カゼヲヒキマシタァーッ!
それでは、どうぞ…。
諏訪の国が大和の国に負けて、実に数日が経った。
農民は全て労働力とされ、大事にしていた家や畑は焼かれ、諏訪の国の象徴である洩矢神社は取り壊さ___ることもなく。
諏訪子は“神奈子”と一緒に洩矢神社の縁側でお茶を飲んでいた。
どうやら神奈子の目的は諏訪の国の領地や労働力ではなく、諏訪子を倒すことによって信仰対象を自分に仕向けようとしていたようだ。
だから最初から諏訪の国や国民には興味がなく、あくまで国民の“信仰”を目的として布告したらしい。
「そうならそうと最初から言ってくれれば良いのにー」
「すまんな、だがこれを言うとお前は本気にならなかっただろう?」
「ふん、何がなんでも私は国の為なら全力を尽くすさ。どっかの薄情狐と違って」
「そういえば狐の妖怪がいたな。あれはなんなんだ?」
「鈴八は私の師匠みたいなものかな、体術の。漬物石も持てないくらい貧弱な私を約一週間であっこまで鍛えてくれた妖怪だよ」
「へぇ…『能力』持ちなのかい?あんたは聞いてないの?その鈴八っていうやつの能力」
「使ったところ見たことないから知らなーい。聞けばわかるんじゃない?鈴八ー!」
と、大声で呼ばれた僕は鍛錬を取りやめて、中庭から外の縁側へと向かう。
途中何やら忙しそうな緑とすれ違い、ぶつかったが緑は慌てながら謝罪し、僕のもとから去っていった。
そして縁側へと顔を出すと、諏訪子は開口一番。
「鈴八の能力って何?」
と、言ってきたので。
「内緒」
と返した。
「なんで!!!」
「…教えて欲しかったら僕に勝つこと」
「ゔっ」
「そんなに強いのかい?だったら後で私と…」
「いややめといた方がいいよ神奈子」
「なんで?強い方が楽しいじゃないか」
「うちの鈴八は素面で私の全身全霊でぶっ放した『蛇威し』をただの蹴りで砕くんだ。それくらいできなきゃ鈴八の前に立つのも難しいと思う」
「…マジで?」
「マジマジ」
驚いた表情で僕を見てくるので右手でピースした。
そしてそのピースで神奈子に目潰しをした。
「ぎゃああああ!何すんだいいきなり!」
「…知ってる?外国語でこの指の形ってピースって言うんだけど…意味は『平和』らしいよ」
「悪魔かこいつ!全然平和じゃないぞ!」
「なんかうちに来てから鈴八が凶暴になっていくんだけど」
「…あ、諏訪子。明日旅出るから、よろしく」
「あーい。明日ね明日………明日…?旅ぃ!!?」
突然諏訪子が叫び出し、僕に掴みかかってきた。
「なんで急に!?私のことがいらなくなったの!?それとも別の女ができたの!?この浮気者ぉ!!!」
「あばばっばばばばば」
「離してやんなよ諏訪子…鈴八が口から泡吹いてるじゃないかい」
突然諏訪子が騒ぎ出して、僕の胸ぐらを掴んで揺さぶってきた。
恐らく現代で一番僕に効いた攻撃じゃないだろうか。
「…だって、僕はそもそも友人を探すために旅してたし…諏訪子も神奈子がいるし問題ないかなって…」
「いやいやいや、でもさ、なんか…あるじゃん?そういうの数日前とかに言うべきじゃない?」
「だって思いついたのさっきだし」
「このお馬鹿!?」
バカとは失礼な…と思いつつ、僕は旅に出る一番の理由を切り出す。
「…何より、この国に神は“3人もいらない”でしょ」
「いやまぁ…過剰って言えば過剰だけど…良くない?別に」
「まぁ神が一つの国に一杯いてはいけなかったら八百万の神とかいう言葉も生まれてないだろ」
「…あれ?」
「ん?どうしたの鈴八」
「いや…聞かないのかなって」
「え?あぁ、鈴八が神だってこと?最初から知ってたよ?」
「え?」
「いや、初対面の時とかはともかく、中庭であんな神力出されたら嫌でも気づくって。あんな暴力的なの」
「ちなみに私も初対面の時の時点で気づいてたぞ」
嘘…ってことは僕のはやとちり…?
