デギン・ザビの弟に転生したと思ったら、俺の知ってるガンダムの世界と少し違うんだが   作:TSしたとねり

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お待たせしました!
今回のお話は、作者があまり書き慣れていない三人称視点でのお話になります……
読みにくかったら申し訳ありません。


10 連邦の暗部(宇宙世紀0068年)

 ——宇宙世紀0068年10月。

 

 月面都市『フォン・ブラウン市』には、比較的大規模な連邦軍艦隊が駐留していた。

 

 月面に駐留している艦隊の規模は、各サイドに駐留している艦隊とは比較にならないもので、戦艦4隻と巡洋艦12隻を中核にした正規の一個宇宙艦隊に匹敵するものである。

 

 連邦軍が月面に、比較的大きな規模の部隊を置く理由はフォン・ブラウン市の戦略的重要性にあった。

 

 フォン・ブラウン市は、月面に初めて作られた都市であり、人口は5千万人を数える。また、サイド1を初めとしたコロニー建造の際に使われたマスドライバー施設があるといえば、フォン・ブラウン市の持つ重要性もわかるだろう。

 

 その都市に隣接する連邦軍基地の一角に、月面駐留艦隊司令部が存在し、そこを拠点として各コロニーサイドや月面都市に睨みを効かせていた。

 

 無機質で近代的な建物の中にあるドアを連邦軍佐官の男がノックすると、入室を許可する声がドア越しのためか小さく聞こえてきた。

 

「ブレノ・ソウザ少佐、入ります」

 

 男——ブレノ・ソウザ少佐が、連邦艦隊の駐留する基地の一角にある、ビルの一室——司令官室に呼び出されたのは初めてではない。

 

 これまで何度か——いや、数えるのも億劫になるほど呼び出された事がある、と言った方が正確だろう。

 

 一度は、ブレノ自身が着任の申告をするためだが、残りの多くは、率いる部下たちのやらかした事について、偉いさんからお小言を頂戴するために、だ。

 

(……とんだ所にきたもんだ)

 

 口には出したことはないが、ブレノは何度も思っていることを反芻する。

 

 地球で生まれ育ったブレノにとって、宇宙にいる事自体が苦痛だった。

 連邦軍のエリートと呼ばれるような人種は宇宙軍の機動艦隊か地上軍に配属され、安定した出世街道を約束されているが、ブレノの配属されたのは月の駐留艦隊。

 

 平時における組織として編成されている連邦駐留軍は、その性質故か軍人一人一人の質もそれほど高くない。

 

 故に、地球で生まれたブレノは地上軍を希望していたのだが、士官学校の成績はそれを許さなかった。

 

 ブレノに出世欲というものが無いのかというと、そうではない。人並み程度にはあると自覚しているし、退役後の年金額が多くなる事を考えれば、出世したく無いわけがない。

 

(そして……)

 

 ドアを開けて室内に入ると、ブレノに背を向け、基地とその背景の代わり映えのしない白い砂と岩だらけの景色を見ながら初老の男が立っていた。

 

 男は、連邦軍の佐官用の制服を身につけ、肩の階級章から大佐という階級が見てとれる。

 

 ブレノはなぜ、そんな偉い人に本日呼び出されたのかを考えていた。

 

 基地の司令官が、直接ブレノを呼び出したということは、相当な厄介事である事の証左であるから、必然的にブレノの緊張は増す。

 

(隊内の違法賭博の件か……? いや、ミックの奴がレイプしたルナリアンを孕ませた事か?)

