デギン・ザビの弟に転生したと思ったら、俺の知ってるガンダムの世界と少し違うんだが 作:TSしたとねり
今年最初の投稿です。
少し時間が飛びます
——宇宙世紀0065年8月某日、ムンゾの首都に連邦軍の駐留が始まった。
駐留する部隊の規模は一個連隊。それから巡洋艦2隻。
サラミス級が作られる前の主力艦。武装の貧弱な旧型の巡洋艦『ニューオーリンズ級*1』に乗った連邦のコロニー駐留軍は、大手を振ってムンゾの宇宙港に入港し、その日のうちに大小様々な問題を起こし始めた。
想像していたこととはいえ、駐留し始めた連邦軍の質は低い。
そして悔しいことに、連邦軍の兵士が問題を起こしてもムンゾに裁判権が無いことにされた。政治の話でそのようになってしまったのだ。
無銭飲食や泥酔。それで終わればまだいい。中には市民に暴行を働く兵士もいるくらいなのだが、だいたいが営倉に入れられて数日経てば放免される。
あのランバ・ラル中尉が、そんな連邦軍に見かねて抗議したところ、連邦の駐屯地でウホッ♂男だらけの
そんな情勢の中——、
「フハハハハ! この肌触り! これが新型か!」
おもちゃを貰った男の子——じゃない。ランバ・ラル中尉は、ワイズマン工業とホシオカ工業が作った新型の軍用モビルワーカー[MW-03]を駆りながら、楽しそうにしていた。
「おいおい! ラル中尉! これはまだ試作機だぞ⁉︎ 壊すなよ!」
「何を言う少佐殿!
いや、そのふりがなはおかしい。
ともあれ、農業用プラントとして建造された小型のコロニー[Ex-2]は、食糧危機の脅威がひとまず去ったことで新たな役割を与えられていた。
首都バンチコロニーに連邦軍部隊が駐留を始めた事で、これまで首都バンチや工業用コロニーで行われていた新兵器や試作兵器をできる限り秘匿するため、その工場兼演習場に生まれ変わったのだ。
[Ex-2]の中にはそのための研究施設や工場、演習場が整備され、それらに携わる人たちが暮らす住宅もできつつある。口さがないものに言わせれば、監禁だのと言うが、一つのコロニーに研究施設を集中させた事で大きなメリットがある。
一つは防諜が容易である事。そしてもう一つは、さまざまな研究施設が集まった事で、色々なマッド研究者の意見交換する場ができた事だ。
この事は嬉しい誤算となり、MW-03[ヴァッフ]の性能向上にも繋がった。
閑話休題。
俺が意識を目の前に移すと、森林を模した演習場を2体の巨人が各々の得物を構えて疾駆する。
全高17メートル程の巨人はそれぞれ青と白に塗装され、仄かに輝くモノアイが、その巨人が生命体ではないことを示していた。
「当たれ!」
「何の!」
ランバの駆る、青く塗装されたMW-03[ヴァッフ]の右手に持つ105mmマシンガンから火線が迸り、とっさにジャンプで避けた俺の操縦しているヴァッフの足元に土埃を立てさせた。
着弾と同時に、淡いピンク色の塗料が地面に撒き散らされ、俺は白一色に塗装されたヴァッフのスラスターを噴かせながら、着地の衝撃を和らげる。
実弾ではなく、模擬弾を用いた演習といっても気は抜けない。
まぁ、言い出した俺が悪いのだが、模擬戦に負けた方が汚れたモビルワーカーを綺麗にするという罰ゲーム付きだからだ。
数日後に、軍用モビルワーカーとして初めて納入される予定のMW-03は、軍で正式採用される際にはMS-03という型式番号を付与されることになっている。
俺は少佐に昇進し、1個大隊を束ねる大隊長になったわけだが、配属された大隊は新型兵器や試作兵器を運用する実験大隊と呼ばれるものだった。
まぁおそらく、兄上が手を回して、モビルワーカー開発にも関わった俺をその部隊に捻じ込んだのだろう。
