デギン・ザビの弟に転生したと思ったら、俺の知ってるガンダムの世界と少し違うんだが   作:TSしたとねり

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3 ワイズマン工業(宇宙世紀0059年)

 宇宙世紀0059年12月某日。

 

 工業地帯の一画に佇む比較的大きな工場。その前に俺は立っていた。

 

 サイド3は他のサイドの例に漏れず複数のコロニーから成り立っており、今、俺がいる29バンチコロニーは中堅規模の工場や会社が軒を連ねる工業コロニーと呼ばれる物だ。

 

 気象プログラムによって制御されているコロニー内の季節は、地球——それも北半球の物に原則合わせられており、それは24時間稼働している工業用コロニーでも通常のコロニーと変わらない。

 

 クリスマスに近付き、コロニー公社が発表しているサイド3の1週間の天気予報(予定)(文字通り的中率は100%を誇る)は雪。

 

 先月17日にダイクン首相の第一子が誕生したニュースが世間を賑わせ、未だにムンゾ全体がお祭りのような雰囲気に包まれている中、それに便乗してコロニー公社側も「ホワイトクリスマスにしてダイクン首相をお祝いするムードを演出すれば、住民からの受けは良くなるよね?」なんて意図を持っているのが明け透けと見えてくる。

 

 そんな事をしても、甘い利権をチューチュー吸い取るか連邦に尻尾を振るしか能のない奴等に良い印象を持つ住民がいる訳無いのに。残念。

 

 ——ギュッ、と新雪を踏みしめる音がブーツから伝わり、俺は思考を目の前に向けた。

 

「お待ちしておりました、ロラン様」

 

「……あー、様付けはやめて下さい。自分自身は一介の大尉でしかないですし、今日はあくまで兄上の代理ですので」

 

 それでは、ロラン大尉——と俺の案内役を務めるツナギ姿の男が工場の中へと俺をいざなった。

 

「本日案内をさせていただきます、ミハエル・ゲァンと申します。どうぞミハエルとお呼びください」

 

 ミハエルと名乗った男は、一見すればどこぞの軍人のような体格をした男だった。

 

 デギン兄上から紹介された企業。その名前はワイズマン工業。

 

 ある程度歴史が古くなりつつあるムンゾの中でも、新興と呼ばれるほど若い企業だ。

 

 工場の中に足を進めると、ゴウンゴウン、と見ただけではよくわからない機械が動く音が工場の中に響き渡っており、俺はあんぐりと開けた口からやっとの思いで言葉を紡いだ。

 

「……すごいものですね」

 

 機械を見て興奮を覚えない男の子がいるだろうか? いやいない(反語)

 

 機械を見た俺の口から出たのは、あまりにも率直すぎる感想だった。語彙(ボキャブラリー)が少なすぎるとも言う。

 

「ハハハ、ありがとうございます。しかし、この規模でも上位には入りません。大規模な——そう、ムンゾ工業に行けば、これの数十倍の機械が稼働していることでしょう。……さて、大尉こちらです」

 

 男が口に出したムンゾ工業という会社は、原作で言うMIP社。サイド3が作られた時から稼働する老舗だ。

 

 「ムンゾ工業公社」をアルファベットに直せば「Munzo Industry Privatecorporation」。

 

 あのズゴックやゴッグ、グラブロという名作、傑作機から、ザクレロなんていうびっくりドッキリメカ機体を作った会社は、まだ新型宇宙作業用機械の産業に目もくれていなかった。

 

 そしてガンダムで出てくる企業といえば、ほかに「ツィマット」や「ジオニック」が思い浮かぶだろう。だが、一年戦争で名を馳せた企業たちも現在の段階では連邦の息のかかった企業体の下請けに甘んじている。

 

 ——新型の作業機械に噛ませるには、まだ時期が来ていない。

 そう俺が思うのも無理はないだろう。

 

 何故ならば、それらの企業には必ず連邦側の企業から人が送り込まれているからで、本格的に携わらせてもいいのはその影響力を排除してからでなくてはならないからだ。

 

 ただでさえ物量面で勝てるわけがない連邦相手に、技術的な猶予を与えてしまえば、勝てる戦いも勝てなくなってしまう。

 

 とりあえず、ワイズマン工業とザクを作ったと言われるホシオカ工業を合力させて、一刻も早くザクを開発させて量産化。

 

 ザクのノウハウを得た時点で他の企業にフィードバックして競争を促進し、連邦を上回るペースで新型機を開発、量産しなければ、ムンゾは連邦に勝てない。それが俺の考えだ。

 

