デギン・ザビの弟に転生したと思ったら、俺の知ってるガンダムの世界と少し違うんだが   作:TSしたとねり

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ちょっと長くなりそうだったので、分割しました。
続きのお話はもうしばらくお待ちください。
作者も早くMSのドンパチ書きたいんですが……物語の展開の遅さには申し訳なく思っております。


7 親族喧嘩(宇宙世紀0062年)

 ——宇宙世紀0062年、7月某日。

 

 ムンゾに連邦軍が駐留する事が、ムンゾの議会によって決まって数ヶ月。

 

 「治りが遅い」とぼやいていた兄上の拳が骨折していたことが判明した、『血のバレンタインデー事件』(命名:俺)から数日が経った日のこと。

 

 彼女が俺の住んでいるアパートを訪れてきたのは、あまりにも突然すぎることだった。

 

 

「……こんなところに住んでいては、ザビ家の格が問われるのでは?」

 

 玄関のチャイムが鳴り、ドアスコープを覗き込んだ先にいたのはキシリア・ザビ。

 ムンゾの諜報機関『ムンゾ保安隊』の一員にして、兄上(デギン・ザビ)の長女。

 

 つまり俺にとっての姪に当たる。

 

 キシリアはムンゾ保安隊の制服に身を包み、兄上譲りの鋭く悪人のような目でドアスコープ越しに俺と視線を交差させた。

 

 男の一人暮らし、アパートの一室。そこに女性が訪ねてきたと言うだけで華やかになる。一歩間違えれば、薄い本のような展開間違い無し。それも、美人なら尚ヨシ。ヨシ! だめ?

 

 だが、何の前触れもアポイントメントもなく、突然親戚とはいえ女性が訪ねてきたら男ならどうするだろうか。

 

1 興奮する

 2 部屋に引き入れる

 3 居留守を使う

 

「ち、ちょっと待って!」

 

 残念。全てハズレ。YOU LOSE。エロゲのような選択肢だから油断したな?

 

 それはもう部屋の中の()()()()に勤しむしかないだろう。男の部屋には女性に見られてはいけない色んなものがあるのだから、多少ドタバタと片付けても許されるはずだ。

 

 様々な雑誌をはじめとして、タチアナの私物なんかも全て片付け終え、部屋の中に通した瞬間に、キシリアから言われたのが先ほどの言葉。

 

 古びたソファに腰掛けたキシリアと正対し、笑みを浮かべながら

 

 ——ほっとけ! これくらいごちゃごちゃしてた方が、生活感もあって過ごしやすいんだい!

 

 などと思っていると——

 

「聞いているのですか叔父上? まったく……あなたもザビ家の一員なのであれば、それ相応の……」

 

 ——キシリアはまるで俺の母親かっていうくらい、細かく生活態度を指摘しはじめた。

 

 やれ、もっと小綺麗にしろとか、着ている服が産業革命期の労働者みたいでダサいとか……

 ……あれ? もしかして俺、キシリアちゃんに嫌われてる?

 

「ところでキシリアさん、どうしたの? 君が直接訪ねてくるなんて珍しい……というか、初めてのような気がするんだけど? あ、適当に座ってて。ごめんねぇ、おじさん一人暮らしだから、安いインスタントコーヒーしか出せないけどちょっと待っててね」

 

 矛先が俺の生活全般にわたろうとしたので、少し場を離れて話題を変えようとする。

 しかし、その俺の行動はキシリアが腕を掴むことで阻止された。

 

「……待ってください……私も暇ではありませんから、本題に入りましょう。インスタントコーヒーを用意する前に、ロラン大尉。この女性に見覚えは?」

 

 叔父上——ではなく、役職名までつけて俺を呼んだということは、キシリアは今日、仕事で俺に会いに来たのだろうと見当をつける。

 

 あれ? 俺、悪いことしてないよ? みんなの可愛いロラン叔父貴だよ?

 

 そして、キシリアが差し出してきたのは一枚の写真だった。

 

 厳密に言えば、写真に写った一人の女性。しかも見覚えがある——、というかタチアナの写真だった。

 

 ふぅ、と俺は大きく息を吐いた。

 

 ——こんな事で俺が狼狽えるわけがない。

 

 俺もザビ家の男。

 生身でモビルスーツの白いアイツに立ち向かった、ドズルの叔父さん。

 ヨシ、大丈夫。目の前にいるのは生身の人間。怖くない怖くない。

 

「……その様子だと、何か知っているようですね叔父上?」

「な、ななななななな、何のことかな? さ、さっぱりわからないし、身に覚えもないよ?」

 

 残念。全然隠しきれてなかった。声が震えるているし、ガチガチに身体は固まり冷や汗が顎先に垂れる。

 

 まずい。非常にまずい。

 キシリア・ザビ--原作では、ギレンと政治的に対立し、自身が『キシリア機関』という諜報機関を率いて様々な政敵を排除したとされる。

 

 視聴者(?)からついたあだ名は『紫ババア』。

 

