アクセル・ワールド・アナザー 曼殊沙華には祈らない 作:クリアウォーター
第二十八話
「ちくしょうめ……。土ん中からじゃ、俺っちの目もアニィの耳もくぐり抜けられるってか」
五体のムカデエネミーに囲まれ、自然と背中合わせの陣形になった一同の中で、レンズが悔しそうに歯嚙みした。
「おいおいマジか? エネミー狩りでこんなに早く仲間のエネミーが現れたことなんて、今までなかったぞ」
困惑気味のボーンズの言葉には、ゴウも同意見だった。最初から集団で行動していたエネミーならともかく、単独行動していたエネミーとの戦闘開始から、数分しか経っていないこの短時間で集結するのは、やや不自然だ。何か理由があるはずだと考えたその時、地面に散らばったムカデエネミーの体液がゴウの目に留まった。
「多分、あれの匂いだ。それとさっきまで戦っていた奴の鳴き声に反応して寄ってきたんだと思う」
強い匂いを発する体液。よく響く甲高い鳴き声。どちらも仲間を呼ぶには妥当な手段だ。藪の中から出てくるのではなく、地中を通ってきた上に挟み撃ちまでしているのは、敵である自分達を逃がさない為か。
基本的にブレイン・バーストではどの属性、どのステージでも地面は破壊不可能である。繰り出した攻撃や、その衝撃の余波等で数十センチ程度まで凹むことはあっても、数メートル下まで穿孔するデュエルアバターなど、少なくともゴウは見たこともない。エネミーにしても《砂漠》ステージの流砂から飛び出してくるものを何種か見たことがある程度なので、この状況は予想だにしていなかった。
こちらは八人。向こうは五体。数の上ではゴウ達が有利でも、基本的に
このパーティーの編成は最大のレベル6がゴウ、宇美、ヴァンパイアの三人。レベル5がリカオンとマガジン。残るラッパー、ボーンズ、レンズがレベル4。頭数の有利で差が埋まるかどうかは微妙なところだ。
「……致し方無いか」
固い声で呟いたヴァンパイアが、エネミー達に切っ先を向けていた剣を収めると、両手でマントを大きく広げた。
「諸君。ここまで登ったのに勿体ないが、まずはこの場を脱するぞ。《アサルト・バッツ》!」
ヴァンパイアが必殺技コマンドを唱える。直後、日没寸前の空を切り取ったようなグラデーション処理がされたマントの彼方から、何十匹ものコウモリが飛来した。以前にゴウと宇美とのタッグ対戦でも見せた、撹乱用の必殺技だ。
コウモリの群れはゴウ達の頭上で五つの塊となると、それぞれがムカデエネミーの頭部へと殺到した。
「三十六計逃げるに如かず。ワガハイに続けぃ!」
そう言うや否や、ヴァンパイアが山道横の谷へと滑り降りていく。
戦闘を避けようにも前後の道は敵に挟まれ、左右は急斜面であるこの状況。よじ登っている時間がない以上、逃走を図るには下るしかない。
エネミー達がコウモリに気を取られている間に、仲間達と共にゴウもヴァンパイアに続いて急斜面へ身を躍らせた。
「う、わわ……」
走っているのか、転げ落ちているのか。その中間のような体勢で、思いの外に出る速度にゴウの口から勝手に声が漏れる。
背後からは草の根を掻き分ける音が微かに、されど全く途切れることなく聞こえてくる。ムカデエネミー達が長い体を草に擦らせながら、執念深く自分達を追いかけてきていることが、振り向かずともゴウには分かった。
──ターゲットから外れないと、どうにもならないな。このまま撒くのは難しいか?
