東方黒狐録   作:よるくろ

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続きでございます。

 それでは、どうぞ


【ゐ】 親しき仲にも礼儀あり

 

 

「いやいや、本当に強くなったね。古代の人間より強い人間なんて、僕の生きる中で一度も見たことがないよ」

 

「それはそれは…光栄でございますね」

 

 

 戦いが終わった後。目の前の光景を疲弊した縁と見て、先の戦いの評価をする。縁側に飛び散った石をパッパと払い、僕は縁側に、縁には三本顕現させた僕の尻尾座椅子に座らせている。

 

 …ふむ、やっぱり微量に縁から神力が流れて来てる気がする。おかしいな、本来神力は自分の中で産まれて廻るという自己完結が為される筈。だから神力が“流れてくる”なんてことは普通あり得ない。

 

 そういえば、人が神を信仰する場合はただ単に神側でしか変化が起きないけど、神が神を信仰する場合はどうなるんだろう。

 

 縁は、まだ片足突っ込んだだけとはいえ、既に神の域へと達している。それは即ち、人の身にして神の身へと至ろうとしているということ。

 

 世界での基準ではわからないけど、僕の基準で言えばそれはもう神と呼んでも良い。既に、僕は縁を神と認めている。

 

 じゃあ、その神が僕という神を信仰していたら?

 

 多分、縁の神力が、僕に信仰という形で神力を渡してくれるという現象が起きる。

 

 まだまだ新米の神だからか、増えた神力の量は微量だけど、これからもっと強くなればもっと渡してくれる神力が増える筈だ。

 

 …そうだな、良い事を思い付いた。

 

「ねぇ、縁」

 

「なんでございましょう」

 

「鍛えてあげようか、神になった記念に」

 

「…はて、どういう事でございましょう」

 

 縁は惚けた表情で言う。まさか、気づいてないのかな。

 

「…気づいてないの?神力には気づいてたのに」

 

「…アレは、神力は使えるからとはいえ、神になったわけでは無いのでは?」

 

「いやいや、神ならざる者が神力を扱えるわけがない。縁が神力を使えるのは、人の身にして神へと至った…つまり、“現人神”へと成った故だね」

 

「現人神…」

 

「じゃあ、もう一度聞くよ。…僕に鍛えられる?」

 

「……勿論でございますとも…!」

 

 

 闘志を滾らせて、力強い視線を投げて寄越す。

 

 上等。

 

 最低でも僕の鍛錬相手ぐらいに成ってくれるまで鍛えてあげよう。

 

 

 

 

「ねぇ?」

 

 

 おっと諏訪子だ逃げないと。

 

 即座に縁を尻尾で包んで離脱しようとすると、目の前に諏訪子が出したであろう土の大蛇が現れる。

 

 背中にビシバシ感じる殺気にゆっくりと背後を向くと、そこには怒りのあまり黒く見える神力を纏った諏訪子が腕を組んで仁王立ちしていた。

 

 前門の大蛇、後門の諏訪子。絶体絶命でもない僕は客観的に見れば窮地に立たされていると思われるが、実はそうでもない。

 

「言ったよね?私。あんまり中庭壊すなって。あれ?言ってなかったっけ?」

 

「言ったねぇ」

 

「言ったよねェ。まァ鈴八から妖力が滲み出てた時から分かってたよ。『あ、こいつ絶対中庭の被害一切考えずに遠慮なくぶっ壊す気だ』って。でもさァ、幾ら鈴八が人間ではなく妖怪だとしてもだよ。“親しき仲にも礼儀あり”って言うじゃん。礼儀ないじゃん。なんなら感動の再開の時オマエ出会い頭にウチの天井ぶっ壊してっからな!?ふざけんなよオマエこの神社にどんだけ愛着あると思ってんだ!何が礼儀だよ無礼だよ妖怪が神にやって良い事じゃねェだろオイ!」

 

「大変だね」

 

「_________ッッッ!!!!!(声にならない叫び)」

 

 

 あー、すごい背中に衝撃がくる。きっと岩で出来た蛇が誰かの怒りに呼応して突進してきているんだろう。マッサージにもならないけど。

 

 とはいえ、確かに諏訪子の言う事も一理ある。親しき仲にも礼儀あり。とすれば、僕も礼儀を尽くすべきだろう。

 

「どうどう、落ち着いてよ。すぐに“修復(なお)す”からさ」

 

「私馬じゃねえし、この庭作るのに職人数十人掛かりで数ヶ月掛かったんだけど?奇跡的にも無事な桜の木は置いといてそれ以外が惨劇的だから作り直すしかないんだけど?」

 

