アクセル・ワールド・アナザー 曼殊沙華には祈らない   作:クリアウォーター

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第三十八話

 第三十八話 狐心鬼知らず

 

 

 不意に始まった、宇美との直結対戦。対戦フィールドは《月光》ステージと称される通り、巨大な満月が地上に建物、それにデュエルアバターを青白い光で照らしている。

 ──宇美さん、何だっていきなり対戦を……。

 そう思いながらもゴウは、そもそも宇美が自宅に自分を招いたのは、こうして対戦をする為ではないかと推測していた。

 しかしただ対戦をするだけなら、ニューロリンカーをグローバル接続した状態でどこか適当な場所に座るだけでも事足りる。それなのにわざわざ直結対戦を行うということは、初めからギャラリーを締め出した、第三者のいない状態での対戦をしたかったからと考えられるが、そこがよく分からない。

 

「まぁ、始まった以上は考えても仕方ないか……あっ!」

 

 ゴウは一人呟いてから、はっとなってデュエルアバターの体をあちこち触りながら、自身の状態を確かめる。

 見たところどこにも変化はない。それに日曜日に加速世界へダイブする度に発生していた、諸々の不調もない。

 だが、意識を集中させると、実体のない不可視の糸がアバターの体──頭や胸など、明確にどこの部位とかではなく、自分から伸びて何かと繋がっているような感覚がある。これがイザナミの言うところの正常な『繋がり』、リンクなのか。

 

 ──『──次に中層領域を訪れた時は覚悟せよ。この《黄泉津君イザナミ》に対する此度の無礼、その代償必ずや払わせてくれるわ』

 

 ポータルへ飛び込む寸前、去り際のゴウにイザナミはそう言い残した。

 今の自分が無事なのは、彼女が未だに通常対戦フィールドに干渉できるほどのリンクが形成されていないからか。それとも、宣言通りに無制限中立フィールドへこちらが来るのを、手ぐすねを引いて待っているのか。

 ──アキハバラBGでの対戦を見ていたとか言ってたし、ダイブに気付いてないってわけじゃないと思うけど。

 実際のところ、ゴウがこの二日間のほとんどをグローバル接続していなかったのも、通常対戦でもイザナミと再会してしまうのではという懸念があったからなので、少し安堵していた。その理由は、具体的に何をされるのか分からない報復の恐れよりも、まだ自分の中で『答え』が出ていないからなのだが……。

 ──今は宇美さんとの対戦だ。考えるのは後。

 意識を切り替え、ゴウは出現位置である白亜の神殿めいた建物の屋上から、地上へ降り始めた。

 直結対戦では、互いに現実世界の位置とは異なる座標に、最低でも十メートルの間隔を空けて出現する。運が悪い時にはエリアの端同士に出現してしまうこともあり、そうなると対戦の残り時間が大幅に消費されてしまう。

 ゴウはガイドカーソルを確認しながら、夜の静寂に包まれた街並みを駆けていく。道中で目に付いたオブジェクトを破壊し、必殺技ゲージのチャージも忘れない。

 動的オブジェクトのない《月光》ステージでは、音が対戦相手の位置を知らせる重要な手掛かりになる。今のゴウのようにオブジェクトを破壊していれば、それなりに音が響くのだが、周囲から他に破壊音は聞こえず、宇美のゲージは最初に二割程度溜まってから変化がない。

 おそらくは、奇襲による初撃の取ることを優先しているのだと考えていた矢先、左後方からかすかに音がした。

 それが何なのかを確認するよりも早く、ゴウが防御態勢を取った直後、腕が重い一撃に襲われる。

 

「ぐっ……!」

 

 月の光が届かない、二つの建物に挟まれた真っ暗な路地から矢のように飛び出してきた、宇美の飛び蹴りによるものだ。見てから構えていたのなら、今頃は吹っ飛ばされていただろう。

 ファーストアタックを防がれた宇美は、動揺した様子もなく後方に一転、宙返りして着地。続けて右脚でのハイキックを繰り出してきた。

 腕に連続で負荷を与えられることを忌避したゴウは、反射的に上体を反らす。

 空を切る蹴りが眼前を横切り──直後に脇腹へ衝撃を感じた。それも連続して二つ、左右両方の脇腹に。

 ──しまった……! 

