久しぶりに夢を見た。
 そこそこ長くて、目覚めた後も比較的内容を覚えているほうだった。その内容はあまりにも突飛なもので、夢というのは大方そういう物ではあるが、しかし何故だか私はそれを文字に書き起こしたいと思った。

 休日なのを良いことに正午まで寝ていた私は、起きてからもぼんやりとした頭で、すぐに夢の内容を忘れてしまわないようにゆっくりとそれを反芻し続けた。
 もう忘れないぞと思ってベッドを出た時には、もう3時半になっていた。


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2021年11月27日土曜日、点=嘘が見た夢

 

 

 まず私は、夢の中では幼い子供だった。性別は女の子。家族には優しそうな両親がいた記憶がかろうじてあるが、兄弟姉妹がいたような覚えは無かった。

 

 家は砂浜に建てられた木製で、平たい円錐の屋根の部屋がいくつか連ねられたような構造だった。その家は半分ほど海の上に建っていて、どうも普通ではないような家だったが、夢の中の私は特にどうとも思わなかった。

 

 そして、一つだけ謎に確信していた事がある。そこはハリー•ポッターシリーズの中の世界で、自分が魔法使いの家の生まれだということが夢の中の私にとっての前提であるようだった。

 

 

 

 その家の中の生活が描かれるというような事は特に無く、かなりの時間が進んで別のシーンに移る。

 

 

 

 

 次の舞台は夜の街中だった。外はすっかり闇に覆われ、そこら中にある背の高い建物から灯りが煌々と漏れ出している。

 

 そこではどうやらパーティーが開かれていて、私はそこに上等の白い服を着て参加しているようだった。ところが、周りには子供たちばかりがいて、中学校の教室ぐらいの広さの部屋にはゲームセンターに置いてあるような筐体がいくつも置いてあった。

 

 

 どうやら子供はパーティーに連れていってもらえるでもなく、ここに預けられるらしい。所詮は夢の中の私は子供であるので、それはそれで特に不満は無かった。その時点での私は小学校高学年ぐらいの年齢だったように思う。

 

 そこで私はしばらく遊んだ。そこでは現実では見ないような筐体が主にあるようだったが、唯一記憶にあるのは『ムシキングの練習台』だった。カードリーダーにカードを横向きにスライドさせ、手前にあるハンドルのようなものを反時計回りに少し回すと、ムシキングにおける決定ボタンを押した時などに流れる”ぎゅいーん!”というSEが流れるのだった。

 

 それ以外の機能もあるのかもしれないが、カードを持っているのでもなく実際にプレイしたこともない私にとってはハタから見ればそれだけの機械だった。

 

 後の記憶は殆どあやふやだ。そのゲームセンターではグルメコイン(トリコのグルメカジノ編に出てくる食べられるコイン)が使えたような、SDカードのようなものを握りしめてウロウロしたりしたような、それぐらいの記憶しか残っていない。どうも要領を得ないようだが、そこは夢なので許してほしい。

 

 

 

 さて、これから展開が大きく動く。

 

 

 

 ゲームセンターで遊んでいると、兄から声を掛けられた。

 ついさっき兄弟姉妹はいないと言ったばかりだが、その時はいないと思っていたというだけで、この時にはいたのだ。夢であるので、たとえ時空を飛び越えて兄弟が急に生えてきたりしても疑問に思わないで頂きたい。

 

 

「ハースという名のお婆さんが外で待っている。案内するから一緒に行こう」

 

 

 兄によるとこういう事らしい。

 ハースという名のお婆さんが誰なのかは全く見当も付かなかったが、その時の私はその提案に言いようのない恐怖を覚えた。思わず拒否した私を前に、兄は思わぬ奇行に走る。

 

 

「みんな! こいつはハース様の期待に応えないそうだぞ!」

 

 

 詳しい文言は忘れたが、兄はそのような内容の言葉を周りの子供らに向かって叫んだ。正直なところ何が何だかわからなかったが、私は「ハース様」に逆らっているという事を周りの人間に知られるのがとても恐ろしかった。

 どうしていいか分からなくなった私は、泣きそうになりながら兄について行った。

 

 

 

 建物を出ると、目の前には大きな川が流れていた。河川敷にはそこそこ背の高い草に覆われていた。

 それを横目に兄は左に曲がって、道路の真ん中を歩いていった。「ハース様」に何をされるか分からなかった私は兄から大きく距離を取って後ろからついてゆっくり歩いた。幸いにも兄がそのことに気がつく様子は無かった。それというのも、彼は最初からどうも虚ろな顔をしていて、今にして思えば「ハース様」に服従の呪文か何かをかけられていたのではないかと思う。本当のところは結局わからないのだが。

 

