アクセル・ワールド・アナザー 曼殊沙華には祈らない   作:クリアウォーター

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第四十三話

 第四十三話 女帝との交渉

 

 

 ゴウと大悟が座っている位置からは、公園の入り口である《日比谷門》までが、一部が建物に遮られながらも見えている。そこを通って現れたデュエルアバターを、ゴウは五十メートル近く先でも容易に視認できた。

 

「ほら立つぞ。VIPゲストを座って待ってちゃ失礼だ」

 

 そうは言いながら、「よっこいせ」と気の抜けた声で立ち上がる大悟には緊張が欠片も感じられない。

 反対にゴウは慌てて立ち上がり、自然と背筋も伸びてしまう。

 

 かつん、かつん、かつん。

 

《鉄鋼》ステージの鉄板が敷かれた地面に、硬質な足音がよく響く。

 足音は一つではなく、ゴウがその姿を見て驚いているアバターの背後に、一体のデュエルアバターが随伴をしている。あるいは護衛かもしれない。戦闘の影響を一切受けないギャラリーであるにもかかわらず、ゴウが釘付けになっている人物は、そう思わせるに足る存在だった。

 それは細身のF型アバターだった。額のティアラから垂れ下がるベール状の装甲が、ロングヘアーのように揺れている。ロングスカート状の分割装甲の隙間から、すらりと長い脚部が付け根近くまで露わとなっていた。

 そんなスーパーモデル体型の各所には、鋭い棘を生やした茨に似た装飾。触れれば実際にダメージを受けるであろうことは容易に窺える。

 そのボディーカラーはこれ以上ないほどに鮮烈な──紫色。

 本来は対戦者とギャラリーが、十メートルまでしか近付けない設定基準である、《ギャラリー接近制限》は早々に解除してある。F型アバターの針のように細く、長い踵の付いたピンヒールが足を止めた地点は、ゴウ達との距離を二メートルほど空けた先だった。

 直後に大悟が、会社に契約先の上役が訪れた下請け業者のような腰の低さでぺこぺこと頭を下げる。

 

「いやぁ、どうも昨日振りで。わざわざご足労いただきましてすんませんです、はい」

「……なんなの、そのキャラ。凄く不気味なんだけど」

 

 大悟の下手な芝居に、F型アバターは鼻白む態度を見せる。見た目からは少し意外な、甘く可愛らしい少女めいた声は、それでもどこか威厳を含んでいた。

 

「あん? なんだよ、こっちから呼び出した手前、ちょいと下手に出たのに。じゃあいいや。微妙に遅いぞ、もっと早く来られただろうに。お前さんの領土の隣だし、ここを待ち合わせ場所に選んだのだってそっちだろ」

「相手が相手なんだから、こっちだっていろいろと警戒するに決まってるでしょうが。どうせあなた達、公園内のどこかからダイブしてるんでしょ? 鉢合わせないように別の場所を選んであげた、こっちの配慮を考えてよね」

 

 普段の態度にあっさり戻って文句をぶつける大悟に、F型アバターも一歩も退かずに言い返す。

 そんなやり取りを、はらはらと見ていることしかできないゴウは、ふとF型アバターの右手に握られている、百五十センチほどの長さをした錫杖が目に留まった。こちらにも持ち主同様に、細長い針を生やした茨の蔓のような装飾が施され、先端にはクリスタルがはめ込まれている。

 晶音のアバター、クリスタル・ジャッジの杖型強化外装《クリスタル・ルーラー》に少し似ているが、ジャッジの杖はそれより柄が一回り短く、茨の蔓も巻かれていない。それに強化外装としての『格』も一歩劣るだろう。それは無理もない。ゴウの目の前にある錫杖は、加速世界における最高峰の強化外装の一つなのだから。

 

「あーもう! このやり取りの方が時間の無駄だわ。それで、そいつがそうなのね?」

 

 F型アバターが大悟とのやり取りを打ち切り、アイレンズをゴウへ向けた。関心を向けられたことで、ゴウの中で緊張感がより膨らむ。

 

