デギン・ザビの弟に転生したと思ったら、俺の知ってるガンダムの世界と少し違うんだが 作:TSしたとねり
はじめてのガンダム二次小説ですので、生温かく見守ってください……
感想等よろしくお願いします。
プロローグ
——宇宙世紀0058年1月16日。
新しい年の始まりの日だというのに、月の裏側にある地球から最も遠く離れたコロニー
その集まりは今や数十万人、いや百万人にも届くかもしれない。
一基のコロニーにはおよそ1000万人が住んでおり、それが100基以上集まってサイドと呼ばれる自治体になる。
首都バンチコロニーと呼ばれるムンゾも同様だ。だから、数十万人にも及ぶ群衆が、どれほど大きな規模なのか想像がつくだろう。
そして、数十万人の立ち止まった人々の視線の先には、大型モニターに映し出された一人の男。
年齢は50歳に届くか、届かないかだろうか。白くなり始めた頭髪は政治家らしく整えられ、口元に生やした髭は威厳すら感じられる。
身振り手振りを大きく振り、鬼気迫る様相で演説を打っている男は、議会にいる議員達に対して——ではなく、モニター画面を見て離れないであろう民衆に向かって叫んだ。
「——よって、ムンゾ自治共和国首相たるこの私、ジオン・ズム・ダイクンは、我々が既に連邦政府によって認められている単なる自治共和国などではなく、連邦政府に対等な『共和国』である事を、ここに宣言するものである!」
その言葉は、事実上の独立宣言だった。
宇宙に浮かぶコロニーへと、人が移民として送り込まれ始めてから半世紀あまりが経過しているのにもかかわらず、宇宙に住む人——スペースノイドは、母なる地球の重力に縛られた人間たちに、未だ束縛されていた。
それを良しとしない男——ジオン・ズム・ダイクンが独立を宣言した瞬間、ムンゾに住む万人の群衆が熱狂するのも当然のことだろう。
宇宙に浮かぶ一基のスペースコロニーが、数十万の熱狂の坩堝と化したのだ。
興奮冷めやらぬ民衆は、思い思いの丈を吐き出し、歓呼を表すために地面を踏みしめ、思い思いの言葉をコロニー公社によって管理された晴天へと放った。
抑圧されてきたスペースノイドが、巨大権力と対等な立場になろうというのだ。興奮しないやつはスペースノイドではない。
それほどの思いを観衆に抱かせるのに、十分な力を演説は秘めていた。
その証左に老いも若きも、男も女も問わず、自由と平等を求めた群衆は、声高らかにジオンの名を叫んだ。
「共和国……か……」
俺は装甲車の中で、群衆が暴徒化しないように見守りながら小さく呟いた。
「どうしたのですかザビ中尉? どこかお加減でも?」
「いや、タチアナ曹長、何でもないよ。ありがとう」
呟いていた言葉を聞かれたのだろうか、知的な眼鏡をかけた中隊副官のタチアナ曹長が、胡乱げな目で俺を見てくる。
いや、そんな変な人を見るような目で見ないでほしい。独り言くらい誰だって呟くだろう。
「……あぁ、漸くスペースノイドの独立への一歩を踏み出すことができたんだ。俺だって少しは感慨に浸っても良いだろう?」
俺の答えに、
「……そうですね、そういうこともあるでしょう」
……セーフ! パーフェクトコミュニケーション!
変なところで足を踏み外したら暗殺ルートまっしぐらだからな……
ザビ家に生まれてしまったとはいえ、こんな扱いを受けることになるなんて聞いていなかったし、本気で神様と言うものを恨んだ。
そう、突然だが俺は、デギン・ザビの年の離れた弟として転生したらしい。
ただの俄か
なんて思っていたが、デギンのようにデブで禿げでチビだった前世に比べて、高身長(前世比)、イケメン(女顔)、エリート(?)という三拍子揃った政治家家庭に転生させてもらえたことを思えば、差し引きゼロ。いや、むしろプラスだと思う事にした。
母親譲りの銀色の髪は軍人らしく端正に決め、日に焼けた肌は健康的な色を湛えている。青年になっても変わらない女顔は、少なくともこの世界においては周囲の女性からの受けはいい。
身長は思ったよりも伸び悩み、170に届くかどうかというところ——前世は160にも届かなかった——で、私服姿で歩いているとティーンエイジャーからもおそらくなめられるであろう風貌。
ところが、仕事中の俺がそうならないのは、厳しいイメージを与える褐色に染められたムンゾ国防隊の制服を着ているからだろう。
宇宙世紀0038年、デギンが21歳の時に生まれた弟。それが俺、ロラン・セア・ザビである。
男親に似なかったためか、銀色の髪に翠色の瞳、どちらかと言えば中性的な顔立ちもあり、口さがない者たちからは「本当にザビ家の男か?」と言われたこともある。
——いや、男親に似たら厳つくムチムチで、しかもどこかしらかの毛が無くなること必至じゃん。ママに似てよかった。うん。
こういう時、日本人が前世でよかったと思ったね。
何を言われてもニコニコと笑みを浮かべながら「はい、私なんかが偉大な父や兄のようになれるかはわかりませんが、精いっぱい努力してまいりますので、皆さんのご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします」と言えば、大抵の人間は堕ちる。
