デギン・ザビの弟に転生したと思ったら、俺の知ってるガンダムの世界と少し違うんだが   作:TSしたとねり

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お待たせしました。実は結構難産でした……
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8.2

 アストライアに頭を下げさせているのをキャスバルに見られた後、俺は失点を挽回するべく必死になってアストライアへ土下座した。

 

 母親が頭を下げ、頭を下げられている男が土下座する光景——。率直に言って理解不能。その光景を見ていたキャスバルはドン引きしていたような気もするが、きっと気のせいだろう。うん。

 

 アストライア様からも、家庭教師の件で話をしていたという説明をされたことが功を奏し、マザコンキャスバルに抱かれそうになった疑念はなんとかその場で晴らすことができた――ように思われた。

 

 ところが——、

 

「……あの、そろそろ講義を始めてもよろしいでしょうか?」

「……」

 

 講義を行う事になっているはずのキャスバルの部屋の中では、未だに気まずい沈黙が続いている。

 

 キャスバルの浮かべている表情に、効果音を付けるなら『ムスーッ』だろうか。

 

 ベッドの上であぐらを組み、不機嫌さを隠しもしないで立ったままのこちらを睨みつけてくる少年は、頬を膨らませたまま一言も発しない。

 

 ——こンのクソガキ……!

 

 なんて思いを言葉にする事はなく、無理やり作った笑顔を振りまきながら俺はどうするべきかを考える。

 

 ここで怒ってはいけない。子供には子供の論理があって、何で不機嫌なのかを探らなければならないと聞いたことがある。

 

 まぁ、不機嫌になる理由なんて一つしか思い浮かばないわけだが。大人として余裕の態度を崩してしまっては、おそらくこのクソガキキャスバルからの信頼を得ることは出来ないだろう。

 

 悶々と、俺がどうしたものかと頭をフル回転させていると――、

 

「……やっぱり、お前は変だ」

 

 沈黙を破り、ようやくキャスバルが口を開いたかと思えば、唐突に始まる俺への悪口。

 

 ——おう? ケンカか? 俺がケンカを買ったら転売するぞ? ……はっ、いかんいかん。いきなり喧嘩腰はよくない。ビークール。ビークールだ。

 

 頭の中で葛藤していると、キャスバルは更に言葉を紡いだ。

 

「ジンバや他の教師は、僕がこんな態度をとっていたら『ダイクンの跡取りなのに』だとか言って説教を始める。それもしつこいくらいなのに、お前は何も言わないのか? 何でお前は笑っているだけなんだ?」

 

 ——それはお前が俺の死亡フラグだからだよ!

 なんて事を言える筈もなく、俺は少し考えてから咄嗟に考えた言い訳を口にする。

 

「……貴方はまだ幼い。子供のやる事なす事に一々めくじらを立てていては、それはそれで大人げないと思っているというのが一つ。そしてもう一つ。これが一番の理由ですが、私は貴方がどんな大人になろうと興味がない、からですかね」

 

 ——はい、嘘つきました。このまま純粋に育って、俺やザビ家を皆殺しにするのだけは勘弁してください。

 

 キャスバルはキョトンとした表情を浮かべ、そしてまた不機嫌そうな表情に戻った。

 

「……他人事だな。しかも、僕を子供と見ている」

 

「えぇ、他人事ですとも。子供と見るも何も、貴方は見るからに子供ではありませんか。私はダイクン首相に言われて貴方に講義をするために来ています。それを吸収するかしないかは貴方の自由。貴方がどうなろうと、私には関係のない事ですから」

 

 まるで責任を放り投げるような俺の言葉は、キャスバルにとって冷たく聞こえたかもしれない。

 でも、どちらかと言うと年齢不相応に大人びた——悪く言えば拗ねた——子供に厳しく言っても、反発を生むだけだと思っているし、実際に俺もそうだった。

 

 一応このままではキャスバルから冷たい大人に思われそうなので、ちょっとだけ考えを補足する。

 

「……ですが、私は頼まれた以上やる事はやります。それが責任です。大人は、一人一人が責任を持って、与えられた事、やるべき事をすることで、社会というコミュニティーを維持しているのです。さて、他に何か言いたいことがあればどうぞ?」