「そうだ。昨日話した俺の《子》、ダイヤモンド・オーガー。オーガー、面識はなくてもこうして対面すれば分かるだろ? こちら、かの有名な《パープル──」

「タイム! ……です」

 

 対面している人物を紹介しようとする大悟を、ゴウは両手でTの字を作って遮った。続けて着物型装甲の裾を引っ掴んで大悟を後ろに向かせて、自分も同じくF型アバターに背を向ける。

 

「聞いてませんよ」

「言ってないからな」

「あの人が指導役ですか?」

「そのつもりで呼んだ。事情は大まかには説明してある。そうじゃなきゃ来ないし」

「いや、あの人、《王》ですよね? 純色の、七王の」

「VIPゲストだろう?」

 

 小声でひそひそと話しているゴウと大悟の後ろにいるのは、現在の加速世界に七人しか存在しない、レベル9に到達したトップハイランカーの一人──《パープル・ソーン》。中央区、江東区を領土下に置く大レギオン、《オーロラ・オーバル》のレギオンマスターである。

 そんな大物を、何をどうやったら自分の指導役に呼べるのか。ゴウにはさっぱり分からない。

 

「師匠、気軽に呼び出しなんてできる仲だったんですか?」

「気軽なもんか、それなりに大変だったんだぞ。連絡先は当然知らないし、伝手(つて)もないから昨日は放課後に江東区まで足運んでよ」

「対戦って……向こうはマッチングリスト遮断特権があるでしょう」

 

 週末に行われている領土戦により、領土を獲得しているレギオンの構成メンバーは、そのエリア内ではグローバルネットに接続していても対戦を拒否できるという、大きな特権を持っている。大悟が乱入しようにも、向こうから仕掛けて来なければどうにもならないはずだ。

 

「だからリストに載っている奴と片っ端から対戦しまくった。『王を出せ』って言いながら」

「何やってんですか!?」

「だってなぁ、他にやりようがないし。最初は紫のレギオンじゃない奴らと何人か対戦していって、次に挑戦してきたレギオンのヒラメンバー、しばらくしたら幹部格が出てきた上に、ギャラリーでソーンも顔を見せたからな。その後でようやっと話せたってわけよ」

 

 あっはっはっは、と大悟が豪快に笑う。紫のレギオンからしてみれば、ほとんどカチコミされたも同然なので、たまったものではあるまい。少なくとも笑い事ではない。

 

「それネット荒らしなんじゃ……」

「失敬な、俺はまっとうに対戦しただけだ。悪質な行為は一切してないぞ」

「にしたって、王を引っ張ってくるなんて無茶な──」

 

 ピシィィン!

 

 ゴウの背後で、高く鋭い音が響いた。

 

「いつまで背を向けて話しているつもりだ!」

 

 その後すぐに、物音に負けず劣らずに鋭い声をした叱責が飛んでくる。聞いたばかりのソーンの声ではない、ややハスキーな女性の声。

 ゴウがすぐさま振り返ると、ソーンに随伴しているF型アバターがこちらを睨みつけていた。

 アウトローメンバーのワイン・リキュールよりも、やや色合いの濃い赤紫の装甲。鍔の付いた大きなベレー帽型ヘルメットに、大腿部から広がった装甲はどこか軍服に似ていた。それも平隊士ではなく、ベテランの士官を思わせる雰囲気がある。王に随伴しているのだから当然と言えば当然か。

 アバターの手には鞭が握られており、先程の破裂音は振るった鞭によるものだったらしい。その鞭を輪状にして腰元に納め、続けて怒声が飛ぶ。

 

「我が王を呼びつけておきながら早々に文句を垂れ、挙句にそっちのけで話し続けるとは無礼にも程があるぞ、《荒法師》!」

 

 二つ名で呼ばれた大悟は「《アスター・ヴァイン》、レギオンの副長」と、士官アバターの最低限の情報をゴウに耳打ちで素早く伝えると、いかにも面倒くさそうに溜め息を吐いた。

 

