アクセル・ワールド・アナザー 曼殊沙華には祈らない 作:クリアウォーター
第十九話 タッグパートナー
「う……」
気が付くとゴウの目の前には、揺れる自身の両腕と、右から左へと流れていくアスファルトの道路があった。
続けて、両足の爪先が地面を擦る感覚と、背面を中心とした熱と痛み。
「起きたね」
呻いたゴウに反応した宇美の声がする。
ここでゴウは、動物系アバター特有の必殺技である《シェイプ・チェンジ》によって、二足歩行の人型形態である《ノーマル・モード》から、四足歩行の獣形態である《ビースト・モード》になった宇美の背中に乗せられ、運ばれていることを理解した。
──気絶してから十秒も経ってないか。……背中痛い。
ゴウは対戦の残り時間を確認して、意識が飛んでいた時間を確かめる。
アンカーが放った《ギャンブル・キャニスター》は、その都度に威力や効果がランダムに変動する砲弾を撃つ必殺技だ。
今回のような特に威力の大きい大爆発を引き起こすこともあれば、追加効果で全方位に拡散する散弾、有毒ガスや閃光弾になり、またある時は爆竹程度の熱と光しか発生しないこともある。
また、砲撃という攻撃形態でありながら、射程は数メートル程度しかなく、物陰越しで発射しなければ威力の高い砲弾が出た場合、アンカー本人さえも巻き込まれてしまう危険がある。
とにかくあらゆる面で博打要素の強いものなので、派手かつ予想ができない分ギャラリーの受けも良い。受ける側の対戦相手としては、たまったものではないが。
今回はヴァンパイアの《アサルト・バッツ》による陽動の間に、鎖付きの錨を利用して建物の屋上まで一気に移動、その上で発動をしたのだ。
ヴァンパイアの姿は確認できなかったが、おそらくは巻き込まないように、同じ場所に移動していたのだろう。仮に必殺技がハズレの威力だった場合、続けて空中から襲撃が可能になる。
「お客さん、どちらまで?」
「……じゃあ、そこの角まで」
最近ではAI管理の無人運転車にほとんど取って代わられた、タクシー運転手のノリで宇美に訊ねられ、リクエスト通り廃ビルの角を曲がった所で、ゴウは足を止めた宇美の背中から降りた。
「どう? 動けそう?」
「はい、動かない箇所はなさそうです。……助けに入っておいて、文字通りのお荷物になってすみません。よりにもよって意識が飛ぶくらい凄い爆発が出るとは……」
人型に戻っていく宇美に訊ねられ、ゴウは体の稼働具合を確認していく。
宇美にもアンカーの必殺技については事前に説明はしていたものの、襲撃するコウモリ達に気を取られていたあの状況では、まともに爆発を受けていただろう。
故に相手チームの狙いを察したゴウは、一直線に宇美の元まで走り抜け、押し倒す形になりながらも盾になることで庇ったのだ。
結果として全身を打つ衝撃と吹き飛んだ際の当たり所が悪かったらしく、短時間とはいえ気絶状態に陥ってしまったのは誤算もいいところだったが。
「いや、危ないところだったから実際助かったんだけどさ……で、それだけ必死になってフォローに入ったってことは、私に何かやってほしいことがあるってことで良いの?」
察し良く訊ねる宇美にゴウは頷いた。助けようとした側が死亡することになれば本末転倒だろうが、ゴウも全くの考えなしに助けに入ったわけではない。
「今の段階でフォックスさんが大ダメージを受ける展開は避けたかったんです。今回の対戦で決め手になるのはフォックスさんなので」
「それはあの空飛ぶヴァンパイアの相手をしろってこと?」
「はい。好き勝手に空中に居座られる限り、僕らの攻撃は基本的に届かないし、その分だけ勝率はぐんと下がります。だから一撃で決めるなり、あのマントを無力化しないといけない」
タッグ対戦では自分達の連携と同等に、相手の連携を妨害するのも重要になる。シナジー効果を形成していたり、それに近い戦法を扱ってくるチームなら尚更だ。
「そこでちょっと考えがあるんですけど、聞いてもらえますか?」
ゴウが提案した作戦を話していくと、最初は興味深そうに聞いていた宇美の顔色が段々と怪訝なものに変わっていく。
「……それ本当に上手くいくの?」
