デギン・ザビの弟に転生したと思ったら、俺の知ってるガンダムの世界と少し違うんだが   作:TSしたとねり

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前回のお話(主に金髪きょぬー僕っ娘)の反響が多かったので、何故シャルロットが男として育てられることになったのかというお話を更新します。
※シャルロットの視点のお話になります!

タイトルにあるとおり、対になっているお話がありますので、それを思い出すなりしながらお楽しみください。


幕間 青い瞳のシャルロット

 僕が男として育てられ始めたのは、妹のアルテイシアが生まれた時からだった。

 

 ——時は宇宙世紀0062年、9月半ばを過ぎた頃のこと。真夜中の病院に悲痛にも取れる男たちの声が響き渡った。

 

 母上(アストライア)を見舞った父親であるジオン・ズム・ダイクンは、生まれたのが妹である事を知り、緊急的に腹心の部下たちと話し合うことになった。

 

「閣下! このままでは、ザビ家に良いようにされますぞ!」

「左様! 彼奴等めは親族を挙げて我らをジオン党から排除するに決まりきっております!」

「……分かっておる。だが、生まれた子供の性別を変えることなどできまい」

 

 病室のベッドで疲れて寝ている母上の隣で僕が寝ていると、(ジンバ・ラル)を始めとした部下たちと父上(ジオン・ズム・ダイクン)が話している声が聞こえてきた。

 

 この時、同じジオン党の同志とは言え、経済的に抜きん出始めていたザビ家に対する父上と爺の見方は厳しいものがあった。

 

 新たなコロニー建設。

 ザビ家主導の小惑星帯探査。そして、資源小惑星の確保。

 さらに新規開発の作業用機械にまで食い込んでいると聞く。

 

 そこまで言えば、ダイクン派がザビ家に抱く警戒感と言うものがどれほどまでだったのか、分かってもらえると思う。

 

 当時、それらをほぼ単独でやってのけるザビ家への警戒感。

 それは、ある種の被害妄想的なものとも言えたが、現実問題としてそれほどまでに父上達はザビ家を恐れ、警戒していたのだ。

 

「我々は、閣下の思想に共感して集まりました。ですが、支持者たちは正当なジオンの後継者を求めておるのです!」

「うぅむ……」

 

 後継者が何を示すのか、まだ幼かった僕でも分かった。つまり、大人たちはこれから担ぐ神輿が男であることを望んでいたのだ。

 

 父上も不死身ではない。いつか体調を崩してしまうかもしれない。

 一人の男のカリスマ性に頼ってきた者達にとって、そうなった場合は悪夢としか言いようが無い。

 男だとか女だとか、ジオンの後継者だとか、そんなものは大人の都合じゃないか。

 幼い身上ながら、僕は父上たちの会話に反感を抱いていたのだが——、

 

「しかし、どうするジンバよ。生まれたことを無かったことにはできん」

「……儂が考えまするに、アルテイシア様を男子としてお育てになればよろしい。幸いにも、まだ幼い。大人の都合で性別を偽っても、暫くは露見することはありますまい。その間に、我らが派閥を大きくして見せます故」

 

 性別を変える? ジオン・ズム・ダイクンの後継者?

 僕にとってそんなものはナンセンスだ。

 それに、まだ幼いアルテイシアにそれを押し付けるのは残酷な気がした。

 

 それは、僕が幼いながらに抱いた義侠心のようなものだったのかもしれない。

 年長者は年少者を守るもの。

 ——そう、母上が僕を慈しみ、愛するように。

 

 だから僕は——、

 

「……お父さま、わたしが男になったら、お父さまはうれしい?」

 

 僕は身体をベッドから起こし、母上が起きないように気を使いながら立ち上がる。

 

 僕の言葉を聞いた父上の顔は、今でも忘れることが出来ない。

 

 政治という汚い話を、幼い僕に聞かれていたという負い目もあったのかもしれない。

 あの、いつもキリッとした眉毛を情けなく八の字に下げ、口元に蓄えていた髭はほんの少し萎れているかのように見えた。

 

「キャスバル……可愛いキャスバル。そう言ってくれるか。この不甲斐ない父を、助けてくれるのか……」

 

 ——はっきり言って、僕は父上の事が苦手だった。

 

 屋敷に帰れば難しい顔をして知らない大人と話をし、母上や僕の事なんか構ってくれなかったし、仕事で何か気に食わない事があれば、すぐに大きな声を上げて周囲の物に当たり散らかす。