 体力ゲージが五パーセント以上削られ、痛みに小さく呻きながら、バックステップで後方へ下がったことで、ようやく対戦相手の全体像がゴウの視界に収まった。

 宇美のデュエルアバター、ムーン・フォックスは名前の通り、その青みがかった白い装甲は、まるで夜空に浮かぶ満月から作り出された分身のよう。彼女より《月光》ステージがマッチしているアバターをゴウは知らない。

 動物系アバターの多くに見られる、発達した両脚は機動力に優れており、何より厄介なのは、腰から伸びるテイルパーツ。

 単純な格闘戦にも利用され、もう一本手足が増えているに等しく、本数や形態を変化させるアビリティ、《変幻尾(トランス・テイラー)》を差し引いても充分に脅威だ。

 今回の攻撃も、宇美はハイキック後に体勢を戻すことなく、すぐに尻尾を振るってゴウに叩き付けてきた。その反動を利用して体の回転を加速し、即座に左脚での後ろ回し蹴りも行ったのだ。これが最初の蹴りからほとんどタイムラグがなかった、二つの衝撃の正体である。

 

「オーガー……いや、ゴウ」

 

 宇美の声は真剣で、糸目状のアイレンズからは、対戦前に自室で見せたあの表情と同じく、強い意志が込められた眼差しを向けてくる。

 

「本気で来てね」

 

 それだけ言うと、ゴウの返事を待たずして宇美は攻撃を再開した。

 これまで幾度も戦ってきた両者は互いに近接型なので、今回のようにトラップ系のギミックがないステージでは、対戦内容は自ずとアバター自身を駆使した肉弾戦に限られる。

 ゴウは力で勝る分、一度に与えるダメージが多く、宇美は敏捷性で勝る分、攻撃を当てる頻度が多い。

 一進一退の攻防であることは間違いないのだが、どういうわけか今回の宇美は《シェイプ・チェンジ》でビースト・モードにはならず、人型のまま尾を交えた格闘戦を続けていた。その代わりなのかは不明だが、いつも以上に動きの一つ一つに気迫が込められている。

 

「《アダマント・ナックル》!」

「つぅ……!」

 

 何十度目かの打ち合いでゴウが放った必殺技の正拳突きが、宇美の左肩の装甲に当たりはしたものの、その動きを止めることまではできず、必殺技発動直後で硬直した隙に、背後へ回り込まれた。

 右の首筋に鋭い痛みが走る。宇美が牙の生えた口で噛みついたのだ。ゴウに引き剥がそうとする間も与えず両腕によるホールドに加え、更には二つに分裂した尻尾が伸び、肘関節に巻き付いてゴウの両腕の自由を奪う。

 噛みつかれ続けていることで宇美の《奪活咬(メンタル・バイト)》アビリティが発動し、ゴウの体力のみならず必殺技ゲージが減少を始め、その分が宇美のゲージにチャージされていく。

 ──まだだ、もう少し……。

 拘束されたまま、ゴウは抵抗しながらも必殺技ゲージの減少具合を見計らっていた。そしてゲージの消費量が一割を切った瞬間──。

 

「っだぁ!」

「ヴヴ……!?」

 

 ゴウは一気にホールドを引き剥がしにかかる。《限界突破(エクシーズ・リミット)》アビリティの発動により前触れなく上昇した腕力に、宇美が驚きの込められた唸り声を漏らした。

 両腕は無理やり振り解き、巻かれた尾の拘束をものともせず、ゴウは右手で牙を立てている頭部を引っ掴む。

 しかし、ゴウが引き剥がすよりも先に、宇美の方から牙を抜き、尾の拘束も自ら解いた。しばらく付かず離れず保っていた距離を、大きく離して後退していく。

 ここでゴウの必殺技ゲージも底を尽き、アビリティが強制解除された。副作用で《剛力》アビリティも一時的に機能しなくなるが、今回はゲージが一割を切った状態での発動だった為、二十秒もしない内に元に戻るので大した問題ではない。

 互いの体力ゲージはおよそ残り半分。しかし、今の攻防で必殺技ゲージはゴウがゼロなのに対し、宇美はほとんどフルチャージ状態である。このアドバンテージの差はかなり大きく──。

 

「……違う」

 

