東方黒狐録   作:よるくろ

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 ( *・ω・)ノやぁ


 それでは、どうぞ


【つ】 友の死

 

 

 

 

「死んだ………?」

 

「…あぁ。数年前の、陰陽師を主に集められた妖怪退治を得意とする集団による…『妖怪之山掃討』の時にね」

 

 女性…星熊勇義は続けて言う。

 

「集められた集団に関しては、アタシ達でも対処できたし、アタシ達以外の弱い妖怪でもなんとか対処できてた。でも、陰陽師…特に、あの般若の面を被った男は別格だった。

「集団で囲んで攻撃しても結界術で周囲を覆ってるのか、飛び道具も遠距離も効かないし、殴ったら殴ったでこっちの拳が壊れるし、あの時は力不足で情けなかったよ。

「でも、百鬼様は違った。アタシ達が苦戦してた般若の面の男を一撃でぶっ飛ばして、他の陰陽師も下っ端達も妖力も使わずに腕っぷしだけで蹂躙してってさ!

「…勝ったと思った。百鬼様の勝利を疑わずに、アタシ達はぼーっと突っ立ったままその光景を見続けてた。それが行けなかったんだ。

「一人、隠密が得意な陰陽師が潜んでてね。気がついた時にはそいつはアタシの背後にいて、その手には妖怪には猛毒な『神力』が込められた短刀が握られてた。

「…それで、それに気づいた百鬼様はアタシを庇って…」

 

「死んだ…か」

 

 

 …そっか、死んだんだ。

 

 あの…名付けるなら『人妖大戦』か。あれから少なく見積もって数千年余りが経過したけど…そうか…。

 

 どうやら僕の精神は、友の死を受け入れられるほど強くはなってなかったらしい。

 

 

「そっか…っ」

 

 

 滲む視界、鼻で呼吸ができない、呼吸がし辛い。

 

 袖で目を拭っても拭っても袖が濡れるばかりで、嗚咽が漏れ出す。

 

 感情を制御できない。

 

 

「ぐすっ…う、…うあ…」

 

「…狐………」

 

 

 不意に頭に何かが触れて、身体が反射的にびくりと跳ねる。

 

 嗚咽を漏らしながら顔を上げると、それは勇義の手だった。

 

 

「あぁほら、袖で鼻拭うんじゃないよ。…百鬼様とアンタの関係は知らないけど、百鬼様の死を悲しんでくれるってなら、それはアタシにとってとても嬉しいことだ。…だから」

 

「ぁっ…」

 

 

 肩を抱かれて、引き寄せられて、抱きしめられる。

 

 そのまま頭を撫でられて、背中を摩られる。

 

 勇義の暖かい体温が、悲しみを包み込んでくれる。

 

 

「今だけは…アンタの悲しみを隠してやるよ」

 

 

 思い出す。過ごした時間はあっという間だったけど、敵という存在から、友となった百鬼の姿を。

 

 思い出す。瀕死の僕を背負って、都市まで走ってくれた百鬼の背中、温もりを。

 

 でも、その全てが冷たくなっていく。

 

 そのままでいてくれた勇義の中で、僕は暫く泣き続けた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「すんっ………ありがとう」

 

「良いってことさ。それに…泣いてるアンタの方が可愛げがあったしね」

 

「っ、ふんっ!」

 

「おぐふっ」

 

 

 余計なことを言う勇義の脇腹に手刀で突きを放つ。

 

 この身体に転生してから初めて泣いたからか、羞恥心が芽生える。現にちょっと今顔が熱い。

 

 でも…勇義には感謝してる。

 

 

「…どうしよう」

 

「…とりあえず、百鬼様の墓に行ってみるかい?墓っていうか、死んだ場所だけど…まぁアレは墓か…」

 

「…?うん、行く」

 

 

 どこか歯切れの悪い勇義の提案に賛同して、勇義と一緒に立ち上がる。

 

 「こっちだ」と僕の手を引っ張って百鬼の墓に向かう勇義。

 

 

「…えっと」

 

「ん?どうしたんだい」

 

「…手?」

 

「あぁ、森の中を突っ切って行くからね、アンタが迷子にならないように手を繋いでやろうと思って」

 

 

 その言葉に僕はちょっとムッとした。

 

 

「…そんなに子供じゃない」

 

「ははっ、そうかい。まぁ…あれだ。仲良く行こうってことで」

 

「…まぁ良いけど」

 

「じゃ、決まりだな」

 

 

 と、勇義はそのまま藪を蹴散らし、枝を態々僕の方のまでへし折りながらずんずんと進んでいく。

 

 おかげで進みやすいけど、良いのだろうか。

 

 そう思って悩んでいると、勇義から声が掛かった。

 

 

「そういえば、アンタの名前は?聞いてなかったからね」

 

「…僕は、黒金鈴八。狐の妖怪」

 

