アクセル・ワールド・アナザー 曼殊沙華には祈らない   作:クリアウォーター

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第二十七話

 第二十七話 いざ高尾山

 

 

 幸いなことに、ゴウが遠投を決めてしまったボーンズの右手は、さほど時間をかけずに見つけることができた。

 聞くところによると、ボーンズの骨型装甲は分離が可能で、それらを戦闘に用いるという。ただし、自分から離れれば離れるほどに操作の精度は落ち、あまりに離れてしまうと、本人の意思で動かすことは可能でも、位置の把握ができなくなってしまうらしい。

 そこでヴァンパイアは、ボーンズに離れた右手をできるだけ動かし続けるように指示を出した。

 ゴウの投げた方向──偶然にも目的地である高尾山のある西の方角に一同は進み、名前の通り望遠能力を持つというレンズの視覚、それとヴァンパイアの高性能な聴覚により、駅より数百メートル離れた道端で、のたうち回る骨の手を見つけることに成功したのだった。

 

「ごめん、ついパニックになっちゃって……」

「いやいや、謝るのはこっちだって。この手のやつが苦手な人とは思わなくってさ。……ふぅ、どっかの建物の間にでも落ちたら、見つけるのがもっと大変だったろうしラッキーだった」

 

 申し訳ないと謝るゴウにボーンズは謝り返し、念動力でも働いているのか、宙を舞う右手を手首に装着して動作を確認すると、問題ないといった様子で頷いた。

 

「さて予想外の事態もあったが……この総勢六人のメンバーが我がレギオン、フリークスである」

 

 ゴウと宇美の前で、ヴァンパイアが仕切り直しとばかりに、さっと腕をレギオンメンバー達に向けた。それからゴホンと咳払いをする。

 

「それと改めて……このレギオンをいずれは百鬼夜行も裸足で逃げ出す大規模レギオンへと成長させ、ゆくゆくは新たな《王》の一角となるのが──この吸血鬼たるレギオンマスター、トワイライト・ヴァンパイアである!!」

 

 バサァッ! とマントを大仰に広げ、ヴァンパイアが口上を決めると、メンバー達からパチパチと拍手が上がる。──やや示し合わせた感じがあるが。

 どう反応したものかと、ゴウが隣の宇美をちらりと見ると、宇美もゴウの方を見て、「ここは拍手するところなの?」と言いたげな目線を送ってきた、その時。

 

「あんまりはしゃいでんじゃないよ。ごらん、二人共ちょっと引いてるじゃないか」

 

 ただ一人拍手に参加していない紅一点のフリークス副長、リカオンがヴァンパイアを窘める。

 

「大体アンタ、吸血鬼じゃないだろ」

「「え!?」」

「ぬっ……」

 

 リカオンの衝撃発言に、ゴウと宇美は声を揃えて驚き、当のヴァンパイア本人も図星を突かれた様子で小さく唸る。

 

「そうなの? こんないかにもな見た目なのに? だって前の対戦で名前にヴァンパイアって、アバターネームが表示されてたよ?」

「確かにいかにもなナリだけどね。厳密には吸血鬼のモデルになった、吸血コウモリのアバター……だとアタシは見てる」

 

 宇美の問いに、リカオンが肩をすくめながら答えた。

 

「アネゴぉ、それを言っちゃ……それを言っちゃあ、おしまいよぉ……」

「それヴァンさんに禁句なのにな。アネゴは容赦ねえなー」

 

 レンズはリカオンに向けた手をわななかせ、ボーンズは苦笑い。マガジンはおろおろ、ラッパーは明後日の方向をぽけーと眺めている。

 男衆が四者四葉のリアクションを見せる中で、当人であるヴァンパイアが絞り出すようにリカオンへ反論し始めた。

 

「た、確かにナミチスイコウモリの英名にもヴァンパイアの単語が使われているが……。ヴァンパイアと言われれば、世間一般では吸血鬼であろうが。それに我が剣のドレイン能力など正に吸血行為、マントなんか翼に変化するのだぞぅ……」

「まぁ、剣とかマントはそれっぽいけど、それだってコウモリに通じるしね。アンタ、神聖系のステージでステータスが落ちることもなけりゃ、逆に暗黒系のステージで上がりもしないじゃないか。体は霧に変身もしないし、川でも海でも平気で泳げるし。ついでにラーメンにニンニクしこたま入れるだろ」

「ぬ、ぬぐぐ……」

 

