お久しぶりです。
それでは、どうぞ…
真冬の最中に猛威を振るう、大吹雪。
囂々と吹き荒れる暴風に乗って空から放たれる雪は降り始めて約半日という短い時間に、幼子が約二人分程が丸々埋まるまで地面に降り積もった。
人里に建つ何軒かの家は屋根に降り積もる雪の重さによって潰れ、田圃や畑は雪に覆い尽くされ、家畜なども大多数が凍死するという、ここ数十年で比にならないほどの被害を出している。
しかし、それらだけではなく、人間や妖怪もこの大吹雪による大被害を被っている。
同じく妖怪の総数の内、二割が凍死を除いた同一の理由により死亡。
単なる自然災害で片付けてはいけないと、今の時代の人間はこの大吹雪の文献を残した。
だが、その文献には吹雪の事は完全には書かれなかった。
故に、後に“五大厄災”の一つ、“辻風”として遺されることとなる。
さて、この歴史的な自然災害の中、妖怪である鈴八は(鼻血を垂らしながら)気絶していた映姫をそのままに、数時間前から小屋の外へ出ていた。
吹雪は未だ最高潮。衰えを微かにすら見せない雪を交えた暴風は厄災の名を冠するに相応しい。
そんな中、不思議な光景が見える。
いつもの着物を葉っぱに変え、修行用に作った丈の長い黒い胴着に袖を通している鈴八。両拳を前に構え、腰を落とし、足を肩幅に開き、その姿勢を一寸たりとも崩さずに、じっと石像のように構えている。
所謂中国武術の鍛錬の一つである“站椿“と呼ばれるそれを数時間行っている鈴八の周りに雪はない。
鈴八を中心に熱気が立ち込めているのだ。
吹雪を物ともしない程の熱気を発する鈴八の身体には滝のような汗が流れており、真下の地面を酷く湿らせる。
実を言うと鈴八の胴着は大岩を変化させている物であり___その重量は、大凡約
そんな頭の悪い胴着を着ながら、約数時間。
鈴八が動き出す。
長く保っていたその姿勢を崩し、一息。
「っふー………………………」
極寒の中で吐き出す息は蒸気のように白く、やがてそれが落ち着くまで立っていた鈴八は積もり始めた地面に目を落とす。
「…終わるか」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ふー、やっと終わった。いつもの疲弊感が出てくるまで結構掛かっちゃったなぁ。
そろそろ胴着も替え時かぁ……あ、そうだ。今度は思い切って“山”を使ってみようかな。
大岩の胴着だって、最初は筋肉とか骨とか折れ潰れたけど、諦めずに『修復』を使いながら続けてたら一ヶ月で慣れたし、山だったら…まぁ三ヶ月くらいでいけるでしょ。
あーあ、早く吹雪止まないかなー。人里離れた消えても問題ない山見つけたいなー。
あと全力で動いても問題ない場所。出来れば地面とか諸々が鉄とかで出来てるところとかないかな。
そんな妄想をしながら小屋へ向かう。前が吹雪で見えないけど、小屋の中には今も僕が灯した狐火があるからそれを感知すれば簡単に戻ることができるのだ。
着いた着いた…映姫はまだ寝てるのかな?
そっと戸を開けて隙間から見てみると、中で起きていた映姫が今の音に気付いて素早くこっちを見る。
戸を開けて中に入ると、僕だと分かった映姫が「おかえりなさい」と声を掛けてくる。
「ただいま」
「どこに行っていたんですか?」
「鍛錬。ちょっと遠くまで」
「よく帰ってこれましたね…」
「狐火があるから」
納得した表情の映姫の前に正座で座る。…床がガタガタで座りづらい…僕と映姫の分の座布団を葉っぱから戻して映姫に渡す。
「ありがとうございます」
僕の下にも敷いて、座る。ふぅ、やっと落ち着く。
……座布団だけだとちょっと物寂しいな…毛布とかも出そうかな。
毛布を二人分葉っぱから戻して片方を映姫に渡す。
「ありがとうございます」
毛布を肩にかけて包まる。
……やっぱりもうちょっと欲しいな、半纏とかも出そうか。
半纏を二人分戻して片方を映姫に渡す。
「あ、ありがとうございます」
半纏に袖を通して、毛布に包まる。
…後ちょっとだけ物足りないな。
そう思ってまた葉っぱから戻そうとすると、映姫から待ったが掛かった。
「ちょ、流石に多いです。そこまで寒くないですよ?」
「そっか……やっぱ毛布もう一枚いる?」
「要らないですって!」
いやだって…こんな小屋の中とはいえ寒い時期に半パンって見るだけで寒そうだもん。
まぁそれを言ったら僕だって着物一枚しか身につけてないし、お互い様だけど。でも見た目の差がね?
