デギン・ザビの弟に転生したと思ったら、俺の知ってるガンダムの世界と少し違うんだが   作:TSしたとねり

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お待たせしました。久しぶりの投稿で忘れ去られたかもしれませんが、とりあえず書き上がったので投稿します。



18 楼閣(宇宙世紀0075年)

 ——宇宙世紀0075年も暮れに差し掛かった時の事、俺の目の前に、一人の男が座っていた。

 

 コロニー公社によって降らされた雪で、ムンゾの大地には雪がうっすらと積もりつつあり、幼気な子ども達が無邪気に外で遊ぶ声が聞こえてくる。

 

 自宅の応接室に当たる客間は、天然のイグサを使った畳が敷き詰められた純和風の部屋である。

 

 和室は寒いと思っている人も多いかと思うが、この部屋に限ってはそうではない。

 

 本来の和風の家は日本の気候に合わせて、湿気がこもらないように設計されているが、宇宙世紀のコロニーで暮らす俺の家ともなると、どちらかと言えば保温対策は万全。

 何なら床暖房も入っているから、寒い季節でも底冷えすることはない。

 

 ドラム缶を連想させるストーブが部屋の中に置かれ、その上に置かれたヤカンから湯気が濛々と立ち上り、俺はヤカンから中身を湯呑みへと注いだ。

 

 設えられた黒檀の机に置かれていた、中身が注がれた湯呑を両手で取り、さも慣れたかのように正座で座っている男の名前は、シャルンホルスト・ロナという。

 

「……ふむ、これまで私は紅茶ばかり嗜んでおりましたが、緑茶、と言うものもまたなかなか味わい深い物ですな」

「ははは、お口に合えば幸いです」

 

 シャルンホルストは俺と同い年くらいの男で、赤茶けた色の毛髪はフサフサだ。

 休みの日なのに、どうしてこんな得体の知れない男と一緒にいなくちゃいけないんだ。禿げてしまえ。

 

「ところでロナ殿。そろそろ何故、私なんかを訪ねてこられたのか、聞かせていただきたい」

 

 姿勢を正して問うた俺の言葉に、シャルンホルストはニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。

 

「ふむ、良いでしょう。私も勿体ぶった話は好きではありませんのでね、単刀直入にお聞きしましょう。ロラン・ザビ大佐殿」

 

 流石、一代で小さなジャンク屋を大企業に成長させつつある男は居住まいだけで凄みがあった。

 

 俺はごくりと喉を鳴らして茶を一口飲み、目の前に座る男を観察する。

 

 シャルンホルストが俺を指名して会いに来た理由は何通りか考えられるが、俺は警戒心を新たにした。

 

 ここでシャルンホルスト・ロナ——、という人物について少しは説明しようと思う。

 

 彼はもともと、シャルンホルスト・ブッホという名前で、宇宙世紀0055年に身一つでジャンク業を起業した。

 

 宇宙空間で宇宙ゴミ(スペースデブリ)を取り扱う業者は、各コロニーに雲霞の如く存在していたが、彼は時に政府から、時に非合法的な組織からも仕事を請け負うことにより、一大企業『ブッホ・ジャンク社』に自身の会社を成長させる。

 

 それは、彼自身の才覚によるものも大きかったのだが、その成長の原動力となったのがムンゾの存在だった。

 

 宇宙世紀0060年代からザビ家が始めた、小惑星からの資源採掘。そして新たなコロニーの建設。

 

 彼はどこで情報を手にしたのか、いち早くムンゾに、いやザビ家に接近した。

 

 シャルンホルスト・ロナの初期投資は成功し、それらの事業に食い込んだ。

 ザビ家としても、宇宙ゴミを回収し、リサイクルをする専門業者の存在はありがたい物であったため、彼の会社を重宝することになったのだ。

 

 しかし、会社を運営する彼は、次第に地球連邦政府に対して絶望感を抱くようになる。

 宇宙を漂うデブリを集める内に、限りある地球資源を食い潰そうとし未だに地球に巣食っている人類に——。

 

 そして、時は流れて宇宙世紀0068年代半ばにもなると、彼は何らかの理由で欧州の貴族家である『ロナ家』の家名まで買収した。

 

 そう、『ロナ家』。

 