 

 思い当たる節が多すぎて、ブレノは口を開こうにも開けない。

 まかり間違って本題と違う事を言えば、それが藪蛇にもなりかねないからだ。

 

 猛禽類を彷彿とさせる部屋の主が口を開くのを、ブレノは直立不動で待ち続けた。

 

「……そう畏まらんでも良い、ブレノ・ソウザ少佐。今日は君の部下に関することではない」

「……はっ、恐縮であります」

 

 部屋にある応接セットのソファに座るように促され、ブレノは恐る恐る腰掛けると、その正面に司令官は腰を下ろした。

 

「ブレノ・ソウザ少佐、旧ポルトガル出身の38歳。家族は父、母、2人の兄と妹が1人。スクールでの成績は悪いわけではないが、これといって良が付く訳でもなく、全て可。10年前に士官学校を卒業。その後、一昨年の2月に少佐を拝命、この基地の所属となる。間違い無いかな?」

「はっ、閣下! その通りであります!」

 

 履歴書を持っているのでは無いかと疑いたくなるほど、スラスラと発せられたブレノの簡単な経歴。

 

 それが司令官の口から(そら)んじられると、ブレノはどこかケツの座りが悪くなったような感覚を覚えた。

 

(こんなに緊張するのは、士官学校以来初めてか? いや、昇進のための試験の時もそうだったか)

 

 そんなブレノの緊張を知らない司令官は、事務作業を続けるように淡々と口を開く。

 

「さて、本題に入ろう。君には……というより、君の部隊には軍を辞めてもらうことになった」

 

 降って湧いたような司令官からの突然の解雇通告に、ブレノはソファから勢いよく立ち上がった。

 

「どういうことです⁉︎ 大佐! 自分は……!」

「話は最後まで聞くものだ、少佐。君には、特務をやってもらいたいのだ。そのためには必要な措置というものがある。安心するといい」

 

 早く座りたまえ——と司令官に促され、ブレノは潔くソファへと深く腰を下ろす。

 

(特務? 何でこの俺が? まさか、厄介払いにされるのでは?)

 

 ブレノの懸念は、当たらずとも遠からずと言えた。

 応接机に置かれた司令官から差し出された書類を手に取り、一通り目を通すとブレノはこれ見よがしに大きな溜息を吐いた。

 

「……軍には、戻れるのでしょうか?」

「もちろん、保証する。しかも、成功した暁に君は本部に栄転する事も決まっている。名誉ある任務だ」

 

(美味い話だ。)

 ブレノは数分前の溜飲を下げた。

 本部に栄転ともなれば、士官学校の同期たちよりも一足跳びに昇進の道も開けるし、地上軍に配属を変えてもらうことも可能となるかもしれない。

 

 受けることを前提に、ブレノは更なる譲歩を司令から引き出そうと、渋面を無理やり作り出した。

 

 これが駐留軍本部からの命令というだけでは、連邦軍本部に栄転などあり得るわけがない。

 だとしたら、最悪でも地上に戻るくらいでないと割には合わない。

 

「しかし、理解はできても納得はしかねます。いや、もしかしてこれは……」

 

 ブレノの頭の中で、パズルのピースが嵌った音がした。

 

「そうだ。駐留軍本部からではなく、統合参謀本部からの命令なのだよ少佐」

 

 統合参謀本部からの命令——つまりは、連邦軍すべてを統括する本部が絡んでいる。

 

 それならば、比較的優秀な士官とはいえ今までうだつの上がらなかったブレノを突然地球に栄転させるのも容易いだろう。

 

「ムンゾのスペースノイドどもが、新造艦と試作兵器を積み、サイド2へ使節団を派遣するという情報をキャッチしたのが、およそ2ヶ月前だ」

 

 司令官は、ブレノが乗り気になったことを察し、部屋を暗くしてモニターのスイッチを入れた。

 

「これが新造艦と試作兵器だ。……軍機に属するので情報源は言えないが、連中の中にも不満を持つ人間がいたのだろう」

 

 画面に映し出された艦は、ブレノが見た事も無い形——双胴艦と呼ばれるもので、小さく艦の名前であろう『パプア級』という文字が、ブレノの目に入った。

 

「本部は、この艦の性能が知りたいようだ。故に奪取しろ。それができないようであれば、この艦には不幸な事故にあってもらう。何、不幸な事故にあった艦の運命というのは、儚いものになるというのは宇宙の常識だからな」

 

「……その……試作兵器は、ルナリアンどもが……?」

 

 司令官の言い方では、本部は新型艦にしか興味がないようにも聞こえる。つまり、試作兵器は他の第三者が欲しているようにしか聞こえなかった。

 