「だからさ、友達探しはもうちょっと後にして国にいようよ」
「ンー…でも千二百年くらい待たせてるし…」
「え?まって?鈴八何歳?」
「…目覚めてからは軽く千二百年経ってる」
「最低でも千二百歳…そんなお婆ちゃんだったのかいアンタ」
「いや神奈子、鈴八の場合はお爺ちゃんだよ。いやでもびっくりなんだけど、私より千も上って…」
「…まぁ、眠る前の時間が分からないから…もっと上かも」
一回(恐らく)焼け野原になった土地が樹海になるほどの時間だし、万年くらいは経ってるんじゃないだろうか。
それを言うとまた騒がしさが再燃しそうだし、口には出さないけど。
「…そういうことだから、部屋は片付けておく」
「片付けるって、あの部屋の武器全部持っていくの?絶対嵩張るでしょそれ」
「何個かあげる。武器術もまたいつか再開した時に教え込む」
「うへ…神奈子もいる?」
「あぁ、何個か貰おうか。諏訪子と打ち合いたいし」
そうして僕は、荷物(武器)の殆どを諏訪子と神奈子にあげたあと、夜に軽い宴会を開いて僕の出発を祝った。
縁だけがなぜか元気がなさそうで、どうかしたのかと聞いても何でもないの一点張り。
その後は自室へと姿を消した縁が寝静まるのを待って、宴会を静かに再開した。
そしてその宴会も終わり、諏訪子も神奈子も寝静まった時間帯に、僕は中庭の縁側で一人毛繕いをしていた。
「…」
中庭の桜は風に揺られて散り、ざわざわと騒ぎだす。
夜空を舞う桜の花弁が風に乗って舞い、地に落ちる。
こちらに飛んできた花びらの一枚を手に取り、眺める。
すると、背後で気配がした。
「…鈴八さま」
「…縁?」
その気配は、縁のものだった。
振り返ると寝巻き姿の縁が何かを持って立っており、少し寂しそうな表情でこちらを見ている。
「どうしたの?」
「…もう、旅に出られるのですよね。長い旅に」
「うん…ここでの生活はとてもいいものだった…でも、僕は友達を探さないといけない。…ごめんね」
「…いえ、鈴八さまが決めたことなので…。………おとなり、よろしいですか?」
「うん」
縁は僕の隣に座って、頭を僕の肩に乗せる。
「…寂しいです。私の大切な日々には、鈴八さまがいないと…とても、心がからっぽになります…」
「…うん」
「…心細いです…。私を守ってくれる人は、いつも鈴八さまや諏訪子さまでした…。とても、心が冷めていきます…」
「…うん」
「…できれば、私も連れていって欲しいです。でも、そしたら諏訪子さまが一人になっちゃうし、鈴八さまの邪魔になります。…どっちを選べばいいのか、わかるのに…どっちも、選べないです………」
「………縁」
「…はい」
僕は毛繕いを止めて、尻尾で縁の身体を包む。
「…君に、これを託す」
「…これは?」
「僕の愛用の刀…の予備。とても重いし、とても切れる。それを…縁に預ける。友達を探し終わるのはいつになるか分からないけど…いつか必ず、それを返してもらいに来る。それまで…それを使って強くなって」
僕の刀『紅黒』の小太刀版を縁に渡す。
縁は手の上にある重くずしりとしたそれを乗せて眺め、少しだけ刃を出してまた眺める。
「…綺麗です」
「…そろそろ僕は行く。…それを使いこなせるようになったら、僕と戦おう」
「…はい…っ」
ぽろぽろと涙を溢す縁の目を袖で拭ってあげながら、僕は立ち上がって中庭の真ん中に行く。
そこで縁側で座る縁に向き直って、手を軽く振る。
縁も振り返して来るのを笑って見届けた僕は…音を立てないように跳躍して、一回も足をつけることなく諏訪の国の領域を出た。
またね、『諏訪之国』。ありがとう、諏訪子、神奈子、縁。
僕の新しい友達たち。
Q.鈴八君の力ってどんくらいなの?
A.富士山を少しズラせる程度ですね。まだ強化します(キチガイ)
Q.弱点は???
A.強いて言うなら妖力の放出ができないので妖力による遠距離攻撃や浮遊はできません。でも拳で衝撃波放ったり空中を蹴って空飛べるので弱点とは言えません。