 原作から歴史が進み、『シャアの反乱』からも『マフティー動乱』からも先の未来。

 後に『クロスボーンバンガード』と呼ばれる私兵集団で、『宇宙貴族主義』を標榜とする『コスモ・バビロニア建国戦争』を起こして連邦軍と一戦を交えることになるあの『ロナ家』である。

 

 閑話休題——。

 

 既に周知の事となっているが、連邦とムンゾの仲はそれほど良くない。

 いや、破綻寸前。何かの拍子に弾け飛ぶ危険性すら孕んでいる。

 

 目の前に座っているシャルンホルストは、そのことを確かめに来ている可能性が高い。そう考えた俺は緊張感を高めた。

 

「ロラン殿は今の連邦政府……いや、今の地球環境についてどうお思いか?」

 

 ——キタよキタキタ、問いが来た。(キタキタオヤジ風)

 シャルンホルストの問いに対する答えを間違えてしまえば、一気に敵対ルートに入ってしまうかもしれない。

 ロナ家は現時点においても財力だけはある。

 まだ独自のコロニー建設に至れてはいないが、それを開始するだけの余裕はあるはずだ。そのロナ家と敵対するのは悪手だろう。

 

「……どうも何も、私個人として思うところは無いとは言いませんが、ムンゾとしては地球は限界を迎えつつあると考えており、連邦政府には宇宙移民計画の完遂をお願いしている立場であります」

 

 シャルンホルスト・ロナの抱えている不満に沿いながらも、穏健的なザビ家の立場に立った俺の答えに、シャルンホルストは不満そうな表情を浮かべながら首肯した。

 

「一言一句ご尤もでしょう。ですが、あまりにも甘すぎる」

 

 シャルンホルストは一度言葉を区切ると、お茶で喉を潤してから再度口を開いた。

 

「地球の環境は限界を迎えています。にもかかわらず、政府は未だ重力に縛られ、見上げるべき存在の我らスペースノイドからの収奪を止めようとはしません。本来であれば、率先して宇宙に出なければならないはずのエリートが、地球にしがみついているのはおかしいでしょう?」

「お話は分かります。それで? シャルンホルスト・ロナ殿は、我らに何をお求めで?」

 

 少し挑発気味な言い方になったが、早く会話を終わらせたい俺は早急に結論を求める。

 

「……何も。ただ、その現状を憂いているだけです。連邦政府は、このままの状態を放置したままでいることは許されてはいません。それこそ、我々が望んだ結果を(もたら)す為には、どうするべきか模索しているだけです」

 

 俺はシャルンホルストの立場が読めなかった。

 ——腹芸では、向こうのほうが一枚上手と言うことか。

 今までの言葉を捉えれば、シャルンホルストは連保政府のメッセンジャーのようでもあるし、『我々』というのが一体何を指すのか、一切が不明だった。

 

「……その結論に至る過程で、あなた方が何らかの策略や謀略、あるいは武力などによる圧力を行使する可能性は?」

 

「無いことも無いですが、私達がそういったものに頼らずに済むのであれば、それに越した事はありません。そのためにも、今の現状を打破したいのです」

「私達が現状を打破できるのであれば、シャルンホルスト殿達が行動する必要がなくなる、と?」

「もちろんです。ですが、その前にこの場においてお聞きしたい事があります」

 

 シャルンホルストが真剣な面持ちで、俺に質問を投げかけてきた。

 

「……というのは?」

「ロラン殿が向かう所はどこですかな?」

「……」

「お答えいただかねば、納得できません。ロラン殿は今後、スペースノイドのスペースノイドによる、スペースノイドのための政府の王配となられる。それは、スペースノイド全体の目標である『宇宙移民計画の完遂』の旗頭の傍に立つことにもなります。それも踏まえた上で、教えていただけませんか?」

 

 シャルンホルストの言葉に、俺は逡巡した。シャルンホルストの視線は、俺に向けられたまま微動だにしていない。

 

 シャルンホルストの立場もわからない中、俺が旗幟を鮮明にして良いものか判断をするのは難しい。

 

 俺が沈黙を保っていると、シャルンホルストから発せられていた緊張の空気がプツリと切れた。

 

「……なるほど、分かりました。まぁ良いでしょう」

 

 シャルンホルストは、少し考え込む様子でしばらく口を閉ざしてから、再び口を開いた。

 