 

「……」

 

 また沈黙したキャスバルはベッドの上から立ち上がり、ツカツカと俺の方に歩み寄ってきた。

 

 アストライアによく似て整った顔立ちが、ズイッ、と俺の顔を下から覗き込む。

 

 ——へ? ガチ恋距離? 危ない危ない、コイツに付いてる()()が無かったら、うっかり恋していた。本当に男親に似なくて良かったね? 口を開かなければ、女装が似合うと思うよ?(褒め言葉)

 

 俺の視線とキャスバルの視線が交差する。宝石のように綺麗な青い瞳に、俺の困惑した表情が映った。

 

「……貴方じゃない」

「は?」

 

 ――何が言いたいんだ? 俺はニュータイプじゃないからしっかりと主語と述語を言ってくれないと、内容は把握できない。

 

「えっと、貴方が……」

 

「だから、名前! 僕は『貴方』なんて名前じゃない! キャスバルだ!」

 

 俺の発そうとした言葉は、キャスバルの声によってかき消された。

 

 キッ、と俺を真っ直ぐに睨む目は真剣で、子供が大人扱いされたいといった子供特有の大人への憧憬とは全く違っていた。

 

 少し背伸びしたいだけの子供かと思っていたら、キャスバルはもうすでにアイデンティティを確立させつつあるのだ。

 

 ダイクンの子供という重圧。周囲の大人からの眼差し、視線。

 

 それらに晒され続けていたるキャスバルは、普通の子供よりも早く大人になることを要求されているのだろう。

 

 それも悲しいことにではあるが、キャスバルの意思とは関係のない所、大人の都合によって。

 

 物悲しさよりも、怒りがふつふつと沸き起こる。誰に? キャスバルの周囲にいる大人たちに、だ。

 

 ガルマと同じ年齢のはずなのに、このまま育ってしまえば捻くれてしまうかもしれない。ついでにザビ家への怨嗟をスパイスとして毎日注ぎ込めば、原作通りザビ家大嫌い人間の出来上がりだ。

 

 ——子供は純粋で、邪気がない。周囲の大人の影響をモロに受ける。

 

 俺は小さく、キャスバルにバレないようにため息を吐いた。

 

 ――キャスバルの周囲にいる大人全員が、悪いわけではない。だが、おそらくアストライアが俺に求めているのは、ダイクンの息子としてのキャスバルを見てほしいというのではなく、一人の男の子として教導してほしいということ。

 

 交換条件だからとはいえ、少し面倒なことになったてしまった——、と俺は今更ながら家庭教師を引き受けたことに後悔していた。

 

 きっと、ジオンもアストライアも、ジオン派だけが周囲に侍ることを良しとしていない。俺は政治に首を突っ込みたくなかったのに、こうも雁字搦めにされるとは。

 

 

 これも、俺の若さゆえの過ちという事か――。と俺は思考を止め、向かい合い下から覗き込んでくるキャスバルの視線に合わせるために腰を折り、キャスバルの言葉に答えを返す。

 

 

「……よろしい。では、キャスバル君。それと私の名前も『お前』ではありません。ロラン。もしくは少佐。君の好きなように呼んでください。でも始めるからには、キャスバル君を一人前として扱いますからね? さて、早速講義を始めるとしましょうか。君の母君から、君は国防隊——いや、軍人に興味があると聞いています」

 

 

 俺の発した言葉から視線を逸らし、キャスバルは小さく頷いた。

 

「君が何故、軍人なんてヤクザな仕事に興味を抱いたかは置いといて。まだキャスバル君は若くて身体もできていないし、国防隊の教練のような事をすれば怪我をする原因にもなるでしょう」

 

 子供の内から激しい運動をすれば、成長が阻害されるらしいからね。

 

「……だったら、どうするのさ。軍人になったら、いっぱい走って、重い荷物を持たないといけないんだろ? 今からやっても……」

「ブブーッ! だめー。焦りは禁物だよキャスバル君」

 

 胸の前で大きなバツ印を作った俺を見て、キャスバルはまた不機嫌さを滲ませた。いや、子ども扱いってわけじゃないのだけれど、そうはとらえられないよね。

 

