それでは、どうぞ…
「(ンー………お日様が気持ちいい…。)」
雪が積もる季節のこと。
僕は変化の術で変化させていた畳一畳を丈夫な木の上に置いて、その上でお日様のぽかぽかを堪能していた。
尻尾も妖力を抑えながら全部顕現させて、仰向けになりながら大の字に天日干しされるような感じで身体全体でお日様を浴びている。
「くぁぁ〜〜〜」
鍛錬は…いっか、今は。夜に“纏めて”やっちゃおう。
それにしても、あとちょっとで日本一周かぁ…あー、そういえば歴史の人物に日本一周した人いたっけ。本多忠勝だっけ?
今の調子でいけば、多分僕が目覚めた樹海に辿り着くまで残り十日ってところかなー。
日本一周したあとはどうしようか、歴史を見て回るとか?また諏訪子のところに行くのも良いな…あ、走って海を渡って海外に行くのも良いかも。
あーでも外国語が話せないや。二千年代以降のだったらなんとか記憶を掘り起こして喋れるかもだけど、今の外国語はさっぱりわかんないや。
あーうー…あー、勇義のとこに遊びに行くのも良いかも。お酒でもお土産に持って行こうか。
………すっごい眠いなぁ。今日はこのまま夜まで寝てしまおうかな。
そう考えて、意識を手放そうとした瞬間。
不意に頬に冷たいものが柔らかく降ってきた。
「…雪?」
そう呟いて目を開ける。すると暖かな太陽を覆い隠すように、かなり速い速度で迫ってくる大きな雲を見て、僕は嫌な予感がして立ち上がって畳を葉っぱに変化させて枝の上に立つ。
…この距離からでもかなり強い風が吹いてる。しかも雪まで飛んできてるってことは…大きい吹雪が来そうだ。
あーあ、せっかく良い天気だったのに。
しょうがない、今からでも吹雪を過ごせる場所を見つけるかぁ。
枝から飛び降りた僕はそんなことを考えながら、小屋か何かないかと歩いて探し回った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ひゃー」
これはすごい、前が全く見えないや。
結局吹雪が来る前に何も見つけられなかった僕は、既に雪で埋め尽くされつつある道を歩きながら冷たく振り注ぐ雪をその身で受けていた。
既に暖かい太陽は黒い雲に覆い尽くされて見えなくなっていて、地上は極寒の地と化した。
特に向かい風が凄い。向かい風というか四方八方から来る強風が凄い。
今は迷惑だとは思いつつ足を地面に一歩ずつ埋めながら進んでるけど、多分それをしなかったら僕はもう空の彼方だ。着物も相まって
しかし、ここまでの吹雪はここ数十年ぶりだ。何がどうなってここまでの規模になったのかはわからないけど、今年と来年は多分もっと酷くなる気がする。
…もう道が完全に見えなくなってきてるし、早いところ古屋かなんかを見つけなきゃずっと寒いままだ。
いっそ地面の中で吹雪が過ぎるのを待とうかな。
…ん、なんか…おお、危ない。踏み抜いた地面の横スレスレにお地蔵さんの頭が。
よかった、罰当たりなことしないで。お地蔵さんの位置を元に戻しつつ、僕は先に進む。
お、あれは…古屋だ。
お地蔵さんのところからそう遠くない場所にある古屋を目指して、目の前の扉の前に立つ。誰も住んでなさそうなボロ小屋だし、多分勝手に入って良いよね?
そう信じて扉を開け、中に入る。うん、見たところ人がいた形跡もないし、風は少し入ってくるけど雪は入ってこない。吹雪を過ごすには最適な場所かな。
ちょうど囲炉裏もあるし…狐火で暖でも取ろうかな。
狐火狐火…と、はーあったかい。ついでに尻尾も出して毛繕いでもしようかな。
櫛の葉っぱは…これか、戻してっと…。
………………。
………………………。
…………………………………。
尻尾の毛繕いは意外と奥が深い。
まず、尻尾の生え際が腰のあたりから生えているのが面倒臭い。後々楽をするために付け根から始めるのだが、これがなんともやりづらい。
腰を回して振り返れないのだ。腰を回せば当然尻尾も遠ざかる。始めたての頃は無理やり関節を外してやっていたものだ。
今はコツを掴んで、腰を回さずに上半身を捻る術を身につけた。これぞ匠の技だろう。
さて、付け根九本分が終われば、次は一本一本を丁寧に櫛を通すだけだ。
尻尾の芯にギリギリ触れることなく、毛だけを優しく撫でるように柔らかい手つきで繕うのがコツだ。
付け根付近から先っぽまで、川の流れを意識するようにすっと滑らかに、櫛を船として操る。毛の絡まりという岩は船頭でぶち壊せば良い。
単純で早く終わる。しかし、早く終わらせれば良いというものではない。心を込めて、じっくりと時間を掛けて九本分を行う。
尻尾毛繕い職人の奥は深い…って職人ぶってみる。
毛繕いしてる時は無心になれるけど、ただ無心になるだけじゃ退屈だから職人風な語りを入れてみたけど、思ったより虚しくなるだけだった。
当然今の間で吹雪は止む気配もないし、やっぱり今日は小屋篭りかな…
と、吹雪に不満を抱きながら毛繕う手を止めずにいると、外から扉を叩く音が聞こえた。
一度目は気のせいかと思いたくて無視していたが、二度目は少し強くなって叩かれる。それでも無視していると三度目の強打がやってきて、流石に出てやろうかと櫛を置いて立ち上がった。
一応尻尾も耳も隠して扉の前に立ち、開ける。
そこにいたのは…
「…ようやく開けてくれましたか…くしゅんっ」
厳かな帽子を被った、緑色の髪色をした少女…?
とりあえず厄介ごとの気配がしたので扉を閉めた。
『ちょっ!?この吹雪の中こんな少女を締め出すのですか!?くっ、開けなさい!開けて暖を!というかさっき頭を踏み砕きかけたことも謝ってもらいます!開けっ、固…ぬぁああああ!!!』
明らかに人間の力の範疇ではない力で扉を開けようとしてくる少女に抵抗して、僕は人差し指で対抗する。
恐らく向こうは顔を真っ赤にして本気を出しているのだろう。運動して暖かくなれるのだからいいことだと僕は思う。
まぁ、厄介ごとの気配がするとはいえ初対面でここまで拒絶する必要はないので、大人しく指を離してやるとする。
するとさっきまでの力の均衡(笑)が嘘のように扉がものすごい勢いで開いて、扉の前にいた少女が一瞬にして姿を消した。
扉から少し顔を出して外を見ると、件の少女は積もりに積もった雪に顔を突っ込んでおり、ぴくりとも動かない。
死んだか…と思いその場で合唱すると、少女は突然起き上がって此方を睨みつける。
そしてわなわなと肩を怒らせると、此方に指を突きつけて、
「そこに…直りなさああああああいッッ!!!」
吹雪の音を掻き消すように、少女の怒声が響きわたった。
Q.鈴八君ってどのくらい物を変化させて持ってるの?
A.余りに多くて書き出すのがめんどくさいので全ては言いませんが、今一番大きい物では一軒家を懐に入れてます(驚愕の事実)。
それでは、次回もお楽しみに…