東方黒狐録   作:よるくろ

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 一世一代の大勝負に勝つは、黒き金狐の黒鉄鈴八。

 今宵最大の危機が、友に訪れる…

 では、ご覧あれ…


【ぬ】 別れの刻

 

 

 

「急いで…百鬼!」

 

「『分かってらぁ!しっかり捕まっとけ鈴八!』」

 

 

 今僕は、百鬼の背中にしがみつきながら都市を目指している。

 

 どうやら、首魁である百鬼の統率外の妖怪の仕業らしく、百鬼が急いで進行跡を追うと、困惑している百鬼夜行がいたらしい。命令違反をしている妖怪は誰一人としていなく、百鬼と同じく、別の妖怪もこの日に都市に侵略を目論んでいた妖怪がいるようだ。

 

 

「『おそらく、『波旬』の奴だろォな…』」

 

「『波旬』?」

 

「『あァ、鴉天狗の波旬。俺と唯一渡り合える奴だが、その本質は姑息。能力も姑息で、『操作』っつー妖怪も人間も操る能力を持ってやがる』」

 

「なるほど…じゃあ今の襲撃も…」

 

「『あぁ。十中八九、波旬の『操作』で操られた妖怪の仕業だろ。アイツは自分で手を汚さねえからな。クソ、腹が立つぜ!』」

 

 

 そういうと、百鬼は怒りの所為か更に加速する。既に衝撃波が出るほどに走っているので、背負われている僕からしたら溜まったものじゃない。早く着く分にはいいけど。

 

 それにしても、『操作』…。恐らく、それは妖力の操作も含まれているだろうし、もしかしたら僕と同じ技術を使ってくるかもしれない。用心しないと…。

 

 と、警戒を深める僕と、憤怒の表情を浮かべながら走る百鬼は、黒煙の増えた都市へと辿り着いた。

 

 入り口である鉄の門は見るも無惨に壊されており、中には見る限りの妖怪。そしてその妖怪と戦っている、永琳曰く『狩り人』の姿。明らかに劣勢であり、どうやら僕達も人間側で参戦するしかないようだ。

 

 

「…いくよ、百鬼」

 

「『あー…俺はいかねえぞ?』」

 

「え?」

 

「『ったりめえだろ。どこに人間を助ける妖怪がいるってんだ。俺は獲物を奪いやがった波旬に喧嘩ふっかけてくっから、お前は好きにしろ』」

 

「…仕方ない」

 

 

 此処からは、僕一人でやるとしよう。

 

 百鬼は「『馬鹿は高いところが好きなんだったか!』」と空の方に跳躍して、どこかに行ってしまった。僕は両手に妖力を込めて、できる限りの速さで、初めて、都市の内部へと侵入した。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「___!数が多い!」

 

「ひ、ひぃいい!!」

 

「危ない!…全く、戦えもしない一般人を此処に寄越すなんて!上は何を考えてるの!」

 

 

 突然、鉄の門を壊して侵入してきた妖怪の数々。永琳とその狩り人、そして妖力という穢れに免疫がある者は、戦えない者も戦場に追い出されていた。

 

 

「はっ…はっ…不味いわ、霊力が尽きてきそう。どこか安全な場所は___!」

 

「八意様!新たな妖怪が門から侵入!ですが…次々と妖怪達を殺して行っています!」

 

「何ですって!?」

 

 

 妖怪殺しの妖怪。戦っている最中の永琳に届けられた情報は、今の永琳にとっては混乱する要素でしかない。新たな妖怪、妖怪達を殺し回っている、つまり人間を助けている。

 

 

「もしかして___!」

 

「はぁっ!……大丈夫?」

 

「鈴八!」

 

 

 そう、そんな妖怪は黒鉄鈴八ただ一人。門から入ってからずっと人間を襲う妖怪を殺し回ってから、数分。ようやく永琳を見つけた鈴八は辺りの妖怪達を殺してから永琳の前に立った。

 

 

「貴方、ボロボロじゃない!そんなになるまで…一体誰が!?」

 

「まって、落ち着いて。…今、この惨状の原因に、僕の友達が向かってる。都市の防衛は僕に任せて、永琳達は奥に行って」

 

「奥に行ってって…じゃあ貴方は!」

 

「永琳」

 

「…!」

 

 

 鈴八が永琳の名前を呼んで、永琳を黙らせる。

 

 

「…また明日」

 

「…!___えぇ、また明日!退がるわよ!皆!」

 

「は、はい!…狐の妖怪さんも、気を付けて!」

 

 

 会話の流れで、鈴八が味方だと言うことに気付いたのだろう。まさか応援されるとはつゆ知らず、呆然とした鈴八だが、少しすると笑みを浮かべて迫り来る妖怪達を視界に捉えた。

 

 

「ここは…通さない!」

 

 

 ありったけの妖力を拳に、そして間合いの外側にいる、飛びかかってくる妖怪目掛けて、思いっきり拳を振り抜いた。

 

