デギン・ザビの弟に転生したと思ったら、俺の知ってるガンダムの世界と少し違うんだが 作:TSしたとねり
みなさんお待たせしました!
意外とキシリアちゃん人気なのか、キシリアちゃんを心配する感想が多くてびっくりしました!
コチ、コチ、と進む時計の秒針の音だけが響く部屋の中で、重苦しい沈黙を破ったのは俺からだった。
「……馬鹿なことは言わない方が良いよキシリアちゃん? ……ほら! もっと笑って笑って! 昔はもっと「大尉殿、私を子供扱いしないでいただきたい。私は真剣な話をしています」
鋭利な瞳が、戯けて誤魔化そうとした俺を見据えた。
——キシリアちゃんに怒られた……これが叔父離れか……シュン……
きっと、目の前にいるのが昭和の日本であった、5・15事件の青年将校だったら、切られるか撃たれるかしていただろう。
間違いない、確信を持てる。「まぁ待て、話せば分かる」って喋る前に奸賊! 天誅! ってされてるな。
キシリアちゃんの叔父離れに落ち込んでいる場合じゃない。
そんな強い決意を、キシリアの瞳の中に踞る怖い雰囲気を感じ取り、ちょっとだけ俺も、真剣な
別に金色にはならないが——、
「……本気で、言っているんだね?」
キシリアが言う排除——というのは、文字通りの意味だろう。
たしかに、ザビ家にとってジオン派は将来的に有害になる事はほぼ確実。そうなる可能性はかなり高い。
思想、主義主張の違い——と言うと簡単にも聞こえるかもしれないが、両派の対立の根はかなり深いからだ。
何故かというと、ムンゾの中での権力闘争が、ジオン党の中における派閥争いに姿を変えているためである。
今のところは一致団結しているように見えるが、それは表向きの話。
ジオン・ズム・ダイクンという、カリスマ性のある男の下で、ようやく一体となっているように見えているに過ぎない砂上の楼閣。
それがジオン党の現状。そんなものは俺でも分かっている。
「……はい、大尉殿。いずれ、奴らは我々ザビ家にとって邪魔な物になるでしょう。ザビ家の繁栄のためには、彼らには退場していただかなければならぬのです」
俺の問いにキシリアは答えた。ただし、その言葉はあまりにも性急すぎるようにも思える。
砂上の楼閣だからといって、まだ破綻するとは決まっていない。
あくまでも俺の希望ではあるが、もしかするとこのまま絶妙なバランスを保ったままかもしれないのだ。
だが、キシリアはその可能性を否定する。
——一体何が彼女を、そこまでに追い詰めることになったのか。
おそらくではあるが、キシリアは
特に、治安を取り扱うムンゾ保安隊に所属していれば尚の事だろう。
社会正義の実現のために、治安を維持するために存在している保安隊が、この共和国の両輪を司っている両派に絶望したのではないだろうか——というのが、俺の考えたキシリアの背景。
いらないものは切り捨てる。原作どおりとも言える、キシリアの冷淡さの一面を垣間見た気がした。
ならば、その絶望を取り払うべく、次は俺が答える番。
ま◯かマギかでも、少女は絶望ばかり抱いていちゃダメだって言ってたし、希望の持てるような展望を言えれば、納得してくれるよね? ね?
「……なら、回答しよう。ジオン派を排除する? ナンセンスだ。ありえない。帰ってくれ」
一刀両断。完全論破。できてない? あれぇ?
まぁでも、今、ジオン派を排除してしまえばどうなるのか? そんな事はキシリアも分かりきった事だろう。
現時点で、絶妙なバランスの上でようやく立っている状態の共和国を支えているのは、不満の受け皿となる主張の異なっている車輪で立っているからだ。
主張の異なりは党の分裂を生むが、その分だけ幅広い層の支持者を集める一助となる。
ただでさえ不安定な共和国をさらに不安定にさせる要因が、ジオン派を排除することによってザビ家にあるとされては、緩やかな政権移譲は困難になるばかり。血で血を争う内乱のような状態に発展するかもしれない。
これが原作で辿った
そして、その抗争に敗れたジンバ・ラルによって、ダイクンが死亡した原因をザビ家の暗殺だと信じたキャスバル——シャアがザビ家を抹殺しようと思うに至った原因である。
「軍人は政治に首を突っ込まない。お友達作りがしたいのなら、政治に興味がある方を探すと良い」
この問題に首を突っ込みすぎたら、間違いなく死亡フラグが立ってしまう。
自分から敵を作るような真似はしたくない。少なくとも、俺は現時点でジオン派とも良好な関係を築けているし、ムンゾの国力を削る恐れがある内部抗争なんてやりたくもない。
俺がキシリアに——出口はあちら、とドアを指し示すと、キシリアは何故か腹立たしげな表情を浮かべた。
「……では、ワイズマン夫妻と子供がどうなっても良いと? あなたは家族を大切にすると思っていましたが、見込み違いだったようですな?」
まるで煽るようなキシリアの物言いに、流石の俺もカチンと来た。
「キシリア一等調査官、あまり俺を舐めないでほしい」
いつも身に付けている、ベルトに挟んだままにしてある拳銃の、硬い感触に俺は手で触れた。
最悪の事態を想定して、いつも身に着けている物を、実の姪に向けたくはない。
しかし、キシリアが本気だというなら、タチアナやバーナードの身に危険が及ぶ。それを跳ね除けることができるのは、今、俺だけなのだ。——グエンさんはミハエルさんに守ってもらってね。
「俺は軍人で、ザビ家の男だ。家族という守りたい物、守れる物を守らないで、何が軍人か。何がザビ家か! 家族やそれ以外。守れる物を守るのが、ザビ家の男だ! 君からの手も、ギレンからの手も全て跳ね除けて見せる! それがザビ家の男に生まれた、私の信条だ!」
守りたい物——つまり、タチアナや子供に危害を加えるつもりがあるのなら、俺は刺し違えてでもキシリアを止めるつもりだった。
だが、俺がズボンのベルトに挟み込んでいる硬い物を取り出そうとすると、キシリアはニンマリと悪どい笑みを浮かべた。
「ぷっ……くっくっく……はっはっはっは!」
突然、何の予兆もなく笑い出したキシリアに、俺は暫く呆気に取られる。
——え? 突然笑い出すとかヤバくない? 白い粉でも決めちゃってるの?
