デギン・ザビの弟に転生したと思ったら、俺の知ってるガンダムの世界と少し違うんだが 作:TSしたとねり
作者が書きたかったセリフ回し……読者の皆様にも響いてくれると嬉しいです
士官学校の校長室は、意味もなくだだっ広い。
いや、意味もなく——という言葉には語弊があるかもしれないが、少なくとも俺にとっては必要性を感じられなかった。
これも全て見栄と面子の為なのだろうが、設られた机をはじめとした調度品は、ザビ家本邸に置いてある高級品と比べても遜色ないほどのものである。
校長室の壁面にある掛け時計の針は、深夜2時を指している。
時代が宇宙世紀に変わっても、学校長職といった管理職になれば現実同様書類の山からは逃げられない。
特に、卒業してから誰をどこの部隊に配属させるのか、それぞれの適性や点数なんかを見て、教官たちと話し合った結果が目の前に積まれた書類の山だ。
今年士官学校を卒業する士官の卵は300人ほど。
そのそれぞれは士官学校を卒業すると同時に曹長に任官。いわゆる見習士官と呼ばれる事になる。
それから半年後に少尉に昇進し、本格的な士官としての業務がスタートする事になるのが、士官学校卒業後の流れとなる。
——閑話休題。
俺が新年度に向けて、次に来る学校長への引き継ぎ書類を纏めていると、校長室のドアがノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
入札を許可する声と共にドアを開け、校長室に入って来たのはキャスバルだった。
身に付けているのは普段着ている軍の制服ではなく、スモック迷彩柄の野戦服。
——野戦服? 物騒すぎる……いや待て、話せばわかる。
「もう卒業だね」
キャスバルは、おもむろに俺へと話し始めた。
——普段と変わらない声音。
——普段と変わらない、皆に振り撒く笑顔。
普段通りのキャスバルだ。
だが、いつもとは違う雰囲気を纏ったキャスバルに、俺はどこか気圧されていた。
「どうしたんだ? そんな格好で、珍しい」
当然の疑問を俺はぶつけるが、キャスバルは机を挟んで俺と対峙して動こうとはしなかった。
「……ねぇ、大佐……僕は、大佐が思っている以上に悪い女なんだ」
微笑んだまま紡がれる、唐突にすぎる言葉。キャスバルは野戦服の上に着ているH型サスペンダーに付いたマップポーチへと手を伸ばす。
「学校生活、楽しかったよ」
俺の机の上にばら撒かれたのは、数枚の写真だった。
「友人もできたんだ。ほら、初めての実技演習では、ガルマがへとへとに疲れちゃってね。僕が仕方ないから荷物を持ってあげたんだ」
——ゲンナリとした表情を浮かべたガルマの横で、楽しそうな表情を浮かべるキャスバルが写った写真。
「リノ・フェルナンデスって奴が僕の正体に気付いた時は焦ったけど、兄として振舞っていてくれたシャアが助けてくれてね。何とか今日までやってこれたよ」
——ラテン系の顔立ちをした男と、キャスバルにどことなく似た男が肩を組み、笑い合っている写真。
「ねぇ、大佐。僕、我儘言っても良いかな」
キャスバルの笑みはまさに獰猛な獣そのもの。
そも、笑顔は元々威嚇のためだった——と、どこかで聞いたことがある。
「大佐との思い出も作りたいんだ」
その言葉とともに、校長室の外が突然明るくなった。
まだ日の出まで時間があるはずなのに、昼間のような明るさが窓から差し込んできたと同時に、ズン、と腹の底から響くような重苦しい音が周囲に響き渡った。
「砲撃か⁉︎ 一体どこの……!」
俺が立ちあがろうとした瞬間、キャスバルは腰のホルスターから拳銃を抜き、俺へと突き付けた。
「ねぇ……大佐?」
「キャスバル、冗談は止せ。砲撃は……」
ズイ、と鼻先に突き付けられた銃口は、鈍色に輝いていた。
「僕は許してないよ」
氷のように冷たい声音でキャスバルは言葉を紡ぎ出すとともに、配電施設がイかれたのか、部屋の電気が瞬く間に消えた。
「酷いよね? 愛人がいて、子供までいるなんて」
部屋は暗く、空調も止まったせいか空気が籠る。
キャスバルからのプレッシャーで、俺は身体をこわばらせた。
「大佐がそんな人だったなんて知らなかった。けど、好きになってしまった僕も悪いんだ……ねぇ、大佐。刺されても文句は言えないよ?」
「大佐。大佐が悪いのさ」
「選ばせてあげるよ大佐。僕の言うとおり、僕をこの場で抱いて、今から起こる事を見逃すか。それとも、今から僕に撃たれて死ぬか」
「どうせ、僕は士官学校を卒業できない。なら、道連れに付き合ってもらう人間を、選ぶことくらいできるよね」
