デギン・ザビの弟に転生したと思ったら、俺の知ってるガンダムの世界と少し違うんだが   作:TSしたとねり

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さっきの話だけでは短いかと思ったので、もう1話投稿します。


6 代償(宇宙世紀0061年)

 宇宙世紀0061年、2月14日。

 

 世間巷で今日はバレンタインデー。

 

 この日はご存知の通り、暇を持て余した人たちがデートをしたり、プレゼントを渡しあったりしている日である。(偏見)

 

 でも、今生の俺には関係のないイベント——いや、()()()()と言った方が正解か。

 

 前世はチビでデブで禿げてたもんね。仕方ないね。

 

 でも、せっかく今生で中性的な容姿に生まれ変わったと言うのに、なんで俺はこんなにもモテないんだろう。昔みたいに幼女を見て「デュフフ」とか言って笑っていないのに……

 

 まぁ、たまたま休みの日でもなければ、国防隊に所属している軍人である俺には縁のないイベントと割り切るしかない。仕事が今の恋人です……なんて、自分で言ってて悲しくなってきた…………

 

 いやしかし、それを吹き飛ばすほどの個人的大ニュースがある。

 

 何とタチアナが妊娠し、昨年12月25日に元気な男の子が生まれたのだ。

 

 バーナードと名付けられた男の子は可愛らしく、薄らと生えた髪の色を見るに金髪だったので、少なくとも俺が父親だと一発でバレる事はないだろう。

 

 これから英才教育を受けて、立派なザクキチ男の子に育ってくれる事を願うばかりである。

 

 ——さて、現実逃避ばかりしていないで本題に入ろう。昨年夏から建設が進められていた食料プラントコロニーが完成し、食糧危機は当面回避される見通しがついたのだ。

 

 モビルワーカーの働きによって、いくつかの資源採取用の小惑星を想定よりも早く地球圏に移動させる事ができたため、それらを連邦政府に売却して資金に変えたり、と多くのムンゾ市民を喜ばせるニュースが昨年末から相次いだ。

 

 小惑星が地球圏に移動するまで2ヶ月余り。その時間は、さらに多くのモビルワーカーがワイズマン工業によって生産され、ムンゾ政府に引き渡されるのに十分すぎる時間だった。

 

 そして、モビルワーカーを積極的に従来の作業用ポッドと併用する事によって、ジンバ・ラルの宣言通り、半年以内という短い工期で小型の完全密閉型コロニーを建造する事ができた。

 

 コロニーは直径2キロメートル、全長は8キロメートルと、各コロニーサイドを構成する居住用コロニーの約四分の1程度の大きさで、連邦からの妨害を排除するために月の裏側で建造された。

 

 建造後、ムンゾに近い宙域に移動させられた農業用プラントとして運命付けられたコロニーの名前は、無難に【Ex-1】と命名され、多種多様な作物が栽培される事になった。

 

 来月には初の収穫が始まる予定で、上昇傾向にあった食料価格を安定させ、ムンゾ住民の食糧事情は改善させる事を期待されている。

 

 そしてコロニー建造に合わせて、ジオン党によって行われた食料の配給制によって、食糧危機による餓死者はほぼゼロに抑えられた。

 

 ほぼ——と言った通り、完全にゼロにできなかった事が心残りではあるが、まぁ、それでも多くの市民を救えたのだから良しとするしかない。

 その事実によって、ジオン党の支持率は安定的に好調を維持し、今年行われる予定の選挙でもジオン党は躍進する事が見込まれている。

 

 連邦の評価は下がり、ジオン党は勢力を伸ばす。これまでの流れは概ね史実通りと思われた。

 

 

 だが、喜びのニュースばかりではない。

 

 ガルマ・ザビを産んだ直後から体調を崩していた、兄上(デギン)の妻が亡くなってしまったのだ。

 

 葬儀には多くの人が駆けつけ、ドズルは大きな声で泣いて棺に縋り付いていた。

 

 予想外だったのは、ギレンやサスロ、キシリアも泣いていた事だろう。

 

 原作の印象で家族に対して冷酷な印象を持っていただけに、この3人が多くの人の前で泣くところを見せるなんて考えられなかった。

 

 ——そしてもう一つ、俺が予想にもしなかった事態がムンゾ共和国政府を襲いつつあった。

 

「くそっ!」

 

 バキャン! とデギンの振り下ろした拳が、ザビ家本邸の一室に置かれた机から大きな音を立てさせた。

 大丈夫? 拳から血が垂れているし、鳴ってはいけない音のようにも聞こえたけど……でも兄上怖いし、近寄らんとこ……

 

「連邦のクソどもめ……!」

 

「父上、決まった事は仕方がありません。次の事を考えようではないですか」

 

 ギレンは涼しい顔をしてデギンが取り乱しているのところを見ているが、それを見た拳を振り下ろした主——デギンは、人相の悪い顔をさらに凶悪に歪ませる。

 

 デギンが連邦を吐き捨てるのも理由があった。

 

 これまで、ザビ家が率いてきたザビ派は、ジオン・ズム・ダイクンの思想を緩やかに、ゆっくりと市民に浸透させられるように注力してきた。

 