ゴウの推測通り、倒したムカデエネミーの体液の匂いが目印になっているとすれば、エネミー達はそれを辿って、付着しているヴァンパイア達を追いかけ続けるだろう。短時間だけ視界から消えたところで意味はあるまい。
──それか、僕が時間を稼ぐ……? 《
意識せずとも足が勝手に前へ出ながら進み続け、ゴウの頭の中にプランが浮かんでは消える。
その時、ゴウの前方を走っていた、ヴァンパイアを始めとする先頭の何人かが一際茂った藪を掻き分けて、もとい飛び込んで藪の向こう側に消えた。途端に叫び声。
その理由をゴウが理解したのは、藪を境に斜面の角度が垂直へと変わった絶壁から、走る勢いが止まらずに身投げしていた時だった。
「うわああああああ──────ぅぶっ!?」
三十メートルほどの高所落下によるダメージを、せめて最低限にしようと申し訳程度の受け身の体勢を取るゴウを待っていたのは、硬い地面ではなく、ひんやりとした泥の沼だった。
ぞぶぅんっ! と派手な音を立てて全身が沈み込む。もちろん頭も泥に埋もれて周囲が無音になり、何も見えない。
底がないのか、それなりに深いだけなのか。足が底に着かない泥の中で、ゴウは四肢を大きく動かしてもがいていると、上半身が空気に触れるのを感じ取った。
「っぶはぁ!」
頭を振るって泥を払い落とす。周囲を見ると、少し離れた所でいくつかの人の形をした泥の塊が、ゴウと同様に息を吐き出し、グニャグニャと動いていた。おそらくは自分も、他の仲間達からは同じように見えているのだろう。
まずは岸に上がらねばと、直径四十メートル近い円形状の泥沼の端をゴウが目指していると、泥を掻く腕が何かに触れた。
まさかエネミーかと身構えたが、ぼこりと音を立てて泥から突き出たそれは、目を凝らすと誰かの足の先端だった。
ゴウはその足の周辺で両腕を手探りで動かし、感触から誰かの腕を掴んだことを察知した。泥の抵抗を受けながらも、両腕に力を込めて引き上げていく。
「ふん! ぬぬぬぬ……!」
ゴウ自身、泥沼の底に足が着いていない状態なので踏ん張りが利かず苦労したが、なんとか腕を引き上げた。すると、もう片方の腕が伸び、その間から頭部と思しき泥まみれの塊が浮き上がる。
「べぺっ! んん……オーガー?」
引き上げたのはラッパーだったらしい。泥をいくらか払い落としても、元より包帯でぐるぐる巻きになっている顔は表情が読み取れない。
「オーガーが引き上げてくれたんだ。ありがとね」
「どういたしまして。それより他の人を引き上げるのを手伝ってほしいんだ」
それからゴウとラッパーはどうにか岸まで這い上がると、自力で岸まで辿り着けずに泥沼で立ち往生している、仲間の何人かへ向けてラッパーが帯を伸ばし、それを掴ませたらゴウが綱引きの要領で引き寄せるという形で救出していった。
最後に重量級のマガジンを他の仲間と力を合わせて引っ張り上げ、全員が泥沼から脱出することに成功する。
泥まみれの一団を見渡し、同じく泥を全身から滴らせるヴァンパイアが、マントにべったり張り付いた泥を落としながら言った。
「全員、泥だらけなことを除けば無事そうだな……。同じ地点に落下して衝突、などということも起きずに何よりだ」
「あのムカデ達は撒けたみたいね」
自分達が飛び込みを決めることになった断崖を宇美が見上げている。
さすがに全くの無傷とまではいかないが、それでも泥沼がクッションの役割を果たしてくれたことで、誰もほとんどダメージを負わなかったのは不幸中の幸いか。
ただゴウの見立てでは、あのムカデエネミー達なら多脚を駆使して岸壁をやすやすと這い降りてきそうなものだが、あの長い体は影も形も見えない。どうやら本当に逃げ切れたらしいと胸をなで下ろそうとした、その矢先──。
雑木林の向こうから、草が踏み締められ、木の葉が擦れる音が聞こえた。音は止むことなくどんどん大きくなるだけでなく、わずかな震動まで発生し、何か巨大なものが近付いているのが分かる。
「ひとまず身を隠そう。向こうの茂みに移動だ」
