それは織斑一夏が藍越学園の試験に行く前のお話。

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会話文というか一人称の練習。
とある小説をリスペクトしながら書きました。


びふぉあーあいえす

「よし、準備はオッケー。イテキマース」

「いってらっしゃい。頑張るのよー」

「へーい」

 

 こんがり焼けた食パンを、口にくわえて走り出す。

 最寄りの駅まで徒歩5分。電車の時間まで余裕がないわけじゃないが、なんとなく走りたい気分なのだ。

 曲がり角で美少女と衝突することなく駅に到着。そこには見知った顔がいた。

 

「お、一夏。おはー」

「ああ、おはよう……学ランにすげーパンくずついてるぞ」

「心配御無用。コロコロがある」

「用意周到だな」

「やべっ、受験票にひっついた」

「大惨事だな」

 

 そこは慌てるところですよ一夏さん。

 やれやれだぜ、と言わんばかりに首を振る彼の名前は織斑一夏。甘いマスクに優男な性格と学校一番のモテ男である。正直嫉妬とかする次元を超えてるレベルでモテてるので羨ましいとかは思わなかった。というか彼の知らないところで起こる修羅場を見てるだけでそんな気持ちは消え失せた。げに恐ろしきは女の嫉妬である。

 そんな彼とピーチクパーチク雑談してると電車が来た。

 自動で開くドアを通って座席に座る。ふくらはぎに伝わる暖房が痛いくらいに熱い。

 

「はぁー……」

「暖房のあまりの熱さに温泉気分の一夏さんなのでした」

「違ぇよ。いや、違くもないけど。これから受験だろ? A判定だし緊張はないと思ってたんだけど……少し心臓がドキドキ言ってる」

「まるで全然そんなことないぞ」

「俺はお前みたいに心臓に毛は生えてないんだ」

 

 真顔でなんとも失敬なことを言う一夏。繊細でガラスのハートなこの俺に何てこと言うんだ。泣くぞ。

 

「繊細(笑)」

「そう、一撫でされたら傷ついて涙が出ちゃう。男の子だもん!」

「かなり気持ち悪い」

「ん? 文句あんの?」

「繊細崩れてる崩れてる」

 

 おっと。

 思い出したけどナイーブって本来繊細って意味じゃないんだね。

 

「へぇー」

「ここテストに出るぞ」

「んなバカな」

「教科の名前は誤用和製英語。これさえ出来ればパブリックなピーポーもエンジョイがキャン」

「ルー語だってそこまでいかないぞ……」

「いずれわかるさ。いずれな」

「真月乙」

 

 なんだか最近彼が色々と毒されてる気がするのは気のせいかな?

 妙にあたりが強いんだけど。

 

「それにしてもまさか同じ学校志望だとはなぁ」

「実は一緒の学校に行きたくて同じのにしたんだ」

「えっ、マジで!?」

「嘘です」

 

 腰の入ったいい右ストレートが繰り出された。間一髪で後ろに回避。

 ガンッ、といういい音が後頭部から鳴った。いてぇ。

 なんでもいいけどなんで座ったままの姿勢でそんなパンチ打てんの? ツェペリ家の一族なの?

 

「なにすんのさ」

「お前が嘘をつくからだ」

「お茶目な冗談じゃないの」

 

 そう言うとそっぽ向く一夏。

 まぁ同じ学校に行く予定の奴、俺以外に他にいないからなぁ。

 弾も御手洗も他の学校だし。

 

「まぁまぁ一夏、許してくれよ。ある程度は本当だからさ」

「……どのくらい?」

「9割くらい(が嘘です)」

「なんだ、素直じゃねぇな!」

 

 一転して笑顔になるイケメン。鈍感でよかった。

 密かに安堵していると聞こえてくる車掌さんの声。

 どことなく癖になりそうな鼻声が耳によく響いた。

 

「あ、次の駅だっけ?」

「ん? いやもっと先だろ。たぶん」

「たぶんってお前……もしかして場所調べてないのか?」

「一夏についていけばいいかなーって」

「お前なぁ」

 

 呆れたような一夏にてへぺろで返す。

 こういう時って一緒に行く奴に任せちゃうよね。

 もちろん相手が調べてるって確信できることが前提だけど。

 

「うーん……」

「どしたん?」

「いや、ほら」

 

 一夏の指差す先には電光掲示板。

 そこには『次は○○前』と流れていた。試験会場近くの駅だ。

 

「でも昨日調べたら確かもう何個か次の駅だったと思うんだよ」

「なるほど……なら携帯で調べて」

 

 圏外。

 

「どういうことだってばよ」

「俺の記憶違いかなぁ……」

 

 2人して頭を抱える羽目に。

 他の人に聞こうとも思ったが何故か誰もいない。通勤ラッシュとはなんだったのか。

 さて、どうしよう。と悩んでる間に着いた。

 

「行くっきゃないか。間違えてたら鼻からスパゲッティな」

「いやなんでだよ。お前も調べてくれば2人で確認できたじゃないか」

「ほんの少しの労働すら俺には似合わない……」

「似合う似合わないの話じゃねぇ」

「その話なら一夏って女装似合うんじゃね?」

「話飛びっ飛びでまるでついていけねぇや」

 

 足りないのは胸くらいだと思う。短髪もウィッグつければなんとかなるし。

 そう言うと一夏は苦虫を噛み潰したような顔になった。

 どうしたのか聞くと前に罰ゲームとして一度やったことがあるらしい。そのまま1時間ほど街を練り歩いたのだとか。付き合いいいな。

 結果は、まぁ御想像の通り。

 

「誰も男だと気付かんかったと」

「いやでもただそれだけなら別にいいんだよ。罰ゲームってことで納得したし」

「じゃあなんで?」

「……モデル雑誌にスカウトされたんだ」

 

 俺にできることは胸を貸してやることだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が泣き止む頃には電車は出発してた。やべぇ。




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