 

 母上が「昔はもっと優しくて、気を使ってくれて、素敵だったのよ」と僕を安心させるように言っていたが、その顔を知らない僕にとってそれは幻想にも近いものだった。

 

 でも、僕が男になったら、父上はまた母上に笑顔を見せてくれるかもしれない。

 淡い期待感と希望的観測。

 

 でも当時の僕には、そうすることが最適解だと思えたのだ。

 

 だから僕は、その日から女から男になった。

 


 

 それから僕は、ジオン・ズム・ダイクンの子息として、様々な場に出ることが多くなった。

 男物の服。男物の雑貨品で揃えられた自室。

 話し言葉も矯正され、髪を短く切った僕を知らない人が見れば、間違いなく男と誤認するだろう。

 

 おそらく母上は内心、変わってしまった僕を見て面白くなかったと思う。

 父上の——と言うよりは、周囲の大人達の勝手な都合で、僕が男として育てられる事に。

 

 連日のように、誰かしらかが僕に講義を垂れ、礼儀作法や思想史、帝王論なんかも勉強させられる。

 大体講師はジンバが多かったけれど、ジンバが言うスペースノイドがどうだとか、父上の思想が云々という話は難しくて面白みがない。

 

 だから僕はジンバの講義を抜け出して、今日から来ると言う家庭教師に奇襲(悪戯)を仕掛ける事にした。

 

 母上にかねてから話していた将来の事。

 それは、僕が軍人になりたいという、おおよそ世間一般の親からすれば、大顰蹙を買うであろう夢。

 

 軍人になれば思想云々といった定規ではなく、僕の事を周りはキャスバル・レム・ダイクン個人として見てくれるはずだという甘い想像から、僕はその夢を抱くようになった。

 

 僕がその(幻想)を打ち明けた時、母上はあまりいい顔をしなかったが、母上は困った時に浮かべる顔で「キャスバルが選んだ道ですものね」と僕に家庭教師を付けることを約束してくれた。

 

 そして、屋敷の扉の前で佇んでいる軍服姿の男が見えた。

 

 軍人にしては細身で、よく見ると顔立ちも中性的に整っている。

 あれが件の人物であろう——。と、僕は早々に見当をつけ、音を立てないようにコッソリと背後を取った。

 

「てやぁあっ!」

「おっと!」

 

 背後から大人の背後に回り込み、身を屈めて狙いを済ませたが、すんでのところで回避されてしまった。

 

「その印は……火遁……」

「ちぇーっ。見つかっちゃった。カンチョーしてやろうと思ったのに」

 

 ——どうせ、コイツもこれまでの家庭教師と同じに決まっている。

 僕がジオンの子供と知った瞬間、家庭教師に付いた軍人達は媚び諂う。

 僕を思想云々、ジオン・ズム・ダイクン云々という大人の定規で図ってくるはずだ。

 

 この屋敷に住む子供の意味を理解できないほどの愚物を、母上が選ぶとは考えられない。

 だから、そういう家庭教師が来た時、僕は母上にその家庭教師をクビにしてもらっていた。

 

 意地の悪い事を考えて、僕はほくそ笑みそうになる。ところが——、

 

「私は、今日からこの別荘で家庭教師をするロラン・ザビと言います。ダイクン首相のお子さん……で良いかな?」

 

 新しい家庭教師から帰ってきた言葉は下手に出るでもなく、僕と同じ視点に立っての言葉だった。

 

 媚び諂う者に特有のおべんちゃらや、美辞麗句に彩られた言葉でもなく、こちらを突然怒鳴りつけるでもない。

 

 想像していた答えとは違った返答に、僕は目を丸くさせた。

 

 ——いや、何でお前は媚びない? 何で他の大人と同じように(へつら)わない?

 

 恥ずかしながら、この時の僕は自分自身の感情を見つめられなかったと思う。

 

 これまでは媚び諂われるのが嫌で、大人から対等な扱いをしてほしいがために、試験のようなことをしていたのに僕はその本分を忘れて頭に血が上っていた。

 

 ——僕を誰だと思っている!

 ——僕をもっと見ろ。お前が見ているのを誰だと思っている!

