デギン・ザビの弟に転生したと思ったら、俺の知ってるガンダムの世界と少し違うんだが   作:TSしたとねり

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1 ジオンとの邂逅(宇宙世紀0059年)

 ——宇宙世紀0059年8月某日。

 

 この日、俺はムンゾシティー中心部にあるザビ家本邸のパーティーに招かれていた。

 

 事実上の独立宣言によって、地球連邦との軋轢は深まるばかりで、ムンゾに駐留する部隊とムンゾ防衛隊との間で諍いは絶えない中でのこのパーティーである。

 

 着慣れた軍服に礼帯を付け会場に入ると、目立たないように入ったと言うのに、目敏いセレブ連中が挨拶にやってくる。新聞や雑誌を賑わせるセレブからの挨拶攻勢からようやく逃れる事ができた俺は、生温かい風が吹くベランダで一息ついた。

 

 どことなく中世趣味が感じられる内装に、色とりどりの服を纏った招待客たち。そして、煌びやかなバロック音楽。

 

 棄民として宇宙に吐き出されたスペースノイドが、ゴテゴテとした成金じみた貴族趣味——しかも中世風の物だ——をしている事に俺はゲンナリとした表情を浮かべ、不快感を禁じ得なかった。

 

「……はぁ……趣味悪」

「大尉、誰かに聞かれますよ?」

 

 誰にも聞かれることなく呟かれた言葉は、どうやら鬼の副官には聞こえてしまっていたらしい。

 

「これは失敬、タチアナ准尉。どうかこの事はギレンには秘密にしてもらえると嬉しいな」

 

 赤ワインを傾け、見慣れない紺色のドレス姿のタチアナ准尉にウィンクを送る。

 

 昨年の共和国宣言での治安維持行動が評価された俺とタチアナは、順調に階級を上げることができた。

 

 タチアナ准尉は背中が大きく開いたパーティードレス姿で、いつもの軍服姿とは違ったクールビューティな印象を受ける。これで少しはデレてくれれば嬉しいのだけれど、ツンツンクールな副官は、そんな姿を見せるわけもなく何か言いたげな表情を浮かべ、諦めたのか大きく溜息を吐いた。

 

「ギレン様には言いませんが、デギン様にお伝えしたらどうなりますかね?」

 

 俺が土下座して「それだけはやめてください。マジでお願いします」と言おうとすると、タチアナは慌ててそれを止めた。

 

 いや、あのデブでハゲで眼鏡なお兄様ってば、自分の趣味を貶されると怒るんですもの。仕方ないね。

 

 そんなやり取りをしているとはつゆ知らず、デギンお兄様はギレンと何かを話し合っている。

 

 共和国宣言から一年半が経過し、ムンゾ共和国防衛隊が国防軍に格上げされた今、ザビ家の中で一番階級が高い俺を、ギレンは排除できないだろうからな。

 

 それだけ、連邦との緊張が高まりつつあり、国防軍の価値が上がっているし、不本意ながらサイド3中に俺の名前が売れてしまっている。

 

 このツれないツンツンクールな副官は、おれのウィンクを片手でパシリと払うとげんなりとした表情を浮かべた。

 

「こんな場所に呼び出された私の身にもなってくれませんか?」

「嫌だね。俺の虫除けになってくれよ」

 

 俺はもう21歳。新進気鋭の政治家で、ムンゾ共和国首相ジオン・ズム・ダイクンの側近であるデギンの弟。しかも、サイド3で人気のある軍人だ。

 

 その俺に結婚相手を押し付け、家と家同士の繋がりを深めようとする者達は多く、俺はそういった手合いの相手にほとほと疲れていた。

 

「はぁ……まったく、相変わらずですね」

「まぁ、そう言うなよ。タチアナ准尉は思う存分タダ酒タダ飯食っていってくれよ」

 

 その言葉にタチアナ准尉は、ジトッと俺を見る。

 

……本当、鈍い人

「ん? 何か言ったか?」

「いいえ、何でもありません」

 

 タチアナ准尉は俺が手に持っていたワイングラスを奪い取ると、一気にその中身を飲み干した。

 

「さぁ、大尉。パーティーは今からですよ? 早く中に戻りましょう」

 

 タチアナ准尉の顔が、ワインのアルコールに当てられたからかいつもよりも赤く見える。

 

 エスコートをお願いいたします、と手を出してきたタチアナ准尉の手を取り、会場の中に戻ると丁度今日の主役が席に着いたようだった。

 