 リカオンにずばずばと指摘をされて、ヴァンパイアが更に喉を詰まらせる。

 ニンニクのくだりはともかく、ゴウの知る創作に出てくる吸血鬼とは、夜の闇に生き、常人以上の怪力、コウモリや霧への変身、血を吸った相手を同族の吸血鬼にしてしまうなどの強力な能力を持つ。その反面で太陽の光や銀の十字架などの弱点を持ち、更には流れる水を渡れない、家主に招かれないとその建物の中に入れないなどの、多くの制約にも縛られる存在とされている。

 

「それでもって夜目は利くし、超音波出して耳で聞き取るって、まんまコウモリの生態じゃないのさ」

「うぐっ!」

 

 これが決め手になったのか、ヴァンパイアはがくりと両膝と両手を地面に着いた。すぐさまレンズやマガジンが駆け寄り、何やらフォローの言葉をかけている。

 そんな中で、ゴウは以前のタッグ対戦で宇美と二手に分かれた際、アンカーがヴァンパイアに向かって何かを確認するような仕草をしていたことを思い出した。

 対戦後の宇美の話では、建物の屋上で背後から奇襲をかけた時も、ヴァンパイアは振り向きもせずに躱したと言っていたし、ヴァンパイアが超音波を用いたアビリティを所持していて、宇美の居場所を探知して動きを把握していたとするならば、それらの行動にも納得がいく。

 

「今に、今に見ておれ……次のレベルアップ・ボーナスでは必ずや、ぐうの音が出ないほどに相応しいものが……」

「はいはい。出ると良いねぇ」

「っぐぬぬぅ……」

 

 ふらふらと立ち上がるヴァンパイアの負け惜しみっぽい発言を、軽く受け流すリカオン。両者の行動に、他のメンバーがそれぞれの反応を見せる。

 どうも彼らには日常的なやり取りらしく、誰からも深刻な雰囲気は感じられない。ヴァンパイアは本当に悔しそうではあるが。

 シグナル・レンズ。プルシャン・リカオン。バルサム・マガジン。ケルプ・ラッパー。チョーク・ボーンズ。そして、トワイライト・ヴァンパイア。

 アウトローに負けず劣らず個性的なメンバー達で構成されたレギオン、フリークスのやり取りはどことなくメンバー間の絆が窺えられ、ゴウは鬼面マスクの下で静かに微笑んだ。

 

 

 

 それからゴウと宇美の自己紹介も済ませた後、一行は目的地に向けて出発した。

 ダイブ時からやや斜陽気味だった空は、数時間かけて進んだ高尾山までの道のりの半分ほどで夜空へと変わる。星は明るくとも、昼間より危険な夜間の移動は避けることにした。フリークスメンバー達も現実でタイマーをセットし、約三日は無制限中立フィールドに居続けられるとのことだったので問題はない。

 手近にあった建物を寝床にして眠りにつき、日の出と共に再出発。

 日を(また)いだ道中では、いざ戦闘になった際に連携できるよう、自分の主な戦い方などを教え合ったり、フリークスメンバーからあれやこれやと質問を連続で浴びせられたり、ゴウがこれまで見たことのないエネミーが群れで行動している様子を遠目で眺めたりと、相当な長時間の移動も全く退屈にはならなかった。

 そんな一晩の休息プラス、計五時間強の徒歩移動の末に、ゴウ達はようやく高尾山の山麓へと辿り着いたのだった。

 日本は島国でありながら大小有名無名、山と呼ばれる地形がとにかく多い。

 その中で高尾山の標高約六百メートルというのは、標高約三千七百メートルを超える日本最大の山、《富士山》と比較すれば、高さだけなら有象無象の一つになってしまうだろう。

 だが、それでもこうして入り口まで来ると、生物の範疇など優に超えた、ここまで近付けば全体が見えようもない大きさに、得も言われぬ威圧感や存在感をゴウは感じた。

 

「よし皆の衆、ここからが本番だ」

 

 ヴァンパイアがそう切り出して、全員を注目させる。

 

「これまで避けてきた戦闘もいよいよ解禁するが、エネミーとのろのろ戦闘をしていれば、群れを呼ばれる可能性も有り得る。集中攻撃で一気に倒すのだ。小獣(レッサー)級程度であれば、この人数とレベル編成ならそう難しくはあるまいて」

「アニィ。もしもそれ以上のエネミーに遭ったらどうするんで?」

野獣(ワイルド)級は状況次第で交戦か逃走。巨獣(ビースト)級に万が一遭遇した場合は……よほど有利な地形で遭遇しない限り、さすがに逃げた方が賢明であろうな。二人も異論はないか?」