俺が配属された部隊には、大きな特色がいくつかある。
一つは先ほども言った通り、配備予定の新型兵器や試作兵器を取り扱うこと。
そしてもう一つは——、
「
コックピットのスピーカーが割れんばかりの音量で、老人の声が飛び出した。
モノアイが2つ、無線機を片手に持って立っている白髪の目立つ小柄な老人を見下ろした。
「しかし、ミノフスキー博士、これはれっきとした訓練の一環で……」
「バカモン! 機体に無理をさせる訓練があってたまるか! さっさとデータを持って降りてこんか!」
矍鑠とした老人、トレノフ・ミノフスキーが俺の部隊のチーフアドバイザーとして試作兵器の改良に携わっていることも、大きな特色と言えるだろう。
トレノフ・ミノフスキー博士は、ガンダム好きなら誰もが知っている天才科学者である。
彼の提唱した『ミノフスキー物理学』によって、核融合炉の小型化をはじめ、後年になって実用化される『ミノフスキークラフト』なんていう訳がわからない物まで生み出したというのだから、その老人のヤバさが分かるだろう。
だが、この老人は一年戦争まで生きられなかった。
ムンゾがジオン公国に名前を変え軍事独裁の色が濃くなった矢先、連邦への亡命を試みた。しかし、ランバ・ラルや黒い三連星によってそれを阻止され、連邦軍の試作型ガンキャノンの下敷きとなり、その生涯を閉じる。
その博士が国防隊とワイズマン工業に協力して、新兵器開発に携わるようになったのはジオン・ズム・ダイクンから直接お願いされたからだそうだ。
たしかに、俺は以前、ジオンにそれとなくお願いしてみたのだが、こんなにすんなりと上手く事が運ぶとは思っていなかった。
もちろん、その代償に俺のプライベートの時間が削られることになったのだが――。
「うぅむ……やはり関節部の負担が大きいか。無重力下ではそうではないから、強度計算上は問題ない。とすれば、地球を模したコロニー下での運用が……」
――ちょっと
ヴァッフから降りた俺が渡したデータを端末で読み込み、それを見ながら唸る博士は、ボソボソと独り言をつぶやき続ける。
それを見た俺とランバは視線を合わせ、博士に気づかれないようにこっそりとその場を後にした。
「……じゃあ、ランバ。あとはよろしく頼むよ」
「おう……あぁ、そういえば今日からだったな。ダイクン首相の子供たちの家庭教師ってやつは」
「うん……まぁ俺が教えてあげられることなんてあまりないと思うんだけどね」
ジオンへと頼んだ、ミノフスキー博士を兵器開発に携わらせるというお願いの代償――ジオンの子供たちの家庭教師という仕事に向かうべく、俺は駐屯地に戻ると雑事をランバに任せて手早く準備をする。
「ロラン少佐。くれぐれも、変なことを教えるなよ? 子供に政治の派閥だとか、思想だとかは早すぎる」
——その言葉は君の父上に言ってくれませんかねぇ? なんて言葉を飲み込み、俺は曖昧に微笑んだ。
「わかってるって……じゃあ、行ってくる」
ランバは歳も近く、階級関係なく話しかけてくれるから俺も相談しやすい。俺の方がいくつか年上だが、ちゃんと立てるところは立ててくれているので多少の言動の粗さには目を瞑ることにしている。
駐屯地を出て、ダイクン首相の別荘まではエレカで15分。
原作ではダイクンの愛人であるアストライアとその子供たちは、ダイクンの首相公邸に住んでいた。
もちろんそこには、本妻であるガマガエルローゼルシアが暮らしていたのだから、どんな家庭生活になるのか——なんて容易く想像がつくだろう。
本妻と
しかも、見目麗しい側室がダイクンの子供を孕み産んでいるのだから、ローゼルシアの嫉妬心はくすぶり続けた。その矛先は、自然とアストライアに向かう。