「まず間違いなく食いつきます。万が一向こうが乗ってこなくても最低限の役割は果たせますし、それにフォックスさんもさっき昼飯の時に『見たら警戒するしハッタリになる』って言ってくれたじゃないですか」
信じられないと思うのは当然のことだ。ゴウだって同じ立場なら「嘘だぁ」と言う。
しかし、ゴウには向こうが乗ってくるという確信があった。
渋っていた宇美も、現在は体力の総量差で劣勢、言い合いをしても時間の無駄と判断したのか、最終的には折れてくれた。
「もし失敗したら、後で何か奢ってよ?」
「んー、じゃあこれが勝因になったらジュースでも奢ってください。逆なら僕が奢ります」
「おっ、良いね。じゃあ賭けよう。恨みっこなしね」
妙な賭けを成り行きでしてしまったが、ともかくゴウと宇美は反撃に移るのだった。
対戦時間が半分を切った現在、四人の対戦者の体力ゲージ。
高い順からおおよそで、ヴァンパイア、九割強。アンカー、八割強。宇美、八割弱。そしてゴウ、四割半。
ヴァンパイアもアンカーも逃げたゴウ達を追跡してくることはなかった。このまま対戦時間が終了すれば、体力ゲージの残量によって自ずと判定勝ちになるからだ。ゴウ達が勝利するには戻ってこざるを得ないことを、承知の上での行動である。
破壊された物だらけの《世紀末》ステージを、更に破壊した爆心地跡にアンカーは立っていた。
ヴァンパイアは一軒の建物の屋上からこちらを見下ろしている。おそらくはあそこが先程アンカーの必殺技を放った場所だ。いつこちらが戻ってきてもいいように待機していたらしい。
「おう、戻ったか。……オーガー、貴様一人か? 相方はどうした」
「ちょっと野暮用があるんで、僕だけで来ました」
「ふぅむ……?」
アンカーは傾げた首を、ヴァンパイアの方へ向けた。
すると、屋上のヴァンパイアは少しだけ間を置いてから、ゆっくりと頷く。ゴウにはどういう意味合いなのかは分からなかったが、それだけでアンカーは満足げに頷き返した。
「まぁ、そういうことにしておこうか。ときに、貴様のあの金棒……ダイヤ棒? ともかくあれはこちらでいただいておいたぞ。どうしても返してほしければ……あそこにあるから持っていくといい」
ふっふっふっ、と不敵に笑いながら、アンカーは親指を立てた右手で狭い通路を示す。
アンカーの必殺技から逃れるのにゴウが手放していた《アンブレイカブル》は、アンカーの指差す路地裏の先にあるらしく、道路に引き摺った痕跡もうっすらと見られた。十中八九そこは行き止まりの袋小路だろう。
持ち主の手放した強化外装は、大概が必殺技ゲージを消費するアクションはできなくとも、単純な武器の形をしている場合、一時的に奪って扱うこともできる。
だが、非常に重い《アンブレイカブル》はダイヤモンド・オーガーと同等以上の腕力がなければ十全には扱えない。左手が錨になっているので片手でしか持てないアンカーにも、パワータイプではないヴァンパイアにもまともに使えないのだろう。
むざむざ回収しに行けば攻撃の逃げ場はないので、実質使用不可能にされたと言っていい。ダメージを度外視してまで回収しに行く余裕は、今のゴウの体力にはないからだ。
「……アンカーさん、僕はこれから必殺技で攻撃をします」
「なにぃ?」
ゴウの宣言に、アンカーのみならずギャラリー達もいきなりどうした、とざわつき出す。
自己申告してから攻撃するなど、基本的にそれだけその攻撃に自信があるか、相手を侮っているかの二択だ。ゴウとしては厳密にはどちらも違うが、強いて言えば今回は前者である。
「これを避けるか、受けて立つのかの判断は任せます。じゃ、いきます。──《モンストロ・アーム》」
ゴウが肩より上に挙げた右腕を大きく引いて、右肩に左手を添えると、途端に右肩が盛り上がり、腕が膨れ始めた。そうして自分の背丈と同程度、太さは胴体の三倍にまで巨大化した右腕は、アンカー、ヴァンパイア、ギャラリー達の注目を一身に浴びる。
「おお……おおおおおおおおおお!!」
そのまま巨大な右腕を構えたまま、雄叫びを上げるゴウはアンカーに──ではなく、ヴァンパイアが屋上にいる廃ビルに向かって前進を始めた。向かってくるゴウに、ヴァンパイアが身構える。
そんな中、纏うダイヤモンド装甲も同じく巨大化した鬼の腕に、釘付けになる海賊が一人。
