま愛を囁き合うのはかなり異様な光景ではあるが、これが二人の愛の形なのだ。
読んで頂き本当にありがとうございました!
そして皆様、良い年末年始を!