東方黒狐録   作:よるくろ

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 みなさんお気づきでしょうが、話数の表現はいろは歌で表しています。

 では、ご覧あれ…


【る】 黒狐の目覚め

『良くぞ頑張ったな、鈴八』

 

 

 …誰?

 

 

『妾か?妾は**、御主であり、御主ではない者。妾の全ては御主の物であり、妾の全ては御主である』

 

 

 …良く、分からないな。

 

 

『なぁに、時期に分かるのじゃ。…何せ、御主も日の下の妖怪。きっと日輪様が、御主を護ってくれよう』

 

 

 …そうだといいなぁ…

 

 

『ほれ、寝んねの刻はもう終わりじゃ。お早う、鈴八…また逢おうぞ』

 

 

 うん…分かった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 眩しい…

 

 意識の戻った僕が薄く目を開けると、そこは背の高い木が囲む樹海のような場所だった。

 

 木漏れ日が僕に容赦なく降り注いで、僕は両手で目を隠そうと腕を動かそうとして、何故だか動かせない、何かに抑え付けられているような感覚がした。

 

 

「ん……あれ」

 

 

 見ると、僕の腕…それどころか、身体全体に植物の蔦が這っていて、とても動ける状態じゃなかった。とりあえず僕は身体全体に妖力を込めて、力任せに蔦を引きちぎった後、立ち上がって周囲の状況を確認した。

 

 辺り一帯は全て樹林。颯爽と靡く風に吹かれて木漏れ日が揺れて、自然と心を落ち着かせてくれる。やっぱり、自然に囲まれると言うのはなんとも心地よい物だ。

 

 しかし、僕はあのあちどうなったのだろうか。白くて熱い光が襲ってきたのは知ってるけど、その後は何も知らない。百鬼もいないし…何処かに行ったのかな?

 

 探したいけど、右も左もわからない状況じゃ迷うだけだ。

 

 とはいえ、このままここで過ごすわけにもいかない。永琳は無事なのか、とか調べたいけど、今調べる術はない。

 

 でも、自分にできることがあるとすれば…生き延びること。生きて強くなることかな。そうだ。

 

 強くなるために、僕は、旅に出よう。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 と、意気揚々と旅路を悠々自適に歩いて、早千二百年くらいが経った。

 

 この頃には全く見かけなかった人里や妖怪を見かけるようになり、僕は妖怪に挑んだりもしたんだけど…どうやら新たに生まれた妖怪は弱いらしくて、軽く小突いただけでも死んでしまった。

 

 この調子なら人間も妖怪と等しく弱体化しているはず。ということで僕は、変化で人間に化けながら村を転々と旅して、人間を妖怪から守っていた。

 

 村を出る前も、将来有望そうな子に我流の体術を教えて来たから、そこら辺の妖怪には負けない程度には強くなっているはず。しかも、数ある内の人里の一つ、その平民の少年が、一回とはいえ僕の服の端を掠らせたからね。今の時代の人間も捨てたもんじゃない。

 

 そう、ついに僕は武器に手を出し始めた。変化でそこら辺の木の枝を木刀や薙刀に変えたりして、これまた我流で技も作ってたりする。

 

 でも、その技全てが鬼専用…というか、想像の中で戦える相手が百鬼しかいないから、自然と百鬼対策の技になっちゃったけど、それでも汎用性が高いからどんな妖怪にも有効に使える。中でも一番得意な武器が刀で、今は変化で首飾りにしているけど、人間の鍛冶屋に打ってもらった刀を使わせてもらっている。

 

 鍛治職人曰く、この刀の銘は『紅黒(べにくろ)』と言うらしく、太陽の光を吸収して熱を発する“紅陽鉱”と、たとえ岩で側面を叩き割ろうとしても全く折れないほどの強度を持つ“黒曜鉱”で作られた天下一品の刀だとか。

 

 柄は黒で、根元の黒から紅の階調が綺麗な刀身。軽く試し切りしてみたら岩が真っ二つになり、妖力で覆った僕の腕にかすり傷を付けるほどだ。こんなにいい代物を貰ったのに、「使い手が漸く見つかったので」とか何とかで、代金やお礼は受け取ってもらえなかった。

 

 その日から僕は刀の鍛錬も、いつもの鍛錬と同時並行ですすめており、素振りで2000回。自作の技の練習で500回を各技3個ずつを目処に鍛錬をしている。刀を使った鍛錬は、最初の頃は慣れなくて疲れたが、今ではいつもの鍛錬を終わらせる時間帯で終わらせることができるようになった。