 各サイドの自治体に思想を広げるべく、資金や時間、人手も全て駆使してジオン党の末端組織とも言えるものを作ろうとしていた矢先のことである。

 

「次……⁉︎ 次だと! サイド1(ザーン)サイド2(ハッテ)に築き始めた拠点だけではなく、サイド5(ルウム)にあった事務所までもが閉鎖されたのだぞ! それでもまだ次と言うのか⁉︎」

 

 そう、連邦はジオン党の事務所を閉鎖した。もちろん、直接的に連邦が閉鎖したわけではないが、各サイドの自治体に圧力をかけた証拠がキシリアのいる保安隊から上がってきている。

 

 きっとこれは警告だろうというのが、俺たち3人が導き出した答えだった。。連邦はムンゾを警戒している。勝手な事はするな——という。

 

 連邦が始めた経済制裁で、多くの市民が飢えたというのに、それを解決しようと動くな——と、連邦は言いたいのだろう。

 

 ——やはり連邦は腐りきっている。人の命よりも、大事なものなどないと言うのに。

 

「……兄上、申し訳ありません……私の見通しが甘いばかりに……」

 

 俺は、言葉少なにデギンへと頭を下げた。

 兄上(デギン)の努力と労力を泡に帰してしまったのは、中途半端に政治に首を突っ込み、連邦の力を軽視してしまった俺の責任だ。

 しかし——、

 

「ふぅ……いや、ロラン。お前のせいではない。お前の案を聞き、方針を決めたのは儂だ。だから、そんなに悲しい顔をしないでおくれ……」

 

 怒気を滲み出していたデギンは打って変わって優しく、俺にそう声を掛けた。

 

「はっ、父上は本当に叔父上にお優しい」

 

 今にも抱きつかんばかりに思える俺たちの涙ぐましい兄弟愛を、ギレンは鼻で笑った。

 

 だって仕方ないじゃん。弟なんだもん。それに、俺は、俺を産んですぐに死んだ母上にそっくりらしいし、兄上曰く優しかったという母上の面影を兄上は俺に重ねてるんじゃない?

 あ、もしかしてあれかな? ギレンも本当は兄上に甘えたいんだ!(名推理)

 

「ギレン。お前もいつか、家族の尊さが分かる日が来る」

「ふん……さて、どうでしょうな。それよりもまずは、失ったものを取り返さねばなりません」

 

 デギンの言葉を鼻で返したギレンが、持っていたリモコンを操作すると部屋が一気に暗くなる。

 そして暗い室内にポワン、と立体映像が浮かび上がり、部屋の中にいる俺たち3人を浮かび上がらせた。

 

 立体映像から見て取れるのは地球と月。それと米粒のような大きさの円筒形の集まりが幾つか。

 つまり、地球圏の人類進出域の全図である。

 

「すでに連邦は、ジオン・ズム・ダイクンの思想を『宇宙世紀に現れたナチズムの亡霊』『形を変えた選良主義思想』とこき下ろし、他のスペースノイドにネガティブな印象を与えようとしています」

「それで……ギレン……それへの対策は」

 

「抜かりありません。サスロが対処をしています。それにスペースノイドは皆、地球連邦から見れば棄民も同然。奴らもあまり本腰ではないとみます。今回の一件は、ムンゾが小型とはいえコロニーを自ら建造した事に対して、お灸を据えるつもりであったのでしょうな。まぁ、暫くすれば落ち着くでしょう」

 

 それに——、とギレンが進める。

 

「幸い、閉鎖されたとは言え、各コロニーには少なくない支持者もいます。ほとぼりが冷めてから再び拠点を確保しても良いでしょう」

 

 そして月の裏側にあるサイド3、その周辺宙域が拡大された。

 

「しかし、現在直面しつつある問題は、ルナリアンどもが建造中の、小型の島1号型コロニー【Ex-2】の引き渡しを要求してきている事でしょう」

 

 ルナリアン——この言葉は蔑称である。

 

 ルナリアンを簡単に言うなら、月に住む人たちを指す言葉だったはずだが、連邦と付かず離れずの距離感を保ち、おなじスペースノイドであるはずのコロニー側にも厳しい姿勢を見せる事から、軽蔑を込めてルナリアンと呼称するコロニー住民は多かった。

 

「奴らの要求を拒否した場合、どのような影響が出る? 奴らは連邦との繋がりが深い」

「父上のご懸念通りです。おそらくですが、連邦はルナリアンどもを通じて食糧生産プラントを確保しようとしているのでしょう」

 

 総人口の半分以上が宇宙に上がったとは言え、現在も地球に住まう人は多い。

 今も地球に住み続けているのは、連邦政府の職員とその家族。それによっぽどの富裕層か伝統的な生活を続けている先住民の一部。

 

 温暖化の歯止めがかからないとは言え、異常気象による作物の不作を宇宙に擦りつける所業。

 

 この政策を考えた連邦政府の官僚に、10円禿げが複数できる呪いを掛けてやりたい。

 

「拒否した場合、連邦が更に圧力をかけてくる可能性は排除できませんからな。奴らの中にも、作物の先物取引やらで稼いでいる者もいるでしょう……金の絡む話となれば、連邦もルナリアンも小汚い」

 

「……ロラン、何か考えはないか? コロニーに費やした金銭と労力は、ルナリアンや連邦にくれてやるにはあまりにも惜しい」

 

 いきなりそんな無茶振りを振らないでくださいお兄様。

 いや、ある事はあるのだが、ちょっとおすすめできそうにもない。

 

「おや叔父上、何か考えがありそうですな? 聞かせていただけますかな?」

 

 ギレンーー! おまっ、そういうとこやぞ! そういうところがキシリアから嫌われるんやぞ!