 ババアなんて年齢ではなかったのにも拘らず、そんな可哀想なあだ名がついたことは同情の余地があるが、それを補って余りあるほどの悪行の数々が脳裏に浮かぶ。

 

 写真に写っていたのはタチアナの、おそらく俺が住むアパートに出入りするときの写真だ。

 

 パパラッチばりの角度からだが、間違いなく俺の住んでいるアパートだと分かる。

 

「……そうですか? では別のアプローチをしましょう。テレビをつけていただけますか叔父上」

 

 キシリアの指示に従い、テレビをつけてみる。すると--

 

『……ただいま、サハリン家の邸宅の前に来ています! 奥方が不倫したというスキャンダルが報じられると同時に、現当主が自殺したことを受け、次期当主であるギニアス・サハリン氏から、今回の件について説明を我々は求めていますが、一切姿を現しません! 現在、執事であるノリス・パッカード退役少佐から……』

 

 テレビのリポーターが興奮したように中継していた。

 

 いや、というかギニアスってあのギニアスだよね? サハリン家が没落して狂気の研究者になっちゃった人。

 

「どこもかしこもメディアはサハリン家のスキャンダルと、当主の自殺という餌に食いついています。所詮、民衆が求めている情報はこの程度。衆愚政治極まれり、ですね。不倫、浮気、女性関係……そんなもので屋台骨が揺るぐようでは、その家門もその程度の格だという事……しかし、我々ザビ家もいつこのような事態に巻き込まれるかわかりません。火種は消しておいた方がいい……そうは思いませんか? 大尉殿」

 

「っ……」

 

 まさか、完全にタチアナとの関係がバレてる⁉

 冷や汗が身体から噴き出し、俺は生唾を飲み込んだ。

 

「さて、ロラン大尉。私が言いたいことはわかりますか? 何もあなたを消すとか、そういう話ではない事をわかって頂けると嬉しいのですが?」

 

 キシリアはどうしたいのだろう。もしも俺を排除したのならば、そのスキャンダルを入手した時点でどこかしらかにリークし、社会的に殺すこともできるはずだ。

 だが、その証拠を握っているというのに俺に話を持ち掛けている。

 

 つまり、タチアナを消す——という事か? いや、それも俺に話を持ってくる時点で線は薄い。

 

「何がしたいんだい? キシリア一等調査官。君がこの話を俺に持ってくる……それが理解できない」

 

 俺に何かさせたい--もしくは、自分が何かをしたいから、それについて支持してほしいということ。

 

 そうとしか考えられなかった。だから直接、キシリアに問う。

 

 しかし、俺が導き出した答えに不満なのか、キシリアは目つきを剣呑な色に変えた。

 

「察しの悪い男性……私は嫌いですな大尉殿?」

「すまない……本当にすまない。俺が思うに、キシリア一等調査官、あなたは俺に何かをさせたい。もしくは何かをするから協力しろ……そういったところだと思うが……」

 

「そこまで想像ができているのであれば、及第点……ふふふ、何、無茶難題を吹っ掛けようというのではありませんよ」

 

 キシリアは俺の導き出した答えに、一転して笑みを溢した。

 彼女は一体、俺に何をさせたいというのだろうか。

 

「まずは、この女性とはどんな関係なのか。答え合わせと行きましょう」

「……それは君の口から聞きたいものだね」

 

 断じてその手にはならないぞ。俺の口を割らせようと言うつもりだったのかもしれないが、まだキシリアが知らない情報もあるかもしれない。

 俺の言葉にキシリアは肩をすくめた。

 

「……まぁ、叔父上ならそう言うでしょうね。それではまず、この女性はタチアナ・ワイズマン。ワイズマン工業の社長--グエン・サード・ワイズマンの妻。それ以前は、ロラン大尉、あなたの部隊で准尉という階級だった」

 

 タチアナのプロフィールを話し始めたキシリアに、俺は続きを促した。

 

「現在は秘書兼大尉とワイズマン工業との連絡役として勤務。その仕事はザビ家が援助しているモビルワーカー開発に関する意見聴取とのこと……ところが、彼女はロラン大尉の部屋に入り浸っている。なぜでしょうね?」

 

 まずい、キシリアはすでに確信している。

 俺とタチアナが()()()()()だということに、気づかれてしまっている。

 

 タチアナに被害が及ぶ前に、メールを送ろうか。内容はキシリアに知られてしまったということ。そして--

 

『ごめん⏎

さようなら』

 

 いきなりこんなメールが届いたら、タチアナはびっくりするだろうな。

 

 でもこれくらいの内容が、俺の遺言にはちょうどいいかもしれない。中には誰もいませんよ? とか言って……あれ、でもこの内容だと伊〇誠がタチアナになってしまうな。だから却下だ却下。それはともかく誠死ね。慈悲はない。

 

「……それで? それだけかい? 聞いている限りだと、確かに怪しい関係だね。未婚の男性の部屋に入り浸る人妻。お昼のワイドショーなんかが好きそうな話題じゃないか?」

 

 俺は現実逃避を止めて、キシリアに対して口を開いた。

 