 

 本当は徒手空拳ももっと練習していたいけど、刀の方が手加減できるから、弱い敵相手なら刀を使う方がいいかもしれない。そう思って、僕は今日も何処かの森の中で刀を振るう。

 

 

「…」

 

「ほわー…」

 

 

 …一体、何の用なんだろうか。

 

 さっきから辺な帽子を被った女の子が茂みに隠れながら僕を見ているが、一向に話しかけてくる様子がない。かと言ってどこかにいく気配もないし…どうすればいいのだろうか。

 

 それに、あの女の子からは辺な力を感じる。妖力でも、霊力でもない、何処か厳かで優しい力。一体どんな力なのだろう。

 

 とりあえず、次で最後の一回だ。

 

 僕は『紅黒』を上段に構えて、ゆっくり振り下ろす。一定に、僅かな空気の抵抗を斬るようなイメージで、日の輪をなぞる様な軌道で。

 

 切先が腰の位置まで下がると、刀身は止まって、僕は深く息を吐く。長年を越えて慣れた動作で刀身を腰の鞘に納めて手を離す。

 

 すると、先程まで茂みに身を隠していた少女の気配が気薄になり、遠ざかる気配がした。

 

 

「…待て、そこの」

 

「〜〜ッッ!?」

 

 

 こっちが驚く程ビックリした少女が恐る恐る振り向いてくる。金色の目と目が合い、少女の気配がさっきと同等になった。

 

 

「…い、いつから?」

 

「最初から…その茂みの後ろに続いている、小さい穴に入る所までは」

 

「そこからっ!?…え、えっと、不躾だったかな?そこは謝るけど…」

 

「構わない。…ただ、何者だ?妖怪でも、“人間”でもない」

 

「…へぇ、隠してたのに…気付いたのか」

 

 

 すると、ゆっくりと少女の身体から“力”が溢れ出し、周囲の地面が隆起する。目を凝らしてみると、僕がいるところを含めたここら一帯の地面に、少女の力が広がっている。これは…能力なのだろうか。

 

 

「…興味深い力。見たこともない」

 

「私としてはアンタのその妖力が気になるよ。…下手したら大妖怪、いやそれ以上の妖力量。この国に何しに来た?場合によっちゃ…私は“神”としてアンタを迎え撃つよ」

 

「___“神”…!」

 

 

 なんと、この少女の正体は神だったのか。それなら、その不思議な厳かな力の事も頷ける。過去にはいなかった存在、神。一体どんな力が…

 

 

「…一手、合わせても?」

 

「拳…刀じゃないのかい?」

 

「…生憎、此方が主です」

 

「…成る程ね。…もし私を倒したら、なんでも一つ頼みを聞いてやろう」

 

「では…いざ参ります」

 

 

 相手は神。気を抜いてはならぬ相手であり、手加減を一切加えてはならない相手。僕は尻尾を“五つ”根源させ、その分増えた妖力を全て脚と拳に叩き込む。

 

 ピキ…と拳と脚にヒビが入るが、『修復』で片っ端から治して治癒する。相手も力を地面に流して目の前の地面を隆起させており、防御の準備はできた様だ。

 

 では…!

 

 

 ___ピシッ…!

 

 

 脚に力を込めて前に出ると、遅れて僕の立っていた場所が大きく陥没する。初速で一気に最速へと至った僕はその勢いと拳の勢いを無駄なく併せ、百鬼と戦った時の様な、拳に宿る僕の妖力を残さず相手に叩き込む技術を、目の前の壁に容赦なくぶち込んだ。

 

 少女の巡らせた力の所為かすぐには壊れなかったが、次第にヒビが入りだすとその壁は呆気なく壊れ、その向こうにいた少女も壊れた壁の瓦礫と一緒に吹き飛ばされていった。

 

 だが少女は地面を背後で隆起させて身体を止め、ふわりと地面に脚を付ける。だがすぐに地に膝を突き、大量の脂汗を掻いて倒れた。

 

 

「…!大丈夫?」

 

「これが…はっ、大丈夫に…見えるかいっ」

 

 

 どうやら、少女の使う力は相当消耗が激しいようだ。見た限りでは少女の中にあった力も底をついている様で、それに体力の低下が伴っているのだろう。まるで妖力と同じだなと僕は思った。

 

 それにしても、この気絶してしまった少女をどうしようか。

 

 寝息を立て出した少女に、僕は困った表情を浮かべるのだった。







 刀の方が手加減できる鈴八さん…

 では、また次回…

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