小声のヴァンパイアが指差す、茂みの陰へと全員で速やかに移動すると、ゴウ達と入れ替わる形で一体のエネミーが姿を現した。
ぱっと見たデザインは森に溶け込む、抹茶色で迷彩柄の毛並みをしたイノシシ。だが、大きさが尋常ではない。目測で体高四メートル、体長は九メートルと、大型のEVバス並みだ。間違いなく
その巨体を支える為か、蹄のついた太い肢は左右合わせて八本もある。やや上反り気味に前方へ伸びた二本の牙など、もはや破城槌と呼べるものだ。
ここでゴウは自分達がムカデエネミーから逃げ切れたのは、より強力な存在である、このイノシシエネミーの縄張りに入ってしまったからだと悟った。
あのムカデエネミー達を一すすりで喰ってしまいそうなイノシシエネミーは、バルルルル、バルルルル、と前時代的なガソリン式エンジンの排気音じみた、重低音の唸り声を口から漏らしつつ、のっしのっしと進み続ける。
その前方には、ゴウ達が泥沼から這い出た場所。膝上程度まで草が伸びてはいるものの、少し目を凝らせば点々と垂れている泥を辿って、今こうして茂みに隠れている自分達に突き当たるのは容易だ。
誰もが声を発さず、身じろぎもしない緊張状態。動向を注視されている中でイノシシエネミーは──脇目も振らずに泥沼へ入っていった。
その巨体の全身を一度泥沼に完全に沈めてから、にゅっと顔を出す。泥を被った頭部だけを水面から出したまま、ぶふーっとどこか満足げに鼻を鳴らすと、大猪は岸辺に顎をつけてそのまま動かなくなった。
この場に居座られてしまい、内心で焦るゴウだったが、しばらくすると規則的な鼻息と唸り声が聞こえてくる。これは……。
「……寝てる?」
「確かめよう。ちょっと待ってな」
呟くゴウに、ボーンズがひそひそと返すと、羽織っている襤褸マントの中から小さく、ごきんと音がした。すると、マントから骨の右腕が現れる。
単に腕をマントの外に突き出したわけではない。腕はボーンズの体から離れて、何の支えもなく浮いていた。骨を模した自らの装甲を操るボーンズのアビリティ、《
彼の四肢は全て装甲のみで構成されているので、腕も脚も丸ごと本体から取り外して操作でき、初対面時にゴウと握手した右手を取り外してみせたのも、このアビリティによるものだった。
また、先程の戦闘時のように、肋骨部分の装甲を分離させ、武器として扱うこともできる。
そんな遠隔操作されたボーンズの右腕は、浮遊して泥沼近くまで移動してから、草の地面を潜ってガサガサと音を立てていく。
イノシシエネミーは全く動かない。ボーンズが更に大きめに音を立てても、ピクリともしない。
「……どうもバスタイムにご満悦で熟睡中のようだな。強者の余裕か、いずれにしてもこの機を逃す手はない」
警戒は解かないままヴァンパイアが移動を開始し、一行は極力音を出さないようにして、イノシシエネミーの縄張りをそろりそろりと後にするのだった。
その後。イノシシエネミーと充分に距離を取ってからしばらくすると、小川を発見して全員でアバターの体に付いた泥を洗い落とした。
結果的に、ムカデエネミーの群れと巨大なイノシシエネミーを立て続けにやり過ごし、ようやく運が回ってきたと思われたゴウ達だったが、この小川を最後に幸運が尽きたらしい。
「……だー! あー、もー、ちくしょうめ!」
いきなりレンズが大声で喚きだし、お手上げとばかりに両手を上げた。
「ちょっとレンズ……」
「だってよ、この森おかしいぜ。いつまで経っても抜け出せやしねえじゃんか!」
リカオンが窘めようとする前に、レンズがそれを遮る。
レンズの主張は、ゴウにしてみても同感だった。
小川を出発してから、かれこれ一時間以上歩き続けているというのに、立ち並ぶ木々は全く途切れることがない。
それどころか、登山を開始してからの道のりはほとんど傾斜だったのに、イノシシエネミーの縄張り以降、ゴウの体感的にはほぼ平坦なままだ。山道とて終始坂道しかないわけではないだろうが、これはさすがにおかしい。しかも異常なのはそれだけではない。