「おおぅ、それがレベル6のボーナスで取った必殺技ということか。まったく、大きいは正義とはよく言ったものよ。貴様という奴は……ことごとく俺様のツボを心得ているなぁ!」
その重量故に機動力が著しく下がり、軽く地響きを立てて走るゴウの前へと先回りし、心底嬉しそうにアンカーは立ちはだかった。
「そのダイヤの腕、貰い受けるぞ。粉々にしてなぁ! 《バトルシップ・アンカー》!!」
錨が付いたアンカーの左腕全体が紫色に輝くと、巨大化した錨が発射された。左右の先端が勢いよく炎を噴き出す推進機となった錨はそのまま、足をより強く踏み締めて振り抜いたゴウの右腕と衝突する。
錨と拳。身の丈よりも大きくなった、体の一部による攻撃同士の膠着は、ほんの数秒のことだった。
「なっ、なにいいいい!?」
声を上げたのは、アンカー。船乗りの魂、その象徴と豪語する錨が砕け散る。
ゴウがこれまでのアンカーとの対戦で、この《バトルシップ・アンカー》と真っ向からぶつかり合い競り勝ったのは、これが初めてのことだった。
しかし、ゴウが先週にレベル6となると同時に取得した必殺技《モンストロ・アーム》はこれだけでは終わらない。
振り抜いた異形の腕による一撃は強力な拳圧が変じた空気砲を生み出し、直線上の離れた敵にさえ攻撃ができるのだ。
これにより空気の塊に直撃したアンカーは、見えない車にでも撥ねられたかのように、声を上げる間もなく物凄い勢いで背後の建物まで吹き飛んでいった。
ゴウとアンカーの必殺技がぶつかり合う少し前。
宇美はゴウと共に相手チームのいる場所には戻らず、百メートルほど離れた建物の屋上にいた。
建物内部には侵入できない《世紀末》ステージだが、外付けの階段が設置されている建物も存在するので、そうした階段があり、かつヴァンパイアのいる廃ビルの何軒か隣に位置する場所を選んでいる。
ややあって、事前に合図と決めたゴウの雄叫びを、三角形の耳が捉えた宇美は行動を開始した。
「《シェイプ・チェンジ》」
唱えたコマンドにより体は白い光に包まれ、狐頭をした人型から骨格が変形し、狐そのものの姿へと変わった瞬間。宇美は一気に駆け出す。
その勢いのまま隣の建物へと飛び移り、脚を止めることなく、そのまた隣の建物へと移動していく。
一軒目、二軒目、三軒目。デュエルアバターの、まして脚力が発達したビースト・モードであれば、多少の高低差を加味しても十メートル以下の幅跳びなど造作もない──が、下を見れば脚が竦んでしまいそうなので前方だけを見る。
今日一日、宇美がゴウとタッグを組んで対戦をしているのは、ゴウへの借りを返すという目的もあった。
先週、宇美とゴウは、自分達のそれぞれの《親》とコンビを組んでのタッグ対戦を行うこととなった。それも現実で対面し、ギャラリーを完全に排除した直結による対戦である。
ゴウはこの対戦の最中にレベルアップ、次いでボーナスの取得を行うという、ある意味でとんでもない暴挙に出た。
それは頑なに口に出そうとしない苦悩を抱えていた、宇美の《親》である
アウトローの元メンバーであった晶音を助けてやりたいと考えている、《親》である大悟の助力をしたいという想いがあったと、後にゴウ本人から宇美は聞いた。その大悟は宇美が見るに、晶音に仲間以上の感情を抱いているようだったが、それは別として。
バーストポイントを大量消費する行為であるレベル上げも、レベル一つ上げる際に一つ選択できるレベルアップ・ボーナスの取得も、バーストリンカーにとっての今後を左右する重要なものであって、間違っても対戦中に突発的に行うべきものではない。
近い内にレベルアップする予定があって、最低限度の安全マージンを確保していたとしても、結果的に選択したボーナスに満足したとしても、それを差し引いたところでだ。
ゴウ本人は気にしていないようだが、そうさせてしまった原因を突き詰めてしまえば、自分が晶音についての相談をゴウ達に持ちかけたからであり、負い目を持つなという方が宇美には無理な話だった。
だからこそ、宇美はバーストポイントの譲渡を申し出たのだが、それも自分で選択したことだからとゴウには断られ、落としどころとしてポイント補充の手伝いをと、今日タッグを組む段取りをつけたのだ。