俺が心配そうな表情を浮かべたのを見て、キシリアはニチャリと笑みを浮かべた。そんな種〇けおじさんみたいな汚い笑い方やめてほしい。
「くっくっ……失礼! あまりにも大尉殿が必死だったもので、つい……」
ふぅ、とキシリアは呼吸を落ち着けると、俺に向かって頭を下げた。
「申し訳ありません、その手に持っている物を離してください。私は、現時点であなたとやり合うつもりはありません」
キシリアの言葉で、一気に室内の空気が弛緩した。
そしてキシリアは、頭を再び上げて俺の目と視線を合わせる。
「私の先程の言葉は、本音です。ですが、今すぐにと言う話ではありません。ですが少し、大尉殿を試させていただきました」
「……試す……? とは、なかなかエッジの利いたジョークだね。そんなふうには聞こえなかったんだけど?」
如何に俺の煽り耐性が低いとしても、さっきからキシリアの言葉に嘘は無かったように感じられた。
「えぇ、本音を話しました。ですが、もちろん私も今がその時期ではない事を理解していますとも。さて、本題に入りましょう。あの
そしてキシリアが話し始めた内容は、概ね俺の考えていた内容と合致した。
更にもう一つ。キシリアが不安に思う要因がジオン党内部で進行しているという事を、キシリアはポツリと俺に話した。
「……まさか……首相閣下が……」
キシリア曰く、ジオン党内部でジオン・ズム・ダイクンが健康不安を抱えており、どう治療に専念しても10年以内に亡くなる可能性が高い——という噂が広がっているとの事だった。
キシリアは兄上からの指示を受け、その噂を払拭するため、様々な調査をしたそうだが、それを打ち消す証拠や情報は何一つ手に入らなかった。しかも、それを補強する証拠が逆に出てきてしまった始末。
そりゃ病気にもなるよね。50歳超えてるのに政治家なんてストレスフルな仕事して、家に帰ったら愛人と本妻が関係悪い事を隠しもしてない。タバコや飲酒をやめられるわけもなく、政治家同士の付き合いで出てくるのは脂っこい食べ物ばかり。胃に穴が開くどころか心臓か肺にも穴が開きそうだ。
「……それで、ギレンさんやサスロも、ダイクン首相が亡くなった後の事を考えて自ら派閥を作ろうと動き始めていると?」
俺はキシリアに問い掛けた。
「えぇ、その通りです。私も、父も同様に、ね」
これはまずいことになるのではないか。
派閥作りを始めているという事は、すでに衝突に向けて準備を整えていることになる。おそらく、ジンバ・ラルを含めたジオン派もザビ家の動きを見て動いているに違いない。
このままでは、不安定な共和国が更に不安定になるかもしれない。
つまり、ハーツオブアイ◯ン4で言うと、トータルで安定度30しか無いのに、このままでは更に−25のデバフが付くような感じ。
もっと詳しく言えば、政治指導者で安定度+50だったところに、その政治指導者がいなくなる事が確定してしまっている上に、両派閥の対立で安定度に週ごと−0.1%のデバフが付く。このデバフを解除するのは大変なのだ。
あれれ? もっと分かりにくくなった? あれぇ?
「それで? どうです? 派閥争いが本格化する前に、あの2人をザビ家で……」
「ありがたい申し出だが、その必要はない。2人をザビ家に迎え入れてしまえば、俺の弱みを他の者に見せてしまうことになる……それを避けるためにも、2人にはこのままでいてもらった方が良いと思うんだ」
「……なるほど……確かに、兄上ならば、人の弱みにつけ込むのにかけては、私のさらに上を行きますからな」
ふむ、とキシリアは顎に手を当て考え込む。いや、俺はギレンさんのこと話してないよね? なんでわかっちゃったんだろう?