 

 ギレンの援護射撃(?)もあって、雰囲気的に言わなければならないような気がしてきた。

 

「……あまり言いたくはないのですが……」

 

 チラッと兄上(デギン)兄上を窺い見てみる。

 視線が交差し、アイコンタクト。--どうか、言わないで良いって言ってくれ! 俺はこれ以上政治に首を突っ込みたくないんだ!

 

「良い、ロラン言ってくれ。様々な案を聞いて、儂らはより良い案を導き出さねばならん」

 

 どぼじで……どぼじで……

 

 悲痛な胸の叫びは、誰にも知られることはない。あまりにも現実は非情である。

 

「……では……」

 

 一呼吸おいて、俺は口を渋々開いた。

 

 --本当にこの案を話しても大丈夫だろうか? と一瞬考える。

 

 どう転んでも、俺にとって悪い結果しか生まない気がする。しかし、おそらくだが連邦はムンゾから何かしらかの譲歩を引き出したいのだろう。

 

 奴らにも腐ったなりのメンツがある。それに、曲がりなりにも民主主義国家であるからには、民衆に対して何かしらの成果をアピールしなくてはならない。

 

 こちらが被る損害と、連邦の求めるラインの一歩後ろ。

 

 それは——、

 

「……ムンゾの首都に連邦軍の駐留をお認めになるのがよろしいかと思います」

 

「何⁉ ロラン! お前は自分が何を言っているのか、わかっておるのか!」

 

 俺が正直に案を述べたというのに、デギンは声を大きく張り上げた。

 

 なんだかんだと、兄上(デギン)が俺に対して声を荒げるのは初めてかもしれない。

 

「はい。軍人である私だからこそ、その意味についてはよく理解しています」

 

 連邦をこれまで敵視していた政府が、この提案を受け入れるかというとはっきり言って難しいだろう。

 しかも、ムンゾの首都に連邦軍を受け入れるとなると、これまで支持してくれていた市民からも反発されることが予想される。

 

 それも含めた上で、連邦の駐留を認めるメリットを提示しなければ兄上(デギン)は納得しない。

 

「たしかに、連邦軍の駐留を認めれば、『ムンゾに敵意なし』ということが、あちらにも伝わるでしょうな」

 

 説明のために口を開こうとした俺の代わりに、ギレンが説明をしてくれた。

 

 そして更に、俺はそれに補足する。

 

「えぇ、しかもそれだけではありません。市民は初めて敵の姿を認識できるのです」

 

 ジオン党の理念はエレズムとコントリズムにある。

 だが、今まで支持者たちは地球に巣食う人類の姿を見たことがない。それだけでは、曖昧な、姿の見えない敵に対して説教を垂れている状態に近かった。

 

 しかし、連邦軍が駐留すればどうなるだろう。

 

 食料やエネルギーを奪って地球に送り、スペースノイドを虐げる存在の手先。

 

 スペースノイドの弱みにつけ込んで、更に私腹を肥やそうとしている連中の言いなりになる存在。

 

 そんなものが目の前に現れた場合、市民はどんな反応をするだろうか。

 

「おそらく兄上が懸念される、ジオン党の支持率の低下は最低限で済むでしょう。連邦も月の反対側に送り込む人間一人一人の事など気にもしないでしょうし、おそらく兵士の質は最低限。市民との対立も予想されます。

 その受け皿にジオン党があり、交渉役として兄上やギレンさんの声望は高まるでしょう。

 ……しかし、もしいざとなれば、私自らが奴らを排除します。駐留するのが一個連隊だろうが、一個師団だろうが、です」

 

「っ……」

 

 俺の決意を込めた言葉に、2人は言葉を失ったようだった。

 

 まず、間違いなくムンゾの治安は悪化するだろう。もしかしたら暴動も起こるかもしれない。

 

 その結果、亡くなる人も出てくるだろうし、もしかすると俺にもその怒りの矛先が向くかもしれない。

 

 多くの最悪の事態が頭をよぎるが、言い出しっぺの法則だ。

 

 某ヴァンゲリオンのシンジくんじゃないが、逃げちゃダメだ。と自分で自己暗示をかける。

 

「私もこう見えてザビ家の男です。私の後に続く者達がいると信じて、どのようになろうとも私が責任を背負うべきものと考えます。ですから、兄上、ギレンさん。どんなトラブルがあろうと、私を救わず目の前の問題に対処してください」

 

 俺の決意を込めた言葉に、ギレンは小さく笑みを浮かべ、デギンは困ったような表情を浮かべたのだった。




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