現在までの対戦結果は収支の上ではプラス。この対戦も勝利して、またポイントを勝ち取ってみせる。
ただ、宇美が意気込むのは、それらの義務感だけが理由ではない。
──ゴウ。私はね、あなたを──。
宇美の前方から必殺技を叫ぶ声、続けて硬い物同士がぶつかり合う音が大きく響いた。本当にゴウの狙い通り、アンカーは誘いに応じたらしい。
続いて派手な破壊音と共に、大きく揺れ始める廃ビルへと飛び移り、とうとう宇美はヴァンパイアがいる建物の屋上に着地した。
前方にいるヴァンパイアも、十メートル以上離れていたことで出現していた、宇美を示すガイドカーソルが消えていることは把握しているはずだが、特に周囲を見渡すなどの行動を起こさない。
構わず宇美は四脚を駆り、ものの数秒でヴァンパイアの背後まで到達した。そのまま首元に牙を突き立てるべく、大きく口を開けたその時。
裏地は宵闇迫る黄昏時の空模様、表地は艶のない黒色をしたマントが、ついと横に動いた。宇美の目の前の景色が、突如として向かい側の建物に切り替わる。
速度が乗ってブレーキの効かない宇美は、次の瞬間にはまるで投身自殺でもするかのように屋上から身を躍らせていた。
「フフフ……ハハハハハハハハハハ!! とうっ!」
宇美が空中で首だけをどうにか向けると、哄笑するヴァンパイアが、宇美に続いて屋上を離れる。宇美との唯一の違いは、マントが変化した翼によって落下していないということ。
「読んでいたとも! 貴公がワガハイに奇襲をかけてくることなど!」
一人が姿を見せているのにもう一人がいないのだから、襲撃を予期するなど当たり前だ。そうでなくとも《シェイプ・チェンジ》発動中は必殺技ゲージの減少が確認できるので、警戒を抱くのもまた当然。
だが、背後から迫るこちらを全く見ずに、こちらの自爆を誘うジャストタイミングで避けたとなると、何らかのアビリティで位置を把握されていたのかもしれない。
そんなことを考えながら、人型に戻った宇美は落下していく。
奇襲は失敗した。後はもう、いかにして落下ダメージを抑えるかぐらいしか、宇美には選択の余地は残されていない。
ただしそれは、この対戦がシングルの場合なら。
この対戦はタッグ戦、宇美は一人ではない。
「フォックスさん!」
宇美が下を向くとそこには、こちらを見上げるパートナー。そのアイレンズには動揺の色など、毛ほども浮かんではいなかった。
「足をこっちに!」
前傾姿勢で落下地点に陣取るゴウの指示に従い、宇美は落下しながら体勢を入れ替え、地上に足を向ける。デュエルアバターの身体能力に加え、小学校三年生まで習っていた器械体操の経験が、空中での柔軟な動きを可能にした。
そして、ゴウが前方に構えた腕へ宇美の足裏が接触する。
宇美は折り曲げた両脚へ、ゴウは落下の勢いが加算された宇美の全体重が両腕へ、それぞれ一気に負荷が加わる。それらは被ダメージにまで至るが、互いに怯みはしない。
「いっ……きますよ、せえぇぇのっ!」
「《ハント・ダイブ》!!」
ゴウがバレーボールのアンダーハンドパスにも似たフォームから腕を上げ、宇美が必殺技を発動。それらが絶妙のタイミングで重なり、常ならざる加速を得て跳躍した宇美は、アイレンズをかっと見開くヴァンパイアの元へと急接近していった。
「なっ!? なん──ぐぶふぅおぉぉぉ!!」
逆バンジーどころか、ロケットもかくやという勢いで迫る宇美をヴァンパイアは回避できず、腹部への突撃をまともに受けて、体がくの字に折れ曲がる。
宇美はそのままヴァンパイアの腰にしがみつくと、《
「な、なんとぉ!?」
宇美が尻尾を引き抜くと、いかに硬質化していたところで元々薄いマントは、二つの大穴が空き、もはや役割を果たせない。驚愕するヴァンパイアに、宇美は大きくした尻尾を自分ごと巻き付けて、共に頭から錐揉み状に地上へと落下していった。
「く……離さんか、この……! 貴公、ワガハイをこのまま道連れにする気か!?」
「まさか。心中なんて趣味じゃないの」
ムーン・フォックスの必殺技《ハント・ダイブ》は、ロングジャンプによって高所へ一気に到達することや、その落下の勢いを利用した攻撃を行うという、非常に地味なものであるが、実は隠れた効果がある。
