アクセル・ワールド・アナザー 曼殊沙華には祈らない 作:クリアウォーター
第十六話 アイスブレイク・ダイヤモンド
『不思議の国のアリス』という、英国の児童小説がある。
原作小説を読んだことはなくとも、絵本やアニメーション、実写映画などの様々な媒体で目にした日本人も多いだろう。ゴウもまだ幼児だった頃に、読み聞かせの機能が付いた絵本アプリに入っていた物語の一つとして読んだことがある。
ざっくりとした概要は題名にもあるように、少女アリスが不思議の国に迷い込み、様々な奇妙奇天烈な登場人物と出会いながら、不思議の国を冒険していくというものだ。
そんな物語の中でアリスは、何度も体が小さくなったり、大きくなったりする羽目になる。
原因は興味本位や止むを得ない理由から、不思議の国のケーキを食べたり、キノコを食べたり、そして小瓶に入った液体を飲んだり。
ゴウはこの物語に特別な思い入れがあるわけでもないので、詳細はうろ覚えなところも多い。
だが、少なくとも瓶の中身を口にしたアリスが、怪物に変身する場面がなかったことだけは、今でもはっきりと断言できる。
冷気は今や、吹雪と呼べる規模にまで勢いを増していた。《氷雪》ステージは時折吹雪くこともあるが、それでもここまで激しいものにはそうそうならない。
そんな吹雪の発生源であるアイリス・アリスは、対戦当初の少女型アバターであった面影は全く残っていなかった。
こちらを簡単に鷲掴みできる手と鋭い爪に、太く長い腕。
背中には棘付きの湾曲した突起が何本か生えている他、用途不明なレイピアか槍のような、武器らしきデザインの物体が複数本刺さっている。
逞しい体つきをした全身は、ハート型の柄をしたリボン状の模様が巻き付くように走り、頭部から長く伸びる耳らしき突起を差し引いても、全長は優に四メートルを超えている。
ただし体は上半身までしかないらしく、胴周りは冷気によって発生した氷が逆立ち、雪上から生えるような形になっていた。
吹雪を振り撒く、氷と巨人とウサギをミックスさせたような怪物に姿を変えたアリス。そんな彼女が頬まで裂けた大口を開けて吼えると、ギャラリーの一人である、アリスの《親》と思わしき竜人型アバターが声を張り上げる。
「いっけぇー! 《ミーちゃん》モードで反撃だぁ!!」
他のアバターも続けて歓声を上げた。
つまり先程までの静寂は、固唾を呑んでこの展開を期待していたということなのだろう。
ピンチからの逆転という展開は、対戦で最高に盛り上がるパターンの一つである。
──ミーちゃんって、さっきの《イート・ミー》ってコマンドから来てるのかな……。
何故かそんなどうでもいいことがゴウの頭に浮かんでいると、頭上から巨大な握り拳が降ってきた。
「うっ……!? ぐぅううっ!」
ゴウは金棒《アンブレイカブル》の両端を持つ形で頭上に掲げ、アリスの一撃を受け止めようとしたが、接触した瞬間に片膝を着いた。
──さっきのハンマーよりずっと重い!