 

 レンズからの質問に答えるヴァンパイアに、ゴウと宇美は大まかな行動概要の確認をされ、これを了承する。

 

「うん。それが無難だと思う」

「私も同感。エネミー狩りはあくまで事のついでだしね」

 

 巨獣(ビースト)級ともなると、体長十メートル近いものもザラだ。そんなエネミーは大悟らアウトローのベテランバーストリンカー達が束になっても、倒し切るのに一時間単位で時間がかかるのだ。その上まともに攻撃を受ければ、一撃でも致命傷となるには充分すぎる威力を持っている。

 今回は高尾山の山頂に至ることが目的なのだから、わざわざそんな危険な存在にまで突っ込んでいく必要はない。

 

「結構。では出発! いざ()かん、高尾山の頂上へ!」

 

 ヴァンパイアの掛け声に、おおー! と全員が腕を掲げた。

 高尾山に辿り着く前より、郊外に進むほど《平安》ステージ由来の玉砂利や石畳で整備された路面はまばらになっていき、途中からは完全に土の地面へと変わっていった。

 この高尾山の入り口も、現実ではどのルートも初めだけは道が舗装されているのだが、加速世界ではでこぼこの獣道を幅広くしたような、複数の往路がひたすら奥へと続いていた。ついでにケーブルカー乗り場などの施設も存在せず、山全体が近代の人の手による環境開発が為されていない状態となっている。

 ──《魔都》とかの金属系ステージならどうだったか知らないけど、《平安》ステージはこの方が良いや。

 入山より三十分ほどの進んだ先の坂道を登りながら、ゴウは周囲の景色を見渡す。

 赤、橙、黄。モミジかカエデか、それとも別の種類か、そもそも現実に存在する植物なのか。鮮やかな色をした葉をつけた木々が、どこを向いても所狭しに立ち並んでいる。

 紅葉などここに来る前から散々見てきたというのに、どこか違うふうに感じられるのは、山特有のものなのだろうか。なんとなく空気も澄んでいる気がする。

 そんな感想を抱いたのは、ゴウだけではなかったらしい。

 

「行楽シーズン状態だねぇ。空気はうまくて、しかも貸し切り、贅沢なもんじゃないのさ」

「うむ、我々の日頃の行いの成果よな」

 

 リカオンがご機嫌な様子で、腰から伸びるテイルパーツをわずかに揺らしながら周りを見渡している。

 ヴァンパイアも満足げに頷いてから、顎を手でさすりつつ、山の奥をじっと見つめていた。

 

「どうもこのステージに人工物は無粋と、ブレイン・バーストの運営も判断したようだな。ワガハイとしては、山腹の薬王院(やくおういん)は残してくれていると嬉しいのだが……」

「薬王院って寺だよね? 何か用があるの?」

「せっかく山を登っているのだから、参拝の一つでもしておきたいではないか。何しろ天狗伝説のある山なのだからな! 実に興味深い」

 

 ゴウが訊ねると、ヴァンパイアは期待に満ちた表情を向けてきた。

 今回の同行が決定してから、ゴウも高尾山については事前にネットで少し調べていた。

 これによると、高尾山に千二百年以上前に開山された、正式名称《高尾山薬王院有喜寺(ゆうきじ)》はある仏教の一派において、大本山のひとつにあたるのだという。その寺で現在の本尊とされているのが、不動明王の化身である《飯縄大権現(いづなだいごんげん)》。

 この飯縄大権現は山岳信仰に由来する修験道にも密接な関りがあるとされ、古来より霊山とされている高尾山は、権現の従者である天狗が住んでいるという伝説まであるそうだ。伝説の真偽はともかく、寺はパワースポットとされ、天狗を押し出したオブジェや土産物の類は、観光事業に大きく貢献していると言えよう。

 

「天狗型のエネミーなんかがいたりするのかな」

「どうかな。事前に方々から調べた時に、そういったものが存在するという話は聞かなかった。よもや大天狗が現れる事態にはなるまいよ。まぁ小天狗程度などならあるいは──」

 

 ゴウとの会話の最中、ヴァンパイアが突然口を噤んだ。同時にイヤーパーツをあちこちに向けて動かし始める。

 

「ヴァン、匂うよ。前からだ。こっちに近付いてる」

 