 俺はタチアナ准尉と共に指定された席に座り、マイクを手に話し始める男を一瞥した。

 

「お集りの皆さま、今日は愚弟ドズルの誕生パーティーに来ていただきありがとうございます」

 

 話し始めたのは、ギレンだった。

 

「まず、昨今の共和国の情勢は……」

 

 ドズルの誕生日なのに、共和国の食料自給率や工業用コロニーの建設などといった政治的な話からはじまり、主役のはずのドズルは面白くなさそうな顔で落ち着きがない。

 

 ドズル・ザビ。一年戦争で鬼神の如く戦った男も、今はまだ12歳。落ち着きがないのも仕方ないだろう。

 

 12歳の割に、ドズルは身長も大きくガタイも良い。だが、あのテレビアニメで見たような厳つい印象はまだ鳴りを潜め、幼い印象が残る顔立ちはどちらかと言えば男前の部類だろう。

 

 俺がドズルに視線を送っていると、ドズルも俺の視線に気が付いたのか小さく手を振ってきたので、俺もそれに手を振り返す。

 

「大尉、手を振り返さないでください。行儀が悪いですよ」

「そうは言ってもな、今日は可愛い甥っ子の誕生日だぞ? 少しくらい良いじゃないか」

 

 タチアナ、そんなダメな大人を見るような目で見ないでくれ。

 

 その時、会場の入り口の扉が開かれ、入り口の方から騒めいた声が広がってきた。

 

「ん? どうしたんだ?」

「さぁ、ここからでは何も見えませんね」

 

 騒めきが会場中に伝播し、入ってきた人物のために人垣が割れた。まるでモーゼの十戒のようだと思ったのは秘密だ。

 

 カツン、カツン、と靴音を鳴らしながら、段々と会場の前の方へとその人物が近づいてくるのが分かった。

 

「……これは、これは。すまない、挨拶の邪魔をするつもりはなかったのだ。そのまま続けてくれたまえ」

 

 その人物は、何も悪びれていないかのような口調で会場に言い放った。

 

「首相閣下、本日は愚弟の誕生パーティーに来ていただきありがとうございます。席()ご用意してありますので、どうぞご着席ください」

 

 言外に余計なことはするな、と言いたいのだろうか。

 ジオン・ズム・ダイクン共和国首相はギレンに着席を促され、大人しく指定された席に座った。

 

「……さて、長くなりましたが、改めて乾杯をしたいと思います。丁度、首相閣下が来てくださったことですので首相閣下、乾杯の発声をお願いいたします」

 

 ジオンは立ち上がり、主催者の座る席へと歩んで行った。

 

 おー、バチバチしてるね。ギレンとジオンが数瞬視線を交差させると、ジオンは「フン」と鼻で笑った。

 

「本日は、私にまで招待していただき、まずはお礼を申し上げたいと思います。そして、今日はドズル君、お誕生日おめでとう。君にはこういった政治向きの話は難しかったかもしれないが、いつか君が守りたいものができた時、こういう汚い話も必要になってくる。それだけはわかってほしい。では、ドズル君に」

 

 ジオンがワインの入った杯を高々と掲げたのを見て、会場中がそれに倣う。

 

「乾杯!」

 

 その声とともに、会場にいる者達は一斉に「乾杯」と声を発し、再び会場は喧騒に包まれていった。

 

「さて、と」

 

 俺が立ち上がると、タチアナ准尉は怪訝そうな視線を送る。

 

「どちらへ?」

「ちょっと兄弟の絆を深めてくるよ。タチアナは待っていてくれ」

 

 俺は席から立ち上がり、ツカツカと兄のもとへと歩を進める。

 

「兄上、お久しぶりです。お変わりないですか?」

「あぁ、ロランか」

 

 デギンは話し終えた人物に「ではまた」と声を掛けると、俺に向き合った。

 「ふぅ」と溜息を吐き、どこか疲れた様子を見せる年の離れた兄を気遣う弟。美談にでもなるかもしれない。

 

「今の方は……?」

「あぁ、たしか、新興の建設機械会社——ワイズマン工業の重役だ。小型核融合炉が完成し、新しい作業機械に載せて動かすので見に来ませんか、とな。ワシはもう年齢的にはロートルに近いというのに……まだまだ政治の方では現役ということか」

 

 小型核融合炉?! もう出来ていたのか!