 ぽつりと宇美が呟いた。その小さい声は、静かな《月光》ステージであることを差し引いても、やけに鮮明だった。

 

「宇美さん……?」

「本気で来いって言ったよね。こんなものじゃないでしょ」

 

 宇美の険しげな表情は、明らかに怒りによるものだった。

 しかし、ゴウは手を抜いているつもりなど毛頭ない。

 

「あの、怒ってます? す、すみません。何か僕が気を悪くさせたなら──」

「全力を出せって言ってんだよ!」

 

 怒っている人間に対し、その理由も分からずに、場を収めようとして謝るのは逆効果である。烈火の如く怒る宇美を前に、怯むゴウは何かで見聞きしたこと思い出した。

 

「高尾山であの天狗相手に戦っていた時はもっと凄かった! 今だってパワーを上げるアビリティを使ったんでしょ? だったら噛みついた私の顔に裏拳でもかませばよかったのに。そっちのが掴んで引き剥がすより、よっぽど手っ取り早かった!」

「そ、そんなこと……」

 

 できない、と言いかけてゴウは口を噤んだ。別の相手であの状況だった時、自分は宇美が言ったことをしたのではないか、という考えが過ぎったからだ。ではどうして比較的穏便な手段で、宇美の牙から逃れようとしたのか。

 それは無意識的に、仲間である宇美を攻撃するのに、心のどこかでブレーキをかけているのではないのか。もしかすると宇美はそれを確かめようと、人型のままで格闘戦に臨んだのかもしれない。

 

「私は……私はあなたの仲間で。ライバルで。…………友達じゃないの? 変な手加減なんてしないでよ……」

「あ……」

 

 絞り出すように心情を吐露する宇美。そのかすかに震えた声に、ゴウは何も言えなくなってしまう。

 重苦しい空気が漂う中で、先に口を開いたのは宇美だった。

 

「もう一度だけ言うよ。全力で、バーストリンカーとしての全てを出して私と戦って。それができないんだったら──」

 

 宇美が地面に指が着くまでに前傾姿勢を取る。垂れていたテイルパーツがぴんと立ち上がったかと思うと、淡い光を発し始めた。

 

「私が嫌でも出させてあげる」

 

 

 

 宇美が小学四年生だった当時、一番仲の良かった友達が友達ではなくなった。

 別段、喧嘩をしたわけでもない。ただ、段々と授業の班分けを組むことが少なくなり、放課後に遊ぶ機会が減り、話しをすることもなくなり、気付けばその友達は、クラス内の別のグループとつるむようになっていた。

 よくある話だと、宇美は割り切った。寂しくはあったが、何もその彼女しか友達がいなかったわけではなかったからだ。

 時が経ち、宇美は中学生になった。周囲の半分以上が知らない人達になり、クォーターである自分の顔立ちが周りの目を引き、同時に距離を取らせているように感じた。いじめられているわけではないが、微妙に浮いた存在にはなっていた。

 ある日の放課後、宇美は廊下で一人の女子生徒と鉢合わせになった。小学四年生の時に疎遠になった女子だ。五年生に進級後は別のクラスになり、同じ中学へ入学後も宇美とクラスは別だった。

 丁度周囲には誰もいなかった二人きりの空間で、宇美は声をかけた。なんか久し振りだね、元気だった? そんな当たり障りのないことを言った記憶がある。

 向こうはぞんざいに何らかの返答をした気がする。宇美が鮮明に憶えているのは、彼女が自分に向けてきた、ひどく鬱陶しげで迷惑そうな目。

『目は口ほどに物を言う』とはよく言ったもので、かつての友達の目は明確に「もう話しかけてこないで」と宇美に伝えていた。

 理由は分からない。ただ今にして思えば、疎遠になりかけていた時にちゃんと話をしておけばよかったのかもしれないと、宇美は記憶を振り返ることがある。

 この日以来、宇美は周囲とより一層に見えない壁を感じつつ、周囲に溶け込もうと意識した。

 それでも、一番目を引く金髪を染めることはしなかった。というよりもできなかった。

 生まれながらの髪の色に、こだわりや誇りを持っていたわけではない。単に髪を染めることで、家族に学校で馴染めていないと思われたくはなかったのだ。

 時たま耳にする、自分へ向けてかも定かでない陰口をひたすら聞こえない振りをして過ごす。そんな中学校生活からもうすぐ一年が経つという頃。宇美は一つ年上のいとこである晶音から、ブレイン・バーストプログラムを受け取った。