 暗闇に染まった道路を歩いていくと、程なくして遠目に公園が見えた。すると、その中から何ともしわがれた耳障りな声が聞こえてきたのだ。

 

「おやおや、遅かったじゃないか。ハーシーン様への貢ぎ物は連れてきたかえ? ああ、うら若い小娘の目ん玉をほじくりだしてやるのが楽しみだ……」

 

 そこに至ってようやく私は「ハース様」の正体を知った。大きなかぎ爪とカラスが混じったような羽の生えた腕、腰が曲がった老婆の正体はハグレイヴンだった。

 恐るべき闇の魔法と残忍さを併せ持った邪悪な怪物が、彼女の信仰するデイドラの王子、狩りを司る神であるハーシーンへの貢ぎ物として私を殺そうとしているのだと、その時に至って私は悟った。

 

 この辺りの設定は何が何だかチンプンカンプンな人も多いかと思うので、良ければTES V : SKYRIM用語集にて該当の項を確認されたし。

 

 ともかく私は逃げなければと思った。兄から距離を取ってついて行ったことが功を奏したのか、「ハース様」はまだこちらに気がついていない。

 一も二もなく後ろに駆け出して、私は先程の河川敷に飛び込んだ。白い服が汚れてしまうが命に比べれば安いと思った。例の背の高い草に隠れながら、そのまま遠くに逃げようと思ったのだ。

 

 やがて「ハース様」は私が逃げたことに気がついたようで、醜い金切り声を上げながらこちらに近付いてきた。

 その時になって私は、恐ろしい闇の魔法を操る怪物が追ってきているという空気を肌で感じて、それに背を向けて逃げているという事がどうしようもなく怖くなってしまった。

 

 

 


 

 

 

 ちょっと待って。

 外が暗くなってる。今夢の内容をスマホに打ち込んでいる現実世界の私はベッドから起きてまだ何も食べていない。時計を見たらもう4時45分じゃないか。

 

 うーん、そろそろ危機感を感じてきたのでご飯を食べてきます。ちょっと待っててね。

 

 

 ………。

 

 

 やばい、昨日の残りのシチューが鍋にあったのをすっかり忘れてラ王にお湯注いじゃったよ。

 しかもこのラ王、フィルムのとこに「〇〇さん、スイングありがとうございました」って書いた付箋が貼ってある。

 

 どういう意味だ……? 〇〇というのは私の名字だが、もしや私のお父さんがゴルフ仲間か何かに貰ってきたやつだったんだろうか……私が食べちゃまずい奴だったりしないだろうな……。

 

 

 ……。

 

 

 食べてきました。やっぱラ王はうまいね。

 シチューの事はあとで考えるとして……もう5時5分か。よし、書くぞ。

 

 えー、それでは続きをどうぞ。

 

 

 


 

 

 

 背中を見せながら逃げるのが怖くなった私は、今来た道を引き返していった。

 「ハース様」がこちらに向かって追ってきている事を悟った私は、このままでは追いつかれると思ったのだ。それなら「ハース様」が私を見つける前に、来た道を戻って入れ違いになるしか安全に逃げる方法は無いと考えた。

 

 今にして思えば根性あるなぁ、夢の中の私……。

 

 この作戦は驚くほどうまくいった。入れ違いになる際、ほんの目の前で私のことを探しながら醜く叫んでいる「ハース様」を見てしまった私は恐怖で足が震えそうになったが、同時に興奮に体が沸き立ってもいた。あと少しで抜けられる、抜ける、抜ける……抜けた! まだ相手は私に気が付いていない!

 

 

 

 後ろを気にしながらも私は走った。

 全速力で夜の街中を駆けて行った。

 

 

 

 興奮が冷めると、同時に私は再び恐怖に飲まれ始めていった。もう来た道は戻れない。両親のいる場所に戻ることはできない。それに、いつ私がこちらへ逃げたのかと勘づいた「ハース様」がやってくるとは限らなかった。もはや誰もいない静かな街中を、それでも私は走っていた。

 

 気がつけば、私の体はハグレイヴンになっていた。

 

 とんでもない超展開であることは今になれば分かるが、当時の私は例によって特に疑問を覚えなかったんだから仕方がないだろう。ふと意識が飛んだかと思えば、今までの記憶をほとんど失って老婆の怪物になっていたのだ。

 

 そして、その時の私はとても気分が良くなっていた。

 

 何でもできると思った。人ならざる者に変化したことに興奮を覚えていた。ヒトの社会から逸脱した存在になれた今の状態が楽しくて仕方がなかった。

 

 しかし依然として夜の街中に一人で放り出されていた私は、少なくとも夜が明ける前にこの人間の街から逃げないとと思った。

 そうして少女だったころと同じように走っていると、目の前にとても背の高いネットフェンスが道を塞いだ。軽く10m以上はあったかもしれない。いかにも丈夫そうな金網を前に、しかし私は楽しげに嗤った。