「そう怒るない。あんまり喚くようならフィールドから追い出すからな、って昨日言ったはずだ。そう決めた対戦で俺が勝ったんだから守れよな」

「確かに勝負に負けた以上は守るつもりだったがな。これ以上は我慢ならん! しかもなんだ、先程から黙って見ていれば、そっちのオーガーとやらは我々が来るのをまるで知らなかった様子ではないか!」

 

 正解です、と内心でゴウは首肯する。

 どうも昨日大悟が対戦したというレギオン幹部は、このヴァインらしい。当たりが強いのは、自身のレギオンマスターの前で敗北させられたことか、元々の性格によるものか。それともその両方か。

 

「思い上がるなよ。貴様らアウトローなど、大勢に影響のない世田谷で活動しているからこそ、我々六大レギオンに捨て置かれているに過ぎんのだ。そうでなければ少しばかり腕が立とうが、とっくに──」

「《鉄拳》の野郎といい、《二剣(デュアリス)》の娘共といい、なんだってこう側近連中ってのは、親分を少しぞんざいに扱っただけで目くじらを立てるのか……」

 

 一方の大悟は、ヴァインの追及など意にも介していない様子でぶつくさと文句を呟いている。

 

「──そもそも交渉の席を用意するのなら、段取りくらいはちゃんと整えておくのが最低限のマナーというのものであってだな……貴様、聞いているのか!?」

 

 そんな両陣営が対面してからここまで、一向に進展しない状況に業を煮やした者が一人。

 

 ッキィィィン!! 

 

 今さっきヴァインが地面に鞭を打った時よりも、数段高い硬質音が辺りに響いた。ソーンが錫杖の石突で、地面を打ったのだ。一瞬、地面に紫の火花が散るのをゴウは目撃した。

 途端にヴァインが口を噤み、その場から一歩下がる。

 

「失礼しました、マスター……」

「別にあなたを責めたわけじゃないのよ、ヴァイン。でも少しだけ落ち着いてね」

 

 完璧な角度でお辞儀をしながら謝るヴァインを宥め、ソーンが大悟の方を向く。

 

「うちの副官をやたら煽るような真似しないでくれる? それとずっとこのままだべってるだけなら、あたしも帰るからね」

 

 諭しながらも、しっかり棘を含んだ口調のソーンに、大悟が黙って両手を挙げた。

 そつなくその場を収める手腕も王の実力か、とゴウが感心していると、また脱線しないようにと、ソーンはそのまま話を進める。

 

「改めて確認するけど、呼び出した理由はこうよね。そこのオーガーが電気系統のアビリティを獲得するのに、あたしに手伝ってもらいたいと」

 

 ソーンの視線が、頷く大悟からゴウに向けられる。

 これこそが、二日前にゴウが大悟へ提案した内容そのものだった。

 ゴウが再戦を望む相手、コークス・デーモンの攻撃は物理属性だけでなく、そこに高熱を付与してくる。ダイヤモンド・オーガーの装甲には相性が悪く、しかもこの熱は継続ダメージとして、微弱ながらこちらの体力ゲージを削り続けるのだ。前回の対戦では、攻撃を受けた部位に火傷に似た痛みがいつまで経っても消えなかったことから、時間経過では消えない可能性も有り得る。

 どうしても接近戦を挑むのは不利。そこでゴウが考えた対抗手段が、電撃や放電など、電気を発するようなアビリティの獲得だった。可能ならば、距離を取った攻撃、又は相手をスタンさせ、攻撃までの隙を作れるようなものが望ましい。

 もちろん、ブレイン・バーストにおけるアビリティとは、望めば簡単に得られるものではなく、心意技と同様、デュエルアバターの性質とかけ離れたものを会得するのはまず不可能とされている。

 ただ、ゴウも全くの考えなしに、このようなことを言い出したわけではない。

 以前のレベルアップ・ボーナスでは、電撃を発射(モーションを見た限りは)している必殺技が表示されたことがあった。それにこのアバターの固有名(オウンネーム)であるオーガー、すなわち鬼の姿は古くから一般的な雷神、『かみなりさま』のイメージと一致する。