 心が作り上げた自分の分身だというデュエルアバターは、似通いこそしても一つとして同じ姿はなく、誰もが誰も違う。そのことは、宇美の心にある種の救いをもたらし、後ろ向きになりかけていた性格も、本来のものへ徐々に戻っていった。

 ただそれでも、現実世界と加速世界の両方で、誰かと一定以上親密になることはなかった。数件あったレギオンへの勧誘をどれも断り、《親》の晶音を除いて深く関わることもなくソロ活動を続けていたのは、また仲良くなった人間が自分から離れていくのが怖かったからだ。

 騙しているつもりはない。欺いているつもりもない。周囲に合わせる、溶け込む、馴染む。それは大なり小なり誰しもがやっていることであり、現代社会では必須のスキル。

 それでも《心の傷》から創り出されたデュエルアバターが、ずる賢いイメージを連想させる狐の姿を取ったのは、自分が息苦しさと負い目を感じているからなのだろうと、宇美は認識している。

 そうしたスタンスでバーストリンカーを続けていた宇美は、今からほんの三週間前に初めて、晶音以外のバーストリンカーとリアルで顔を合わせることになった。

 待ち合わせ場所のファミレスへ事情を知らせていない晶音と共に先に着き、時間になって入口へ行くと二人の男子が来店する。

 一人は見た目も雰囲気も、青年以上の年齢を感じさせる大柄な男子。

 もう一人は自分よりも少し背が低く、顔立ちからして年下だと分かる少年。

 少年──御堂ゴウの見た目にアバターの面影はほぼなかった。それでも少し話しただけで、通学時に乗るバスが一時的に世田谷区へ入る際に対戦する、ローランカー時代から知るバーストリンカーの一人、ダイヤモンド・オーガーと合致した。

 ゴウも対面した時はこの容姿に対して、連れの大悟共々さすがに驚きを隠せていなかったものの、それでも今日に至るまで、以前とまるで変わらずに接してくれている。

 そんなゴウがある日、自分を『友達』だと面と向かって言ってくれたことが、宇美には自分でも予想外なほどに嬉しかった。

 一方で六月末に起こった、ダンジョン《アトランティス》での戦いを経て、ゴウのバーストリンカーとしての実力は、それまでより一段階上がっていた。

 つい三日前の高尾山における天狗エネミーとの戦いでは、空飛ぶ天狗を墜落させ、エネミーの性能を強化していた仮面を破壊するなど、要所での彼の活躍を目にした宇美は、若干の危機感を覚え始めていた。

 実力が上がり、心意技を修得し、ついでに二つ名までできたゴウが自分よりも先へ、一足飛びで遠くへ行ってしまう。宇美はそんな気がしてならず、その日の内に晶音へ連絡をしていた。

 心意技を教えてほしい、と。

 

 

 

 月明りが上空だけでなく、ゴウの目の前でも輝いている。

 発生源は、宇美のテイルパーツ。そこから発生している光は間違いなく心意システム発生の証、過剰光(オーバーレイ)に他ならない。

 宇美は一体いつの間に心意システムを修得したのかとゴウは思ったが、自分も加速世界で一ヶ月間、現実時間に換算して一時間で最低限の実用化にまで至ったことを考えれば、そこまで有り得ない話ではない。

 問題はその強力さからゲームバランスを崩壊しかねず、使い手のほとんどが他者の心意技への対抗手段として修得かつ秘匿しているものを、どうして宇美が発動したのかという点だが、ゴウには何となくその理由も分かった。

 駆け出した宇美の膨張した尻尾が、文字通りに光の尾を引いてゴウに叩き付けられる。技名の発声が間に合わず、変化していない両腕にどうにか過剰光(オーバーレイ)を纏わせるも、突進の勢いが加算された一撃はゴウをその場に留まることを許さない。

 

「がはっ!」

 

 背後の建物の壁に、ゴウは背中を強かに打ち付け、勢い余って壁は破壊される。幸い、両腕の装甲は砕けていなかった。

 どうやら宇美は元々、心意システムの発動を見越してこの直結対戦を始めたらしい。心意技を含めた上で、できることを全て駆使してゴウに対戦に臨んでほしいのだ。

 今回は対戦終了後すぐに話を聞くことができる。ならば今の自分がすべきことは、宇美の覚悟に応えて戦うこと以外にない。

「……《黒金剛(カーボナード)》」

 