 

 人間だったころと比べると考えられないほどの力が湧いてくる。私はフェンスに飛びつくと、かぎ爪と化した指を思い切り網目に突き刺した。

 ぶら下がっているのに体がとても軽い。私は易々とフェンスを登り切り、飛び越えて地面に着地した。

 

 

 

 奇妙なことに、そのようなフェンスはいくつも並んで道を塞いでいた。そのいずれも怪物となった私にとって軽々と越えられるものだったが、そうこうしている内に段々と私の意識の中に別の人格が生まれつつあるような感覚があった。

 その人格は私よりも達観していて、多くの事を知っているようだった。そいつは、どうやら私たちはこれから海にたどり着ければ逃げ切れるらしい、という事を知っていた。しかしどうやら、私たちが海にたどり着くことだけは決して出来ないという事を直感しているようだったのだ。その間、飛び越え続けながらフェンスの下を見ると、一つ目でぐにょぐにょと変な形をした犬ほどの大きさの動物がこちらを見上げているのを見た。

 

 私の意識は、じきにその人格に染まっていった。

 

 

 

 そうして気がつくと、私の体はまたヘンテコな生き物に変化して建物にへばり付いていた。

 

 一つ目で、緑色の、ぐにぐにとした感触の小さな生き物。もはやハグレイヴンの時のようにフェンスを素早く登ったりするような動きは望むべくもない姿だった。

 建物の下には大勢の魔法使いが集まっていた。どうやら通報を受けて私を捕まえに来たらしい。その通報とやらがハグレイヴンの姿の時になされたものか、今の姿を見られてのものなのかは分からないが、とにかく彼らは私を捕まえようとしていた。

 

 私は諦めていなかった。どうやら魔法使いたちは箒も杖も持たず、魔法を使わずに建物を登って(魔法使い……?)私を捕まえようとしているようだったが、私は一生懸命に建物の壁を伝って逃げ出した。

 その時の私はとても弱かったが、人を煽る時の語彙力だけは豊富だった。グリフィンドールのお前はこれだからダメだのレイヴンクローのお前はこんなに根暗だからダメだの、そんなような事を散々に喚き散らしながらコロコロ逃げた。

 

 しかし、すぐに捕まってしまった。

 

 

 

 次の瞬間、私は全く別の世界にいた。

 

 体を持たないが、視点は少しだけ動かすことができる透明な存在となって、ぼんやりと目の前にたむろしている人々を眺めていた。

 10人ぐらいの人が集まっていただろうか。彼らはどうやら一箇所に集まって、円陣を組んで写真を撮ろうとしているらしい。とても楽しそうだった。

 

 そんな人たちを遠巻きに眺めていた人影が確か二人ほどいた。少なくとも一人が誰であるかは何となくだが分かった。あれは恐らくケニー•アッカーマンだった。もう一人はよく分からないが、たぶんサネスだったと思う。

 

 ケニーは写真を取ろうと集まっている人たちをしばらく眺めていたが、やがて何かが吹っ切れたようにニッと笑って、その人混みに突っ込んでいった。ややためらいながらもサネスも後に続いた。

 

 遠巻きに見ていただけの彼らも一緒に写真を撮った。とても楽しそうだった。その光景を見ていた私も、とても楽しかった。

 

 

 

 次の瞬間、私は全く別の世界にいた。

 

 ここの記憶は他と比べても少しあやふやだ。確か学校のような所にいて、私は友達と一緒に遊んでいた。その時の私と友達は少なくとも人間ではなかったように思う。

 しばらくして、私たちはゾロアークのお姉さんと鬼ごっこをすることになった。詳しいことは忘れたが、ゾロアークのお姉さんを追いつめたと思っていた私たちは、そこら辺にいた一つ目の丸くて黄色いモンスター(私たちの鬼ごっことは多分関係ない子だったと思う)を利用したトリックによって裏をかかれ、結局負けた。しかし、まあまあ楽しい遊びではあった。

 

 

 

 

 次の瞬間、私は全く別の世界にいた。

 

 ……というよりも、一番最初の世界に戻ってきたのだと思う。

 砂浜に建てられた木製の家。平たい円錐の屋根の部屋がいくつか連ねられたような構造で、半分ほどが海の上に建っている、最初の家に私は戻ってきていた。

 

 最初の世界と決定的に違うところは、私が男の子になっていて、お婆さんの使用人がいて、兄弟だか妹だかが最初からいたという点だ。

 そこでは、どうやら家を増築しようとしている最中のようだった。海の上に基礎を立てて、木の枠組みに父親が間違えて火を付けてボヤ騒ぎになったりした。

 

 最後にお婆さんの使用人がなんかをやって、そこで夢が終わった。



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