一晩の休息を経て、加速世界の太陽が昇って間もなくに入山した当初は、朝の日差しが木漏れ日となって降り注いでいたというのに、いつの間にか空は曇り、周囲のどこを向いても霧が立ち込めている。そのせいで、現在は数メートル先もおぼつかないという状況だ。《平安》ステージで天候変化によるギミックは、ゴウの記憶には存在しない。
「さっきより霧、濃くなってない?」
「同じ所をぐるぐる回っているわけじゃないよね。ちょくちょく木につけてきた目印、一度も見ないんだもの」
ラッパーと宇美の声には、どこか不安さが含まれていた。
二人だけではない。ゴウも、他の誰もがそのはずだ。先の見えない現状というのは、どうしたって不安を掻き立たせる。
「なぁに、案ずることはない」
しかし、そんな中で先頭のヴァンパイアは、のんびりとした調子で口を開いた。
「フォックスの言うように、未だ一度も目印に突き当たらないということは、我々は堂々巡りに陥ってはいないということだ。ならば、こうして歩いていれば道はいずれ開けるであろうよ」
「でも、ヴァン。君の《
「確かに。エネミーの匂いも気配もしないしね」
「ほほう、妙?」
リカオンの補足が加えられたゴウの遠慮がちな意見に、ヴァンパイアは足を止める。その場でくるりと振り返ったその表情は、どこか面白がっているふうにも見えた。
「妙、奇妙、奇妙奇天烈。結構なことではないか。ワガハイが聞き回りかき集めた情報で、こんな場所があるとは一度として聞かなかった。ブレイン・バースト八年──いやさ八千年の歴史でも、一応は東京都に分類されるこの場所でも、まだ未発見の場所があるという証左だ。……まぁ、それだけこの場所が皆に興味を持たれなかっただけかもしれんが」
最後だけ少し口ごもり気味になりながら、ヴァンパイアは続ける。
「なんとも心躍る話ではないか。それにいざとなれば、派手に必殺技を使いまくって霧など吹き飛ばしてしまえば──ストーップ! マガジン、今じゃない。やるとしたら自動切断の時間が迫ってからだぞ」
ガチャガチャと武装を展開しだすマガジンを、ヴァンパイアが慌てて制止する。
「エネミーが霧の向こうから現れたとしても、おかしくはないからな。ゲージはまだ温存するのだ。あとは自動切断で一度現実に戻ってから、オーガー達とも時間を合わせて再ダイブというのも手だ。現実時間で五分か十分そこら時間を置けば、《変遷》も行われているだろう」
「変遷を跨いでも霧が晴れてなかったらどうすんのさ」
「……アーアー、キコエナーイ。キコエ──痛い!」
イヤーパーツを押さえて質問を雑にごまかそうとするヴァンパイアに、リカオンが彼の太腿をげしっと蹴った。
そんな二人の掛け合いに、小さいながらも笑いが起きる。
──もしかして、場を和ませようとしたのかな。
ゴウは漠然とそんなことを思いながら、蹴られた箇所をさするヴァンパイアを見やる。意図的に三枚目を演じている──のかは正直微妙で判断がつかない。
「おー痛てて……さぁ我らがリカオンもまだ元気が有り余って──唸るな、冗談であろうが。ともかく、もう少し足を動かそうではないか。我々の冒険はまだ始まったばか──り゛っ!?」
皆を奮い立たせる言葉を投げかけながら、後ろ歩きで進み出すヴァンパイア。そんな彼の後頭部で鈍い音がした。
「アニィ! 大丈夫か!?」
「お、おおう……」
レンズが慌てて駆け寄る。
しかしヴァンパイアには悪いが、頭を押さえて呻く彼よりも、そのぶつかった物の方にゴウの焦点は注がれていた。
「石の……柱? いつの間にこんな……」
そこにあったのは、縦に長く、やや角張った形状の石らしき柱。
いくら霧が濃いとはいっても、こんな至近距離で輪郭さえ目に映らないことなど有り得るだろうか。よくよく見れば、どうして気付かなかったのかと思うほどに石柱は存在感を漂わせている。ただの無機物オブジェクトが放つものとは思えないほどに。
不思議に思いつつも、石として相応に凹凸のある表面にゴウが何気なく触れようした寸前──。
「え……?」