だから俺は、ジオン首相に別荘を作ることを提案した。
2人が顔を合わせれば、度々気まずい雰囲気になっていたことにジオンも頭を悩ませていたようで、俺の提案を渡りに船だと思ったらしい。
『ロラン・ザビが作るように提案したから別荘を作った。私が望んで作ったものでは無いから、もしも使いたいなら勝手に使うと良い』などと、完全に俺がジオンに対して浪費するように仕向けたようになっているが、アストライアとその子供たちは喜んで別荘で暮らし始めることになったそうだ。
「さて、と」
何だかんだと別荘に着いた俺は緊張していた。
それはそうだろう。だって、初めてあのキャスバル——シャアに会うのだ。
赤い彗星、シャア・アズナブルと名前を変える事になるキャスバルは、ジオン・ズム・ダイクンがザビ家によって殺されたと信じ、ザビ家への復讐を誓う事になる。
ジオリジン版では、愛する母と暮らせなかった——母が衰弱死した——原因すらもザビ家のせいにしていたが、本質的に悪いのはローゼルシアの方だ。
だから俺が家庭教師になる事で、ザビ家がダイクンに叛意はない事、無害であることをアピールしたい。
——くっくっ、完璧な計画。キャスバルが俺に懐いてくれる事で、俺の死亡フラグは残すところ天パのみ。ザビ家が全滅するフラグは丁寧に叩き折っていかなくてはならない
「よし!」
気合いを入れて、大きなドアに手を掛けた。その時——、
「てやぁあっ!」
「おっと!」
背後から子供の高い声が聞こえたため、嫌な予感がした俺は身を捻って回避した。
かなり低い位置にある。子供の指先は——虎の印。まさか——、
「その印は……火遁……」
「ちぇーっ。見つかっちゃった。カンチョーしてやろうと思ったのに」
子供特有の高い声で、残念そうにしていたのは金髪碧眼の子供だった。
その子供は少女のように顔立ちが整っているが、その出立ちは紺色の短パンに緩めの襟付きシャツ。
金色の髪は年相応に短く整えられており、着ているものからして育ちが良い事が推察される。
——うん、これくらいの年齢の男の子なら、他人にカンチョーとかするだけで面白いもんね。でもいきなりカンチョーするのはやめて欲しい。酷い場合は人工肛門をつけなくちゃいけないからね? 傷害罪で訴えるよ?
なんて口を開きかけたが、いかんいかん。こんないらない知識を植え付けては子供の教育に悪い。
見たところ、年齢は日本で言うとまだ小学生に上がるか上がらないかくらいか。この年齢なら、まぁカンチョーが好きになっても仕方ない?
——いや、ダメでしょ。
「私は、今日からこの別荘で家庭教師をするロラン・ザビと言います。ダイクン首相のお子さん……で良いかな?」
俺の言葉に、少年は目を丸くした。いや、何でそんな驚くのさ。
「僕は——」
「坊っちゃん! 何をされておるのか!」
怒鳴り声をぶつけられた少年は身体をビクリ、と大きく跳ねさせた。
ズカズカと大股歩きで俺たちの方へと向かってきたのは、ランバの親父さんであるジンバ。
たしか原作では、ジンバがジオンの子供2人に色々な事を吹き込んでいたらしいし、ここはキャスバルの友好ポイントを稼ぐチャンスだ。
「ジンバ殿……そう大きな声で怒鳴りつけなくても良いではありませんか」
「む! ロラン殿、しかしだな! ジオンの思想の継手として、ワシの講義を受けてもらわねば、な。ジオンの思想の継ぎ手が講義を嫌がるとは、何と嘆かわしいことか!」
「だって、庭で講義してたらもっと面白い事をしたくなったんだもん。それに、変な奴が来てたし……」
——変な奴って……俺のこと? なんでや、こんなにプリティフェイスなお兄さんだぞ!