 さて、閑話休題。

 

 ミハエルが俺を先導してたどり着いた場所には、大きな幌を被せられた物が鎮座していた。

 

 幌が被されている物の大きさは、目測でおよそ20メートル。

 

 工場内にはまだ新しい塗料の匂いと、機械油が混ざった何とも言えない匂いが立ち込めていた。

 

 俺が呆けた表情でそれを見上げていると、案内をしていたミハエルが機械の周りで作業をしていた人達に指示を出し、巨大な物体からゆっくりと幌が取り払われた。

 

「……どうです? 美しいものでしょう?」

 

 目をパチクリとさせている俺に対して、ミハエルは自慢げに言い放った。

 

 ——いや、本当にビックリした。

 だって、まだミノフスキー・イヨネスコ型エンジンが完成して10年ほどしか経っていないのに、その完成度は高いと言わざるを得ないだろう。

 

 人が乗り込むであろう場所は、キャノピーのように透明なガラス張りではあるものの、無骨なデザインからある程度の蛮用にも耐えることができる事を暗示し、軍人として見ても心を躍らせる。

 

 人間の頭部にあたる部分には、しっかりとモノアイ型のカメラが見て取れ、人間の両腕にあたるマニピュレーターは人型の手とショベルカーのようなバケットが取り付けられていた。

 

「……これは……! んん、とても興味深い……」

 

 お前の登場には6年早いぞ! ——なんて言葉を叫びたくなったが、それを咳払いでごまかし、何とか絞り出すように出した俺の言葉に、案内役の男は満足げに頷いた。

 

「そうでしょう! 宇宙空間で作業をするとすればポッドを使うしかない現在! ポッドでは細かい作業をするには力不足! それを解決した人間のような五本の指! そして、足場が不安定なアステロイド上では物足りなさがあった安定感! それを補うための人間のような二足歩行! これが……!」

 

 ステージに立つ俳優よろしく、ミハエルは大仰な仕草を交えて熱い言葉を紡ぎ出した。

 

 やだ、何この人怖い。

 俺、そんなに熱弁するようなスイッチ踏んだの?

 

「この、モビルワーカー1式1型であれば! コロニーの壁面! アステロイドの表面! 場所を問わずに作業ができる、究極の作業用機械となるのです!」

 

 ぜぇ、はぁっ、と息を切らしているミハエルを尻目に、ジオリジンで出てきたモビルワーカー1式そっくりな巨体が、俺の目の前でダンジョンを守る守護像のように鎮座していた。

 

 背部から伸びるコードは、おそらく電源を供給するためだろう。

 つまり、乗り込む人間さえいればモビルワーカーが動くところが見れるということだ。

 

 だが、どうやら案内役の男は動かすところを見せるつもりはないらしい。

 

 その証拠に、チラチラと俺が「早く動いているところ見せろよ? おん?」という意味を込めた視線を送っているのにも気が付かず、ミハエルは身振り手振りを交えてこの機体の素晴らしさを力説している。

 

 いや、もしかするとミハエルは動かない機体を見ただけで、ザビ家の人間があまりの素晴らしさに投資を決めて食いついてくる——などと想像しているのかもしれない。

 

 だから俺は、一計を案じることにした。

 

「……惜しいですね」

「はい?」

 

 俺の漏らした言葉に、男は怪訝そうな表情を浮かべて聞き返した。

 

「だから、惜しいと言ったのですよ。あなた方の作ったこの()()()()()()に、あなた方の抱いている熱意。どれをとっても素晴らしいものです。ですが……だからと言って我々——失礼、ザビ家が後ろ盾になるほどの物とは、どうしても思えない」

 

 俺の一計。それは、男への挑発だ。

 動かない人形を見せられただけで、容易に投資が決まるなんて思ってほしくない。ミハエルを挑発し、挑発に乗った男がモビルワーカーを動くところを見て、ようやく投資を決定する。

 

 くふふ、我ながら完璧な策略。俺は自分が怖くなるね。

 

 それはともかくたしかに、機体は素晴らしい出来だ。数年先の事を見据えても、この機体がもたらす恩恵は技術革新なんてものではない、軍人たちの意識改革すらやってのけてしまうだろう。

 

 あくまでも見た目だけではあるが、それまでのインスピレーションを俺に与えていた。

 

「私は兄上から、ある程度の権限を渡されています。ダイクン首相の側近の一人であるデギン・ソド・ザビ、そしてアステロイドベルトの開拓を牛耳るザビ家としての……ね」

 

 俺は以前——転生する前から、ザビ家とジオン公国について疑問に思うことがあった。

 

 ザビ家が何故、地球の貧困層として宇宙に上がったスペースノイドの中で、2世代3世代にわたり他のスペースノイドに対して影響を与えることができたのか——という事に。

 

 何故、地球連邦議会の評議員であるジオン・ダイクンの側近という地位を手に入れることができたのか?

