デギン・ザビの弟に転生したと思ったら、俺の知ってるガンダムの世界と少し違うんだが 作:TSしたとねり
さて、ジオン・ズム・ダイクンはどうなってしまうのでしょうか?
——宇宙世紀0068年1月某日。
ザビ家本邸で定期的に行われる報告会――という名の新年の顔合わせを前に、俺は頭を抱える事になっていた。
ザビ家本邸の隣に、昨年秘密裏に建てられた俺の家。その和室に置かれたちゃぶ台の横に大きな紙を広げ、俺はうんうんとみっともなく唸る。
かなり大きな豪邸である本邸の横に、ひっそりと——しかも俺に秘密にされた上で——建てられた家は和風建築の平屋建て。
俺が地球の極東——日本——贔屓である事を知られていたのか、20畳ほどの和室は畳の匂いが芳しく香るが、一人で使うには広すぎる。
おそらく、俺がボロいアパートに暮らしている事を、キシリアから兄上に漏らしていたのだろう。ボロいアパートで暮らしている事を知った兄上は本気で俺に怒り、俺は有無を言う間も無く引っ越しさせられてしまった。
そして、愛着のあるアパートを離れたその日に兄上から出された宿題で、俺はここ数日の間、頭を悩ませることになったのだ。
これまで数年にわたって原作知識を活用したMS開発や、アストロイドベルトの開拓で順調にムンゾの国力を増やしてきたと、我ながら自負している。
農業用コロニーのおかげで食料の生産も安定し、ザビ家も出資したアステロイドベルトがもたらした富は、ムンゾ市民に還元されつつあるのだから、俺の提案は間違っていなかったと思いたい。
そう、つまりムンゾは、現在好景気に沸いているのだ。好景気は市民の消費を促し、それに伴ってムンゾ政府の税収も好調となる——。
——が、だからといって——、
「浮いたお金で新造艦? しかも俺に設計を任せる? ……何なんだよ、この国の開発者と兄上は頭沸いてるの? 俺、軍人であって技術屋じゃないんだけど⁉︎ 金が浮いたなら労働者に還元しようよ!」
——等と弱音を吐きながら、俺はイヤイヤ図面を引く。
図面に描いているモデルは、原作で旧型の補給艦として活躍したパプア級だ。
パプア級は元々ミサイル運用艦として設計され、一年戦争の前に補給艦に改装されたらしいが、比較的初期の段階でやられ役に甘んじていた艦である。余談だが、ガデムはかっこよかった。
原作ではただの補給艦として運用されていたパプア級だが、俺はそこに電磁カタパルトを搭載し、モビルスーツの運用母艦的な機能を盛り込む事を思い付いた。
双胴艦に分類される艦型は時代を先取りし過ぎているとは思うが、カタパルトは間違いなくこの先必要になるだろうし、カタパルトを搭載しているからといって連邦をそこまで刺激しないと思われる。たぶん。
名目は、宇宙空間において補給物資をカタパルトで放出し、推進剤の無駄を減らして且つ、作業の効率性を高めるため。完璧な論理だ。
ついでに、将来ミノフスキー粒子に対応できるよう、設計に拡張性を持たせる事を忘れない。
連邦を刺激しない程度の武装。
連邦を刺激しない程度の艦の大きさ。
連邦を……(以下略)
連邦を意識しすぎると、どうしても性能が低くなりすぎる。けど、そこは短期間の改修で何とかなるだろうと割り切るしかない。
主砲は自衛できる程度、対空機関砲は多めに積む。ミサイル? ミノフスキー粒子でほとんど積む意味がなくなるから最初から積まないでいいよね?
「うーん、重力ブロックをどこに置くか……ぐぬぬぬ……」
「……変な声を出すな。うっとうしい」
辛辣な言葉をかけてきた少年は、手に持っていた資料をちゃぶ台の上に置くと大きなため息を吐いた。
少年は一見すると、容姿が整っていた。
だが、長い金色の前髪から覗く瞳には陰鬱さすら漂わせ、時折咳き込む姿からしてどこか幸薄そうな印象を与える。
少年が持っていたのは、俺が入手したばかりのミノフスキー粒子の特性についての論文。なお、表紙には赤色の『トップシークレット』という文字が見える。——君、まだ15歳くらいなのによくそんな難解な物を読めるね?
少年——ギニアス・サハリンは、軽く咳をこぼしながら、俺が睨んでいた図面にペンをサッと走らせた。
「ここだ。ブリッジの下に無駄なスペースがある。ここに重力ブロックを置けば、ブリッジにも行きやすいだろう」
——はっ、流石天才!