「ところでジンバ殿、そちらの子が首相閣下のお子さんと拝見いたしましたが、私に紹介していただけますか?」
忍法、話題逸らし。俺の話題逸らしは伊達じゃないぞ。
「うむ、仕方あるまい。こちらのお方こそ、ダイクン首相の跡取り。キャスバル様だ。さぁ、キャスバル様。お庭に戻って、途中になった講義の続きですぞ!」
見るからに嫌そうと言うか、興味がなさそうなキャスバルと俺は視線が交差した。え? 止めろって?
——いや、無理無理。俺じゃ、このエネルギッシュ爺さん止められないよ。
「さぁ、行きますぞ!」
と、ジンバはキャスバルの手を引いて歩き出し、俺はそれを見届けながら家主に会うべく別荘の扉を開いた。
扉を開いて入ると、そこはすぐに広いエントランスホールになっていた。
見た感じかなり広い別荘だと言うのに、中にいるべき使用人の姿は見られない。
これもローゼルシアからの一種の嫌がらせなのかもしれないが、それを解決するのはジオンの責任。
今度、暇してそうなやつを見つけて使用人に仕立ててやるのも良いかもしれない。例えばガイアとか、オルテガとかマッシュとか——。
「あら、お早いお着きですね?」
そんな他愛のない事を考えていると、鈴の音のような耳心地の良い声が広いホールの先から聞こえてきた。
「もう少し遅くいらしても良かったですのに」
階段から下りてきたのは、金髪碧眼の女性だった。
見る人が10人いれば、全員が「美人」と評するであろう容姿。そしてその後ろには、女性によく似た金髪の少女が恥ずかしそうに隠れていた。
「申し訳ありません、アストライア様。5分前行動、というのが身に付いておりまして……早く着いてしまった無礼、ご容赦ください」
「気にしません。今日からよろしくお願いいたしますね? ロラン殿」
女性――アストライア・トア・ダイクンは、誰をも魅了するであろう笑みを浮かべて俺を客間へと誘った。
客間――と言っても、少なくとも俺が今住んでいるアパートの2つ分ほどの広さで、設えられた家具一つ一つが気品を漂わせる。
アルテイシアちゅあん? そんなところに隠れてないで、お兄さんにお顔見せて?(ゲス顔)
「ロラン少佐、聞いているとは思いますが……」
「はい、ご子息の事ですね? まさか、軍人になりたいとは……」
――ご子息の事、と俺が言うと、アストライアは眉間に皺を寄せた。
「職に貴賤はない。……とは思っています。私とて、昔は歌手だったのですから。ですが、自分の子供がそんな危ない職業に就きたいと言い出して、心配にならない親はおりません」
「では、アストライア様は私に……」
「いえ。いえいえ、ロラン殿。あの子を諦めさせてほしいとは言いません。子供が言い出した目標を後押ししてやるのも、親の務めだと思っていますから」
ですから――、とアストライアは言葉を続けた。
「あなたが最善と思う教導をお願いいたします」
そう言って、アストライアは頭を下げた。
首相の側室が頭を下げるとは――これ、誰かに見られたら
「頭をお上げください! そこまで言ってくださるとは……このロラン、最善を……」
「……お母さま?」
俺がアストライアの頭を上げさせようとすると、それと同時に客間の扉が開き、ひょこっと顔を出したのは、今まさに話題に上がっていた少年。バッドタイミング。ちょっと待ってよ。(キムタク風)
キャスバルは俺に頭を下げ続けているアストライアを見て、一瞬呆けたような表情を浮かべたが、すぐに可愛らしい顔を憤怒で歪めた。
「お前! お母さまをいじめるな!」
――拝啓、兄上様。どうやら俺は、死亡フラグにとんでもない場面を見られてしまったようです。
読んでいただきありがとうございました。
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