 小型核融合炉は、これからのモビルスーツに必ず載せられるエンジンだ。

 それを載せた作業機械というのは、おそらくモビルスーツの原型となったものだろう。

 

「兄上! その作業機械、私が見てきてもよろしいでしょうか?」

 

 俺が食い気味に放った言葉に、デギンは面食らったようだった。

 

「お前がか? しかし、お前は政治には……」

 

 携わるつもりはないのでは? と続けられようとした言葉を遮るように、俺は重ねて口を開いた。

 

「もちろんそのつもりです。しかし、過去の歴史を見ても、作業機械として研究された物が、軍事的に転用された事がありました」

 

 政治の話はちんぷんかんぷんだからな。そこら辺は、偉大な兄や甥御殿に任せるとしよう。

 

「つまり、お前は……その作業機械が、前世紀の戦車になり得ると?」

 

 流石兄上。話が早くて助かる。元々の戦車も、農業用トラクターを軍事利用しようとした結果だったし、鉄条網も家畜の囲い込みに使われていた歴史がある。

 

 デギンの言葉に、おれは小さく頷いた。

 

「はい。その可能性があるとすれば、軍人である私が行って見た方が早いかと」

 

 うぅむ、とデギンは唸って考え込む。別に俺じゃなくても良いんだけど、それの価値がわかる人間はおそらく少ない。

 

 この機会を逃せば、ジオンは史実通り、宇宙世紀0071年代にならないと、モビルスーツの原型を作り出せないことになる。少なくとも、ザクⅡF型なんかだけじゃなくて、他のバリエーションも生み出せているくらいの技術的な優位性が欲しい。

 

 あわよくば、ジオニック、MIP、ツィマッドを統合して、効率的な研究開発機構を立ち上げたいものだ。

 

 デギンは俺のいつも以上に真剣な表情を見て、髪もない頭をかき上げた。

 

「……ふぅ……わかった。お前がそんなに真剣なのだ。何かがあるのだろう。さっきの者にはワシから言っておこう」

「やった! ありがとうございます兄上!」

 

 デギンは歳の離れた——しかも母親似の俺を、自分の子供のように接してくれている。原作でも家族想いの一面が描写されていたが、それは実の弟である俺に対しても変わらなかった。

 

「こら、少しは声を抑えなさい……まったく、いつまで経っても子供のままじゃないか」

「申し訳ありません、お兄様。ふふ、昔はよく兄上にくっ付いて離れませんでしたからね。それに比べれば大人になったと褒めてください」

 

 俺の殊勝な言葉に、デギンは面食らったような表情を浮かべ、次に優しげな笑みを浮かべた。

 

「ロラン。お前が軍にいて、無事に帰ってきてくれるだけで十分だ。お前とワシは、兄弟なのだからな」

 

 泣かせてくれるじゃないの? たしかにデギンは、肉親に対する愛情が深いのかもしれない。実際、アニメ版の最後まで肉親に対する情を忘れなかったみたいだし。

 

「はい、お兄様。私もザビ家の男ですから、自分の役割はしっかりと認識しておりますとも」

 

 ご安心ください、と胸を張ると、デギンは嘆息した。

 

「……はぁ、お前はやはり母親似だな。さて、ワシはサスロと話してくる。ギレンめ……もう少し我慢というものを覚えさせねばならんかもしれぬな……お前にはつまらないパーティーかもしれんが、少しは腹を満たしていくといい」

 

 ではな、と立ち上がったデギンを俺は見送った。

 

「さて、と」

 

 家長である兄に挨拶を終えれば、後は今日の主役に声を掛ければ義理は果たせる。でも、ドズルへの挨拶は、少し後にした方がよさそうだ。

 

 かなり長い列になっているし、ギレンがドズルの横で顔繋ぎをしているのを見ると、どうしても行く気が削がれてしまった。

 

「おや? 君、君は確か…… そう、確か、デギンの弟御だったか?」

 

 横から突然掛けられた声に、俺は驚きを隠すことはできなかった。

 いやいや、おかしいでしょ。首相ならもっと多くの他人から、挨拶攻勢に遭っているはずなのに——。

 

 壊れたブリキの人形のように、ギギギギ、と音がしそうなくらいゆっくりと、掛けられた声の主へと顔を向ける。

 

 他人であってくれ!——という俺の願いは、その人物の顔を見た瞬間打ち砕かれた。

 

「しゅ、首相閣下?! じ、自びゅ、自分は……!」

 

 いや、すごい噛む。いきなりなことすぎて、呂律(ろりぇちゅ)が回らない。

 

「あぁ、失敬。よく存じているとも『民衆の守護者』殿。ロラン・ザビ大尉だったかな? 昨年の宣言の時は要らない世話をかけたようだね」

 

「はい、いいえ。あの場では、あれが最善であると判断しただけです。閣下」

 

 どうだ! 軍人風のパーフェクツな答え!