それは、この必殺技は跳躍から着地までがワンアクションで、発動終了までは『着地時の衝撃によるダメージ』は受けないというもの。
仮に百メートル以上の高層ビルの屋上から《ハント・ダイブ》を発動して地上に落下しても、ダメージを受けることはないのだ。
ちなみにこの技は発動中でも必殺技ゲージさえ足りていれば、アビリティも同時に発動できる。
ただし、空中や水中などの足場がない場所での発動は不可能であり、あくまで受けないのは落下ダメージのみなので、ジャンプ中でも相手の攻撃を受ければ普通にダメージは通る。
つまり今回の場合は、宇美にしがみつかれてもがいているヴァンパイアだけが──。
「は、離し……ひっ、ギイヤアアアアアアアアアア!!」
絶叫しながら脳天から地上のアスファルトに激突したヴァンパイアは、ムーン・フォックスの体重も加算された落下のエネルギーに耐え切れず、爆散した。
ゴウと宇美の二人はそれまでいた《新宿中央公園》から移動を始め、《新宿駅》に向かう道中で自販機が目についた。
丁度良いかと飲み物を買い、互いのペットボトルを軽く当て合って乾杯してから、キャップを開ける。
「ねぇ……やっぱりそっちが賭けに勝ったのに、私に奢ったら意味なくない?」
未だ腑に落ちない様子の宇美の金髪のポニーテールが揺れる。金色なのは髪だけではない。眉毛も睫毛も同じく金色。鼻はゴウよりずっと高く、瞳の色はかなり明るい茶色。
宇美は生まれも育ちも日本だが、イギリス人の祖母を持つクォーターなのだ。容姿も白人のそれで、先週彼女と初めてリアルで対面した時は、その場にいた大悟と共々それはもう呆気に取られたものである。
そんな宇美に、ゴウはジュースを一口飲んでから首を横に振った。
「賭けには僕が勝ちましたけど、勝った僕が奢っちゃ駄目なんて決めてないし、対戦に勝てた理由の半分は宇美さんのお陰じゃないですか。だからこれでいいんです」
尚も宇美のヘーゼルの瞳は納得していなさそうな目線を向けてきたが、それ以上の追及はしてこない。
ヴァンパイアの撃破後、ゴウは宇美と二人がかりで残るアンカーと交戦した。
アンカーは必殺技《リボーン・シンボル》によって砕けた錨を修復し、一人になっても抵抗し続けたものの、ゴウとの必殺技の撃ち合いで受けたダメージもあって死亡、ゴウ達は対戦に勝利することができた。
ゴウが考えた作戦とは、こちらがヴァンパイアについて知らなかった為に意表を突かれたように、向こうが知らないものを駆使して不意を突くというもの。
具体的にはダイヤモンド・オーガーの新しい必殺技と、ムーン・フォックスの諸々の能力である。
アンカーとて《モンストロ・アーム》の威力を知っていれば、いかに興味を惹かれていようと、さすがに正面から挑んではこなかっただろう。
ヴァンパイアが背後からの宇美の奇襲を、ああも簡単に避けたのは予想外ではあったが、向こうにしても二十メートル以上の高さにいたのに、直接取り押さえられて墜落させられるとは思ってもみなかったはずだ。
勝負事で相手の手札を知っているのと知らないのとでは、そこに雲泥の差があるのはブレイン・バーストも例外ではない。もちろん、今回はあくまで相手には初見だったから上手くいったのであって、次に対戦したときはこうはいかないだろう。
「さて……あともう一、二回対戦したら今日はお開きにしようか」
「そうですね。あんまりのめり込んで明日に支障が出ても困りますし」
宇美に同意し、ゴウはどこか座れる場所でもないかを探しながら歩き出す。
「それにしてもまぁ、二人して濃いキャラだったね。背脂たっぷりのラーメンと分厚いステーキをいっぺんに出されたくらい濃いし重かったよ」
「まぁ類は友を呼ぶと言うか……さすがにそう何度も会うことはないでしょうけどね」
「そりゃあね、日に何度も見たら胸やけしそう」
あははは、とそんなふうに笑い合い、楽観するゴウと宇美の意に反して、二人はトワイライト・ヴァンパイアとほどなく再会することとなる。具体的には今から十数分後のギャラリー観戦で。
このヴァンパイアとの出会いがきっかけとなり、ゴウは後に『とある存在』との邂逅を果たすこととなる。