「へぇ、鈴八、黒…がね………?」

 

「うぎゅ」

 

 

 急に勇義が止まって、ぶつかった。

 

 なんだよもう…と思ってたら勇義が恐る恐る振り向いてきて、「マジ?」みたいな顔をしてきたので思わず頷く。

 

 すると。

 

 

「ええええええぇぇぇええええええええええええ!!!!!????」

 

「うるさ」

 

 

 空気が震えるほどの大声で叫ぶから思わず耳を両方閉じて、狐の耳もペタンと閉じる。

 

 そうやって絶叫が過ぎるのを待っていると、急に勇義が肩をガッと掴んできて、顔を近づけてきた。

 

 

「ほ、本当にかい!?あ、あの”頭のおかしい金剛(デコ)助狐“の黒金鈴八なのかい!?」

 

「よーし誰だその異名言ったの。お望み通り頭突きしてやる」

 

 

 絶対に許さん。手加減無しに三発ぐらいやってやる。

 

 

 

 

 

 あの後冷静を取り戻した勇義にまた連れられること三分。

 

 漸く森を抜けて、少し歩いた先には…墓?というよりも、瓢箪や盃の塔が建っていた。

 

 しかも酒気の匂いがここまで漂ってくるってことは、アレ全部酒だ。

 

 うへぇ…と匂いに顔を顰めながらそれを眺めて、その塔に近寄る。

 

 勇義も背後をついてくる。

 

 

「…久しぶり、百鬼」

 

 

 懐かしい妖気の残滓が、微かにそこにあった。

 

 

「…多分、数千年ぶり…かな?僕は千…えっと、三百年か、それくらい前に目が覚めたけど、君はどうなんだろ。頑丈な君のことだし、数十年経って目覚めたのかな」

 

 

 そんなことを喋りながら残滓の前に胡座を掻いて、手を足に乗せて若干前のめりになりながら残滓を見つめる。

 

 

「僕の方は、結構な旅路だったよ。一手だけだけど神と戦ったり、大きな国の神社に住んだり…妖怪の癖に人助けはしてるけどね。あと、武器も使うようになったんだ、手加減用に。刀とか、槍とか…全部百鬼に使おうと思ってたけど、それもできないか………あと数年早ければ、君を助けられたのかな。百鬼」

 

 

 右の拳をギュッと握って見つめる。

 

 それから残滓に目を戻して、目を閉じる。

 

 黙祷。

 

 拳を胸に当て、心臓の音を聞きながら、百鬼の死を心に刻む。

 

 

「…いつか空の上で、またやろう」

 

 

 そう言って目を開けて、立ち上がる。

 

 友の一人を探し出せた。友の死を知った。悲しみを乗り越えた。

 

 これは、この経験は僕を更なる強さに引き上げてくれるだろう。

 

 そして振り返り、背後で黙って見ていた勇義の元へ歩く。

 

 

「…もう、良いのかい?」

 

「別れは済んだ、約束もした。…あとは空で会うだけ」

 

「…そうかい。なら…会うのはもっと先になりそうだねぇ」

 

「…うん。…じゃあ、僕はもう行くよ。これ以上、此処には用がない」

 

「本当だったら他の鬼の奴らにもアンタを紹介したかったけど、まぁそれはまた会った時でいいか。別に永遠の別れってわけでもないんだろう?」

 

「…探してる友人が、あと一人いるからね。探すまでは絶対に死ねない」

 

「ははっ、応援してるよ、鈴八。あ、そうだ、コレ」

 

 

 そう言って差し出された百鬼の盃。

 

 

「百鬼様の形見として持ってなよ。一応四天王の証って形で持ってたけど、アタシはこれはアンタが持つべきだと思う」

 

「…いや、いいよ。お酒を飲むわけでもないし、それに…」

 

 

 後ろを振り返って、少し揺らいだ気配のする百鬼の残滓に微笑む。

 

 

「百鬼なら『形見なんざ女々しい』って言うかもだし」

 

「…くくっ、そうだね。言いそうだ。…じゃあな、鈴八。友探しの旅、応援してると」

 

「ありがとう、勇義。…それじゃ」

 

 

 別れを交わして、僕は妖怪の山から飛び出すように跳躍して空へ踊り出す。

 

 そのまま人の手が加えられた道を探し出して、そっちに向かって身体を向けて空気を蹴って行こうとする。

 

 すると、跳んだ場所から何かチカリと光ったのが見えて、目を向ける。

 

 そこには、盃や瓢箪でできた墓の天辺にある盃に入ってる酒が、眩い太陽の光を反射していた。

 

 

「くすっ……じゃあね、百鬼」

 

 

 






 Q.頭のおかしい金剛(デコ)助狐???
 A.言葉通りの意味です。

 Q.あれ、天狗とかは???
 A.鬼ある場所に天狗無しってことで、後で出します。
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