「少佐、その問いには答えられない。あくまで統合参謀本部からの指示だ」

 

 ルナリアン——月に住む人間達を蔑む言い方ではあるが、その意味するところは司令官にも伝わったようだ。

 

 地球連邦軍に所属する、殆どの兵器に使われている部品や機械。

 その多くを手掛けて製造する死の商人。

 

 『揺り籠から戦艦まで』という言葉通り、死の商人——アナハイムエレクトロニクス社は、連邦軍内に広く深く浸透し始めていた。

 

 それこそ、政治の世界にも——。

 

 そして、司令官が否定でもなく『答えられない』という事は、つまりそういう事なのだろう。

 

「……ところで、その使節団というのは……」

 

 ブレノはそれ以上深掘りすることを諦め、他の話題にシフトする。

 その変わり身の早さに、司令官はどこか空気を読むのが上手いブレノに好感を持ち始めていた。

 

「うむ、君も最近スペースノイドどもが調子づいている事は知っていると思う。それも、あの地球の裏切り者が演説したせいだ」

「それでこの写真……ロラン……ザビ……? 聞かない名前ですね」

 

 机に置かれた資料を捲ると、どう見てもハイティーンにしか見えない男の写真が載っていた。

 

「さもあろう。こいつはジオン党のナンバーツーとも言われる、デギン・ザビの弟で、政治的にはほとんど表に出てこん。……だが、どうやら裏切り者の影に、こいつがいるらしい。少なくとも、情報源の話では、我が政府にとっては不必要な人物だそうだ。だが、まだ若輩にも関わらず、中佐になり、艦を一つ任されるという事は、兄弟の権力だけでは無いのだろうよ——それにしても、情報源は確実にこの中佐のことを好いてはいないようだがね?」

 

 司令官は白髪が混ざり始めた髪を撫で付けながら、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「わかりました……ところで、戦力はいただけるので? 生身で新造艦に立ち向かえと言うのは不可能ですから。せめて旧式でも巡洋艦くらいはいただけませんと」

 

「……わかっておる。廃棄予定のニューオーリンズ改級*1のボルチモア一隻と、戦闘機を一個小隊だ。これで奴らの多目的輸送艦とかいう、訳のわからん艦は拿捕するには充分だろう?」

 

(たしかに、設計図通りなら巡洋艦以下の火力しか持たない多目的輸送艦には過剰な戦力だ)

 

 しかも、戦闘機一個小隊も付いてくると考えれば、まさに鬼に金棒。

 軍備を制限されている植民地人の、戦闘艦一隻に対しては過剰な戦力といえる。

 

(……だが、待てよ?)

 

 ブレノはふ、と疑問に思った。

 

(巡洋艦一隻と、戦闘機一個小隊。それで拿捕できるという事は、こいつはただの輸送艦というわけではなさそうだ少なくとも、艦が特別なのか試作兵器とやらが特別なのかは分からないが)

 

「私の部下には、何と?」

「反政府ゲリラの掃討……とでも言えば良い。嘘では無いからな」

 

 司令官の言葉に、ブレノは思わずクックッ、と笑みを浮かべる。

 

 確かに、『反政府ゲリラ』という司令官の言葉に嘘はない。

 地球連邦からの独立を目指す勢力は、文字通り『反政府』であり、それらが持つ軍隊もどきは『ゲリラ』に過ぎない、という意見が連邦軍内の一部派閥では公然と、共通認識として存在し得ていた。

 

「了解致しました、大佐! きっとご期待に応えさせていただきます! ところで、出港のタイミングは?」

 

 ブレノはうきうきとした様子を隠す事なく、今すぐにでも出発できます、と(のたま)った。

 

「……君たちが出港するのは2週間後だ。それまでせいぜい、艦と部下を束ねておくように。……あぁ、それと、月での事件は有耶無耶にできるが、地球に帰った後の事を考えておきたまえ。どの派閥に入るにしろ、トラブルメーカーは必要とされん。たとえ、ルナリアンどもが相手だとしてもな」

 

 話は以上だ。と司令官は短く告げると同時に、ブレノは司令官に敬礼をしてからようやく部屋から解放された。

 

(ようやく! ようやくだ!)