「でば、こうしましょう。あの二人を守るために私と協力関係を結ぶ、というのは?」
キシリアの狙いがようやく顔を見せた。
つまりキシリアは、俺を自分の派閥に協力的な人物ということにしたいらしい。
ザビ家で軍に所属しているのは、今年から国防隊幼年学校に進学したドズルと俺しかいない。その中でも、最も階級が高いのは必然的に俺となる。
保安隊と国防隊。
治安維持のための暴力装置と、国家を守るための暴力装置。
その2つが手を組んだら史実同様、軍事独裁の道まっしぐらじゃないか? それはダメだ。まったくもってあり得ない。
「それもありがたい申し出だと思う……だが、俺は君の手を取ることは出来ない」
俺はキシリアに再度否定の言葉を突きつける。
キシリアの言う通り、保安隊の力でもって2人の情報が漏れないようにするというのが、最も効率的かつ有効な手立てだろう。
だが、
俺は2人に幸せな時間を過ごして欲しい。キシリアの保安隊によって得られる平穏が、2人の幸せなのかと言うと、それもまた違うと思う。
俺がキシリアの手を取れば、ムンゾは原作通り、ザビ家のみによる軍事独裁制に進むだろう。そんな世界に、俺は2人に生きてほしくなかった。
「……して……」
俺の言葉を聞いたキシリアは、深く俯き身体を震わせる。
そして突然、雰囲気を変えたキシリアが大きな声で言葉を震わせながら絶叫した。
「どうして! 叔父上は私の手を取ってくださらないのです! こんなにも私が妥協していると言うのに‼︎」
声を荒げたキシリアは、おもむろに立ち上がり、鋭い眼差しで俺を見下ろした。
「私の夢は、先ほど言った通り。ガルマが生きる時代にこの国を残す事。それに、大尉殿は仰っていたではありませんか? 家族という守れるものを守るのが、ザビ家の男だと」
「あぁ、その通りだ」
「なら、私たちは! ガルマや私、ドズルもザビ家という家族ではありませんか!」
――そうか。やっとわかった。
俺はキシリアの様子を見て、漸くキシリアが求めていることを読めた気がした。
原作では、キシリアは家族——特に兄上——を大事にする優しい部分があった。それが、兄弟間の争いで少しばかり歪んでしまったのだ。
「もちろん、俺にとっては君もドズルも、ガルマも可愛い家族だよ」
「……なら!」
「だからこそ、キシリアちゃんだけの手を取る訳にはいかないよ。俺は、みんなが大事なんだから」
強い意志を感じ取ったのか、キシリアは何も言わずソファに深く腰を下ろし、大きなため息を吐いた。
「ジオン派との対立は、俺が何とかして見せるよ」
「……それで、失敗したらどうするんですか……? ザビ家がムンゾにいられなくなったら? 全てを失ってしまったら……?」
不安げなキシリアの頭に手を伸ばし、幼いころによくやったように優しく撫でる。
「大丈夫。俺が守るよ。そのために俺は軍に入ったんだから。だから、キシリアちゃん。ジオン派とのことは俺に任せてくれないかな? きっと、分かり合えるはず……いや、分かり合えなくても、俺が止めてみせる」
キシリアは不安に思っていたのだろう。
さまざまな情報に触れるうちに、このまま行けば血で血を洗う争いになりかねない事に気付いてしまったのだ。
末の弟——ガルマが幼いのに、そのような事態に陥れば命の危険がある。実際に原作では、政権移譲時の混乱の最中にサスロが暗殺されている。暗殺はキシリアの手によるものか、ジオン派によるものかはさだかではないが——。
「……わかりました。貴方が――叔父上が我々を見捨てないというのであれば、私はあなたに協力します」
大人しく撫でられていたキシリアはそう言うと、突然俺の手から逃れるように立ち上がり部屋の入り口のドアへと歩き出した。
キシリアは不安に思ったのだろう。ただでさえ不安定な状況に、もしもザビ家の——俺がジオン派に靡いてしまったら、と。そうなることはあり得ないのに——いや、そこまで信頼されていなかったと言うのが正解か。しかし、俺はあくまで中立を保つと明言した。
キシリアにとって、これくらいの言葉を引き出すくらいが、最低限のラインだったのだろう。
「助かるよ……キシリアちゃん。それで……」
「……わかっています。2人の事は、私の保安隊で秘匿して見せます。それくらいのことであれば、造作もありません」
――では、また。と言って、キシリアは俺の部屋から出ていった。
俺は一息つき、何とか危機から脱したことに安堵すると同時に、キシリアの前で啖呵を切ってしまったことについて頭を悩ませるのだった。
読んでいただきありがとうございました。
なんとかキシリアちゃんがグレるのを阻止した?主人公でした。
次回の投稿は明日のお昼頃を予定しています
感想・評価ありがとうございます!
それではみなさんよいお年を!