「ありがとうギニアス。助かるよ」
俺が素直に礼を言うと、ギニアスはいたたまれなさそうな顔をしながら苦言を呈す。
「……没落したサハリン家の者に、そう易々と礼を言うものではない。いや、もちろんロラン殿には感謝しているが……風聞というものがあるだろう?」
俺は、その言葉に小さく笑みをこぼしながら手に持っていたペンを置いた。
「ここには俺と、気の知れた人しかいないから、風聞なんて気にしない気にしない。それに、感謝する時には感謝する。それは人として当たり前のことだよ」
何故かギニアスは、俺の言葉に面食らったようだった。
——が、悪い印象を与えなかったのか、ギニアスは小さくフッ、と笑みを浮かべた。
「……やはり変わっているな。貴殿は」
——最近、色んな人に変わってると言われる問題。訴訟。
「……うーん、褒め言葉として受け取っておくよ」
「受け取るついでに、アイナも受け取ってくれると嬉しいがね?」
そして隙あれば結婚を促す、兄の鑑……鑑?
——アイナちゃんね……とっても可愛いし、性格も良いから好きなんだけど、俺個人としてはシローとくっついてもらいたいんだよね。
「アイナちゃんは俺なんかよりも、もっと素敵な人がいるよ。俺個人としては、アイナちゃんには、熱血的な人がお似合いだと思うんだ」
俺の言葉に、ギニアスは口をへの字に曲げた。
「有象無象にアイナはやらん」
頑ななようにも思える言葉を発したギニアスは、原作では母親の問題があってから女性に対して強い忌避感を持っていたらしい。しかし、今のところはそのような傾向は見られない。
——原作では、あの子宮を模したとしか思えない
それもこれも、没落したサハリン家の跡取り——ギニアス——を誘ってアストライア様の住む別荘に行き、その子供達と一緒に講義して以来少し角が取れたというか、今では、ただの人の良いお兄ちゃん——ただし、妹のことを考えすぎているシスコン気味の——、に成り果てている。
「えーと、ギニアスはそのままでいてね?」
「何……「ギニアス様」」
俺の言葉に抗議の声を上げようとしたギニアスを遮ったのは、独特な髪型の男だった。
「ギニアス様、そろそろ大学に向かわねば遅刻してしまうことになります」
「コホッ、ノリス、私はロラン殿と大事な話を……」
「なりませんギニアス様。ギニアス様が大学に飛び級を許されているのは、勉学に励む事が条件。たとえ大事な話であろうとも、その義務を怠るのはサハリン家の名を貶めます」
ノリス・パッカードは普段ギョロリとしている大きな目を伏せ、淡々とギニアスを説得する。これはガチ目の説教モードだ。だから俺はギニアスへと助け舟を出す事にする。
「申し訳ありません、ノリス少佐。自分が引き止めていたようなもので……」
「いえ、ロラン殿。国を憂うるのは男子の本懐。ギニアス様も貴方も同じ志でしょうから、お話が長くなるのも当然です」
——いえ、そんな高尚な志を持った覚えはございません。死亡フラグを折りたいだけです。
俺がノリスの言葉に曖昧な微笑みを浮かべると、ノリスは何を勘違いしたのかうんうんと大きく頷く。
「ギニアス様には立派な方になっていただきたい。やはり、貴方のもとで学ぶのが一番良いのでしょうな。このノリス、しっかりとお二方をサポートさせていただく。もしも有事があり、貴方がこのノリスを頼るならば、粉骨砕身働いて見せましょう」
ノリスの心強い言葉を引き出し、俺はもう満足だ。いや、本当にありがたい。
原作ではノリスは武人肌の軍人だったが、よくある猪武者などではなく、広い視点に立てるタイプの軍人だったはずだ。しかも、現場型の指揮官でもあり、部下からは慕われるようなタイプ。やだ、マジで有能。早く現役復帰してね。
俺が順調に階級を上げることができた暁には、ぜひとも副官になってほしいほどだ。
「そのお言葉だけでもありがたいですよ少佐」
「ははは、大恩あるサハリン家がなければ、貴方の下で働いていたかもしれませぬな! では、ロラン殿。これにて」
ギニアスを連れ立ってノリスが俺の家を出て行くのを見届けた後、俺は部屋に置かれている型落ちのテレビジョンを付けた。
年明け特有のお祝いモードが漂う番組のチャンネルから、
——原作だと、ジオン・ズム・ダイクンは今日、議会で演説する直前に倒れ、死んでしまう。
ザビ家による暗殺だ! と、ジンバ・ラルは主張していたが、それに確たる証拠はない。
さらに言えば、ダイクンを暗殺することの、ザビ家にとってのメリットはかなり少ないようにも思われる。
少なくとも政治抗争になるのは目に見えているし、急激な政権交代は混乱しか生まなかった。
政治抗争に負けるかもしれない博打を
おそらく、原作でのジオンの突然死の原因は急性の心不全。様々なストレスを抱え、不規則な生活を送っていたのだから身体にガタがきたのだろう。