 俺の答えに、ジオンはニンマリ、と人好きのするような笑みを浮かべながら、どこか影のある表情を浮かべて口を開いた。

 

「ふふふ、失敬、いや、確かに最善であろうな。民衆はザビ家のロランを支持し、共和国宣言は何の価値も無かったかのように、連邦軍は各サイドに駐留したままだ。あの場所で何かが暴発していれば、連邦軍は各コロニーから撤退を決めていたというのに、な」

 

 クククッ、とジオンは笑っているが、目は笑っていない。え、何この人ヤバイ、正直言って怖い。この人何なの? 無理、帰りたくなってきた。

 

「はい、いいえ閣下。私はあくまでも軍人であります。命令とあらば何にでも狙いをつけ、引き金を引きます。ただ、あの場所ではそれは悪手でありましょう。

 確かに、連邦軍は撤退するかもしれません。しかし、果たしてそれは国民の生命を天秤に掛けて釣り合うほどの事でしょうか? 私は、防衛隊の設立理念でもある『国民の生命、財産等の守護者たれ』を実践したまでのことです」

 

 俺の答えに、ジオンは顎に手を当てて考え込んでしまった。

 少しは頭を冷やして欲しい。理想のために、関係のない人は死ねってヤバい奴じゃん。ダメよダメダメ、平和が一番。ラブアンドピース。

 

「ロラン君、君のような軍人には理解し難い事かもしれないが、地球に蔓延っている寄生虫を取り除くためには、宇宙移民しかない。母たる地球を休ませるためには、宇宙へと人の目を向けなくてはいけないのだ」

「それは、わかります。しかし、まだ時期ではないと考えます」

 

「では、君はいつだと思うかね? もう我々の父や母が宇宙に出て半世紀が経つ。それなのに、まだ地球に居座っている人々が、宇宙に目を向けるには、少し急進的でも血が流れるしか方法はない」

 

 このオッサン、考えが極端すぎる。やはり、あのキャスバルの父親だということか。

 

「それについても、わかります…………ですが、今血を流したとして、それが確実に、地球に住む人々にとってかけがえのない血の一滴になるとは思えません。具体的に言えば、例えば戦争になり、連邦が破れることになれば、その考えも変わってくるでしょう」

「……ならば、質問を変えよう。君は、連邦に勝つにはどれくらいの年月が必要だと思う?」

 

 いや、そんなのわかるわけないじゃん。今、連邦と共和国の関係は睨み合いと言っても良いくらい冷え込んでいるし、偶発的な衝突がいつ起きてもおかしくない。

 もしも今戦争になれば、警察のような治安維持部隊に毛が生えた程度の軍で、戦艦もある連邦軍に勝てるわけはない。

 

 いや、待てよ? それを見越して、オッサンは言っているのか?

 この緊張感をあとどれくらい保てばいいのかって事なのか?

 

「……あと、20年は必要です。国力の差を埋めて、お釣りがくる優位性を持つために、あと15年。それから、戦争準備……兵の訓練や編制のための5年。合わせて20年」

 

 正史通りに進めば、の話だが、一年戦争は宇宙世紀0079年に始まった。それまでに共和国の戦争体制を整える必要がある。それには、小型核融合炉を搭載した艦船、そしてモビルスーツの開発が急務だ。

 

 俺の考えを聞いたジオンは、ニチャァ、と不気味な笑みを浮かべた。

 

「君との話はとても面白い。今度、私の屋敷で話そう。フフフ、ザビ家らしからぬ男と聞いていたが、まさに、だ。これからも楽しませてくれたまえ」

 

 握手を求めて差し出された手を、俺は握り返す。

 

「はい、私も楽しみにしております」

 

 ——どうやらパーフェクトコミュニケーションだったようだ。

 

 手をギュッと握り込まれ、ジオンはどこか上機嫌になりながら俺から離れていった。

 

 あれ? もしかして、おれまた何かやっちゃいました?




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