 瓦礫を下敷きにして転がっていたゴウは、のそりと起き上がりながら呟いた。途端に光に包まれた装甲は、丸みを帯びたカット処理が施され、厚みを増していく。

 全身の装甲が白み混じりの透明から、黒に変わった鬼は建物の外に出て、尾を月光のように輝かせる白狐と対峙する。

 しん、と静まり返る月夜の街。その状況はほんの一瞬で終わり、互いにすぐに動き出した。

 ゴウが全身の装甲を心意技で強化している以上、宇美も心意を用いた攻撃しか有効打にはなり得ない。つまり今の宇美がこちらにダメージを与えるには、過剰光(オーバーレイ)を纏った尻尾による攻撃しかない。

 だが、ゴウには分かっていた。あれはまだ心意技に至るまでのものではない。その中途段階にあるものだ。心意の強度としてはこちらの方が上。

 問題は宇美がそれを理解していないはずがないのに、こうして正面から向かってきていること。こちらが射程圏内に入った直後に、本命の心意技を発動する気だと考えられる。

 ──それでも構わない。尻尾の動きにさえ気を付けてやり過ごせば、こっちが勝つ! 

 自分が編み出した技の強度を信じ、ゴウは走る速度を緩めずに進んでいく。もちろん、宇美が寸前で直線から軌道を変えてくる可能性も忘れない。

 接触まで残り五メートル、四メートル、三メートル──。

 

「《狐火幻燈(ウィル・オ・ウィスプ)》!」

 

 宇美が叫んだ。

 ゴウの知らない技名。必殺技ではない。やはり心意技かと、より宇美の尾に注意を向ける。

 ところが、尾は一切変化しない。代わりに直径一メートルもの火の玉が一つ、唐突に音もなく発生した。心意技としては凄まじい発動速度だ。

 すでに躱せる距離ではなく、ゴウは止むを得ずに両腕でガード体勢を取りながら、赤々と燃える火の玉に突っ込んでいく。こうなれば心意の炎に、自分の心意の鎧がどこまで耐えられるかが勝敗の分かれ目──。

 ──熱く……ない? 

 ぼうぼうと音を立てる炎に激突したのに、火の玉に熱を感じない。ダメージが、体力ゲージが減少しない。

 そして、燃え盛る炎によって宇美の姿が確認できない。

 ──これは目くらまし、陽動──。

 

 ドッ! 

 

 音は一つ。衝撃は三ヵ所。その全てが鳩尾、装甲が最も薄い部分から伝わった。纏わり付いた火の玉に遮られて見えないが、宇美が三本に増やした尾を硬化させて突き刺したのだ。もちろん心意システムが付与された一撃、いや三撃だ。

 体力ゲージがぐぐっと削れ──残り二割切ったところで止まった。心意の装甲に包まれていなければ、これで決着が着いていただろう。

 

「《ランブル──」

 

 耐え切ったゴウは刺さった尾を引き抜いて、逃がすまいと両手で掴む。尾がびくんと反応し、そこには動揺が含まれていることも伝わった。

 

「──ホーン》!」

 

 ダメージと引き換えに得た必殺技ゲージを消費し、ゴウが必殺技を発動すると同時に、持続時間はそれほどでもないのか、火の玉が消え去った。

 炎が晴れた先には、三本に増えた尾を長く伸ばした宇美。彼女は悔しさと満足が同居したような、どこか複雑な表情をしていた。

 すぐに下を向いたゴウがそれを見たのはほんの一瞬で、伸びた両角を宇美の腹部に突き刺して背後の建物に激突させる。突進を止めることなく壁を破壊した建物内を駆け抜け、向かいの壁もぶち破りながら外へと出た。

 崩れる壁の破砕音に重なる、アバターの爆散音。ゴウの視界に【YOU WIN!!】の文字が表示され、消える。

 勝敗が決したフィールドで空を見上げれば、最初にステージに出現した時と変わらず浮かぶ満月が、勝者であるゴウを称えるかのように煌々と照らしていた。

 

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