しかし、この世界ではどうなるだろうか。
少なくとも、原作よりもストレスから解放されているようにも思えるし、ジンバやローデルシアといった周囲の人間も、ジオンの体調を慮っている。
『皆さん、ムンゾにお住まいの皆さん。先般の——』
ジオンがテレビを介して、ムンゾの国民に呼びかけ始める。
テレビジョンに映し出された議会の、一段高くなっている演説台に立ち、身振り手振りを交えて話すのは、以前俺が見せてもらった原稿の内容そのものだ。
スペースノイドの革新性、連邦の腐敗——。
ありきたりのようにも思えるが、これを批判しなければまず演説が始まらない。
何故ならば、それらを打破することがジオン党の党是であるためだ。
『……この宇宙に生きる、全ての人たちに訴えたい。我々は、宇宙で生まれ、育ち、死んでいく。であるならば、全てを宇宙全てで賄う時が、今、まさに来ようとしているのです……』
そしてジオンの話は佳境に入る。
『皆さん! ムンゾに住む……いや、この宇宙に住む全ての人たちよ! あなた方はもう一人ではない! 我々は、サイドという垣根を越え宇宙に共に生きる兄弟なのだ! 宇宙に住む人々が手を取り合い、助け合い、育み合う! 宇宙にあるすべてのサイド、月によるサイド共栄圏とも言うべき経済圏を構築していくことを、私は今日! この場で宣言する!』
ジオンが最後まで演説をできた事に、俺は安堵した。
原作では、演説をしようとした直前で胸のあたりを押さえて倒れ、そのまま亡き人になるはずだった。
そして、演説の内容も世に出ることはなく、ムンゾは混乱の只中に突入する。
ジオンが言ったサイド共栄圏構想という言葉は、ラプラス動乱の際にフル・フロンタルが言及したもので、時代を数十年ほど先取りしている。
食糧生産やエネルギー、鉱物資源等については宇宙で自給自足できるが、地球にムンゾを含むコロニーが依存しているのは『水』。
地球ではありふれたものだが、宇宙では入手するのがかなり難しい。が、水は木星の衛星であるエウロパや月の表面に氷として存在している。
それらを開拓することで地球からの依存を減らし、コロニーはもとより月を含めた宇宙で自給自足のできるブロック経済圏を構築すると言うのが、サイド共栄圏構想だ。
この考えに賛同を示すコロニーサイドがあるのかは未知数だが、おそらく現時点では少ないだろうと思われる。
まだ地球連邦の楔から抜け出すことができないコロニーも多いし、各コロニーに根付いている地球連邦の力が強いからだ。
まぁなんにせよ、時代を先取りしたこの宣言によって、
「……あとは、連邦がどう動くか……」
少なくとも、連邦がジオンの宣言を「狂人の戯言」と放置するとは考えにくいし、何らかの手を打ってくることが考えられる。
それが軍事的なものになるか、政治的なものになるかは見通せない。
もしも、この宣言のせいで連邦が軍事的なアプローチを仕掛けてくるとすれば、今建造中の艦やモビルスーツだけでは心もとないから、と俺は兄上にある
「政治的な圧迫は、兄上やギレンさんに任せるとして……ちょっと計画を早めるか……」
計画——それは、俺が初めてこの世界で行う事を考えた悪事だ。
血塗られた一族と呼ばれるようになる、ザビ家の道を大きく踏み誤らせるような俺の考えた悪事は、世界を一気に動乱へと向かわせるだろう。
「これも、全ては生き残るためだ……迷うなよ……」
「……あ、あの、叔父上? まだお部屋にいらしたのですか?」
俺が独り言を呟いた後、おずおずと俺に声を掛けてくる一人の
青みがかった髪は少年らしく整えられ、子供用のスーツに身を包んだ姿はまさしく天使と言っても良い。
ザビ家の色んな男が、ガルマに入れ込むのも仕方がないね。
「ガルマか。みんな揃ったのかい?」
「はい! ……あの、叔父上? 何か、お悩みなのですか? 僕でよければ、お悩み相談を聞きますよ?」
――ンがわ゛い゛い゛!(迫真)
上目づかいでこちらを窺ってくるガルマは、どこか恥ずかしそうに身体をもじもじとさせている。
――んがわ゛(以下略)
「大丈夫だよガルマ。君がそう言ってくれただけで、悩みなんて吹き飛んでしまったからね。さ、肩車してあげるから、一緒に行こうか」
天使のようなガルマに、ザビ家という血塗られてしまう家を背負わせてしまうのは心苦しい。
ガルマはこんなにも優しいのに、俺がやろうとしているのは他の人を犠牲にするようなことだ。
でも、自分の身内を守るためなら、俺は喜んでその悪名を一身に背負おうと、また新たに誓うのだった。
読んでいただきありがとうございました
ダイクン存命フラグ……さて、どうなるか……
計画……いったい何の計画か、皆さんは想像つきますでしょうか?
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