でも座布団出す前までは映姫も僅かに寒そうにしてたし、あげて正解かな。
せめて隙間風とかなくなればいいんだけどなぁ…と言っても流石に工具とか板とか持ってないし、どうしようか。
…いや……ある。
いや、資材はないけど…多分解決できるかも。
「…試してみる価値はあるか」
「?」
姿勢はそのままに、僕は片手を床について……『修復』。
すると古びた床や壁はみるみるうちに時が戻っていくように新しくなっていき…。
数秒経つ頃には、まるで建てたばかりのような新築の小屋ができていた。
「なっ!?」
「やっぱり。応用性が高いね」
映姫がそれに唖然として、僕は能力の利便さに感心していると、気を取り戻した映姫が僕に詰め寄ってくる。
「な、何をしたんですか!?」
「僕の能力で小屋を直した」
「…あ、貴方も能力持ちなんですか…いや、むしろ持っていない方がおかしいですね、経歴的に」
「貴方もってことは…」
「あ、はい。『白黒はっきりさせる程度の能力』という能力を持っています」
ふーん。裁判官向けみたいな能力だね。戦闘には向かなそう。
「大したことなさそうみたいな表情ですね…。でも結構便利なんですよ?私を前に嘘はつけませんし、私が判決を下せば絶対に覆せませんし。まぁ机上でしか暴れられない能力です」
「へぇ……仮に、死んだら怖い能力だね」
「ん?」
映姫がよく分かってなさそうな顔をする。いや、僕の言葉が足りなかっただけだ。
「…確か、死んだら閻魔に天国か地獄かに行かされるんでしょ?もし映姫が閻魔だったら、問答無用で分けられるじゃん。何の抵抗もできずに」
「…なるほど、考えたこともありませんでしたね」
顎に手を当てて考え込む映姫。
でも実際、閻魔になる条件ってなんなんだろうね?生きて何かの実績を果たせば死後閻魔になれるのか、死んで天国か地獄のどっちかで誠実に過ごせば閻魔になる権利が与えられるのか。
まぁ寿命以外で死ぬつもりもない僕が考えてもあれかな。
というか僕の寿命ってどれくらいなんだろう?今の妖怪は大体千年くらい経てば自然消滅するけど、昔の妖怪はよくわかんなかったし…。
なんなら僕の実年齢すらもわかんないからね。分かる範囲で千とちょっとって言ってるけど、実際は数千年は経ってるかもだし…。
考えても仕方ないか。
「…確かに、私にとっては天職かもしれません」
「でしょ?あ、じゃあ今からでも媚び売って天国行きにしてもらわなきゃ」
そう言ってわざとらしく手を合わせると、映姫は慌てたように両手を前に出す。
「い、いえいえ。えっと、遠い過去の記憶なんですが、神の類なる生物は死しても現世に留まるそうです。あと幾ら媚びを売ろうと厳粛に判決を下しますので無駄です」
「そっかぁ」
後半の声が真剣だった。
すっごい間違えました。
Q.鈴八くんの『修復』の汎用性は何処まで?
A.作者の脳みその限界の果てまで。
Q.閻魔になる条件って?
A.前提条件が地蔵として生を持つ事。そして地蔵として死んだ場合には死後死者に携わる職務に就く為、その職の中で順調に出世すれば木端地蔵でも閻魔になる可能性がある。しかし映姫は強制的に成らせる、