「だってそうだろう? ただ怪しい。ただ疑問がある、というだけじゃあ、結局は状況証拠の集まりでしかない。直接的な証拠でもあれば話は別だけど、それじゃあ……「ならば、これはどうですか?」」

 

 俺の言葉に被せて、キシリアが俺に差し出してきたのは一枚の紙だった。

 数字と英文字の羅列を、キシリアは指差しながら説明し始める。

 

「これは、ワイズマン夫妻のDNA鑑定の結果。そしてもう一つは彼女の子供、バーナードのDNA鑑定の結果。おかしいですね? 2人のDNA鑑定の結果から見て、タチアナ女史の遺伝子は引き継がれているのに、グエン氏のものはない」

「……」

 

 キシリア、いや、ムンゾ保安隊はここまでするのか……と、俺の開いた口が塞がらなかった。

 

 だって、DNAって個人情報の最たるものよ? それをほいほい入手できるなんて、俺は保安隊の事を舐めていたのかもしれない。

 

 それにバーナードのDNAにグエンのものがあるはずがない。だって俺の子供だし、グエンはホ◯だし。

 

 でも、危なかった。

 

 この情報だけだと、タチアナとグエンの子供ではない事は分かっても、俺に結びつく物ではない。

 

 セーフ。何とか誤魔化しきれそうだ。

 

「さて、昨日私は部下に、あなたのDNAを回収させました。ゴミ袋の中からあなたの汚いDNAまみれのティッシュを見つけるのは大変だったらしいですよ」

 

 ぎゃあああああっ! 俺のDNAも採取されてるぅっ⁉ あれ? 昨日出したゴミは……んぁあっ?! 1人で慰めた時のものが入ってるじゃん!

 

 そんなもの拾わされることになった、キシリアの部下が可哀想!

 

 ——鬼! 悪魔! 紫ババア! パワハラで訴えられろ!

 

「……2人には、何もしないでくれっ……」

 

 俺は諦めた。

 もう無理だ、誤魔化しきれない。ならば、傷口を最低限広げないことを優先する。

 

 ついでにさらっと、グエンはどうでもいいことを告げる。だって、あの人の視線本当に怖いんだもん(幼女化)

 

「それは……どうでしょうね? それはあなたの返答次第ですよ大尉殿?」

 

 

 こんの紫ババア……

 いや、俺よりも年下だけど。俺のプライベートを探っていたなんて、気分が悪いどころの話ではない。訴訟を起こす。あなたを、プライバシーの侵害で訴えます! 裁判の準備をしておいてください!

 

 脳内だけは威勢がいい。

 でも現実は——、

 

「何を望んでいるんだ? ……まさか、俺のケ〇穴処女を……「そんな訳ないでしょう。アホなんですか? はっ倒しますよ」……ごめん」

 

 許してもらう見返りに、俺の一番大事なものをあげようとしたら却下された。解せぬ。

 

 まさか、とは思ったが、どうやら俺のケ〇穴処女は必要ないらしい。当たり前だよなぁ。

 

 おかしいなぁ……グエンなら目の色を変えていたところだったのに。いや、でもあの人掘られる方が好きらしいし……

 

「それで? 俺は、何をすれば良い?」

「ふふふ、話の早い男性は好きですよ、叔父上」

 

 原作でキシリアは、ギレンと権力争いをしていたが、その目的ははっきり言ってわからなかった。

 末の弟であるガルマを可愛がっていたらしいけれど、ギレンを謀殺するくらいの胆力がある。

 

「……君の望みは……権力の掌握……違うかい?」

「当たらずとも遠からず……と言ったところでしょう」

 

 キシリアは腕を組み、意味ありげな笑みを浮かべた。

 

「叔父上、あなたはジオン派との関係が深い。奴らについてどう思われる?」

 

 何故こんな質問をしてくるのだろう。と俺は思った。その質問と、権力を握ることは直結しない。

 

 俺が疑問に思っていると、キシリアは勝手に話し始めた。

 

「……奴らは、ダイクンの思想を深く理解していない。上辺だけの、耳心地の良い部分だけを切り取って民衆にむけて発信し、支持を得ている。その結果がジオン派の先鋭化、過激化に繋がっている」

 

 怖い怖い。キシリアちゃんが怖い。

 ザビ家の中で、どちらかと言えば現実路線を歩むはずだったキシリアちゃんが、思想を語っているよぉ……

 

「ザビ派が権力掌握に動けば、ジオン派との衝突は必至。そうなれば無用な血が流れるでしょう……叔父上、私はこれからの事を憂いているのですよ。可愛いガルマが生きていく世の中に、過激な主張をする奴らが蔓延れば、理想だけを追い求める者達がのさばれば、いずれ国は滅ぶ」

 

 ようやくキシリアの言いたいことが見えてきた。

 

「つまり、キシリア……君は……」

「ムンゾのため、そしてザビ家のため……ジオン派を潰す……大尉には、その手伝いをしていただきたい」

 

 キシリアの言葉によって部屋の中に、重苦しい沈黙が横たわった。




読んでいただきありがとうございました
一年近く折れているのを放置していたら、もう変なふうに骨がくっついてそうですね……兄上……

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