 僕は——、

 

「僕は——」

 

 ——ジオン・ズム・ダイクンの子供だぞ! と、僕が癇癪のあまりに言葉を発するよりも先に、大きな声が庭に響き渡った。

 

「坊っちゃん! 何をされておるのか!」

 

 ジンバから怒鳴り声をぶつけられた僕は身体をビクリ、と大きく跳ねさせた。

 

 ズカズカと大股歩きで僕の方へと向かってきて、肩に手を置かれて強く力を込められる。

 

 ジンバの感情は怒り? 何だろうか。でも、もっと寂しくて、温かいような気がした。

 

「ジンバ殿……そう大きな声で怒鳴りつけなくても良いではありませんか」

「む! ロラン殿、しかしだな! ジオンの思想の継手として、ワシの講義を受けてもらわねば、な。ジオンの思想の継ぎ手が講義を嫌がるとは、何と嘆かわしいことか!」

 

 ——ロラン。ロラン・ザビ。

 僕は頭の中でその名前を反芻する。

 時折、父上やジンバの口の端に上るその名前は、確か父上達の政敵の一族だったはずだ。

 

 資源のために小惑星を開拓し、食糧問題のために小型のコロニーを開発する一族。

 一般的な目から見て、それはスペースノイドの為になる事だから、ザビ家の株が上がる事は頷ける。

 

 だが、政敵と言える一族に連なる人物を僕の家庭教師につけるなんて、母上が何をお考えになっているのか僕は理解できなかった。

 

「だって、庭で講義してたらもっと面白い事をしたくなったんだもん。それに、変な奴が来てたし……」

 

 柄ではない事だが僕は年相応な事を言って、ジンバの怒りを回避しようと試みた。

 

 面白い事をしたくなった、と言うよりは、面白くない講義を聞きたくなかったと言った方が正解に近かったかもしれない。

 

 大人である事を求められているのに、こういう時だけ子供のように振る舞う自分に吐き気がした。

 

「ところでジンバ殿、そちらの子が首相閣下のお子さんと拝見いたしましたが、私に紹介していただけますか?」

 

 話題を逸らすかのようなロランの言葉で、どうやら怒りの矛先は僕からズレたらしい。

 

「うむ、仕方あるまい。こちらのお方こそ、ダイクン首相の跡取り。キャスバル様だ。さぁ、キャスバル様。お庭に戻って、途中になった講義の続きですぞ!」

 

 怒りの色は見られなくなったけれど、結局僕は講義をする羽目になった。

 

 僕は恨みがましくロランに視線を送る。その行為はただの八つ当たりかもしれない。でも、僕にしてみれば、僕が男として(こんな)生活をすることになっているのも、母上が元気がないように見えるのも、全ては目の前にいる優男の一族の所為だという考えがあった。

 

「さぁ、行きますぞ!」

 

 ——と、ジンバは僕の手を引いて歩き出し、僕はまたジンバの講義を受ける羽目になったのだった。

 


 

 

「……あの、そろそろ講義を始めてもよろしいでしょうか?」

「……」

 

 講義を行う事になっているはずの僕の部屋の中では、気まずい沈黙が続いていた。

 『ムスーッ』と不貞腐れ、ベッドの上であぐらを組み、不機嫌さを隠しもしないで立ったままのロランを睨みつける。

 

 ——まだ僕は母上が頭を下げていた事に納得していないぞ!

 

 という思いを言葉にする事はなく、人好きするような笑顔を振りまきながら僕をみてくるロランを睨みつけてぶつける。

 

 母上の理屈も分かる。でもそれと感情(これ)は別だ。

 

 僕の大事な母上に、頭を下げさせた男。

 その責任の一端は軍人を志した僕にも当然あるのだが、僕の子供らしい癇癪が心を支配していた。

 

 ——怒れ。怒鳴れ。どうせコイツも『なんだその態度は!』とか、『ダイクン首相の跡取りが嘆かわしい』とか言うのだろう。

 

 だが、僕の予想に反してロランは僕を見ながら笑みを浮かべ、困ったように沈黙を保っている。

 

 痺れを切らせた僕は徐に口を開いた。

 

「……やっぱり、お前は変だ」

 

 沈黙を破った僕は、冷静なふりをしてロランを評した。

 

 ——コイツは政敵の筈。僕に取り入ろうとする筈。

 なのに、何故コイツ(ロラン)はそうしない?