幼い子供が精いっぱい大人の真似事をしていると思われるかもしれないが、良くも悪くも中性的なショタがそんな言葉を述べてくるのだから、敵になる大人は大分少なくなった。
しかし、そんな俺を脅威に思う人間が一人いた。
ギレン・ザビ。俺の甥にあたる人物だ。
ガンダムを知っている人間なら、知らない人間はいないだろう。IQ280の天才。眉無し。銀髪オールバックの慢心野郎etc……
様々な異名を持つ男は現在25歳という若さで、デギンの後釜を狙って政治の世界に飛び込んでいる。
俺は政治なんかに関わりたくなかったから、ムンゾ共和国防衛隊に入隊し、「政治家にはなりませんよー」とアピールをしているというのに、警戒心と猜疑心の塊の
「——ところで、ザビ中尉。どうされますか?」
「ん? どう、とは?」
物思いに耽っていた俺が、タチアナの話を聞いていなかった事に気付いたのだろう、タチアナは「はぁ」と大きな溜息を吐いた。
「目の前の群衆です。この勢いでは、今にでも議事堂に乱入するかもしれません。警告射撃をする許可を出せるのは、現場指揮官である貴方のみです」
「警告射撃? やめとけやめとけ。例え同じスペースノイドでも、群衆に銃口向けたら何をされるかわからんぞ? それに、俺たち防衛隊の設立理念を忘れるな」
熱狂的になった群衆には、群集心理というものが働く。
一人一人では何のことはないが、群衆となった瞬間に普段理性によって押さえ込まれている本能が、吐き出しやすくなってしまう。
それを勉強——というよりも、ニュース番組の受け売りだが——したのは前世の話。多衆になった民衆は、権力なんかで押さえつけられるものではない。
だから俺は、装甲車に備え付けられているマイクを手に取り口を開いた。
『えー、こちらは本日の警備を担当している、ムンゾ共和国防衛隊のロラン・ザビ中尉であります。お集まりの皆様、少しばかり傾聴願います』
マイクの音量を調整しながら群衆を窺い見ると、全員が胡乱な表情を浮かべてこちらを見ていた。
突然、治安維持のために派遣された部隊から、マイク越しに呼びかけられたことに群衆がざわついているのが分かるが、俺は気にする事なく話を続ける。
『只今のダイクン首相の演説。スペースノイドであれば誰しもが胸を打たれ、歓喜の熱狂で心躍る事でしょう。私も皆様と同じ気持ちであります』
ざわつきが大きくなっていく。それもそうだろう。共和国防衛隊は、『共和国』の名が付けられてはいるものの、実質的には連邦の出先でしかない。
もちろん、俺のように変わった思考を持ち、自ら進んで入隊する奴もいるにはいるが、殆どの目から見て『共和国防衛隊』は売国奴の集まりなのだ。
『しかし、どうか皆様。ここは今一度、俯瞰的に見ていただきたい。ここで暴動となり、議事堂に群衆が雪崩れ込んだと言う事になれば、またぞろ連邦の介入を呼ぶ事となってしまうでしょう』
熱狂的な群衆が、ゆっくりと冷静さを取り戻していく。よし、あともう一声だ。
『もう一度申し上げます。私も、皆様と同じ気持ちであります。今日が仕事でなければ、きっと皆様と同じように歓喜に沸いていたでしょう。しかし、ダイクン首相のお気持ちは、おそらく今は連邦政府の介入を許したくないに違いありません。どうか、皆様はあくまで冷静に、そしてしっかりとした秩序を持って行動してください。最後に、独立万歳! 共和国万歳! ムンゾ万歳!』
俺が話し終えると、群衆からパラパラと拍手されるのが分かった。
最初はまばらだった拍手だったが、少しずつ大きな輪となって群衆全体に伝わり、そして大きな声となって『共和国万歳』という群衆の声に変わっていった。
どうやら、混沌とする事態は避けられたようだ。
慣れないことをすると、少しばかり疲れてしまうな。
どっ、と襲ってきた疲れに、俺は装甲車の席に深く座り込み、大きく息を吐いた。
「な? タチアナ曹長。たまには人間の理性を信じるって言うのも、なかなかオツな物だろう?」
俺の言葉に、タチアナは小さく頷いた。
「……やはり、貴方もザビ家の人間、と言うことがよく分かりました」
どこか呆れたかのような口調。
なんか、褒められてる気がしないのはきっと気のせいではないだろう。おかしいなぁ、何で?
「いやー、監視役殿にそんなに褒められるなんて照れちゃうなぁ」
「……中尉、私も同じくスペースノイドです。ですから、貴方の判断を尊重し、歓迎します」
戯けていた俺に対して、タチアナは真剣な表情だった。
横目にその様子を見た俺は、「ハハッ」と乾いた笑を漏らし、また戯けた調子で軽いジャブを打つ。
「なら、ギレンに報告するのはやめて欲しいんだけどね」
「……それとこれとは別です。私は仕事に忠実ですから」
話は以上ですと言わんばかりに、会話のキャッチボールは終了した。
やっぱり褒められてたのかな?
タチアナ・クリピンスキー曹長は、ニコリとも微笑む事なく俺に向けていた視線を再び群衆の方へと移したのだった。
主人公の名前からわかっていると思いますが、主人公のイメージはロラン君です。
つまり……そういうことです。よく訓練された読者なら察しますよね? ね?