 根拠としては弱く、こじつけじみた部分があるのは重々承知。だからこそ、ゴウは大悟に可能性の有無を相談した。

 結果、「保証はできないが」と大悟は前置きしながらも、指導役となる人物と接触させると言ってくれた。その相手が純色の七王の一角とは、夢にも思わなかったが。

 

「……で、引き受けてくれるなら、見返りをくれると。昨日そう言ったよね?」

 

 ゴウに向けられていたソーンの視線が、再び大悟へと戻る。

 見返り。これもゴウには初耳だ。つまり大悟はソーンへ、報酬を条件に仕事を頼んだらしい。考えてみれば至極当然で、特に親しくもない相手に対し、無償のボランティアを引き受けるわけがない。

 

「昨日はまだ用意できてないとか言ってたけど、今はあるわけ?」

「あぁ、今日の朝方にようやっと完成してな。協力してくれるなら、これを渡そう」

 

 大悟が右腕を動かすと、その手に紙の束が実体化した。『IM』の二文字を丸で囲っただけの、簡素とも適当ともとれる表紙を目にすると、ヴァインがはっと息を呑んだ。

 

「その紙媒体……まさか《記録屋(アーカイブ)》の……」

「いかにも。これぞインク・メモリーが集めた情報の一端、《メモリー・メモ》……とそれを基に俺が書き加えた、江東エリアと中央エリア──おまえさんらの領土の情報が載った無制限フィールドの地図だ」

 

 ほら、とゴウが見せると、ソーンとヴァインが更に近付き、大悟がめくるペーパーを興味深げに凝視する。

 アウトローメンバーの一人、インク・メモリーはアビリティの副産物として、万年筆と紙の生成が可能であり、これに書き込んだ情報をアバター内に入出力できるという、極めてユニークな能力を持っている。

 メモリーはこれを利用し、日頃からアウトローのホームでは、加速世界で見聞きした情報を書き込んでは取り込む作業を行っている。情報通故に加速世界で起きた物事を、彼がアウトロー内に伝えることも多い。

 そんなメモリーが情報屋としても活動し、メモリー・メモなる形で情報を売り買いしていることを知ってはいたが、実際にその場面に(ここに当人は不在だが)立ち会うのは、ゴウには初めてのことだった。

 

「エネミーの巣や縄張り、ショップの位置とおおまかな品揃え、各ステージのトラップ類の位置やその他諸々。全部を網羅しているとまではさすがに断言できないが、それでも中々に充実した内容だろ?」

「む……確かに完成度の高いものではある。だが、こうしてざっと目を通しただけでも、すでに知っている情報が多い。そこまで目新しい内容とは言えんな」

 

 普段活動しているエリアである分、土地勘や地理の把握は当然しているのだろう。感心しながらも、新鮮味は薄いと厳しい感想を口にするヴァインに、大悟はそうだろうなと頷く。

 

「ハイランカーのお前さん達には、別に要らない物だろうさ。だが、レベル4、5の若い連中連れてエネミー狩りをする時なんかには十二分に役立つ。こうして図で見せた方が、口で言うよりも頭に入りやすい奴だっているだろう」

「つまり、レギオン全体の底上げに使えってことね?」

「その通り」

 

 ソーンにも頷いてから、大悟はメモの表紙を軽く叩いた。

 かなり厚めな紙束を見ながら、ゴウは大悟に小声で訊ねる。

 

「師匠、こんな凄い物いつから作っていたんですか?」

「一昨日お前さんと話した後、すぐメモリーに連絡してな。情報自体はメモリーが元から集めていたものだ。それに俺がマッピングしながら補足を加えて、万人向けに読みやすくしてみた。ほら」

 

 紙束を大悟から受け取り、改めて中身を確認していくと、はじめにマークが点在している地図が描かれ、後ろの方にはそれぞれのマークの意味とその場所にある内容が書かれていた。今日の朝に完成したと言っていたことから、おそらくは時間の合間を縫っては、無制限中立フィールドにダイブして作っていたのだろう。

 