 

 何故、地球から最も遠く離れているのにもかかわらず、地球連邦に比べて技術的な優位を保てていたのか?

 

 モビルスーツを本格的に開発してからわずか数年しか経っていないのに、何故星の数ほどのエースパイロットを生み出すことができたのか?

 

 等々。

 

 サイド3は月の裏側に浮かぶ、地球から最も遠く離れているコロニー群である。

 

 常識的に考えれば、地球からの棄民に近いとされる宇宙移民政策において、地球から最も遠いという事は地球から見れば流刑の意味に近く、また必然的に地球からの関心も必然的に低いはず。

 しかも、地球からの資源に依存していたのにもかかわらず、開戦初頭から終戦までの間、連邦側に対する技術的な優位は揺らいでいなかった。

 

 その答えは、転生して初めて理解できた。つまり、答えは文字どおり宇宙にあったのだ。

 

 つまるところ、アステロイドベルト。アステロイドベルトの存在が、地球からサイド3への人口流入を宇宙世紀0035以降加速させた。

 

 政治活動で必要なのは何か? それは金と人である。

 

 ザビ家が貧困層とされる宇宙において、政治活動を行うための資金源がアステロイドベルトにはあった。

 

 宇宙世紀が始まり、サイド3の建設が始まってすぐに、俺とデギンの祖父がその事に気付いた。

 

 当時、祖父は貧しかったにもかかわらず、借金をしてまで中古(オンボロ)の船と作業用機械を購入した。

 

 そして間もなく、コロニー建設に必要な資源を求めてザビ家の先先代はアステロイドベルトへと繰り出し、成功を収めた。

 

 ザビ家は私財を投げ打って持ってきた宝の山を連邦政府に売り払い、それを元手に事業を拡大し続け、アステロイドベルト開拓の第一人者となる。

 

 事業を広げるという事は、人とのつながりも自然と増えることにもつながり、ザビ家はサイド3内で大きな力を持つに至った。

 

 第一次ネオジオン紛争におけるアクシズ、UCの舞台となったラプラス動乱におけるパラオ然り、ザビ家の影響力の強さは、アステロイドベルトに際立って残っていた。

 

 つまり、それほどザビ家はアステロイドベルトに古くから浸透し、影響力を行使し続けたという事だ。

 

 しかも、サイド3は月の裏側にあり、他のサイドや連邦政府に比べてアステロイドベルトに近い事も有利な点として上げられるだろう。

 アステロイドベルト開拓の前哨基地となったサイド3や月の恒久的な都市であるフォン・ブラウンに、多くの最先端技術や科学を持った企業が進出し、その恩恵がもたらされる事になったというのも頷ける。

 

 アステロイドベルト開拓団に必要なのは時間と資金だけではない。

 水や食料、そして交代のための人員である。

 

 それを供給する策源地であり前哨基地が、サイド3だったのだ。

 

 コロニーを建造するための資源は地球で賄えない。

 

 その事に気が付いた祖父は、先見の明があったという事だろう。

 

 結果、兄、デギンは豊富な資金を元に政治の世界へと足を踏み入れ、俺はその甘い汁を吸わせてもらっている。

 

 宇宙移民政策というものが続く限り、ザビ家は繁栄し豊富な資金を得ることができる。

 

「連邦政府が凍結していたはずのコロニーを、新しく建設する予定である事はもうご存知でしょう。つまり、また我々はアステロイドベルトに開拓団を送り込む事になります。」

 

 俺の言葉に、ミハエルは喉を鳴らした。

 

 今、ミハエルの脳内では激しく計算がめぐらされている事だろう。

 俺がミハエルに何を求めているのか。俺の言葉の内にヒントがあるはずだ、と頭の中で俺の言葉を反芻しているに違いない。だから、俺は少しだけヒントを与えた。

 

「モックアップを見せられたからと言って、我々が浅はかにも投資を決めると思われるのは心外……」

 

「これは! モックアップなどではありません!」

 

 突然、ミハエルが大きな声で叫んだ。

 

「今すぐにでも動かすことができます! 見ていてください! おい、ガイア! オルテガ! マッシュ! 聞いていただろう!」

 