同レベル帯のデュエルアバターとの純粋な力比べで競り負けたのは、ゴウには随分と久し振りのことだった。この対戦開始の時点では考えもしなかったことだ。
そんなゴウに、今度はもう片方の腕が振り下ろされる。衝撃が全身に一気に伝わっていく中で、すでに高々と持ち上げられているアリスの片腕が見えた。
このままでは《アンブレイカブル》はともかく、手足の方が保たない。ゴウは次の攻撃が来る前に、自分を押し潰そうとしているアリスの握り拳から脱出しようと立ち──。
「っ!? 氷が……」
アリスが怪物の姿で顕現した状態になってから一層強くなった吹雪は、先程よりも地面を通して凍結する勢いも早くなっていた。
接地している右足裏と左脚の膝から下を包みかけている氷を、ゴウは力尽くに引き剥がし、間一髪でアリスの拳を避ける。そのまま片脚を軸に半回転し、その太い腕めがけて金棒を叩き込んだ。
弾かれる怪物の腕。しかし、クリーンヒットした一撃であるのにもかかわらず、ダメージはほとんど与えられていなかった。感触はまるで、緑系のぶ厚い装甲部分に攻撃した時のようだ。
不意に、下から掬い上げるように繰り出されたアリスの左手の甲が、ゴウの体を宙に浮かせた。
「あっ」
その拍子に手から離れる金棒。仰け反る体。真上から降ってくる、怪物の掌。
「ぐっ、ああああああ!!」
雪上に叩き付けられ、そのままプレス機ばりの圧力によって、ゴウの残り体力がじりじりと減少していく。まるで質量を伴った、寒風そのものを押し当てられているかのような冷たさを感じる中、実際に接触面から体に氷が張り付き始めていた。アリスはこのままこちらを押し潰す魂胆らしい。
「さ……せる…………かあああっ!!」
ゴウは下敷きにされなかった両腕の肘から先を動かし、アリスの左手を左右から掴むと、渾身の力を込めて持ち上げにかかった。
予想外の抵抗にあったからか、一瞬だけ力が緩んだアリスの隙を突き、ゴウは更に持ち上がったアリスの左手と地面の間に、両脚を折り曲げて滑り込ませる。
そうして四肢で同時に、一気に押し上げることで巨大な手を跳ね除けた。すぐさまその場を転がり、立ち上がる。
絶体絶命の状況下から逃れたことで、ゴウの脱出劇にギャラリーからどよめきの声が広がった。
「マジか、《反転》状態のアリスちゃんだぞ!?」
「吹雪と氷が動きを妨害するのに、よくあそこまで動けるな、あいつ。この辺のリンカーじゃないだろ。どこのレギメンだ?」
「あたし聞いたことある。確か世田谷の──」
──反転……? そうか、そういうことか。
ギャラリーの発した一つの単語が耳に届き、ゴウは合点がいった。
あの状態のアリスはただ変身したのではなく、アバターとしてのパラメーターが反転しているのだ。
少女型だった時は敏捷性に極振りだったパラメーターは、今の怪物形態になることで攻撃力と防御力が跳ね上がった強靭な体へと変化する。
代償としてそれまでのスピードは失われ、下半身がないことからその場を動けなくなるか、這って動くことしかできないのだろうが、その鈍重さをカバーするのに吹雪を常時発生させて相手の動きを阻害する。
変身時には必殺技ゲージを全て消費していたが、元に戻るときも同じようにフルチャージする必要があるのか、それとも一度変身したら対戦中は戻れないのかまでは不明。
ただ、今のゴウにとって、そこはどうでもよかった。
現在ゴウは胴体を基点に、あちこちの装甲はヒビだらけ、胴体正面の全てと背面の一部に至っては、装甲が完全に破壊されて素体が露出している。
圧力に強いダイヤモンド装甲も、強力な打撃攻撃によって一度亀裂が走った部分に負荷が加わってしまうと、割とあっさり砕けてしまうのだ。