 リカオンが前方の道に隣接する藪の奥をじっと見据えている。彼女は鋭い嗅覚によって周囲の状況を把握できると、ゴウは道中で聞いていた。それは例えばデュエルアバター、他には無制限中立フィールドを闊歩する存在達。

 優れた聴覚を持つヴァンパイアでなくとも、もうゴウにも聞こえる。木々の下に生える草地を、ガサガサと何かが這い回る音。それが段々と大きくなり、やがて前方の藪を突き破って、長い体をしたムカデ型のエネミーが姿を現した。

 全長はおよそ五メートル。扁平な胴体の横幅は五十センチほど。縦に長いが、全体的な大きさからして小獣(レッサー)級に分類されるだろう。

 焦げ茶色の長い胴体には、片側だけで二十本近い肢が生えており、尻の先端には二股の棘、茶色い頭にはくねる長い触角と小さな四対の目の他に、クワガタムシのような大顎が伸びていた。ゴウ個人としては、生理的に受け入れ難いビジュアルだ。

 ──特にあの肢の数が駄目だ。ダンゴムシとかは平気だけど。前に見たジャンクネクターは、肢がいっぱいあっても何とも思わなかったんだけどな。あれは機械っぽかったからか。

 

「げ……キモいなぁ。何であんなに肢がワサワサあるんだろ」

「あ、やっぱりそう思います?」

 

 宇美がゴウの抱いたことと同じ感想を口にすると、すでに体の中間部分まで方向転換させてこちらを睨んでいるムカデエネミーは、鎌首をもたげるヘビのように体の前半分を起こして、ガチャガチャと顎を鳴らした。元々エネミーは目に付いたバーストリンカーを襲うものがほとんどではあるが、今回は悪口を言われたからか、より怒っている気もする。

 ともかく、通り道を塞ぐように陣取られているので、戦闘は避けられないとゴウが身構えると、隣にいたヴァンパイアが一歩前に出た。

 

「オーガー、フォックス。ここはひとつ、ワガハイ達フリークスだけでやらせてもらいたい」

「え? でも僕ら大丈夫だよ。多少アレなデザインでも、戦闘になれば腰が引けたりは……」

「いや、そうではない。実際に我らフリークスがどれだけやれるか、貴公らに見てもらおうと思ってな。それに──」

 

 ヴァンパイアが腰に提げられた鞘から、ショートソード型の強化外装《ブラッド・サッカー》を引き抜いた。

 

「この程度のエネミー一匹、ゲストの手を煩わせるまでもないわ。フリークス総員、戦闘用意!」

 

 ヴァンパイアの号令の下、メンバー達がゴウと宇美の前に出て、各自左右に散開する。

 

「顎と尻の棘には特に注意。狙い目は関節の間だ。マガジン、レンズ」

「よっしゃ! 任せてくんな、アニィ!」

「……!」

 

 ヴァンパイアの指示に、一団の中央を陣取ったマガジンと、彼の広い肩に足をかけて乗るレンズがそれぞれ頷いた。

 マガジンが太い両腕を前方に突き出す。すると、その前腕部に走る粗い縫い目に似たラインに沿って、上下左右に一門ずつ、左右の腕を合わせて計八門の小機関銃がジャキキキキン! と音を立てて展開された。

 一方でレンズの顔面の数ミリ前方には、半球バイザーの表面に灯る、瞳の虹彩を思わせる赤い光点と同色の光が収束していく。

 

「いくぜ、マガさん! せーの!」

 

 そしてレンズの合図で、レンズの顔面の先から一本の真っ赤なレーザーが、マガジンの腕に内蔵されていた機関銃から弾丸の群れが、ムカデエネミーの頭部めがけて発射された。

 

「そら、かかれ!」

 

 そう言いながら自らも駆け出すヴァンパイアの他、リカオンとボーンズが前へ出ると、頭部へ集中的に弾丸の雨とレーザーを食らって後退する、ムカデエネミーの横に回り込んだ。

 リカオンはいつの間に召喚したのか、分厚い刀身をした大鉈型の強化外装(《ハウンド・カッター》という名前らしい)を片手に握り、ボーンズは肋骨部分の装甲が変化した、大振りのダガーナイフを一本ずつ両手で逆手持ちにしている。

 そのまま二人は、ムカデエネミーの長い体を形成する節の間をそれぞれ斬り付けた。斬撃の後に、少し遅れて緑色の体液が飛沫になって飛び散り、エネミーの体力が減少する。

 近接班を巻き込まないようにレンズとマガジンの遠距離攻撃が一旦止まると、ムカデエネミーは起こしていた上半身を地面に着けた。すぐさま体をぐりんと右に折り曲げ、一番手近なヴァンパイアに狙いを定めて大顎を広げる。