「端的に聞きましょう。ロラン殿にお尋ねしたい事はもう二つほどございます。一つ目は、ロラン殿がムンゾの代表としての立場を担うかどうか、そして二つ目は、ロラン殿が今後のムンゾの行く先について、どのような決断をなさるのか、です。一つ目の件につきましては、私はロラン殿の意思を尊重するつもりです。しかし、先ほども申したとおり、我々は現状を憂いています。それこそ、今すぐにでも決起したいと考えている人間が、我らの傍にいるだけではないことも、ロラン殿はご存じでしょう」

 

 我らの傍にいるだけではない——というのは、おそらくダイクン派を指しているのだろう。

 少なくともシャルンホルストは、ダイクン派がムンゾの中でも過激な主張をしている事を知っているということだ。

 

「ムンゾには、今すぐにでも決起して頂きたい。この国は、それこそ今のままの状態を続けたままでは、いずれ滅亡するでしょう」

 

 シャルンホルストの瞳が昏く光った。

 たしかに、このままムンゾが自治権拡大要求を続けたところで、連邦政府には何の痛痒にもならない。それどころか、自治権拡大を根拠にして、様々な経済的制裁を科すことができるようになってしまうだろう。

 

「……それはあまりにも性急すぎる。我々にはまだ戦力が圧倒的に足りないのです」

「では、戦力さえ揃えば事を構える用意がある、と?」

 

 言質を取られた——と、思考が一瞬停止する。

 ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべているシャルンホルストは、更に言葉を紡いだ。

 

「我らは勝ち馬を探しています。資金も、コネも、権威さえ持つ、分かりやすい勝ち馬が。しかし、あなた方が危惧している事も分かっているつもりです」

「あまりにも買い被りすぎです。我らザビ家は、そこまでの……」

「本当にそうお思いですかな?」

 

 ——いや、確かにそうなんでしょうけどね? でもここでこんな不安(コスモバビロニア)要素しかない男がいる派閥なんて、厄災としか思えない。

 

 戦力——つまり、モビルスーツの配備状況は、連邦を刺激しない程度のスピードで進んでいる。進捗状況でいうと75%と言ったところだろうか。

 だが、モビルスーツの主力であるザクⅡに変わる次期主力モビルスーツの開発が終わらない限りは、連邦に対しての優位性を確保したことにはならない。

 

「……なるほど……分かりました。だが、私はあなた方の事をまだ信用し切れていない」

「えぇ、そうでしょうとも。ですから、手土産をお持ちしました」

 

 そう言ってシャルンホルストは、傍らに置いていたビジネスバッグから書類を取り出し、俺は促されるまま目を通す。

 

「これは……」

 

 俺が手に取った資料には、明らかにムンゾとは異なるコンセプトの、二足歩行をするMSの図面が描かれていた。

 

 原作で、この機体が登場するのは2年後。——宇宙世紀0077年の事。

 俺が技術開発を進めた事で、連邦側にも不確定要素(イレギュラー)が生じつつある事を示していた。

 

「私の手札はこれと、とある技術士官が進めている計画のほんの一部です」

「……なるほど……お話はよく分かりました。見返りは……」

「見返りはもういただいております。……立憲君主制、私の好きな言葉です。一握りのエリートではなく、選ばれた者達が戦いに赴く。それはまた素晴らしく浪漫ですからね」

 

 シャルンホルストはそう言葉を残すと席を立った。

 

「それと老婆心ながら……古来より、革命には血が流れるもの。それらの上に、我らもまた立っているのですよ」

 

 シャルンホルストの言葉はオペラの残響のように、俺の思考に昏い陰を落とす。

 

「……高い塔を建てた人間が天の怒りをかった結果どうなったか。シャルンホルスト殿が知らないはずはない……」

 

 今、ムンゾの体制はまだ砂上の楼閣のようなもの。

 ほんの小さな綻びで崩れかねない。

 

 シャルンホルストが出て行った部屋の中で、俺の小さな呟きが溶けていった。




読んでいただきありがとうございました。
最近、ウィニングポスト10をやり始めて、架空馬にも手を出したい欲が出てきました。
とりあえず、これを完結させなくちゃ……

登場キャラの絵を描いた方が良い

  • 描いても構わん
  • 描かんでもよろしい
  • 原作だけ描け
  • オリだけ描け
  • ロランの裸が見たいわ(どちらでも良い)
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