──ここまで全身ボロボロになったのは久し振りだな。
現在ゴウの体力は残り四割弱。アリスの体力は残り二割半近く。
ゴウはこの状況を、あまり悪くは受け取っていなかった。体力的にはまだ有利だから、ではない。この吹雪の中から離脱して逃げ切ることができれば、こちらの判定勝ちになる可能性が高いから、でもない。
今日この時間、練馬区で加速してマッチングリストに名前が表示されていなければ、もしかしたらアイリス・アリスというバーストリンカーを知る機会はなかったかもしれない。
相手は条件があれども、己の得意分野である力比べにも勝る怪力。
こんなバーストリンカーもいるのかと、加速世界の一期一会の貴重さを実感する。
これに挑んで勝利ができたのなら、さぞ達成感があるのだろう。
バーストリンカーであれば誰しもが対戦で勝利を望むものだが、対戦でのぶつかり合いに重きを置いているという点が、加速世界において師匠と呼ぶ男と、知らず知らずの内に似通ってきていることをゴウは自覚していない。
一方、アリスはこちらに注意を向けつつ、ゴウが手放してしまった強化外装、《アンブレイカブル》を殴りつけて破壊を試みていた。しかし金棒は何度殴っても壊れず、今度は拾い上げて両手で折りにかかっても砕けず、いよいよ業を煮やしたのか、ギザギザな牙が並んだ口で齧りついている。
その奮闘する様子に、当初は恐ろしげだった見た目が、ゴウにはどこか愛嬌も含んでいるように見えてきた。
「今の状態の君でも、それを力尽くで壊すのは骨が折れるよ」
ゴウの指摘に、アリスは齧るのを止めて数秒だけ金棒を凝視すると、ぽいと投げ捨てる。中量級アバター一体分並みに重い《アンブレイカブル》は放物線を描きながら、アリスの後方数十メートル先まで飛んでいってしまった。やはり相当な腕力である。
ただ、今回の対戦の残り時間は、素手で行うとゴウは決めているので問題ない。この身だけで勝利する算段はついた。
「さぁ、第二ラウンドだ。いくぞ!」
足に氷が張り付かないように、会話の最中もその場で足踏みし続けていたゴウが一歩を踏み出していくと、アリスも即座に腕を振り上げた。
ゴウは振り下ろされた右腕も、横なぎに掴まえようとしてくる左腕も躱し、アリスの懐に潜り込む。長い腕を戻すまでの合間は必殺技を放つチャンスである。
「《アダマント・ナックル》!」
地面に張られた氷を踏み砕き、鬼の上段正拳突きが怪物のマッシブな胴体に打ち込まれた。
「ッッッ……!?」
ゴウの上方から、唸り声と呻き声が混ぜ合わさった吐息が聞こえてくる。
いかに緑系の装甲並みに頑健な体でも、鳩尾に一撃を入れれば有効だ。他のデュエルアバターに比べると少ないが、確かにダメージが入ったその時──。
「うわっ!?」
アリスの胴体周りに発生している氷が一層隆起した。
ゴウが慌てて飛び退き、尖った氷の群れを回避すると、巨大な右手に左脚を太腿までがっちりと鷲掴みにされる。
「しま──ぁぁあああああぁぁ──がはぁっ!!」
不覚を取ったことを自覚した瞬間、ゴウはアリスに高々と持ち上げられ、フリーフォール顔負けの勢いで雪が固まった氷上に叩き付けられた。今度はゴウの口から呻き声が漏れる。
相手の脚を掴んで持ち上げて、地面に叩き付ける。膂力が持ち味のダイヤモンド・オーガーがこれまでの対戦で散々使ってきた戦法だ。
確かにこれは痛いと、体力ゲージの減少を確認しながら、内心で不条理具合と有効さを実感する。
しかもこの戦法は基本的に一度では済まない。再びゴウの体が地面から剥がされ、続けて叩き付けようとするアリスの腕がすぐに持ち上がっていく。
これを阻止するべく、ゴウは額に伸びる右角に手をかけた。脱出のチャンスは一度のみ。
──二度続けては……食らわ……ない!