「でも、何もしない、という訳じゃないからね。座学もそうだけど、子供からでもできる教練から始めようと思う。座学は……まぁ今度からかな」

「っ、はい!」

 

 ——俺の発した教練、という文言に、キャスバルは今日初めて目を輝かせたのだった。

 

 

 ところが——、

 

「何でさーーっ‼︎」

 

 2人で庭に出て教練を始めて間もなくして、別荘の広い庭中に聞こえるほどのキャスバルの怨嗟がこもった大声が響き渡った。

 

「何でも何も、教練と言って……」

「違う! 僕がやりたかったのはこんなんじゃない!」

 

 動きやすい服装に着替えたキャスバルは、年相応に地団駄を踏む。

 少女のように整った顔立ちは怒りによってか紅潮し、心なしか涙目になっているように見える。ちょっとだけ可愛いと思ってしまった俺は健全だ。

 

 ——チガウッ! 俺はノーマル! ショタコンじゃない! 付いててお得……! じゃない!

 

「……違いません。これも立派な教練です。はい、もう10周しますよ。()()始め!」

 

 うーっ、と唸り、嫌々ながら行進を始めたキャスバルは、まだ始めて30分も経っていないというのに疲労の色が見えていた。

 

「良いかい? キャスバル君、行進というのは教練の基本中の基本だよ。他の人と同じ歩幅、同じ歩調で歩くんだ。今は君ひとりだけかもしれないけれど、いずれ部隊全員で合わせることになるんだ」

 

 ——だから、今のうちに協調性って奴を学びましょうねぇ。(ニチャァ)

 キャスバル——シャアに協調性が無かったと言うわけでは無いが、原作では基本的に我儘を押し通そうとする性格である。

 ここでしっかりと躾けておけば、将来ナナイさんの苦労も減るだろう。

 

 キャスバルは黙々と足を進め、文句を言う気力も無くなってきたようだ。

 

「……これが終わったら、甘い物でも買ってあげるか」

 

 真剣な表情を浮かべているキャスバルを見て、少しだけ罪悪感を覚えたのは秘密にしておこう。

 

 そういえば、ガルマもキャスバルと同じ年齢だったか。

 今度都合が合う時があれば、兄上に許可をもらってガルマもここに連れてくるのも良いかもしれない。

 

 ガルマにも同世代の()()ができれば、少しはあの引っ込み思案が治るかもしれないし。それに、ガルマが幼い頃からの友人になれば、キャスバルも謀殺するなんて考えなくなるだろう。

 

 なんて事を考えながら、その日の教練の時間は過ぎていくのだった。

 


 

 それから、軍人とキャスバルの家庭教師の掛け持ち生活が始まった。

 

 頻度はだいたい2週間に1度のペースで、キャスバルの教練を見てあげたり、子供にもわかるように国防隊の事や基本的な戦術について講義している。

 

 あとはアルテイシアちゃんにオヤツをあげたり、ジンバと顔を合わせるたびに少しだけ政治的な話をしたり、と比較的多忙と言ってもいい毎日だ。

 

 ジンバとの会話の内容? あー……端的に言うと、ザビ家が気に食わないって話に終始するから割愛する。俺にそんな事を言われても、どうしようもないのに、ジンバはどうしても文句だけは言いたいらしい。

 

 さて、そんな平和な日々を送っていたある日のこと。俺は突然、ジオンに呼び出された。

 

 呼び出された場所は、アストライアとその子供たちが暮らしている別荘ではなく本邸。

 

 ——そう、あのローゼルシアとジオンの愛の巣(住んでいる場所)だ。

 

 でも、俺にはジオンから呼び出されるような事をした心当たりはない。——たぶん。

 

 健全な心(イエスロリータノータッチの精神)でアルテイシアちゃんにオヤツを渡していただけだし、何度か顔を合わせる事で慣れてきたのか、生意気さに拍車が掛かっているキャスバルを教練にかこつけていじめてもいない。ほんとだよ?