 

「危な──」

 

 ゴウが危険を知らせようと声を上げかけた瞬間、巨大な鋏のようなエネミーの左側の顎に緑褐色をした帯状の物体が数本絡みついた。帯はぴんと張り詰めると、ヴァンパイアに向いていたエネミーの頭部を無理やり引き寄せ、動きを止める。帯を辿っていくと、それは包帯状の装甲が全身に巻き付いたラッパーの右腕から伸びていた。

 

「助かるぞ、ラッパー!」

 

 仲間の援護に礼を述べたヴァンパイアが剣を振るい、ムカデエネミーが右側の肢が二本切断された。またもエネミーの体液が飛び散る。

 それからも、フリークスはエネミー相手に優位に立ち回り続けた。

 基本はヴァンパイア、リカオン、ボーンズの三人が近接攻撃を繰り出し、エネミーが攻撃に移ると飛び退く。すると入れ替わりに、マガジンとレンズが同方向から、あるいは双方向から遠距離攻撃を行い、体力を削っていく。ラッパーは近接攻撃に加わりつつ、エネミーを帯で縛り、動きを妨害する。

 それはゴウの目から見て、よく統制の取れた連携だった。ヘイトコントロールも上手く、一人が飛び抜けて突っ走ることもないので、エネミーが集中的に一人を狙う事態にはならない。

 また、ムカデエネミーが尻の棘を発射したり、体を横回転しながら行う突進などで、掠り傷程度ながら誰かがダメージを受けると、他のメンバーがエネミーの注意を引いて立て直す時間を稼いでいた。

 これは小規模レギオンの強みだ。同じ面子で集団戦闘をする機会が多い分、メンバー間による個々の動きの把握や、チームワークの練度が自然と上がる。

 

「キエェイ!」

 

 戦闘開始から数分後。鋭い声を上げて跳躍したヴァンパイアの剣が、エネミーの首裏、体節部分の隙間に深々と突き刺さった。

 これがとどめとなり、すでに何発か必殺技も受けていたムカデエネミーは、甲高い断末魔の叫びと共に爆散する。

 

「お疲れー」

 

 戦いに巻き込まれないように離れた位置にいた宇美が、拍手をしながらフリークスメンバー達に駆け寄り、宇美の隣にいたゴウも付いていく。

 

「エネミー戦、慣れてるの? 凄く動き良かったじゃない」

「ふっ、ざっとこんなものよ」

 

 宇美の称賛を受け、剣を鞘に納めるヴァンパイアが事もなげに返すも、褒められること自体は嬉しいのか、その声に込められた喜びを隠しきれていない。

 グータッチやハイタッチをしながら仲間達が集合する中、大鉈を肩に担ぐリカオンが、快勝でやや緩んだ空気を引き締めるように口を開く。

 

「小物一匹倒したくらいで浮かれすぎるんじゃないよ。まだまだ先は長いんだからね。……それにしてもこの汁、ひどい匂いだ」

 

 腕に付着したムカデエネミーの体液に、顔をしかめるリカオン。周りの地面にも飛び散ったそれは、確かにつんとした刺激臭が発生していてゴウの鼻にも届く。

 

「ふむ、どうやらダメージを受けるような酸の類が含まれてはなさそうだ。進む内に水場もあるだろうから、そこで洗い落とすとしよう」

 

 自分のマントにも付着した緑の液体をヴァンパイアがしげしげと観察してから、顔を上げて全員に向き直る。

 

「ようし、幸先よく勝利を飾ったな。なに、我らの前ではあのようなムカデの一匹や二匹、また出てきても恐れるに──」

 

 その後の言葉は、ヴァンパイアの口から出てこなかった。

 道の前方で、音を立てて土煙が上がったのだ。土煙の中から出てきたのは、焦げ茶色をした長い体、その先端に生えた湾曲した大顎。

 たった今、フリークスが倒したものと同じムカデエネミーが二体、地中から現れたのである。

 更にゴウ達が通ってきた背後の道にも、同じく地面の土を突き破って、こちらは三体のムカデエネミーが同時に現れる。顎の形状がわずかに異なる以外に、五体のムカデに差異はない。

 

「……なんと。まさか五匹が一度に来るとは……兄弟かな」

「言ってる場合かい」

 

 呟くヴァンパイアに、リカオンが唸りながらツッコミを入れた。

 

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