ゴウが右手で角を固く握り締め、歯を食いしばって一息で腕を下へ引くと、嫌な感触と同時に半ばまで角が折れた。先程のハンマーの一撃でダメージを受けていなかったら、こんなすぐには折れなかっただろう。そこは不幸中の幸いだ。
そして、アリスの腕の高さが頂点まで到達し、勢いよく振り下ろされるまでの一瞬。
体が浮遊感に包まれたのを見計らい、ゴウは折った角をアリスに向けて投げつけた。
「ッ!?」
角の破片が右眼に刺さりまではせずとも命中したことで、怯んだアリスの握力が一瞬弱まり、ゴウは巨大な手から左脚を引き抜いて逃れることに成功する。そのままアリスの頭上に落ちながら、ゴウは右腕を腰元まで引き──。
「《アダマント・ナックル》!」
アリスの脳天に、エフェクトが輝く拳の正拳突きが決まった。
それから反撃をされないように、ゴウは速やかにアリスの長い耳──引っ張ると普通に曲がったので、やはり角ではなく耳らしい部分を掴み、着地の補助にしながら体勢を整える。
ゴウの思った通り、今のアリスは相手から近接戦を仕掛けられるのに、慣れていないようだった。おそらく今までは、この形態になればほとんど一方的に勝利を収めてこられたのだ。
もちろん相手が吹雪の範囲外から攻撃できる遠隔系などの場合はその限りではないのだろうし、勝利への後押しや決め技としての変身をするものなのだろうが、ゴウがこれまで相手にしてきた格闘型アバター達に比べると、動きの洗練さは数段劣る。
通常の少女型のときであれば容易く回避できる攻撃も、小回りが利かなくなった大きな体では受けざるを得なくなり、アバター自身の頑丈さに頼っている面が大きい。
更にはこれまでの攻撃パターンは、腕を振り上げて地面に向かって殴るか押し付ける、または横から掴もうとする動きにほとんど限られている。
これは相手を殴り飛ばすなどして間合いの外に出した場合に、一撃で勝負を決められなかったり、体力差でまだ相手の方が有利であれば、機動力がほぼゼロな自身が追撃するまでに逃げられてしまう恐れがあるからだろう。故に最低でも、吹雪の外へ逃がすことはない攻撃しかしてこなかった。
もっとも、互いの体力ゲージが残りわずかになったこの状況なら、もうその限りではない。
ゴウの体力、残りおよそ二割半。片やアリスの体力、残りおよそ一割強。
二人は極低温の寒風吹き
耳元を駆け抜ける風によって、ゴウには周囲のギャラリー達が何を言っているのかほとんど聞き取れないが、声の様子からして一進一退の対戦を楽しんでいるようだった。
足踏みをしながら目線の高いアリスの頭部を見据えると、その裂けた口が吊り上がる。それだけで、戦い始めてからほぼ物を言わなくなった彼女も、対戦を楽しんでいることだけはゴウにも伝わった。きっと、対戦序盤で目にした笑顔も見間違いではなかったのだろう。
──この一合で勝負が決まる。
そう悟ったゴウが足を一歩前へ踏み出した瞬間、この対戦でアリスが初めて右腕を後ろに引いた。
今の体力で受け切るのは不可能。大きく避けてはもう片方の腕が来る。紙一重で避けて攻撃に移ることしか、ゴウの選択肢には残されていなかった。
本来の動きを出させまいと纏わりつく雪風を全身に浴びながらも、ゴウは前進を止めない。
力を溜め終えて迫る大質量の右ストレートを、よく見る。見る。見──極める。
ゴウはアリスの拳へ接触する瞬間、少しだけ右方向にスライドし、曲げた左腕を前に構えた。
相手の攻撃を真芯ではなく、端を掠めるようにして軌道を逸らす。
かつてレベル3の頃に伸び悩み、相手の攻撃を『受け止める』ことしかしてこなかったゴウが、次のステップへ進む為に扱うようになった『受け流す』技術が、ここでも活きた。
結果として、二の腕の半ばまでもぎ取られた左腕と、その分の体力を犠牲にしながらも、ゴウはアリスの攻撃を逸らし、切り抜けることに成功した。
この一撃でアリスは大きく前傾姿勢を取っており、姿勢制御で食い込まんばかりに氷上へ爪が突き立てられている左腕は、即座に持ち上げることはできまい。
勝機は今。そう確信したゴウは、一つだけ失念していた。
アリスの必殺技ゲージの使用用途が、なにも怪物の姿への変身だけとは限らないということを。
「《スノウ・デビル》……!!」
多分にエフェクトのかかった少女の声が響くと、アリスを中心とした全方位に《暴風雨》ステージばりの突風が巻き起こる。それに並行して、今まで以上の速度でゴウの足下から氷が這い上り始めた。
──しまった、ここで必殺技……! 駄目だ、立ち止まったら負ける!