「管理は好きにしな。おたくら二人のどちらかが持っていてもいいし、大レギオンなら参謀だの書記係だのいるだろ、そういうポジションに預けるもよし。ただし再発行は受け付けないからあしからず。二度も同じの作るとなると腱鞘炎になっちまう」

 

 そう言いながらメモをゴウから回収し、大悟はソーンとヴァインに向き直る。

 

「どうだ? お互い、後進の育成に胸を貸すってことで一つ、協力してもらえないか?」

「……いかがなさいますか、マスター」

 

 ヴァインが迷ったようにソーンへと指示を仰ぐ。

 ソーンは顎に左手を当て、しばらく考え込んでいる様子だったが、やがて口を開いた。

 

「確かに取引内容としては悪くないわね。そのメモは有用だと思う」

「お、じゃあ──」

「でもそれが無いからって、こっちには別に支障が出るわけじゃない」

 

 大悟が言い終える前に、ソーンはそう断言した。

 

「ほぼ関わりのない集団の、その内の一人の為に、わざわざ徒労にしかならない可能性が高いことを引き受けるのは……ちょっとね。そこまで暇でもなければ義理もないし」

 

 ソーンのドライな批評に、場の雲行きが怪しくなってくる。

 このまま話がお流れになってしまえば、せっかくの大悟のお膳立てが、全て無駄になってしまう。そう思ったところで、ゴウははっと気付いた。

 ──僕、何もしてない。大悟さんに任せっきりじゃないか。

 そもそも、アビリティの獲得がしたいと言い出したのは自分だ。その自分はここまで何をしたのか。

 指導役と接触したのも、話し合いの場を作ったのも、交渉材料を用意したのも、全部大悟の働きだ。彼が率先して行ってくれたことではあるが、どれも本来は自分でやるべきことではないのか。

 そんなことを考えていると、ソーンと目が合った。ここまでの対話で度々こちらに向けていた、値踏みするような、品定めするような視線。そのプレッシャーにゴウはこれまでと同じく、反射的にその視線から目を逸らし──かけて踏みとどまる。

 ──僕は彼女に、まだ何の意思も示してない。

 

「あ、あの! そこをなんとか、引き受けてもらえませんか!」

 

 ギャラリーでありながら発散されているオーラに、やや気圧されながらもゴウはソーンに向かって声を張り上げた。

 

「ムシの良い話だと思います。あなたの言っている通り、何の成果もないかもしれない。それでもアビリティへのヒントとかきっかけが得られる可能性はあります。短い時間でも構いません。どうか僕に力を貸してください!」

「……どうして、そこまでアビリティを求めるの?」

 

 直角九十度まで頭を下げたゴウに、女王が問う。

 

「勝ちたい相手がいるんです。その為には今より強くならないといけない」

 

 ゴウの答えはシンプルだった。脳裏に浮かぶのは、灰色の悪魔の後ろ姿。熱を操りながらも、こちらに一切の熱意を向けてこなかったバーストリンカー。

 正確にはアビリティの獲得が絶対なのではない。勝利する上での対抗手段として、ゴウの思いつく具体案がそれしかなかったのだ。

 そんな荒唐無稽な提案を、大悟は一笑に付したりせず、それが得られるかもしれない機会を用意してくれた。これを無駄にするわけにはいかない。

 誰も何も言わないでいる中、頭を下げたままのゴウが聞いたのは、それまでよりも幾分か圧が減ったソーンの声だった。

 

「……最低限、意見の発信くらいはできるみたいね。これで食い下がるのまで《親》任せにしているようだったら、論外だったけど」

 

 いきなり右肩に手を置かれ、ゴウが顔を上げると、大悟が「よく言った」とばかりに、ぐっと親指を上げてサムズアップしていた。

 続けて鼻を鳴らし、肩をすくめてからソーンが言う。

 

「とんだ面倒事だけど……いいでしょう、ダイヤモンド・オーガー。あなたに加速時間で二日間、このパープル・ソーンの時間をあげます。……最初に言っておくけど、必ずアビリティを得られるなんて確約はできないからね」

 

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