ゴウだけでなく、他の皆もどよめいた。
周囲を覆っていた濃霧が、みるみる内に晴れていくではないか。呆然とその光景を眺めていたゴウは再び驚いた。
石柱と三メートルも離れていない場所に、同じ形状をした石柱が一本立っている。
更には霧が晴れたことで判明した石柱の高さは約五メートル。そんな二本の石柱の天辺に、これまた同じ長さの石柱が横倒しに積まれ、両端が微妙に突き出た形となっている。三本の石柱が形成するその姿は、イギリスのストーンヘンジを連想させ、また簡素ながらも、どこか神社の鳥居のような印象をゴウは受けた。
そして、石の鳥居の向こう側は土の地面ではない、舗装された石敷きの道が続いている。まるで鳥居を境界線に、この先は別の領域だと主張しているかのようだった。
「おお……!」
景色が一変したことによる静寂は、ヴァンパイアによって破かれた。彼はアイレンズを輝かせながら、石の鳥居とその向こうに続く道を食い入るように見つめている。
「奥が開けているな、建物も見える。あれは現実の建物に即しているのか? いや、この周辺は現実ではただの山中のはず……正確な場所が把握できていない今、何とも言えないか。……真実はどうあれ」
ぶつぶつと分析をした後、ヴァンパイアが大仰に両腕を天へと掲げた。
「これを無視して引き返すバーストリンカーがいるだろうか? いやない! いざ征か──」
「ちょっとお待ち」
意気揚々と駆け出そうとしたヴァンパイアは、マントをリカオンにぐいと引っ張られ、ぐえっと呻いて仰け反った。
「何故止める! あと、マントは引っ張るなといつも言っとるだろが!」
「うっさい! 興味あるもの見つけたからって、一人で突っ走んじゃないっていつも言ってんでしょうが!」
掴まれた手から、自らのマントを引き剥がして憤るヴァンパイアに、それ以上の剣幕でリカオンが返した。
リカオンがゴウと宇美に首を向ける。
「フォックス、オーガー。どう見る? この先に進んで大丈夫だと思うかい?」
リカオンの問いにより、他のフリークスメンバーの視線もゴウと宇美に注がれる。仮にも今回の来賓兼用心棒である、自分達の考えも聞いておきたいのだろう。
ゴウは改めて石の鳥居とその先の空間を見つめる。
──木に囲まれた……広場かな。エネミーの巣? 縄張りに入った途端に出現するタイプなのかも……。
リスクを避けたいのなら、回れ右をするのが無難だ。霧も晴れた今、山頂へ続く道を探すことも難しくはあるまい。
だが、ヴァンパイアが言ったように、ここまでいかにもな隠しエリアめいた場所を前にして、無視を決めるというのはバーストリンカーとしてあまりに勿体ない話である。そう何度も狙って辿り着けるとは限らないとすれば尚更だ。
そうなると答えはひとつ。
「……僕はせっかくだから進んでみるべきだと思う。フォックスさんは?」
「そうだねー…………まぁ、良いんじゃない? もしも強いエネミーが出たとしても、あそこからここまでそんな遠い距離でもないし、逃げることもできるでしょ」
「よし決まりだ」
ゴウに訊ねられた宇美も同じく肯定的な意見を出すと、その答えを待っていたとばかりに、ヴァンパイアが声を上げた。
「貴公らならば、そう言ってくれるだろうと信じていたぞ」
そら見たことか、と言いたげなヴァンパイアの視線を受けて、リカオンが肩をすくめる。
「別に行くなとは言ってない。アタシは『一人で突っ走るな』って言ったの。アンタはウチの大将なんだからね。少しは腰を据えなさいなってこと」
「分かった分かった。では、改めて征こうではないか。皆揃ってな」
保護者じみたリカオンの小言に頷きながらヴァンパイアが歩き出し、皆と共にゴウも続く。
ただ、ゴウがこの先に進むことを望んだのは、好奇心だけが理由ではなかった。漠然とした何かを石鳥居の向こうから感じ取っていたからだ。
ところが、奇妙な感覚は鳥居をくぐった途端に、ふっと消えてしまう。
「……?」
結局ゴウはただの気のせいと思い、抱いていた感覚を仲間の誰にも話すことはなかった。