 

 ブレノは自分の足下に転がり込んできた幸運に、信じてもいない神に感謝した。

 

 月に赴任してから2年。

 砂と岩しかない不毛な大地と、その憤懣を現地人に向けることしかできない野蛮な部下達に、ブレノは飽き飽きしていた。

 

 地球に戻るためにはなんらかの手柄を立てる必要があるが、反政府ゲリラの多い地上に比べると、宇宙はどうしても暇になる。

 その結果が、連邦兵の質の低下に繋がっているとは、皮肉としか思えないだろう。

 

(これで腐った部下達ともこれでオサラバだ!)

 

 ブレノは小躍りしたくなるのを我慢しつつ、自分の率いる部下たちに説明するために、廊下を急いだのだった。

 


 

「……行ったか」

 

 司令官——ジャミトフ・ハイマンは、まるでタップダンスを踊るかのように弾んだ足音を聞いて、小さく独り言ちた。

 

 統合参謀本部からの命令は、ジャミトフの胃を的確に破壊しつつあった。

 

 ジャミトフ自身、地球で生まれ育った人間である。コロニーに移住したスペースノイドに対して思うところがないわけではない。

 

 だが、ジャミトフは現実を見過ぎていた。

 

 金のため、票のため。母なる地球を平気で壊し続ける、それでいて悪びれない人間を多く見てきた。

 

 そんな腐った地球連邦を、今更ジャミトフが変えられるとは思っていない。

 

 だが、ジャミトフは地球資源を食い潰す愚民どもを宇宙に移住するか減らすかを考えねばならない時に達していることが分かっていた。

 

 それに加えて、今回の命令である。

 

 その命令が、単に統合参謀本部からの命令ではなく、そのもっと上——つまり、連邦宇宙軍省からの物で、高度な政治的な物である事を上位者から告げられた時は唖然とした。

 

「気に食わん……が、恨むなよ。スペースノイドは、大人しくしておけばよかったのだ」

 

 ジャミトフは写真に写った幼げな顔立ちの男に、少なからぬ憐憫を覚えていた。

 地球連邦軍は、民主主義国家の軍隊として文民統制(シビリアンコントロール)の下で活動している。今回の命令は、その文民統制が悪い方向に作用した結果である。

 

「まさか、こいつも命を狙われるとは思わなかっただろうな」

 

 月に基盤を置くアナハイム社が、どうして試作兵器を欲しているのかは定かではない。

 

 いや、むしろ知らない方が得策か——と、ジャミトフは思考を切り替える。

 

「さて、観艦式の準備を進めねばならんな。スペースノイドの塵芥どもが、独立などという幻想を抱かぬような、盛大で厳粛な……」

 

 ジャミトフはそう呟くと、何の代わり映えもしない月の地平線の奥——青く輝く地球——を視界に入れ、また思索の海に没入するのであった。

*1
ニューオーリンズ級として建造された軽巡洋艦を延命させるために、各種レーダーや武装を近代化改修した物を呼ぶ。ただし、改修前のニューオーリンズ級と比べ、砲戦能力は劣る。その理由は、後部甲板にあった主砲とミサイル発射装置を撤去して設置された、戦闘機格納庫と電磁カタパルトである。結果、前方に向ける事ができる主砲の門数は変わらないものの、後方に向けられる主砲の数が2門減ることとなった。しかも、建造が開始されたサラミス級の万能性が評価されつつあり、近代化改修を受けたのにも関わらず、退役を早める結果になったというのは、皮肉としか言いようがないだろう。




読んでいただきありがとうございました!
余計な事をした奴は誰なんでしょうねー(棒

感想、評価、お気に入り登録してくださっている皆さん、本当にありがとうございます!
数字が増えるたびに作者は泣いて喜んでいます……!

今回のお話はどうだったでしょうか?また感想等をお待ちしています!
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