外から照らされる明かり——照明弾によって、キャスバルの表情が浮かび上がる。
泣きそうな、悲しそうな、嬉しそうな、楽しそうな——。
使い古された人形のように、ぎこちない表情。
癇癪を起こそうにも起こすことができない、子供のような表情。
俺はこの時になって初めて、キャスバルの心を歪ませてしまっていた事に気が付いた。
——まだ、子供だったキャスバルは否応なく大人にならざるを得なかった。それをそのまま伸び伸びと、普通の子供のように育てばと思って来たが、結局大人たちのエゴで大人にさせてしまった。
それも、俺なんていう大人に、嫁がせるという最悪の方法で——。
「キャスバル、すまなかった」
「すまなかった? どうして? 僕は何も後悔なんてしてないよ」
キャスバルの浮かべる歪な笑みが深まる。
「幸せ……そう、幸せだよ。大佐は僕たち家族を助けてくれた。母上も、アルテイシアも、そして僕も。僕はね、大佐。大佐の事が本当に好きなんだよ? 結婚するって聞いた時、ちょっとだけ期待したんだ。人並みの結婚生活が送れるんじゃないかって。狭くも広くもない家をサイド3のどこかに買って、子供は3人で、仕事で疲れた大佐が帰って来たら抱きしめてあげるんだ」
軍靴が床を鳴らし、キャスバルは机を回り込んで俺へと近付く。
もちろん、当然のように俺へと向けられた拳銃はそのままだ。
「軍人になりたかった。大佐の奥さんになりたかった。僕は何かになりたかった。誰かに必要とされる、何かに。でも、父上が死んだら、僕が家族を守らなくちゃいけなくなった。ふふ、おかしいよね。仕事ばかりをしていた父上なんて、嫌いだったはずなのに、いなくなったらその存在の大きさに気付かされるなんて」
「ねぇ、大佐? みんな良い奴らだった。士官学校に入れて、少なくとも僕は後悔なんてしていない」
「だって、女王になった僕にとって、彼らも僕が守らなくちゃいけないんでしょ? 彼らだけが死んで、僕だけが安穏と生きながらえるなんて、それはスマートじゃない。それに、そうでしょう? みんなが僕を必要としてくれている。……ねぇ……大佐……僕と一緒に死んで一つになろうよ」
キャスバルの突き付けた拳銃の銃口が、一瞬ブレた。
一瞬のブレ。
それはキャスバルの心を写すかのようだった。
「あっ!」
その隙を見逃さず、俺はキャスバルの手首を払い、拳銃を奪い取って投げ捨てた。
拳銃はセーフティーがかかったままだったお陰か、暴発しなかったのは運が良かったとしか言いようがない。
「キャスバル、きっと俺と君は言葉が足りていないんだ」
ジッとキャスバルの青い瞳を見据え、手首を掴んだ。
「俺は言葉にするのが苦手だし、君も考えを溜め込む性質がある」
力任せにキャスバルを抱き寄せると、机の上にあった写真が書類ごと床に落ちた。
「たい……んっ……」
ズン、ズン——、と腹の底に響くような低い音が続き、次第に聞こえなくなっていった。
——思い出した。これはジオリジンで出てきたイベントの『暁の蜂起』じゃないか。
暁の蜂起で、2000人もいる駐屯地の兵を捕虜に取り、ジオン側が得られた物はサイド3からの駐留部隊の撤退。
そして、連邦とジオンの開戦は決定付けられた。
そこからの歴史は、俺しか知らない流血の歴史だ。
俺は歴史の歯車が回り始めてしまった事を悟りつつ、口を開いた。
「キャスバル、話し合おう。俺の事、君の事。それから、許してくれとは言わないが、タチアナやみんなの事を知って欲しい。その上で、俺は君を愛そう」
俺は覚悟を決めた。
俺に関わった人を、一人でも多く。
キャスバルに関わった人を、一人でも多く。犠牲者数を減らす為に、何でもやろう。
——それこそ、悪名を轟かせる事になる、地球へのコロニー落としを敢行してでも。
俺が再びキャスバルの唇を塞ぐと、キャスバルの腕に込められた力が次第に弱まっていった。
暁の蜂起は、史実通り朝方に決着がついた。
史実では士官学校の生徒にも20名くらいの犠牲者が出たはずだ。
20名の人的資源の喪失は、数字上では少ない。だが、それらが将来優秀な士官、将校になっていたと考えると、ジオンにそれを少ないと言える余裕があるとは考えられなかった。
俺は窓辺に向かい、朝日が差し込む校長室の窓を開けて外を見ると、校門から隊列を組んで入ってくる車列の後ろに頭の後ろに手を組ませて歩く、連邦軍の将兵の姿があった。
連邦軍将兵の周囲にいる士官候補生たちの表情は明るい。
おそらく、想定していたよりも多くの士官候補生が生き残る事ができたのだろう。