 

 男が呼んだのは、にわかなガノタの俺でも知っているほどのビッグネームだった。

「ダンナ、ここはただでさえ響くんですから、そんなに大きな声を出さなくても聞こえてますって」

 

 のっしのっし、と俺とミハエルのいる方へと歩いてくる、絵に描いたような悪人ヅラをしている3人組。

 

 1人目は髭面で、ギョロリとした大きな目が特徴の男。

 2人目は一人目と同じくらいの身長で、どこか小馬鹿にするような笑みを常に湛えている男。

 3人目は三人の中で一番高身長で、鼻上にそばかすが残る男。

 

 アニメで見たままの3人組が、後にアニメでアムロを苦しめた黒い三連星と呼ばれるようになる男たちである。

 

 だが、まだ彼らは現在ただの作業員。俺は心の中で「凄腕パイロットキターー」と叫びたくなる衝動を押さえつけた。

 

「マッシュは1号機、オルテガは2号機に搭乗。ガイア、君はそこの御曹司に説明をしたまえ」

「けっ、ダンナ、御曹司……って、この……ちっこいのがですかい?」

 

 ミハエルからの指示を聞いて、ガイアはこの、と人に指を向けてくる。

 

 かっちーん、キレちまったよ久々によぉ……

 

 お前もそんなに大きくないだろうが! そもそも! 人に指を向けるなってお母さんから習ったでしょ!

 

 俺が瘴気のように不機嫌なオーラを放出し始めたのがわかったのか、ミハエルは慌てたように俺へと謝罪の言葉を述べた。

 

「御無礼申し訳ありません、ロラン大尉。こいつらは見ての通り労働者で学もないのですが、作業機械を扱うことに関しては並ぶ者はいません。

 どうか、もうしばらくお時間をいただきたい」

「……わかりました。お気になさらず……小さい事は自覚しておりますので」

 

 我ながら大人になったもんだぜ。きっと、カミーユ君なら殴っていたところだろう。

 

「ところで、彼らは……?」

 

 何も知らないふりをして、にやけそうになる頬を引き締めながら、俺はミハエルに三連星を紹介するように促した。

 

「はい、彼らは我が社で抱えている作業用機械のテストオペレーターです。ゴロツキのようなやつらですが、その……なにぶん優秀ですので……」

「そうですか……いえ、お気になさらず」

 

 さて、どうしたものか。

 

 正直に言えば、黒い三連星ほどのパイロットをすぐにでも囲ってしまいたい。しかし、これから協力関係になろうとしている企業に勤めているとあっては、そう簡単に引き抜く事はできないだろう。

 

「さ、坊ちゃん。始まりますぜ」

 

 ガイアの声で俺は視線を前に向けると同時に、低く唸るようなモーター音が、工場内に大きく響き始めた。

 

「どうです? 良い音でしょう?」

 

 暖機が終わったのか、ゆっくりと巨体が動き始め、ブゥン、と音を立ててモノアイに仄かなピンク色の明かりが灯った。

 

『これよりデモンストレーションを開始する。近くの作業員は退避せよ』

 

 工場内に設置されているスピーカーから、ミハエルの声で注意喚起がされた。

 

 ゆっくりと動き出した巨大は、滑り出すように、とは言えないどこかぎこちない動きでゆっくりと歩き出し、それを見たガイアが俺に補足した。

 

「各関節に使われているトルクモーターは、まだ重力下での活動を考慮されていません。無重力下やごく微小な重力の下では、今の3倍のスピードを出せます」

「なるほど……では、既に無重力下での試験は終了しているのですか?」

「いや、あくまで理論上というだけだ……です。試験機はまだ3機しか製作されていないので、木端のような小企業にとっては、一機でも事故で失うと、翌日には社員社長一同揃って首を括らないといけない……のです」

 

 なるほど、ガイアの話のおかげでワイズマン工業の思惑が見えてきた。

 

「そうですか、だから資金力に余裕がありそうなザビ家に話を?」

 

 俺の言葉にガイアはしまった、と言った表情に顔面を変えた。

 

「あー! 坊ちゃん! そろそろ移動しないとデモンストレーションが始まってしまいますぜ⁉︎ ほらほら!」

 

 話の逸らし方が下手すぎるにも程があるだろ!

 ガイアはぐいぐいと背中を押して誘う。

 

「はぁ……」

 

 俺はもうどうにでもなれ——と溜息を吐きながら、ガイアに押されるまま工場の裏にある空き地へと歩を進めたのだった。




ストックもうありません(涙
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