「大丈夫。壊されたのなら、修復すればいい」

 

 

 縁を尻尾から解放して地面に立たせて、僕は未だに突進してくる岩の大蛇を振り向きざまに裏拳で粉々にして中庭に向き直る。

 

 後ろから「ミジャグジ様ァーッ!?」と聞こえたが、空耳だろう。

 

 僕は地面に手を当てて、僕と縁が破壊する前の記憶にある綺麗な中庭を正常な状態として定義し、能力を発動する。

 

 すると変化はすぐに訪れ、美しい風景の土台を担う小粒の石の破片が時が戻るかのように修復され、綺麗な波紋を形作る。所々に植っていた松の木も、均等に置かれていた岩も、(瀕死の)鯉が泳いでいた池も、余波で壊れていた縁側も、(すべ)て。

 

「な、な、な」

「…これはこれは…」

 

 やがて全ての破壊痕が一切なくなると、僕の能力は自動的に停止する。

 

 目の前には、昔通り綺麗なままの桜が聳え立つ綺麗な中庭。

 

 我ながら便利な能力だと思っていると、後ろから諏訪子の絶叫が聞こえた。

 

 

「ななな、何これ!?変化じゃないよね!?いやというかこんな規模での変化だっておかしいんだけども!」

 

「能力」

 

「あーなるほどそりゃ納得___できるかァ!!!

 

「しかもこれ、死にかけだった鯉が元気になってるのを見ると、治癒の効果までありそうだねぇ」

 

「あ、神奈子。久しぶり」

 

「久しいね、鈴八。大体数十年ぶりくらいか?」

 

「そうだね。…ところで、その子は?」

 

「っ」

 

 僕は縁側に立っていた神奈子に数十年ぶりの挨拶を交わすと、神奈子の足元に小さな子供がいることに気づく。

 

 その子は幼い頃の縁の生写しのように、僕がこの国を発つ前に見た縁にそっくりな女の子だ。

 

 ただ少し臆病なようで、僕が視線を向けると神奈子の衣服の裾を握って顔を隠してしまった。

 

「この子は翡翠。縁が拾ってきた子だよ」

 

「私も先が長くありませんし、これからは鈴八様との修行に専念する為、この洩矢神社を守る巫女の後継を育てようと思いまして。今は、簡単な手習いを日々行っております」

 

「へぇ。…うん、中々悪くない。それどころか、見た感じ現時点で霊力に目覚め掛かってるね」

 

「翡翠がですか?」

 

 現に、翡翠からは微かな霊力の残滓を感じる。恐らく日常の中で無意識に一瞬だけ漏れ出てる感じなんだろう。

 

 恐る恐るこちらを見上げてくる翡翠に近づいて、目線を合わせるようにしゃがんで顔を合わせる。

 

「こんにちは」

 

「…こ、こんにちは…!」

 

「僕の名前は黒金鈴八。君の名前は?」

 

「わ、わたしはもりやひすいです!よろしくお願いします…!」

 

「うん、よろしく。翡翠」

 

 

 簡潔にだが、翡翠に自己紹介をする。少し話してみたけど、あまり僕に対しての恐怖は無いようだ。多分、初対面の人には人見知りする子かな。

 

 そう思っていると、翡翠が遠慮がちに口を開く。

 

 

「え、えっと…鈴八さま…?」

 

「うん、なぁに?」

 

「ぶふっ」

 

「くっ…おい、聞いたことないぞ鈴八のあの声

 

鈴八って小さい子相手だとあんな声出すんだ

 

あれ大抵の人間だったらすぐコロっと堕ちるぞ

 

「確かに」

 

 

聞こえてるからな。

 

 背後から聞こえてくるひそひそ声を無視して、僕は未だ口ごもる翡翠の言葉を待つ。

 

 そして、翡翠が口を開いた。

 

「あの、鈴八さまは…」

 

「うん」

 

「諏訪子さまと神奈子さまのお嫁さまなのですか…?」

 

バカ二人、こっちに来て

 

 ちょっとお話があるんだよね。






 Q.ミジャグジ様?
 A.実はここ数十年の間で顕現した諏訪子のちょっと上位存在的な存在。祟り神の中でも諏訪子が気に入っていて、今は諏訪子の眷属として洩矢神社に住んでいる。神社の天井やら中庭をぶっ壊した鈴八に怒りを抱いていたが、裏拳一発でぶっ壊されてからちょっとトラウマを植え付けられた。

 次回もお楽しみに
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