成ってしまったものは取り返しがつかない。
あとは王手を目指す為に、色々な駒を揃えて指すしかない。
「キャスバル、責任は俺と君……君の方が重い処分かもしれないけど、それで良いんだな?」
窓の外を眺めている俺の背中へと密着してきたキャスバルに、俺は振り返らず問いかけた。
「ふふ、そうだね……大佐ならそう言うと思ってた」
あっけらかんと、キャスバルは答えた。
「……ふふ、楽しみだな」
何を楽しみにしているのか、キャスバルは昨夜とは打って変わってどこか吹っ切れたような笑みを浮かべていた。
(以下三人称視点)
数日後に開かれた連邦政府とジオン王国による議論は、当然のように紛糾した。
連邦軍側が求めた『首謀者の処罰・身柄の引き渡し』と『責任者の処分』に対して、ジオン側が折れる気配はなく、お互いに罵り合うだけで終わった一日もあった。
最初、交渉の席に着いたのが現場事務方レベルだったことも、議論が長引くことになった理由の一つだろう。
埒が明かないことに業を煮やした連邦は、次に宇宙にいる将官の中で高位の人間を交渉に据え付けた。
そうなると、ジオン側もそれ相応の地位を有する人物を宛がわなくてはいけない。向こうが少佐ならこちらは中佐、といったように、交渉の首が次々に挿げ変わった。
しかし、それでも交渉に決着が付かない。
そして最終的に出てきた面子は、宇宙にいる現場組でトップクラス。連邦宇宙軍のヨハン・エイブラハム・レビル中将とジーン・コリニー中将。
対するジオン側からは、デギン・ザビとチャップマン・ジロム中将が交渉の席に着いた。
「提示した条件を変えるつもりはない!」
通された会議室に着席するなり、口火を切ったのはジーン・コリニー中将だった。
彼は連邦軍内部で最も大きな派閥である「タカ派」の筆頭である。隣に座るレビル中将は「改革派」とも呼ばれる穏健派の筆頭であるが、政治的要素の強い連邦軍内部での発言力はまだ弱い。
「しかし、その条件で我らも折れるわけはないでしょう!」
「非はそちらにある!」
妥結点が見いだせないまま、時間だけが無為に過ぎていく。
今日も変わらず、議論は平行線のまま終わるのかと思われた時、今まで沈黙を保っていたデギンがようやく口を開いた。
「首謀者の処分……そして責任者の処分については認めよう。だが、引き渡しについては認めん」
6つの目がデギンを見つめた。
「こちらの調査の結果、首謀者はシャルロット・アズナブル士官候補生であることが判明している。その者を処分すれば良いだろう。そして責任者は……学校長であるロラン・セア・ザビを1階級降格の上、半年間の停職処分とする」
「足りん! 少なくとも責任者は……!」
ジーン・コリニー中将が反論の言葉を述べようとした瞬間、デギンは勢いよく——ドン! と机を叩いた。
「そもそも! 事の発端は連邦軍側にある! こちらの要請を無視して! 勝手に! 治安出動なんぞをしようとするからこうなる! そして、儂の可愛い弟を処分させて! 宇宙には宇宙の事の進め方があるのだ! それでもまだ足りぬと言うのか!」
デギンの剣幕に押されたジーン・コリニー中将は、二の句を告げられぬまま押し黙った。
「……まぁ、コリニー中将。ここらが落としどころでしょう」
レビル中将が放った言葉は、手打ちのサインだった。
「このような事態になった事、連邦政府も懸念しておられることだろう。とりあえず、連邦軍の駐留艦隊は一度引き上げていただき、儂らの国民の溜飲を下げてもらいたい」
デギンは先ほどの剣幕が嘘だったかのように、穏やかな声音で連邦側の交渉席に座った中将2人に告げる。
「ふむ……それで、国民の統制は効くのでしょうな?」
「わが
その後、会議が終わって必要な文章の作成が終わると、レビルは急ぎ足で連絡艇まで戻った。
連絡艇で待機していた副官のティアンム准将に、会議の模様を語ったレビルは少し考えた後、硬い表情を浮かべたままポツリと溢した。
「……戦争になるかもしれん」
——と。
読んでいただきありがとうございました。
これで連邦との対立は決定的になりました。(特にタカ派との)
連邦政府は完全な民主主義を標榜としながら、軍人政治家がいるなんて怖いですよね……
だから軍人の意向が反映された政治ができるんでしょうね……
いつも応援してくださっている皆さまありがとうございます。
感想等お待ちしています
登場キャラの絵を描いた方が良い
-
描いても構わん
-
描かんでもよろしい
-
原作だけ描け
-
オリだけ描け
-
ロランの裸が見たいわ(どちらでも良い)