ここまでくればもう一か八かしかないと、負けじとゴウも必殺技を発動する。
「《ランブル・ホーン》!!」
途端にゴウは両脚へ更に力を込め、自分をその場に縫い留めようと暴れ狂うブリザードを受けながらも進撃を再開する。
右の角を根元近くからへし折ったことで、アンバランスな形で伸びた両角が目指すのはアリスの左胸──急所の心臓部。
そこからの記憶は、後に振り返ろうとしてもコマ送りにしかゴウは思い出せない。
止まない暴風。
一歩進む度に、一瞬で足裏へ張り付いてくる氷。
構わず進み続け、突き刺さした左角。
視界の右端から迫る、巨大な拳。
もう一歩だけ踏み出した右足。
右側面にぶつかる硬い感触と全身に伝わっていく衝撃。
そして最後にゴウの目に映ったのは、全くの同時に爆散する自分と相手の体と、視界中央に表示された【Draw!!】という文字だった。
バタンと閉まる電車の扉と暖かな春の陽気が、ゴウの意識を猛吹雪の加速世界から現実世界に引き戻させた。
加速世界では片腕まで無くしていたボロボロの体から、怪我一つない男子中学生の肉体に戻ったゴウは静かに溜息を吐く。
──引き分け……引き分けかぁ……。
互いが了承した上で行われる《ドロー申請》での無効試合や、体力の残量が等しい状態でのタイムアップならともかく、両者同時に体力が尽きる相討ちという結末は、ゴウにとって初めてのことだ。
引き分けの場合は対戦者間のポイント変動もないので、敗北よりはマシなのだろうが、白黒つかなかったという点に、ゴウは少しモヤモヤとした感情を抱いていた。
──あとちょっとだったんだけどな。対戦フィールドが向こうに分がある《氷雪》ステージじゃなかったら、また違ってたかも……いや、レベルはこっちの方が上だったわけだし、結局イーブンか。……そもそも一つだけでもレベルが下の相手にこっちから挑んでおいて、結果は負け寸前ってどうなんだろ。彼女がもっと場数踏んでいたら、引き分けに持ち込めたかも怪しいし、情けない? カッコ悪い? ダサい? うーん……。
対戦終了後の常である脳内での一人反省会が、ただの自己嫌悪になりかけているところで、いけないいけないとゴウは軽く首を振る。
学生鞄を敷いた膝の上に置いたケーキの袋を眺めながら、袋越しにケーキの入った箱に指で触れると、店で少し多めに用意された保冷剤の冷気がひんやりと伝わった。
アイリス・アリス。途轍もないスピードと反射神経を有する少女であり、吹雪を撒き散らしながら相手をなぎ倒すパワーを持った怪物でもあった、二つの面を持つバーストリンカー。
始めてからかれこれ一年以上経つが、こうした多種多様なデュエルアバターがまるで尽きないという点一つとっても、このブレイン・バーストというゲームはまるで飽きる気配がないと改めて思う。
ゴウは電車に揺られながら、アリスといずれ再戦することを望む。次はきっと勝ってみせると意気込みながら。
──それにしても……開口一番に『あなたを完膚なきまで叩き潰します』だもんなぁ。あれにはびっくりした。……なんだか難しい言葉使いたがる子供みたいだったけど、もしかして小学生だったのかな。ちょっと片言っぽかったから外国人、それともハーフ? 帰国子女とか? ハーフのバーストリンカー……そんな人とさすがにリアルで知り合う機会はないか。今だって、リアルでバーストリンカーの知り合いなんて大悟さんだけだし。
他人事のようにどうでもよさげに、そんなことを考えるゴウが乗る電車は世田谷方面へと向かっていく。
そんなゴウが、これまで加速世界で何度も鎬を削った仲の一人であるバーストリンカーの正体が、クォーターの少女と知ることになるのは、これよりおよそ一ヶ月後のことである。
余談だが、その日の晩にゴウはお使いであり、その報酬の品でもあるケーキ《苺の
ふんだんに使われた苺と甘すぎないクリーム、その他の諸々の要素が見事にマッチした美味しさに、未だ今回の対戦結果を微妙に引き摺っていたゴウは一ピース分をすぐに食べ終えて、ちょっぴり元気になるのだった。