 頭の中で悶々とした考えが浮かんでは消え、僕は更に言葉を紡いだ。

 

「ジンバや他の教師は、僕がこんな態度をとっていたら『ダイクンの跡取りなのに』だとか言って説教を始める。それもしつこいくらいなのに、お前は何も言わないのか? 何でお前は笑っているだけなんだ?」

 

 ——他の大人たちと同じく、まるで僕個人ではなく、父上の面影を僕を通して見ようとしているように。

 僕の言葉を聞いたロランは、数瞬考えてから口を開いた。

 

「……貴方はまだ幼い。子供のやる事なす事に一々めくじらを立てていては、それはそれで大人げないと思っているというのが一つ。そしてもう一つ。これが一番の理由ですが、私は貴方がどんな大人になろうと興味がない、からですかね」

 

 ——は? なんだよそれ。本当に? 僕に興味がないのか?

 

 僕はキョトンとした表情を浮かべ、そしてまた不機嫌そうな表情で口を開く。

 

「……他人事だな。しかも、僕を子供と見ている」

 

 自分でも矛盾しているという自覚はある。

 僕はさっきまで、定規で図られたくないと考えながら、それでいて大人のように諂ってこないロランに反感を抱いていたのだから。

 

 だが、僕の内心を知ってか知らずか、ロランは衝撃的な言葉を言い放った。

 

「えぇ、他人事ですとも。子供と見るも何も、貴方は見るからに子供ではありませんか。私はダイクン首相に言われて貴方に講義をするために来ています。それを吸収するかしないかは貴方の自由。貴方がどうなろうと、私には関係のない事ですから」

 

 まるで責任を放り投げるようなロランの言葉は、僕にとって福音のように響き渡った。

 

 ——子供でいいの? 自由に? 自由にすればいいの?

 

 あの日病院で男として育てられることが決まって以来、僕は決められたレールの上でしか生きられないことを自覚した。

 

 それは父上を含めた大人たちのエゴで、子供の僕が責任を負わされるという事。

 それを理解し受け入れた上で、ささやかな反抗心のために軍人を志した僕の事を、ロランは全て肯定したのだ。

 

「……ですが、私は頼まれた以上やる事はやります。それが責任です。大人は、一人一人が責任を持って、与えられた事、やるべき事をすることで、社会というコミュニティーを維持しているのです。さて、他に何か言いたいことがあればどうぞ?」

 

「……」

 

 ——責任。自由の、責任。

 

 僕もきっと、それが分かる日が来るかもしれない。

 人間として。ダイクンの息子ではなく、ただのキャスバルとして自由のために生きるために。

 

 僕は少し誤解していた。

 ロランという人間が、他の大人たちと同じだろうという事を。

 

 僕はベッドの上から立ち上がり、ツカツカとロランの方に歩み寄る。

 

 ——ズイッ、と幾分か高い位置にあるロランの顔を下から覗き込めば、明らかな動揺の色が見てとれた。

 

 ——動揺の色。でも、嫌いじゃない色だ。

 

 僕とロランの視線が交差し、ロランの瞳に僕の顔が写っていた。

 

「……貴方じゃない」

「は?」

 

 困惑の色が強く出る。ロランには貴方、と他人行儀に呼ばれたくなかった。

 それが、僕の抱いた初めての自由な感情だったのかもしれない。

 

「えっと、貴方が……」

「だから、名前! 僕は『貴方』なんて名前じゃない! キャスバルだ!」

 

 キッ、と真っ直ぐにロランを睨む。

 

 ダイクンの子供という重圧。周囲の大人からの眼差し、視線。

 これから向けられ続けるであろうそれらに、僕はこれからも耐えていけるような気がした。

 

 心を支配していた癇癪は、もう過ぎ去っていた。

 

 僕の事を見てくれる大人が、母上以外にも一人増えたのだ。

 

 子供なのだから、大人に合わせて背伸びはする。でも、これからは僕が望んだ上で背伸びをしよう。

 

 そしてロランは、僕に視線を合わせるように腰を折り、言葉を返した。

 

「……よろしい。では、キャスバル君。それと私の名前も『お前』ではありません。ロラン。もしくは少佐。君の好きなように呼んでください。でも始めるからには、キャスバル君を一人前として扱いますからね?」

 

 これが、僕と少佐——ロランとの、初めての出会いだった。




読んでいただきありがとうございました。
一応次回はシャルロットが主人公の婚約者になるきっかけの予定(同じく幕間扱い)です。
その次はようやく政治()回ですが、ちょっとメンタルが落ち着くまで時間をください。

感想等をお待ちしております。

登場キャラの絵を描いた方が良い

  • 描いても構わん
  • 描かんでもよろしい
  • 原作だけ描け
  • オリだけ描け
  • ロランの裸が見たいわ(どちらでも良い)
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