 瞬間、拳を振る際の風圧が妖力とともに妖怪達に押し寄せ、数匹の妖怪を吹き飛ばす。中には巨躯を持つ妖怪もいた為、その巨体に踏み潰された妖怪も何匹かいた。

 

 拳、蹴り、頭突き、膝、肘、踵。使える身体の武器を全て使い、妖怪達を殲滅していく姿はまさに修羅。妖怪達の血を浴びながら動き回るその光景は、まるで芸術。

 

 動きの最適化。とにかく敵を素早く殺すことに特化した鈴八の動きは蝶のように舞い、蛇のように掻い潜り、鬼のように剛腕を振るう。

 

 数えられぬほどいた妖怪の群れは、いつしか片手で数えられるほどしか居なくなり、対照に、鈴八の周りには数えられるほどの妖怪の死体が転がっている。

 

 

「はー…はー…」

 

 

 百鬼との戦いの傷がまだ癒えていない。能力によって『修復』はされているが、体力までは回復できるわけではないのだ。

 

 動きに鈍さが加わり、その隙を付いた妖怪の一撃が、鈴八の脇腹に入ってしまった。

 

 

「がっふっ!?」

 

「グルル…!」

 

 

 膝を突いた鈴八に迫る、残りの妖怪。此処までかと、友達である永琳の顔を思い浮かべた鈴八に、救いの手が差し伸ばされた。

 

 

「『まっ___たせたなァ親友!』」

 

 

 大きな轟音とともに上から降ってきた破壊の権化、百鬼。

 

 その片手には、黒く大きな翼。そして遅れて降ってきた、黒い片翼を背中に生やした、男の姿。恐らくこの男こそが、今回の襲撃の主犯である『波旬』という鴉天狗なのだろう。

 

 

「…こいつが」

 

「ぐっ…何故だ、百鬼!何故人間を助ける!そこの狐もだ!何故人間如きを妖怪が助けている!」

 

「『俺ァ別に助けてねえよ。ただよォ…俺の断り無くして襲撃とはどういう了見だオイ!アァ!!?』」

 

「は…お前、さっき百鬼夜行をけしかけていただろう!それを見て私は潮時かと、『操作』した妖怪をここに___へがっ!!?」

 

「どうでもいい…」

 

 

 波旬の横っ面を殴り飛ばした鈴八が、頭に妖力を込める。

 

 戦いの中でそれを身に染みて体験した百鬼はこれから鈴八が何をするのかを予感し、顔をサッと青くして額を抑えた。

 

 顔を抑えてジタバタと転がる波旬の顔を、鈴八は掴み持ち上げた。

 

 

「お前が何をしようが、どう思って都市を襲撃したのかはどうでもいい…」

 

「は、離せ!そ、『操___」

 

 

 鈴八は頭を後ろに振りかぶって、そして___

 

 

「お前は…僕を怒らせた…!」

 

「はじゅぷっ??!」

 

「『うわぁ………』」

 

 

 勢い良く波旬の顔面に叩き付けた。

 

 波旬の顔面は陥没し、鼻は凹み、目玉は片方潰れるほどの威力。歯も何本か折れており、その光景を見た百鬼は生まれて初めて恐怖を覚えた。

 

 

「…ふんっ」

 

「『今度からお前の機嫌は損ねないようにするぜ親友!…それはそうと、早く逃げたほうが良いみたいだな』」

 

「…ん?」

 

「『ほら、見ろよ。人間の奴ら…此処を捨てて、“空”に行くらしい』」

 

 

 百鬼が顔を向けた先に、鈴八が顔を向けると。その向こうには巨大な鉄の筒が下から火を噴いており、少しずつ少しずつ浮き上がっていた。

 

 目を凝らしてみると、そこには永琳も乗っており、永琳もまた鈴八が見えていたみたいだ。ただ、何か必死な形相で訴えかけているが、距離も遠く、中にいるため何を言っているのかが全く聞こえない鈴八。

 

 だが、永琳の必死な形相に嫌な予感を感じた百鬼は、鈴八の腕を掴んだ。

 

 

「『逃げるぞ、やべえ予感がする…早くっ!』」

 

「うん……」

 

 

 最後の挨拶と言わんばかりに、鈴八は永琳に拳を突き出す。

 

 永琳はそれを見ると目を見開くが、やがて落ち着き、普段通りの笑みを溢すと、窓にコツンと、拳をぶつけた。

 

 

「またね、永琳」

「またね、鈴八」

 

「「___また明日」」

 

 

 最後の言葉だけが、届いた距離の遠い二人の会話。

 

 一足先に逃げた百鬼を追おうと後ろを振り返った瞬間。

 

 鈴八の意識は、白い光に包まれながら、黒くなった…。






 別れ、それは突然で、必然。地上を捨てて“空”を手に入れた古き人類は、穢れの克服と友に、妖怪への恐怖を忘れてしまった…。

 ただ一人、月の頭脳と呼ばれる最高の薬剤師を除いて…。

 では、また次回…
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