 

 さて、使用人に案内され、俺が通されたのは別荘の客間を2つ繋ぎ合わせたような広さの客間。

 

 さまざまな調度品が置かれているところを見ると、おそらくこの趣味はローゼルシアのものだろう。

 

 部屋の隅には小さいマーライオンみたいな石像が置いてあるし、所々に金が掛かっているのがわかるから、ローゼルシアの貴族趣味であろう事を推測する。

 ——でも、本当にこれ本物のマーライオン? マ・クベに見せたら「贋作ですな」とか言われない?

 

「待たせたようですまないね、ロラン君」

 

 その時、マーライオンもどきをジロジロ見ている俺の背後から、俺を呼びつけた張本人が声を掛けてきた。

 

「い、いえ! 珍しい調度品でしたので、少し見惚れてしまいました」

「君もこの素晴らしさが分かるか! これは、地球に巣食う重力に縛られた亡霊どもを喰い、悔い改めさせた上で宇宙に還元するコンセプトで彫ったものでな! 私の作った物の中でも傑作なのだよ!」

 

 ——あちゃー。ジオンが作った張本人だったのかよ。うっかり「贋作ですな」とか言って批評しなくて助かった。

 

「……それは、素晴らしいですね……」

 

 口から付いて出たおべんちゃらに、ジオンは気付く事なく鷹揚に頷いた。

 

「うむ。それで、これの素晴らしさも分かってくれる君に、実はお願いしたいことがあるのだ」

 

 改まって、ジオンは俺にひっそりと囁いた。

 ——正直嫌な予感しかしない。俺の今世はこういう厄介事(お願い)が多すぎる。

 

「これを見てくれたまえ」

 

 そしてジオンが俺に差し出してきたのは、数枚の紙切れ。

 

 大きさからしてA4サイズの紙にはびっしりと文字が刻まれており、所々に滲んだインクからは、ジオンがどれほどの労力を割いてその文言を考えたのか見て取れる。

 

「今度、議会で行う演説の原稿だ。一読し、感想を聞かせてくれたまえ」

「失礼ですが、私では閣下の御心に添えるかわかりませんが……」

 

 ジオンの考えに沿わない事を言えば、これまでの友好関係が拗れてしまう可能性がある。それにジオンの考えが分からないと、それに沿ったアドバイスもできない。それはどうしても避けたい。しかしジオンは、更に俺へと食い下がった。

 

「いや、君でなければ駄目なのだ……本来であれば、アストライアに見てもらうつもりだったが……それは、まぁ良い。彼女のように優しく、大衆の視点に立てる者で、私の思想に共感する者は、私の身近にはもう君しかいないのだ」

 

 どこか追い詰められているような声音に、明らかに悪い顔色。ジオンの顔には、明らかな疲れが滲み出ていた。

 

 ——俺もジオンの思想に共感しているわけではないのだが……あ、思想に共感してくれて、お金や人脈を提供してくれる優しい存在、ローゼルシアがいるじゃないか。

 

「……ローゼルシア様、では駄目なのでしょうか……?」

「ローゼルシアではいかんのだ。彼女は、たしかに私を支えてくれている。いや、よく支えてくれていた。私の思想が完成されたのも、彼女との議論があってこそ……だが、それは大衆的な目線ではない。私と同じ視点に立つ彼女は、私を全て受け入れるだろう。だが、それではいかんのだ」

 

 この人の説明はかなりややこしかった。

 

 つまり簡単に言えば『読んだ感想お願いします! 一般向けに書いたつもりですが、ブラバしないでくださいね! でも豆腐メンタルだから、優しい批評をお願いします!』という事になるのだろう。

 

 ——ジオンはきっと、俺が原稿を読み終えるまで解放しない。

 

 そんなプレッシャーを、ジオンからひしひしと感じながら、俺は溜め息を飲み込んで首肯した。

 

「……わかりました。浅学非才の身ではありますが、拝見させて頂きます」

「おぉ! 頼むぞロラン君!」

 

 ようやくジオンの顔が綻び、俺は客間のソファに腰を下ろして原稿に目を通し始めたのだった。




読んでいただきありがとうございました。ロラン君の仕事が増えすぎて、過労死しないか心配になりますね


次回の更新は来週日曜日1/16のお昼頃を予定しています。

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